第22話「戦いの後日」
いつも読んで下さる方々に感謝しております。
変な夢を見た。
燃える神威市。
傷ついた自分の父親。
沢山のモンスターの死骸があって、その前に立っているのは真紅の剣を手に持つ顔の無い少年。
モンスターと戦ったのは少年なのか、身体のいたるところから流血している。
そんな彼が倒れると、側に駆け寄る白髪の少女の姿があった。
どうやら魔法で彼の傷を癒やしているようだ。
そこでふと気がついた。
よく見てみると、少女の容姿が自分に似ている。
というよりは、今の自分を幼くした感じだ。
記憶の中にある壱之蒼の性別は、ソウルワールドによって性転換が起きるまで性別は男性だった。
でも見た感じあの子供は5歳くらい。
ソウルワールドすら発売していない時期に性転換しているなんて、あり得ないことだ。
でも夢の中にしては景色がリアルすぎる。まるで昔にあった事を再現しているような生々しさがある。
白の少女によって傷を治してもらった少年は、彼女に跪きこう宣言した。
「蒼、君は俺が必ず守る」
その約束が、僕の心臓を大きく脈動させる。
──あれ?
なんだか懐かしい感覚に包まれると、蒼の意識は反転した。
◆ ◆ ◆
真っ暗な闇の中から意識が覚める。
自分がどこにいるのか確認しようとして目を開こうとすると、先ず瞼が重くて開くのがやっとな事に驚いた。
このまま二度目の眠りにつくのも良いかなと思ったが、自分には確認しないといけない事がある。いつまでも眠ってはいられない。
力を込めて、目をゆっくり開く。
するとそこに広がっていたのは、真っ白な見知らぬ天井だった。
「ここは……」
掠れた声で呟き、次に鉛のように重たい身体をゆっくり起こして周囲を見てみる。
一目で理解した。
ここは先程の不思議な夢の中ではない。
しかし自分の部屋や優の部屋でもない。
僕が寝ているのは何やら高そうなベッドで、名前は知らないが恐らくは高級品であろうソファーとテーブルがある。
室内は広く、どうやらどこかのホテルの一室に自分はいるらしい。
蒼はぼんやりする頭で、最後に見た光景を思い出す。
窮地に陥った状況を打開する為に、大怨鬼に最後の切り札を使って討ち果たした僕は、その後ユニークアビリティのダブル発動と『極限魔法剣』それと『極限魔法剣技』の多大な負荷に耐えられなくてそのまま気絶したのだ。
敵は確実に倒したが、優達は大丈夫だろうか。
そんな事を考えていると部屋の扉がノックされ、中に1人の少年が入ってきた。
赤い髪の爽やかなイケメン、紅葉高等学校の制服を身に纏う彼の名前は四葉紅蘭だ。
彼は僕と目が合うと、驚いた顔をしてその場に硬直してしまった。
ちょうど良い。
固まって動けない紅蘭に僕は聞いた。
「みんなは、無事?」
「……無事です。気絶して10日間も眠っていた姫以外は『着装』のおかげで誰も怪我一つありません」
「そっか、それなら良かった」
僕がそう言うと我慢できなくなったのか、紅蘭は即座にベッドまで歩み寄ると大きく頭を下げた。
「姫、この度は大した戦力になれず、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」
「……?」
突然のことに、キョトンとしてしまう。
はて、謝られるような事なんてあっただろうか。
疑問に思った僕は、彼に言った。
「迷惑? そんなの掛けられた記憶はないんだけど」
僕がそう言うと、彼は下げた頭を戻さずに懺悔するように答えた。
「ボクは、自分の足を過信して愚直にも一度見せた技で捕まり、戦闘不能になりそのまま戦いが終わるまで気絶するという一番やってはいけないミスを犯しました。これはメンバーが少ないパーティでは絶対にやってはいけないミスです!」
真面目か。
そう言いそうになったが、辛うじて飲み込む。
そもそも僕は不測の事態を幾つも想定していた。
龍二が戦闘不能になったパターン。
紅蘭が戦闘不能になったパターン。
優やアリスが戦闘不能になったパターン。
僕が戦闘不能になったパターン等。
予想外だったのは敵がライフ0になっても死なない事か。
ここはリアル、ゲームとは違うのだと改めて実感させられた。
だから、紅蘭が気絶した事を咎めるつもりは全くない。
むしろ大怨鬼の追い打ちで殺されると一瞬焦ったくらいだ。
まぁ、強いて言うなら僕を心配させた。
それくらいの罰くらいは与えても良いかもしれない。
頭を下げたままの紅蘭を見て、そう思った蒼はニヤリと笑うと、彼に顔を上げるように言った。
「姫、ボクは──痛った!?」
顔を上げた紅蘭の額を、少し力を込めた右手の中指で弾いてやる。
所謂、デコピンだ。
それを食らった紅蘭は余程痛かったのだろう。額を押さえて蹲りプルプルしている。
「これで途中リタイアの件はチャラにしてあげよう。次からは気をつけるんだぞ」
「ひ、姫。この程度の児戯のような罰で……」
「納得できないのか、紅蘭?」
涙目で此方を見上げる紅蘭を、真剣な顔で真っ直ぐに見つめる。
すると彼は諦めたのか、ふっと口元に笑みを浮かべた。
「ああ、そうですね。貴女はいつもそうでしたね。誰がミスをしても個人を問い詰める事だけは絶対にしない。問題点を皆で話し合い改善する。その美しいあり方にボクは……」
「はいはい、告白はもう聞き飽きたよ」
苦笑してベッドの縁に座ると、僕は彼に手を差し伸べる。
紅蘭はその手を掴むと、ゆっくり立ち上がった。
そしてあっさり手を離してくれる紅蘭を見て、僕はくすりと笑った。
「手の甲にキスされるかと思ったよ」
「お望みなら」
「止めてくれ、それに何度も言っているだろ。僕は本当は男なんだって」
「貴女が言うのなら事実なのでしょう。でも今は女性だ。ボクは貴女が男に戻るまで諦めませんよ?」
やだこのイケメン怖い。
さらっと受け入れられるその狭量に少しばかりドキッとさせられ、蒼は頭を抱えたくなった。
そういえば、アリスにも本当は男だって告げた時に「男でも女でも妾は蒼様が好きなのだから問題ないのじゃ」と言っていたような気がする。
好意とかは嬉しいけど、恋愛とか全く分からないんだけどなぁ……。
そんな事を考えながら、蒼は一応聞いてみた。
「ちなみに男に戻ったらどうするんだ」
「それはもちろん、親友にしてください」
ほんと良い性格しているよ。
それなら喜んで、と僕は答えた。
◆ ◆ ◆
10日間も眠ってしまっていたせいで、すっかりお腹が空いてしまった。
そんな僕に出されたのは重湯だった。
お肉とか食べたかったが、流石に10日も空っぽになった胃袋にいきなり固形はヤバい。
仕方なくそれを半分ほど食べてお腹いっぱいになった頃に、午前の授業を終えた龍二と優とアリスの3人がお見舞いにやってきた。
彼等は紅蘭を見ると「抜け駆けだ!」と文句を言ったが、仲裁に僕が入ると直ぐに大人しくなった。
ちなみに3人が来る前に聞いたのだが、ここはホテルではなく紅蘭の家の傘下の病院らしい。しかも僕がいるこの部屋は一泊30万はするとの事。
10日寝ていたわけだから300万か。
ハハハ、控えめに言ってヤバいのでは?
今回は向こうから頼まれた任務で倒れたわけで、流石に請求とかはしてこないはず。
万が一請求されたら、世界的名家になった両親を頼ろう。そうしよう。
そんな事を考えていると、紅蘭は僕達を見て頭を下げた。
「この度は大怨鬼の討伐に協力して頂き、ありがとうございました。おかげでダンジョンは正常化して、公になる恐れはなくなりました」
それに対して僕は笑顔で、
「良かったね。こっちも良い経験させてもらったよ」
龍二は苦笑して、
「ライフが0になっても、敵が死なないって事を知れたのは良かった」
優は大太刀に切られそうになったのを思い出したのか身震いして、
「ほ、本当に怖かったわ……」
アリスは偉そうに胸を張り、
「感謝するがよい。特に蒼様がおらんかったら、全滅もあり得たのじゃ」
四者四様の反応に、紅蘭は苦笑した。
そしてポケットから何か取り出すと、彼はそれを僕に渡した。
他の3人に見えるように、手のひらを広げる。そこには5センチほどのサイズの宝石があった。
僕を含む4人は、一目でこの宝石がただの宝石ではないことを理解した。
透明な石の中で、黒い炎が渦巻いている。
つまりはドロップアイテム。あの大怨鬼が使っていた黒炎が込められているのだろうか?
そう考えながらも、忍者アビリティの洞察でアイテムの正体を見てみると。
『黒炎の宝石』
執念の黒炎が封じられた石。
使用すると身体を覆うように黒炎を纏い、魔力が尽きるまで主の命を回復させる。
ふむ、どうやら使用者の魔力が尽きるまで使用できる自動回復系のアイテムのようだ。
しかし魔力が要となる僕と優とアリスは、常に魔力を消費するアイテムは相性が悪くて使えない。
一応効果を伝えて龍二に使うか聞いてみると、前衛で常にダメージを受ける役である彼は頷いた。
「というわけで龍二にあげるけど、みんな良いかな?」
「ええ、ボクも彼が適任だと思います」
「蒼様からの贈り物なら欲しいと言いたいところじゃが、妾も魔力を常に消費するのは流石にいらないのじゃ」
「私も、アリスと同じ意見だわ」
事後承諾となったが、3人は快く頷いた。
僕は宝石を龍二に手渡す。
すると龍二は「ほんとおまえ、小さい手になっちまったな」と僕の手を見て苦笑した。
……全く持って失礼な。
なりたくてなった訳じゃないやい。
ムスッとした顔をすると、そんな僕を見て龍二は改めて言った。
「ありがとう、大事にするよ」
「うん、大いに役立ててくれ」
宝石を受け取り、誓う龍二。
それを見て羨ましいと思ったのか、アリスが指を口にくわえて呟いた。
「むー、妾も蒼様から何か欲しいのじゃ」
「それなら私が持ってる蒼のコスプレ写真何枚かいる?」
「蒼様のコスプレ写真じゃと、そんな国宝品をもっておるのじゃ!?」
「すみません、ちょっとその話し詳しく聞かせてもらえませんか」
何やらとんでもない話を始めた他の3人。
まてまて、それは門外不出のアイテムだぞ。
僕が慌てて止めに入ろうと立ち上がると、足に力が入らなくて前に倒れてしまう。
あ、ヤバい。
顔面から地面に倒れる。
そう思った瞬間。
それを、とっさに受け止める4人の仲間達。
ハハ、連携良すぎだろ君たち。
僕は満面の笑顔を浮かべると、とりあえず写真を手にした3人を力のない手でひっぱたくのであった。
ブクマ、コメント等を頂けると励みになります。




