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第36話「金髪少女は符術士」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 蒼が扉を開けると、いつもはカウンターの向こう側にいる店主の少年──ネームレスが珍しく箒を手に店内の掃除をしていた。

 一体どうしたのだろうか。

 それを尋ねると、僕にネームレスは「本日は色々とお客様が多く来店されまして」と苦笑した。

 お店なのだから、お客さんが多いのは良い事だ。

 彼に案内されて、僕達はカウンターの前に7つしかない席に座る。

 人数は僕とアリスと真奈と紅蘭の4人に、今回は初見の優と龍二を含めて6人なので、かなりギリギリだ。

 左端から真奈、僕、アリスの順番で座り。次に優と龍二と紅蘭の順番で椅子に座ると、優と龍二は物珍しそうに店内を見回した。


「こんなところに喫茶店なんてあったか?」

「私も初めて知ったわ」

「僕もつい最近知ったばかりだからね。2人が知らないのも無理ないよ」


 改めて、僕は店主のネームレスを2人に紹介した。

 するとやはり、2人は驚いた顔をして少年の顔を信じられないと言わんばかりに凝視する。

 嘘だろ、と尋ねる優と龍二。

 それに店主である少年はいつもの無表情で首を横に振り、2人の言葉を否定した。


「残念ながら事実なんです」

「おいおい、こういうのってゲームだと裏ボス的な存在じゃないのか」

「あー、確かにそれっぽいよね」


 人気のない喫茶店に、場違いな店主。

 しかもネームレスのレベルは、僕が推測する限りでは最低でも79以上はある。

 もしも彼が裏ボスで本当は敵対する存在だとしたら、この場で僕達は全滅するだろう。

 そんな事を考えると、ネームレスが6人分の珈琲の入ったカップを出して深い溜め息を吐いた。


「ぼくはただの喫茶店の店主ですよ。立場を強いて言うのならば、ソラ様のファンって感じでしょうか」


 少年がそう言うと、


「蒼様のファンならば安心じゃな!」

「姫様を好きなら少なくとも害はないの」

「おお、貴方も同士だったんですね。それならば心強いです」


 と謎の熱意を持って同意をした。

 いや、君達それはどうなんだろう。

 ファンなら大丈夫と言う3人に、1ミリも安心できない要素しかない事に、僕は首を傾げる。

 優と龍二もついて行けなくて、流石に困惑しているではないか。

 何だかこのまま話しを進めると、キリがない様な気がする。

 まぁ、今日はネームレスの正体を追及しに来たわけではないので、この辺りにしておこうか。

 僕は咳払いを一つすると、注文したパンケーキやサンドイッチ等が行き渡るのを確認してから、改めて皆を見渡した。


「それじゃ、今日は優のレベル60到達記念を祝って乾杯しようか」

「優、おめでとうなのじゃ!」


 アリスが満面の笑顔で見事なフライングをする。

 それに対して優は素直に喜び、一方で紅蘭と龍二と真奈の3人は何とも言えない顔をした。

 ほんと、仲良くなったよなぁ。

 思い返せば、真奈はライバルであり、アリスと友人と呼ぶべきなのか微妙なところだ。同性でちゃんと友達と呼べるような存在は、アリスにとって初めてなのではなかろうか。

 そう思うと、アリスがあそこまで懐くのも無理はない。

 優も女友達はクラスにいるが、普段は僕達と一緒にいる事が多くて、他の子と遊びに行くのは見たことがない気がする。

 もしかしなくても、この2人ベストマッチなのでは?

 そう思って微笑ましく優とアリスを眺めていると、アリスの隣にいた優は不意に僕の方を向いて言った。


「そういえば蒼、私レベル60のボーナス何を取ったら良いと思う?」

「あー、忘れてたよ。ちょっとステータス画面見せてもらっても良いかな」


 そう言って優が、ステータスオープンと口にすると、最近はボーナスの割り振りでしか見なかった透明な四角形の画面が僕とアリスと優の前に現れる。


 水無月優★

 レベル60

 性別、女性

 第一職業、魔法使い

 第二職業、符術士ふじゅつし


 右手装備、空間使いの腕輪『スターライト』

 左手装備、空間使いの腕輪『スターレフト』

 ステータス。

 攻撃、10+0

 防御、10+0

 速度、10+90

 技術、10+100

 知能、10+100

 魔力、10+300


 スキル『空間魔法』『符術使い』『霊符作成』『体術』

 アビリティ『空間を極めし者』『中級符術士』『上級格闘技』『裁縫を極めし者』


 そういえば忘れていたがこの御方、第二職業に符術士を選択していたな。

 次に優が操作すると、レベル60のボーナスの選択肢の中にスキルがいくつかと、アビリティが一つだけ『上級符術士』に進化する事ができそうだった。

 この選択肢の中なら、アビリティの進化が一番良いのではなかろうか。

 新しいスキルも『多重空間転移』とか面白そうなモノがあるが、一つの能力を得るのに比べて、アビリティはその系統のスキル全体の効果に補正が入る上に一つだけオマケで上級スキルをくれる。

 僕なら迷うことなくアビリティの進化だと伝えると、優はその場で中級符術士を上級に進化させた。

 そして新たに獲得したのは上級符術『浄化』だった。

 優の許可を得て見てみると、何でも呪い等のバッドステータスを強度に関係なく解除できるらしい。


「ふむ、中々に面白いスキルを手に入れたね」

「でも霊符作成には幻獣の毛を使った筆が要るのよねぇ……」

「あー、だから符術使えなかったのか」


 ソウルワールドが現実化した際に、装備していた武器を除いて、僕達が所有していたアイテム等は消滅している。

 それは優の筆も例外ではなかった。

 しかも幻獣の毛を使った筆ということは、かなりお高いのでは。

 実際に携帯電話で調べてみると、なんと一番低い金額でも100万円を余裕で越えた。

 こんなん気軽に買えるか!

 符術士は全員金持ちなのか。

 胸中で叫びながら、僕は隣でもくもくとパンケーキを頬張っている真奈に視線を向ける。

 すると僕の視線に気づいた真奈は今の話から察して、パーカーのポケットに手を突っ込むと上質な筆を一つ取り出した。

 持ってたら良いな、と思っていたのは自分だが、彼女の万能っぷりに感嘆してしまう。

 君は未来から来た○型ロボットか。

 胸中でツッコミを入れつつも礼を言って受け取り、変わった発明好きの真奈が変な物を渡した可能性も考慮して、事前に洞察アビリティで見てみる。

 そこには『水馬すいばふで』という名前が表記された。

 なんでもヒッポカンポスの毛を使っているらしく、水の中でも霊符作成ができる中々に使い勝手が良い代物との事。

 僕が優に渡すと、彼女は筆と真奈を交互に見て困った顔をした。


「え、こんな高級品を頂いても良いんですか?」

「材料があったから何となく作った作品だし、わたしは使うことはないからあげるの」

「ありがとう、真奈さん。大事にしますね」

「……どういたしまして、なの」


 素直に礼を言われて、真奈が照れる。

 それに対抗心を燃やしたらしい、アリスがポケットからチョーカーを取り出すと、優に渡した。


「妾からは優にこれをあげるのじゃ。前回のダンジョン攻略でボスがドロップしたものでな、一度だけ即死のダメージを受けても宝石が肩代わりしてくれるのじゃ」

「アリスさんまでこんな貴重な物を……」

「気にするでない、妾と優の仲ではないか」


 女性陣に親切にされすぎて、珍しく優があたふたしている。

 普段は冷静沈着の彼女がここまで崩れるのも珍しい。

 実に可愛い、と蒼は思った。

 隣で眺めている龍二も、その光景に少しだけ頬が緩んでいる。

 紅蘭は珈琲を飲みながら優を一瞥すると、すぐに僕に視線を戻した。


「そういえば、姫は今月の終夏祭はどうされるんですか」

「ああ、一応予定ではアリスとそこで約束のデートしようかなって思ってる」


 神威終夏祭。

 9月の最終日曜に行われる、この街の最後の夏に感謝をする祭事だ。

 午後16時に始まり20時に終わるイベントだが、世界改変によって蔓延していたウイルスとかの存在が無くなった為に普通に開催される事になった。

 だから、あまり長いことほったらかしにすると僕も忘れてしまいそうなので、アリスとのデートをそこでしようと決めたのだ。


「蒼様と浴衣デートなのじゃ!」


 ガタッと隣で両手を天に突き上げて、嬉しそうに立ち上がるアリス。

 その姿に、何故か全員から羨ましそうな視線が彼女に向けられる。

 一方で僕は、彼女の一部の発言に首を傾げた。


「え、僕は浴衣着る予定ないんだけど」


「「「「え?」」」」


 否定すると、その場にいる全員が驚愕して、蒼以外の座っていた者達は椅子から勢いよく立ち上がった。

 いや、なんで僕が浴衣を着る事が当たり前みたいな雰囲気なのだろうか。

 何度も言うが、僕は中身は男だ。

 それにこの姿で浴衣なんて着てみろ、多分声を掛けられまくってデートどころではないぞ。

 そう言うと、アリス達が口々に。


「お願いなのじゃ、妾が認識阻害の結界を使うから浴衣を着てほしいのじゃ」


「結界だとアリスが常時魔力を消費しちゃうから、わたしが同じアイテムを所持していない者には姫様と認識できない物を作るの」


「トラブルが起きたら俺と四葉が何とかするぞ」


「白の騎士団の総力を上げて貴女に近づく者を排除します。ですからどうか再考を」


「私、せっかく蒼に似合いそうな浴衣作ったのに着てくれないの……?」


 だから、なんでこいつらは結託したときの連携がこんなにも良いんだ。

 しかも最後の優にいたっては、そんな事を言われたら着ないなんて言えないではないか。

 懇願する5人に対して額にびっしり汗を浮かべる僕。

 その光景に、喫茶店の店主が笑った。


「大人気ですね、ソラ様」

「困ってるんだ、茶化すのはやめてくれ」

「では、浴衣は着られないんですか」

「ゔ…………ッ」


 追い詰められた僕は、苦悩の末に珈琲を飲み切ると椅子から立ち上がり。


「着るよ、着ればいいんだろ!」


 観念して、浴衣でデートする事を決めたのであった。

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