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第29話「親友の罪の告白」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 真夜中の秘密の会合というのは、どうしてこうも聞いただけでワクワクするのか。

 大人達に内緒で子供達が集まる。

 そういう行為は、背徳感やら好奇心やらが合わさって実に胸が高鳴る。

 夕食を済ませた後に僕と真奈とアリスは、更に龍二を誘って街の外に出ていた。

 本当ならば優も誘いたかったのだが、流石にアイラさんが許してくれなかったので今はいない。

 その代わりに、明日の午前の授業が終わったら彼女がレベル60になったお祝いをしようと提案したら、優はすごく喜んでくれた。

 レベル60のボーナスか。確か僕はその時に『上級付与魔法』を習得したはず。

 優は、果たして何を得られるのか。

 実に楽しみだ。

 真っ暗な道を懐中電灯の明かりを頼りに歩く僕は、わくわくして自然と足取りが軽くなる。

 山の中を歩くということで、今日の僕は靴にスニーカーをチョイス。タイツの上に短パンを履き、上にはキャミソールと白髪を隠すためのフード付きの上着を羽織っている。

 もちろん、服装を決めたのは僕じゃなくてアリスだ。

 彼女の性格は優に近いらしく、僕が着替えると必ず干渉してくる。

 迷惑ではないが、実に面倒くさい。

 ちなみに龍二と真奈とアリスは動きやすい格好をしており、真奈は顔を隠せるようにいつものフード付きの半袖のパーカーを、アリスは魔女のようなローブを羽織っている。

 アリスよ、山でそれは動き辛くはないのだろうか?

 そんな事を思いながらも、携帯電話のマップを見ながら3人の先導をする僕は、大きな石の前で立ち止まる。

 紅蘭から指定された待ち合わせ場所は、大きな石の前だ。

 そこに刻まれているのは、剣を持った戦乙女だった。

 それに僕は見覚えがある。

 確かこれは白の騎士団のエンブレムだ。

 時刻を確認してみる。

 今は午後20時00分。

 会合が始まるのは21時からなので、その前にはやってくるだろう。


「場所はここで間違いないみたいだけど、どうやらまだ紅蘭は来てないみたいだね」

「蒼様よりも1時間早く来ていないとは男の風上にも置けないやつなのじゃ」

「ふふふ、待ち合わせ時間に1分遅刻する事に指一本折るの」

「2人とも怒っちゃダメだよ」


 何やら背後から不穏な空気を感じたので一応釘を刺しておく。

 すると2人とも不服そうな顔をして、渋々頷いた。

 全く、油断も隙きもない。

 僕のことを大事に思いすぎて、暴走してしまうのはよろしくない。

 そんな事を考えながら石に歩み寄ると、


「うひゃ!」

「蒼!?」


 油断していた僕は地上に出ていた木の根っこに足を引っ掛けてしまい、前のめりに倒れそうになる。

 それを真後ろにいた龍二が危ないところで右手を出して支えてくれると、僕はお礼を言った。


「あ、ありがとう龍二」

「気にすんな、それよりも気をつけろよ。おまえに転ばれて怪我されると、後ろの2人が怖いんだからな」

「うん、でも一つ良いかな」


 なんだ?と聞く龍二に、僕は少しばかり顔を赤くした。


「その、手の位置がちょっと……」 


 咄嗟の事だったとはいえ、龍二の大きな右手がぎゅっと僕の胸を掴んでいる。

 その柔らかくも弾力のある感触に顔を真っ赤に染めた龍二は、


「す、すすすまん!!」


 慌てて手を離すと、お互いに逃げるように距離を取った。

 女子共に触られる事は何回もあったから慣れてしまったが、男子に触られたのは初めてだ。

 胸が少しだけ、ドキドキする。

 いや、これは転けそうになったからドキドキしているのであって、けして龍二を意識しているわけではない。

 そう自分に言い聞かせながら、チラリと龍二を見てみると、彼は完全に僕の顔を見ることができなくなり、茹で蛸みたいになっていた。

 ちなみにその現場を目撃してしまったアリスと真奈のご乱心っぷりは、それはもう酷かった。

 特に真奈が「……錬金術で爪先からゆっくり右手を分解してやるの」等と想像するも恐ろしい事を口にするものだから、龍二は子犬のように怯えた。

 僕が前に立って説得しなければ、2人とも龍二を口にできないような処刑をしていたのではないか。

 そんな殺意を、暗い瞳に宿していた。

 流石に可哀想なので、2人のほとぼりが冷めるまでは手を出されないように間に立つように位置取りしてあげる。

 それからしばらくして、一向に姿を現さない紅蘭を待つこと数十分。

 僕はアリスと真奈に待機するよう言うと、龍二の隣に腰を下ろして2人だけの話をする事にした。


「龍二、ちょっと良いかな」

「ど、どうした?」


 先程の感触がまだ手に残っているのか、龍二は頬を赤くして視線をそらす。

 なんかやりにくいな。

 僕は改めてこの身体になったことを疎ましく思うと、咳払いを一つして言った。


「優から聞いたよ。僕が眠っている間に色々と頑張ってたんだって?」

「……と言っても、この大規模な改変を行ったソウルワールドに関する手掛かりは全く掴めなかった。優と俺の頑張りは無駄骨だよ」


 龍二はVRヘルメットギアについて調べてみたのだが、そちらはなんの成果も得られなかったらしい。

 この街にある製造元に行ったら、そこは工場じゃなく更地だった事を聞いたときは、僕も苦笑したものだ。

 それでも何かこの現象に関する手掛かりを得ようと、龍二は僕が眠っていたこの数日間午前の授業が終わり次第に優と協力して調べまわった。

 だがやはりメディアの人達と同様に、VRヘルメットギアとソウルワールドの出自や運営の尻尾を掴むことは出来なかった。

 土宮の力をフルに使って、執事にも調べさせたがそちらも進展は無し。

 龍二は木に背中を預けると、真っ暗な空を見上げて呟いた。


「俺は怖くなったよ。あのゲームを何も疑うことなくプレイしていた事が」


 その言葉は、心の底からの思いを表したもの。

 蒼も頷き、


「僕も同じ気持ちだよ」


 と、小さな声で呟いた。

 過去に戻ることができるのなら、僕はきっとゲームをプレイする事を止めさせるだろう。

 超高倍率のベータテストの抽選に当たった時は飛び跳ねるくらいに喜んだが、今となってはそれが全ての始まりであり、悪い思い出だ。

 落選した龍二に自慢していたのが、とても恥ずかしい。

 そんな事を考えていると、僕にしか聞こえないような声で龍二が言った。


「……蒼、今更だけどごめんな」

「急にどうしたんだ龍二?」

「俺はな、9月1日にお前が性転換して困っていた時に、心配していた優と違って自分だけホッとしてしまったんだ」


 心の底から懺悔するように、声を絞り出す龍二。

 僕はそれを黙って聞いた。

 前日に優に告白してフラれた事。

 どんな顔をして会えば良いのか分からなくなった事。

 そんな時にソウルワールドが現実化する事件が起きて、オマケに僕が女の子になった事で、お互いに意識する事なく優と自然に会話ができた事。


「俺は優といつも通りの関係でいる事に、一番大変な思いをしていたおまえを利用してしまったんだ。とんでもないクソ野郎だよ」

「あー、なるほどね」


 なんか色々と大変すぎて、龍二が優に告白していた事を忘れていたなんて言えない。

 まぁ、2人がギクシャクしているとこっちも困るので、それで助かったのなら良いのではないかな。

 ぶっちゃけて言うならば、謝るようなことではないし、聞かされても何て答えたら良いのかわからない。

 そんな事を思った僕は立ち上がると、とりあえず龍二の肩に手を置いた。


「気にするな、君と僕は親友じゃないか」

「蒼、でも俺は」

「それ以上ネガティブな事を口にしてみろ。抱きしめて頭ナデナデしてやるぞ」

「──な、それは!?」


 僕の言葉に、絶句する龍二。

 もちろんそんな事をしたら、離れたところでスタンバイしている2人が爆発することは必至。

 親友のオッドアイの少年は顔を耳まで真っ赤に染めると、しばらくしてからフッと苦笑いした。


「やっぱり、おまえには敵わねぇよ」

「わかればよろしい」


 したり顔をする蒼。

 そんな僕の肩を、誰かが軽く叩く。

 振り返ると、そこにはアリスと真奈が何か物欲しそうな顔をしていた。


「妾は頭ナデナデして欲しいのじゃ」

「わ、わたしもしてほしいの……」


 どうやら先程の会話を聞いていたらしい。

 素直に言うと、2人は顔を伏せて身体をモジモジさせる。

 なんて可愛い生き物なのだろう。

 ──よし、2人ともまとめて撫でてやろうじゃないか!

 こう見えて妹の頭をよく撫でていたせいで、聖母の手の持ち主と世間では有名な僕。

 その力を遺憾なく見せてやろう。

 両手を広げて、2人を受け入れる蒼。

 遅刻して紅蘭が来た頃には、アリスと真奈は頭を両手で押さえて恍惚な表情で地面に倒れていた。

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