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第32話「白姫と少年」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 スポットライトの眩しい光が、蒼の白い髪をより美しく発光させる。

 見てる者達は、その幻想的な姿に天使か或いは女神を連想させる。

 視線が全て集まっているのを蒼は肌で感じながら、右手の拳を強く握りしめた。

 少しだけ胸がドキドキする。

 これを例えるのならば、ドッキリのイタズラが成功した子供の気分だ。

 気持ちよく、楽しく、それでいて実に清々しい。

 高揚する気持ちを抑えながら、僕はゆっくりステージの縁ギリギリまで歩くと、そこで立ち止まる。

 先程の喧騒は完全になくなり、今は静まり返った会場。

 静寂が支配するその中で、隣に歩み寄りひざまずうやうやしく両手で差し出す紅蘭からマイクを受け取ると、改めて周囲を見回す。

 皆の反応は様々だった。


 好意的な眼差し。


 好奇心な眼差し。


 懐疑的な眼差し。


 困惑した眼差し。


 それらを小さな身体で一身に受ける僕は、マイクのスイッチを指で弾きオンにする。

 先ずは頭を下げて、礼儀正しく一礼をした。


「はじめまして、白の騎士団の皆さん。僕は『白の戦乙女』ソラです」


 静寂の中で響き渡る美しい声。

 その名乗りに、団員達の反応は一切ない。

 無理もないと蒼は思った。

 実は有名な僕達をかたやからは少なくない。

 動画サイトでも、偽者が現れてはファンによって炎上することがよくある事らしい。

 となると、ただ姿を現すだけでは僕達も偽者だと思われる可能性は低くない。

 そこで僕から提案したのは、白騎士のコートを脱いだ際にそれぞれの得意な一芸を見せること。

 他の3人には問題はない。

 ただ一番の問題を抱えていたのは、発案した僕自身だった。

 付与魔法なんて見せ物としては地味でイマイチで、使ったところで目を引くような事はできないし皆を驚かす事もできない。

 副職の忍者も、どちらかと言うと裏方のスキルがメインであり、パフォーマンスとしては使えないし何よりも忍術なんて白姫のイメージではない。

 龍二みたいに、誰もが一目で分かる特徴的な大剣なんてない。

 アリスみたいに、お手軽に派手を演出する魔法なんて使えない。

 真奈みたいに、錬金術で皆をあっと言わせるような芸当なんてできない。

 そんな中で、僕にできることは何か。

 考えてみたが、結局のところ答えは一つしかなかった。

 手持ちのカードの中で使えるのは、やはりこの容姿。

 道を歩けば誰もが振り向く、本物の白の少女の姿しかないだろう。

 となると順番と魅せ方が大事となる。

 先に「コイツは偽者じゃないのか?」と疑いを大多数に持たれるのは、避けたいところだ。

 だから先ずは『七色の頂剣』が来たというイメージを団員達に植え付けるために、ティターンの大剣を使いこなす『豪剣の鬼』こと龍二が出陣。

 次にアリスに事前に結界の上掛けをしてもらい、天井を『荒野の魔女』十八番の極限魔法でぶち抜かせて団員達の度肝を抜いてもらった。

 真奈には『万能の賢者』の上級錬金術でこの廃工場を一新。アリスが破壊した天井も修復してもらった(まさかガラス張りにするとは思わなかったが……)。

 そうやって土台を作り上げて、3人が本物の『七色の頂剣』だと受け入れられた後に取りを飾り、役目を果たすのが僕だ。

 内心ドキドキものであったが、壱之蒼は本物としての風格を見せることで、場を沈黙させることに成功した。

 だから、後は飾らない思いを言葉にするだけだ。

 改めて僕は彼等に向き直ると。


「僕は今日から『豪剣』『魔女』『賢者』の3人と共に皆さんと同盟を組むことになりました」


 言葉に思いを乗せて。


「何故『白の騎士団』と同盟を? そう思う方もいる事でしょう」


 僕は、彼らに語りかける。


「世界がソウルワールドとなり、僕達の周りの環境は変わりました」


 しかし、高い場所からでは僕の思いは伝わらないだろう。

 はっきり言って、僕は偉い人じゃない。

 今の世界では名家の御令嬢ではあるけど、根本は皆と同じソウルワールドの1プレイヤーだ。

 手の届かない高いところからの演説に何の意味がある。

 願いがあるのならば、同じ土俵に立たなければいけない。

 だから僕は、ステージから跳び降りた。

 驚いたアリスと真奈が護衛について来ようとするのを、手を上げて制止する。

 舞台から降りてきた僕に、一番前にいた少年少女達は驚いた顔をした。

 蒼は微笑み、前に歩む。

 圧倒的な存在感を放つ白の少女に気圧された白騎士の団員達は、自然と左右に割れて道を空けてくれる。

 それに迷うことなく真っ直ぐに歩みながら、僕は彼等に自分の思いをぶつけた。


「世界はモンスターで溢れ、魔王や悪魔が僕達人間と敵対しています」


 蒼は自分に向けられる彼等の目を、しっかりと見返して。


「そんな世界でこれからどうやって生きていくのか、僕は考えました」


 ちょうど団員達の中心になる位置で、立ち止まる。


「今後1人では対処できない事態が待っているかもしれない。そうなったときに必要なのは信頼できる人達の力です」


 団員達は円となって僕の周りを囲む。

 全員が僕の姿を見れるように、前の人達は姿勢を低くした。

 良い連携だ。僕はそう思う。

 周囲を見回すついでに、チラリと視線をステージ上にいる龍二達に向ける。

 そこでは龍二に説得されているアリスが杖を向けて魔法陣を展開させて、上級攻撃魔法を構えていた。

 一方で真奈は、何やら不穏な雰囲気を纏っている。恐らくは何かあったら即座に錬金術を発動させるつもりなのだろう。此方は紅蘭が警戒してくれている。

 しかし会場にいる団員達は、幸いにもそんな危機的状況に誰も気付いていない。

 みんな、僕に釘付けになっていた。

 ──やれやれ、過保護な子達だ。

 僕は内心呆れながら輪に歩み寄り、


「白の騎士団の皆さん、あなた方は僕を慕う者達が集まって作られた団だと聞きました」


 跪く1人の少年に、手に持つマイクを向けた。


「率直に言います、僕と仲間になってくれませんか」


 僕と間近で目が合った少年は、頷いてあげるとその場で恐る恐る立ち上がる。

 拒否られても構わない。

 何が来ても冷静に対応する心構えで、僕は少年と視線を交わす。

 選ばれた少年は、マイクを持つ僕の手から、まるで壊れ物を扱うようにゆっくり慎重に両手で包むように受け取ると。

 

「…………っ」


 何か言おうとして、言葉が出ない。

 当たり前だ。これは仕込みではないのだ。

 いきなり500人の代表に選ばれて、同意も否定もできるわけがない。

 それでも少年は僕の視線を真っ直ぐに受け止めると、何か決意したような顔をして。


「……おおせの、ままに」


 と、小さな声で呟く。

 そして感極まったのか、両目から大粒の涙を流して、今度は腹の底から皆に聞こえるように大きな声でマイクに向かって叫んだ。


「我らが、姫の仰せのままに!」


 それに今まで黙って見ていた周りの団員達が、彼の思いに呼応こおうして同時に答えた。



「「「我らが姫の仰せのままにッ!!」」」



 ──ッ!?

 彼らの僕に対する想いを受け止めて、心が沸き立つ。

 意図せず身体から光が溢れ出しユニークアビリティ『神の祝福を授かりし天使』が発動。

 全員に白の光の祝福が広がると、僕は少年からマイクを受け取って宣言した。


「では本日より同盟を組む一番の障害となる、僕に関する接触禁止事項は全て撤廃する。罰則もなしだ。告白したい人は来ても構わないけど、バッサリ切られる覚悟をもってくるんだ!」


 その言葉に、その場にいた全員が地面を揺るがす程の大歓声を上げた。

 目の前にいた少年は、涙を流しながら「大好きです、付き合って下さい!」と告白して来たのを蒼は「ごめんね」と微笑んで断って握手だけしてあげる。

 そこからは大忙しだった。

 僕に告白したい人達、握手を求める人達、一緒に写真を撮りたい人達が長い列を作り、全てが終わって止まっていた会合を進めて、皆が解散したのは日付が変わった頃だった。

 ただ別れる際に、全てを仕切って疲弊してしまった紅蘭は珍しく僕に苦言を呈した。


「姫、心臓に悪いので今後はああいう事は控えてください」


 それに対して僕は、


「可能な限り善処するよ」


 と実に信用ならない返事をした。 

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