表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/86

第27話「騎士と冒険者の違い」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 翌日の朝、久しぶりに自分の部屋のベッドで目を覚ました蒼は、上半身を起こすとあくびをしながら小さく手足を伸ばした。

 気持ちの良い朝だ。

 寝起きが良い僕は、ベッドから出るとそのまま軽いストレッチをする。

 そして一通り終わると、充電器に挿している携帯電話に向き直り、昨日密かに決めたこと。

 家族にチャットアプリ『RIN』で『おはよう』のスタンプと『今日も頑張ろう』のスタンプを送った。

 返事は直ぐに帰ってくる。

 両親と妹も使っているスタンプの種類は違うが、僕と同じ返事をしてくれる。

 些細な事だけど、一歩だけ前進した。

 その事に笑顔を浮かべると、僕は両頬を軽く叩いて気合を入れた。

 さて、今日も頑張りますか。

 時刻は丁度午前7時。

 朝食もしっかり作る、と意気込んでいた真奈は恐らく今頃下の方で準備をしているだろう。

 パジャマというものを基本的に持たない僕は、寝るときに着ていた半ズボンに半袖のシャツというラフな格好のまま部屋を出ると一階に降りる。

 すると、一階にはパンの焼ける良い香りが充満していた。


「おはよう、真奈と、アリ……ス?」


 僕がダイニングルームに姿を現して挨拶をすると、そこにはエプロン姿の桃色の髪の少女の真奈と、青髪の少女のアリスが立っていた。

 真奈はベーコンを焼いた皿の上に目玉焼きを乗せる作業をしていて、アリスは焼いたトーストを皿に乗せる作業をしている。

 その意外な光景に僕は驚いてしまい、つい真面目な顔をして口を滑らせた。


「アリス、君は朝起きれる人だったのか」

「朝一番でバカにされたのじゃ!?」

「姫様おはようなの」


 僕の言葉にショックを受けて目に涙を浮かべるアリスと、マイペースに挨拶を返してくる真奈。

 流石に失礼だったかな、と思った僕は即座にアリスに謝罪をした。


「ごめんね、ちょっと意外だったからびっくりしたよ」

「意外とはなんじゃ。蒼様は妾がずっと寝ている人間だと思ったのじゃ?」

「うん。まぁ、少しだけね」

「むぅ、失礼なのじゃ」


 プンプン怒るアリス。

 こりゃ流石に悪いことをした。

 そう思いながら僕は手を洗い、レタスをちぎってサラダの準備をするアリスの隣に立つと、包丁を取ってまな板の上に置いてあるキュウリを輪切りにする。

 ある程度切ると、皿にちぎって盛ったレタスの上に投入。次に冷蔵庫からリンゴを取り出して洗うと、輪切りにしてから角切りにしていく。

 その慣れた動作に、アリスと真奈が意外そうな顔をした。


「蒼様料理できるのじゃ?」

「効率重視じゃなかったの?」

「こう見えて母さんの料理手伝ったりしてたんだぞ。まぁ、1人だと手間かけたくないから思いっきり手を抜くんだけどね」


 角切りにしたリンゴと一緒にタマネギのドレッシングを取り出すと、サラダに投入して混ぜる。

 これでサラダの完成。

 3人分の料理を協力してテーブルに運ぶと、2人は僕の向かい側に座った。


「「「いただきます」」」


 手を合わせてから、僕はパンに齧りつく。

 程よくこんがり焼けていて、中々に良い感じだ。

 真奈お手製のじゃがいものスープも、芋とタマネギの自然な味わいが実に美味しい。

 肉厚のベーコンは両面をカリカリに焼かれており、目玉焼きと一緒に食パンに乗せて食べると最高の一言だった。

 サラダはサッパリと甘く、リンゴの食感とレタスの食感の相性が良い。

 個人的な総合評価としては、満点だ。

 僕らはそれを食べ終わると、アリスが洗い担当、真奈が拭き担当、僕が食器棚に戻す担当に分かれて手短に片付けを終わらせた。

 そして3人は再びテーブルに戻る。

 座る位置は先程と同じで、僕とアリスの前には珈琲が入れられたカップが、真奈は紅茶が入ったカップを手に座る。

 真奈は紅茶を一口飲むと、僕を見て言った。


「……そういえば、姫様は学科をどうするのか決めたなの」

「学科?」


 思わず聞き返すと、真奈は小さく頷いた。


「国の方針で来年の4月からは、騎士学科か冒険者学科のどちらかを選択しないといけないの」

「なにそれ、知らないんだけど」

「神威高等学校では、まだそこまで授業が進んでないの……?」


 ふむ、と考えるように口に右手の人差し指を当てる真奈。

 彼女は立ち上がると、ポケットからレンズの入っていない眼鏡を取り出して装着。

 そして更にポケットから何やら白い板を取り出すと床に置き、手の平に錬金術を使用するときの円形の陣を展開。

 同じ陣が刻み込まれた白い板は光り輝き、またたく間に巨大化して学校などに置いてあるホワイトボードとなった。

 あの小さいのがなんでこんなサイズに。

 物理的に無理がなかろうか。

 そう思うと、真奈は胸を張って僕とアリスの疑問に答えた。


「ホワイトボードを錬金術で圧縮して持ち運べるようにしたの」

「なるほど、わからん」


 何でホワイトボードを常備できるようにしたのか。

 普通は使う場面なんてそうそうないだろう。

 一つ1000万のエコバッグの件といい真奈の理解不能な思考に、凡人である僕とアリスは呆れてそれ以上の追求はしなかった。

 当の本人は、水性のマジックペンを取り出すと嬉々として騎士とは?冒険者とは?とホワイトボードに書いた。

 そして此方を振り向くと、彼女は言った。


「では、わたしから説明させてもらうの。お2人ともオーケーなの?」

「異論はないよ」

「お腹いっぱいで眠くなってきたからはやく頼むのじゃ」


 ふわぁ、とあくびをするアリス。

 そんな青髪少女を無視すると、真奈は僕を見て説明を始めた。


「先ず騎士とは、この国を守る軍隊に所属する人達の事なの。安定した収入は得られるし、大多数のレベル50の学生達はこっちを選ぶの」

「公務員みたいなものだね」

「出動がない時間帯は公務員の仕事を手伝ったり地域の掃除の手伝いとかしてるか、人工のダンジョンでレベル上げしてるかなの。現代の言葉で言うなら、騎士というよりは戦う公務員なの」


 そして、と真奈は続けると。


「冒険者は、世界各地を冒険する事を許可された人達の事なの」

「冒険って許可が要るんだ」

「もちろん、最初から全て許可されてるわけじゃないの。レベルやその人の冒険者ランクで、立ち入る事ができる場所が決められてるの」

「でもそれってどうやって管理されてるんだろ。だって、黙って入られたら分からないよね?」


 関所でもあるのだろうか。

 僕が疑問に思うと、真奈は騎士の説明をまるごと消して、何やら丸を2つ書き加えた。


「分かりやすく言うの。世界各国で管理されている天然のダンジョンや危険な地域には龍脈を使って『龍王』が特殊な区切りを作ってるの。その区切りは中のレベルに応じて強くしてあり、基本的には『龍王』か国から認められた人間以外は入ることは絶対にできないの」

「なるほど、そんな管理の仕方をしているのか。その龍王って人、メチャクチャ強いんだろうな」

「うーん、だいたい龍王は20番目くらいの強さなの。ちなみに呉羽様はダントツで世界最強なの」

「ちょっとまて、うちの父さんどんだけ強いんだよ」


 僕がそう聞くが、珍しく真奈は答えてくれない。

 世界規模の区切りを作る人物以上に強いって、それもう人間をやめてないだろうか。

 疑問に思うが、彼女は話を切り替えて続けた。


「ちなみに騎士と違って、冒険者になる人は1年に1人くらいしかいないの」

「なんで? アリスから聞いた話だと、ダンジョンに入りまくればレベルも上がるし稼ぎ放題らしいけど」

「それは、わたし達のレベルが60を越えているから言えるの」

「ああ、そういう事か」


 言われて、納得した。

 そういえば授業でも説明されたのだが、学生がどれだけ頑張っても到達できるのはレベル50までらしい。

 頻繁に街の外に出るアリスから聞いた話によると、外のダンジョンの平均レベルは40から50。

 僕達なら余裕で攻略できるダンジョンでも、この世界で途中からレベルを上げなければいけない学生達には、余りにも敵が強すぎる。

 何ならボスに出会う前に、途中のモンスター達で死んでしまうだろう。


「この世界では、冒険者になるハードルは余りにも高すぎるのか」

「その通りなの。年間の死亡者の中には何人か無理をした冒険者もいるの」

「ゲームの中だからって死にまくってた僕達からすると、全く笑えない話だね」


 死んでも大丈夫だからって、自分よりもレベルが高いダンジョンに入ってレベリングしまくっていた昔を思い出す。

 何度も死んで、何度も挑戦したあの日々。

 あの時の頑張りのおかげで、今のレベルは69。

 それは今の世界では、とんでもないアドバンテージだ。

 この世界で頑張ってレベルを上げている人達からすると、チート呼ばわりされても仕方のない事である。

 それを再度理解した僕は、


「うん。わかった、ありがとう」


 騎士と冒険者について理解して、真奈に礼を言う。

 真奈は満面の笑顔を浮かべると、ホワイトボードの書き込みを消してから出した時と同じように小さく収納する。

 それから、いつの間にかテーブルに突っ伏して眠っているアリスに歩み寄ると。

 真奈は手にした風船を膨らませて、針を突き刺した。

 パンッ!


「ふぎゃ! て、ててて敵襲なのじや!?」


 耳の真横で風船の破裂音をくらったアリスはびっくりして起き上がり、周囲をキョロキョロ見回す。

 そしてふと真奈に視線を向けると、その両手に持った風船と針をポケットにしまうのを見て、まなじりを釣り上げた。


「ひ、人が気持ちよく寝ておったのにお主は……!?」

「人の話を最後まで聞かない悪い子の罰なの」

「妾は怒ったのじゃ!」


 飛び掛かり、真奈を押し倒すアリス。

 真奈はアリスの両頬を掴んで左右に広げ、アリスも同じく真奈の両頬を掴んで左右に広げる。

 それを見て僕は、魔法や錬金術や召喚術を使わないのならば、実に可愛いケンカだと思い2人を傍観した。

 すると、不意に携帯電話が振動する。

 何だろうと手に取って見てみると、そこにはチャットアプリ『RIN』でメッセージが届いていた。

 差出人は紅蘭。

 そこには、こう書かれていた。


『本日の夜21時の街外れの廃墟にて、白の騎士団の会合が開かれます。参加されるか否かは、姫が決めて下さい』


 僕の返事は決まっていた。

 YESだ。


ブクマ、コメント等を頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] > 桃色の髪の少女の真奈と、青髪の少女のアリスが立っていた。 ずっと気になっていたんですが、(二人に限らず) この日本人離れした髪の毛って染めてるんですかね? それとも(アバターの色…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ