第33話「朝の天災」
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翌日の朝、すっかり家に居着いてしまったアリスと真奈と朝食を済ませた蒼は、自室に戻ると学校に行くために制服に着替えた。
なんか、この服着るのもすごい久しぶりだなぁ。
鏡に映るのは見慣れた白髪金眼の少女。
身に纏っているのは、神威高等学校の女子のワンピース型のセーラー服だ。
胸にしているのは、一年生の証である「新芽」の学年章。
身嗜みをサボるとアリスと優がうるさいので、変なところがないかチェックする。
大丈夫かな?
鏡の前でクルッとモデルみたいに回ってみる。
長い髪はボサボサしてない。肌もツヤツヤ。服はピシッと着ており、見たところ文句を言われそうなところは何もない。
実のところ面倒なので何度か髪を肩までバッサリ切ろうかと思ったのだが、それを相談したら何故か優と龍二だけでなく全友人から止められてしまった。
もちろん自分の事なので抗議をしたのだが、満場一致で否決されてしまっては僕も何も言えない。
挙げ句の果には女子共が「自分達が責任持ってお世話するからそれだけは!」と凄い熱意をもって懇願してくるものだから、僕も仕方なくこのままでいる事にした。
勿論、お世話の件は断ったが。
そんな事を思いながらも一通りチェックして問題ないと判断した僕は、鞄を手にすると一階に降りる。
するとリビングの所で、アリスと真奈が何やら睨み合っていた。
朝から元気なことである。
すっかり慣れてしまったその光景に、いつも通り僕は2人の仲裁に入ろうとして、ふと気づいた。
「あれ、アリスその格好……」
「ふむ、蒼様も気づかれたのじゃ?」
青髪の少女が身に纏っていたのは、神威高等学校の白を基調としたワンピース型のセーラー服。
胸にしている学年章は2年生の証である『蕾』。
その上にいつものトレンドマークの黒いローブを羽織っており、彼女は嬉しそうに両手を広げて僕に抱きついてきた。
「妾も今日から蒼様と同じ学校に通うことになったのじゃ!」
「マジですか」
なんでも習っている授業内容は同じなので、一緒の学校に通うことにしたらしい。
両親に電話をしたら、伊集院家の力ですぐに対応してもらえたとの事。
流石は世界的名家、恐るべし。
そんな事を考えていると、隣で僕の袖を掴む真奈が不服そうな顔をしていた。
「しかもわたしと同じクラスっぽいの」
「学校も妾達を一緒のクラスにするとは、よほど校舎を破壊して欲しいらしいのじゃ」
「いや、壊しちゃだめでしょ」
学び舎は殺し合う場所じゃない。
僕がツッコミを入れると、アリスは少しだけ考える素振りを見せて。
「それなら教室を吹き飛ばすくらいで我慢するのじゃ」
「なんで学校なのに物騒な話から離れられないんだ?」
この小娘1つ学年が上の先輩な筈なのだが、人の話しを理解する気があるのだろうか。
やはりアホの子なのか。
呆れた顔をした僕は彼女の腕から逃れると、その鼻先に右手の人差し指をビシッと突き付けた。
「なんども言うけど、喧嘩したらダメ。これは僕からの命令で絶対だよ。もしも破ったら2人とも家から追い出すからね」
「……わかったのじゃ」
「姫様の命令、了解したの」
しょんぼりするアリスと、マイペースに頷く真奈。
まったく、僕の目がないとすぐに喧嘩をしようとするんだから(主にアリスが)。
昔から変わらない好戦的な青髪の少女に半ば呆れてしまう蒼。
時計をチラリと見ると、時計の針は午前7時30分を指している。
このままゆっくりしていると遅刻してしまいそうだ。
そう思うと唐突に家の扉が開いて、金髪碧眼の少女、水無月優が姿を現した。
「「おはよう、蒼(優)」」
互いに名前を呼んで挨拶すると、僕は2人を引き連れて玄関に向かい、靴を履き替える。
すると優もアリスの制服姿に気づいたらしく、いつになく嬉しそうな顔をした。
「アリスさん、おはよう。アリスさんも私達の学校に通うの?」
「おはよう、妾の弟子よ。ふふふ、実はそうなのじゃ。今日からは先輩と呼んでも良いのじゃよ」
弟子? 優がアリスの?
何やら知らぬ間に2人が親密な関係になっている事に、僕は首を傾げる。
それに気づいた優が、手短に答えてくれた。
「ダンジョン攻略してる時に魔法について色々と教わったのよ。流石はソウルワールドの最強の魔法使い、色々と勉強になったわ」
「妾も空間魔法という中々に面白い魔法の鍛錬を手伝うのは、実に楽しかったのじゃ」
「それは良かったね」
2人が仲良くしてくれるのは実に喜ばしい事なのだが、何故だが少しだけモヤっとする。
まぁ、あの時1人になりたいと言ったのは自分だし、真奈の来訪でバタバタしていたので仕方のない事なのだが……。
優が「アリスさん可愛い!」と褒めていると、真奈が僕の服の袖を引っ張った。
どうしたのか尋ねると真奈は優を見て、あの人誰なの、と首を傾げた。
そういえば2人は初対面だったか。
「優、1人紹介したい人がいるんだけど良いかな」
「新しい仲間?」
「うん、最強の錬金術士であり、最強の召喚術士だよ」
僕が頷くと、後ろにいた真奈が姿を現した。
「はじめまして、葉月真奈なの」
「こちらこそはじめまして、水無月優です」
お互いに挨拶をすると、真奈は眠たそうな瞳に底の見えない闇を宿して、優を品定めするように顔を凝視する。
そして徐に口を開き、
「優は姫様の事が好きなの?」
と、いきなり爆弾発言をした。
当然、その言葉に優は目を丸くする。
しかし優も僕の幼馴染だ。真奈の暗い瞳を真っ直ぐに受け止めると、その質問の意味を理解して苦笑いすると首を横に振った。
「ああ、蒼の事は好きだけど、姉弟みたいな関係だから心配はいらないわよ」
「……そうなの?」
優の言っていることは本当なのか、今度は僕の方を見る真奈。
間違ってはいないので、僕は頷く。
すると真奈の暗い瞳は解除されて、元の桃色に戻る。
もしも恋愛対象だと口にしていたら、恐らくはアリスと同様に敵対認定されていただろう。
普段は温厚だが、スイッチが入ると怖い。それが葉月真奈である。
成り行きを見守っていたアリスも、少しだけホッと胸をなでおろすと。
「優がライバルになったらどうしようと不安だったから助かったのじゃ」
「強敵間違いなしなの」
「蒼、あんたも大変なのね……」
2人の反応を見て、何故か優が可哀想な子を見るような目を向けてくる。
いや、大変なのは間違いないけど悪い子達じゃないんですよ?
ただ普通の人よりやることが過激だったり、普通の人よりクセが強いだけで。
くぅ、ダメだ。
2人に対して浮かんでくる思い出は、どれも普通ではない事ばかりである。
それに対して額にびっしり汗を浮かべると、アリスと真奈が僕の両腕にそれぞれ抱きついてきた。
「優がライバルにならないのなら、妾が断トツで蒼様の恋人レース1位なのじゃ」
「わたしが、1位なの……」
全く同時に似たような言葉を口にして、ムッとした2人の間で火花が散る。
その間にいる僕は、溜まったもんじゃない。
これが普通の女子ならば、両手に花と羨ましがられるのだろう。
だがこの2人は、ソウルワールドで泣く子も黙るどころか全力で逃げ出す事で有名な『天災』である。
温厚な自分も流石に付き合っていられなくなったので、日頃使うことのない『上級忍術』を使用。
アリスと真奈に幻覚を与えて、一瞬だけ拘束が緩むのを見逃さずに抜け出す。
2人には間から僕が急に消えた様に見えただろう。
呆然とするアリスと真奈から逃れた僕は、優の横を抜けて家の外に飛び出すと、そのまま全力で駆け出した。
「悪いけど、遅刻するから僕は先に行くよ!」
少しだけ振り返ってそう叫ぶと、棒立ちしていた3人は慌てて僕の後を追い掛けた。
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