第31話「とある七色の視聴者」
いつも読んで下さる方々に感謝しております。
本日は、二本投稿となります。
自宅よりも大きな館。
人ならざる竜人達の多重結界で守られたそこに帰り着く頃には、空はすっかり暗くなり、時刻は22時を刻もうとしていた。
はぁ、今日も大変だった。
本日の業務は竜の国の警備隊の視察。それが終わると『色欲の魔王』対策の会議。
最後には竜王との会食があり、全て終わらせたらこんな時間だ。
とにかく拘束される時間が長すぎる。
確かに自分は『白虹』と『白騎士』の団長としての実績があるが、まさか魔王対策にまで参加させられるとは。
青年の名は、西園寺豪志。
ソウルワールドでは『鉄壁の要塞』ガルディアンとして名を馳せており『七色の頂剣』では『豪剣の鬼』と共に前衛を任されていた。
そんな彼も西園寺家の当主として竜の国に訪問しているのだが、如何せん外交なんて慣れていないものだから悪戦苦闘している。
特に竜の国の姫に気に入られてしまい、朝から晩まで付きまとわれて非常に迷惑している。
自分には白姫という意中の相手がいるのだ。他の女性の事なんて考えている暇はない。
そんな事を考えながら、豪志は屋敷の中に入ると真っ直ぐに自室に向かった。
そしてテレビのスイッチを入れる。
チャンネルは動画サイト。
パスワードを入力して、ログインする。
するとちょうどライブ映像で、紅蘭が右手を上げる瞬間が映し出された。
姿を現すのは4人の黒いコートを着た謎の人達。
先ず身長が高い人物がコートを脱いでからは、怒涛のような演出が繰り広げられた。
豪志も疲れを忘れるほどに、大画面で起きる剣舞、極限魔法、たった1アクションで廃工場を新品に変えてしまった3人に圧倒されてしまう。
『豪剣の鬼』『荒野の魔女』『万能の賢者』。
かつて共に肩を並べて戦った3人の『七色の頂剣』の出現は、瞬く間に他の団に拡散され、視聴者数は50万人を越えて尚上昇中。
「……白姫」
最後にコートを脱いで姿を現したのは、自分の意中の相手だった。
この世に一人しかいない白髪金眼の少女、壱之蒼。
その美しさと愛おしさに胸が締め付けられる。
一方でライブチャットのコメント欄は、白の少女が出てきた事で大パニックだった。
豪志が見ている画面の端で、コメントが高速で流れる。
それに目を向けると。
「ヒャッハー姫様だああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「可愛いぃ────────ッ!!」
「嘘だろ、白の騎士団に姫様が同盟を申し込んだのか!?」
驚くのも無理はない。
紅蘭から聞かされた時は自分も驚いたが、本当の事なのだ。
「しかも『豪剣』と『魔女』と『賢者』も同盟に加わるってマ?」
「今来た! 本物ってマジ? また偽者が姫様達を騙っているんじゃないの?」
「いやいやいやマジだよ、俺最初から見てたけどアレは本物だって」
「巻き戻しで見たけど、あの剣をあそこまで使いこなせるのは『豪剣』で間違いないわな」
「ほんとアイツよくあんなクソ重い剣使えるよな、控えめに言って化け物だわ」
「バフかければ大抵のボスクラスと普通に真っ向から打ち合える化け物だからな『豪剣』は」
…………ふふ。
よく肩を並べていた友を褒められると、どうしたものか頬がニヤけてしまう。
こんな所を執事に見られたら何を言われるか。
「あの青髪コスプレ娘はどう見ても『魔女』だよな?」
「ああ、深夜に極限魔法をぶっ放すヤベー奴は『魔女』ぐらいしかいない」
「深夜に極限魔法とか近所迷惑すぎる、普通に警備騎士に捕まるだろ」
「現地の奴が言うには自分で作った複合結界で音漏れとか色々防いでたらしいぞ」
「あのガサツな女にそんな繊細な事が……!?」
まぁ、白姫の指示だろう。
アイツにそんな周りの事を気遣うような事ができたら、台風以上のヤバイ災害が起きてしまう。
そんな事を考えていると、チャットの人達がケルスについて触れた。
「錬金術ってあんな事できたっけ?」
「アイツは特殊だから参考にするな。道具無しで錬金術を発動させる化け物だからな」
「ほんとどうやってんだアレ? 地面蹴った時に錬成陣作ってるの?」
「同じ錬金術士として一回だけ聞いたことがあるが、アレ自分の身体を錬成陣に使ってるとか異次元の話ししててダメでしたわ」
「サイコパス娘はやはり異常者であったか……」
でもアイツの作る薬品やアイテムは、面白い物ばかりで見ていて楽しい。
それにここ最近では、ノーベル化学賞を取った錬金術士以上の物を作ったという噂も聞いている。
「でも『魔女』と『賢者』の見た目可愛すぎないか? リアルでも美少女だとは思わなかったわ」
「わかる。中身はアレだけどメチャクチャ可愛いよ」
「ほんと、中身に目を瞑れば可愛いよな」
「その中身がヤバいんだよなぁ」
その感想には『七色の頂剣』として全面的に賛同する。
そもそもあのメンバーでまともな女子は白姫しかいない(本人は男だと言っていたが)。
「ところで、あの姫様本物なの?」
「姫のコスプレした偽者じゃないのか?」
「姫を名乗る目立ちたがりは沢山いるからな」
「この前の別の団の偽者は酷かった、クオリティ低いは可愛くないわで」
「やめてくれ、アレは俺のトラウマなんだ」
あれは自分も見た。
期待して開いて、そっと自分の中から消去した。
「でもあの麗しいお姿は間違いなく姫では」
「古参はわかるだろ、『魔女』と『賢者』が喧嘩をしてない時点で確定だよ」
「やっぱり? しまったなぁ、有給使って行けば良かった」
「今更後悔しても時遅しですな」
「今回の会合は大当たりすぎるだろ、現地の奴ら羨ましすぎるわ」
「やっぱ小さくて可愛いなぁ、あんな彼女が欲しいわ」
「でも付き合うにはお父様を倒さないといけないんだぜ?」
「なにそれ知らない」
「あー、前線で一度だけ見たわ。ムリムリ、アレは人間が倒せるようなモノじゃない」
「でも障害が高ければ高いほど燃えるってものよ!」
「姫様可愛い、好きです」
「話変わるが七色の頂剣が6人か『要塞』は大変みたいだけど『剣神』が加わったら伝説の7人が揃うのか、胸が熱くなるな」
「魔王を倒した7人が集合したら白騎士の加入申請ヤバいことになるのでは?」
「いや、今回ので十分にヤバいことになるだろ、なんたって姫が同盟結ぶんだぞ」
「でもなんでこのタイミングで同盟なんだろ」
「さぁ、これから説明するのでは」
「姫の心の内は理解が及ばないところにありますからなぁ」
「姫様がマイクを持ったぞ、演説始まるから俺ROMるわ」
「あのマイク、絶対に争奪戦が起きるぞ」
「「「確保は俺に任せろ!」」」
「いや、それは『天災』の2人が許さないだろ」
遠く離れた地でそれらを眺めながら、豪志は久しぶりに大笑いした。
白姫は、相変わらずやる事が派手すぎる。
世界改変が起きたあの時以上に、みんな大騒ぎではないか。
「白姫、相変わらずだな」
親愛の感情を込めて『七色の頂剣』の1人『鉄壁の要塞』ガルディアンは呟いた。
彼女のおかげで、まだまだ頑張れそうだと。
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