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第20話「執念の鬼」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 憤怒の黒炎を纏い、再び蘇った巨大な鬼。

 その圧倒的な存在感と敵が纏う黒炎によって、大広間の気温が一気に上昇するのをその場にいる全員は肌で感じた。

 これまでとは違う。

 僕の頬を伝わり、流れ落ちる汗。

 死んで、蘇る。

 そんなボスモンスターは、かつてのソウルワールド内でもアンデッドの王くらいしか見たことがない。

 そのからくりは、あの黒炎にあるのだろうか。

 警戒しながらも蒼は敵を観察して、現状を分析する。

 蘇った事で能力はどう変化するのか。それとも変わらないのか。

 黒炎はアビリティだとして、攻撃にも使えるのか。

 緊迫した空気の中で、大怨鬼が動く。

 先ず先程の戦闘で龍二に狙いを定めたのか、炎の巨体は真っ直ぐに彼に向かって駆け出した。

 ──速い。

 念の為に死体から離れていた龍二に、2回地面を蹴っただけで肉薄する。

 右から左に雑に振るわれる大太刀。

 龍二はそれを下段からの斬撃で弾き飛ばし、初撃から逃れる。

 だが、先程とは一つ違う事があった。


「お、重てぇ!?」


 敵の攻撃を弾き、そこから反撃するのが龍二の戦闘スタイルなのだが、二撃目を振れない。

 重たい一撃に手が痺れたのか、顔を歪めて2歩後ろに下がる。

 それを見た僕は、即座に待機していたアリスと優に指示を飛ばした。


「アリス、龍二と紅蘭に上級身体強化の魔法を」

「わかったのじゃ!」

「優は空間魔法で敵を挟んでやれ」

「了解したわ!」


 そして僕は忍者アビリティで敵のステータスを看破した。


 『しん大怨鬼だいえんき』。

 レベル70。

 種族、怨鬼えんき

 特性、刀使い、火属性。

 ステータス、不明。

 スキル、不明。


 やはり、火の属性が新たに追加されている。ならば水属性で大ダメージを狙えるはず。

 アリスの身体強化の魔法と同時に、蒼は龍二と紅蘭の剣に付与魔法を発動。

 付与するのは上級耐久強化、上級切断強化、上級水属性の魔法。

 2人の支援を受けて、先程から弾くので精一杯だった龍二が前に出た。


「上級剣技、真空斬!」


 龍二が上段から下段に大剣を一閃。蒼の付与魔法で、水属性を追加された斬撃を敵に向かって飛ばす。

 それを直に受けるのは危険と察したのか、大怨鬼は太刀で受けて防御。

 動きを止めた敵を見て、すかさず優が開いた右手を向けて魔法を発動した。


「中級空間魔法、封間ふうかん!」


 手のひらに魔法陣が展開。空間が歪んで、敵の巨体を全方位から発生した見えない壁が、押し潰さんばかりに挟み込む。

 しかし、それを見た大怨鬼が大太刀を光らせ、上から下に振り下ろす。

 優が作り出した空間魔法は、たったそれだけで跡形もなく破壊された。


 ……あれは、初級剣技『ガードブレイク』


 敵の技を見て、僕は額に薄っすら汗を浮かべる。

 まさか中級魔法を初級剣技で破るとは。

 初級と中級は、分かりやすく言えば威力が1.5倍ほど違う。その差は比べるまでもなく、歴然としている。

 それ故に、優のレベルが58である事を差し引いても、今見せた敵の技は驚異的であった。


「ふむ、ならばもう一度足を切り刻んでやりましょうか」


 僕の横から飛び出す影。

 紅蓮の騎士が、地面を疾走する。

 彼は、支援を受けて互角に大怨鬼と切り結ぶ龍二と挟み込むように回り込むと、両手に握る二本の神剣を振るう。

 上級二刀剣技『龍閃』。

 再び加速して、姿を消す紅蘭。

 神速の刃が先程と同じように光り輝く。

 だが大怨鬼が龍二の攻撃をバックステップで避けると、不意に何も無い空間に大太刀を振り下ろした。


「ぐぅッ!?」


 振り下ろした刃が捉えるは神速の騎士。

 とっさに二本の剣を交差して太刀を受け止めた紅蘭は、その場に拘束される。


「なぜ、ボクの位置を的確に……ッ」


 よく見ると、敵の周囲が黒炎によって僅かに煙が生成されている。

 どうやら煙の揺らぎによって、動きを追うことが困難な紅蘭の位置を割り出したらしい。


「は、木偶の坊にしては、やるじゃないか……ぐぅ!!」


 称賛し、膝を着く紅蘭。

 ──やばい。

 あのままでは、龍二程の力がない彼は受け止めた剣ごと押し切られる。

 そう判断した僕は『レーヴァテイン』に、切断と水魔法と風魔法を付与して二重魔法剣技を発動させた。


「上級魔法剣技『嵐水らんすい一刀いっとう』」


 両手で片手直剣を持って振り被ると、右上から左下にかけて虚空を一閃。

 水と風が合わさった超速の飛ぶ斬撃が放たれる。

 しかも魔法剣技によって、水と風は相乗効果で威力を増すと、そのまま大怨鬼の右足を両断。

 巨体を支えられなくなり、バランスを崩す鬼の巨人。

 拘束する力が弱まった瞬間に、紅蘭は即座に大怨鬼の間合いから離脱した。


「ありがとうございます、姫!」

「油断するな紅蘭、まだ来るぞ!」


 離脱する紅蘭に、片手で身体を支えながら大怨鬼が炎の真空斬を放つ。

 避けられない。そう判断した紅蘭は双剣で防御する。

 だが力で劣る彼は、真空の斬撃の勢いを受け止めきれない。

 余りにも強い力に、受けたそのままの状態で壁まで叩き付けられた。


「ガハッ……!?」


 倒れる紅蘭。

 不味い、どうやら頭を打ち付けたらしい。

 気を失った紅蘭に、大怨鬼が更にもう一度真空斬を放とうとする。

 それをさせまいとアリスが動いた。


「上級雷魔法、千雷せんらい!」


 彼女の持つ伝説の魔法使いの杖によってブーストされた巨大な魔法陣が展開。

 そこから無数の雷の槍が現れると、雨となって大怨鬼に降り注ぎ、一斉に放電した。


『グガアアアァァァァァァァァ!!?』


 それは先見隊の魔法使い達が扱っていた魔法とは、比較にならない威力の雷。

 苦しみ悶える大怨鬼は命の危機を感じると、手にしている太刀を地面に突き刺し、保有している魔力の半分を放出。

 その身から噴き出したのは、巨大な黒炎の柱。

 黒い炎は大怨鬼に刺さっていた千の雷を全て打ち消し、跡形もなく消滅させる。

 その結果に、アリスが舌打ちした。


「ッ……なんてやつじゃ」

「アリス、こっちに来るぞ!」


 大怨鬼は片手で身をひるがえし、龍二の攻撃を回避すると、そのまま残った片足で地面を蹴り爆走。

 ロケットのような速度で、自分を痛めつけたアリスに向かって跳んでくる。


「一直線で来るのなら!」


 アリスを守るために優が前に立つと、


「上級空間魔法、断空だんくう!」


 両手を前にかざし、己の全集中力、全魔力を込めて魔法陣を展開。

 すると大怨鬼の前方の空間に、無数の空間の刃が生成された。

 それを見て、敵は悟る。

 己の持つ剣技では破壊は不可能。

 上下左右、全てにおいて隙間なく作られた空間の刃。例え進路を変えたとしても、そこにも空間の刃は存在する。

 回避は不可能。

 ならば、と。

 敵はとんでもない行動に出た。


『ガァァァァッ!!』


 わざと、そのまま空間の刃に突撃。

 刃の網に全身を細切れにされ、命が一気に尽きようとする。

 正にその瞬間。

 残った魔力を燃焼させると、大怨鬼の肉片から黒炎が出現。そしてそれらはバラバラになった肉体を炎によって強引に繋ぎ止めると、尽きかけていたライフを3割まで回復させた。

 マジかよ。

 これには流石の僕も驚愕する。

 普通のモンスターが持ち得ない執念と、少しでもミスをしたらそのまま死んでいた大胆な発想。

 敵ながら称賛に値する。


「優、アリス、一撃は僕が何とか防ぐから、その後は空間転移で退避してくれ!」


 レーヴァテインに耐久強化、対刃強化と防御の付与魔法を幾つも重ねる。

 防衛ラインを抜けてきた大怨鬼は、その圧倒的な膂力を持って、大太刀を僕に向かって右から左に振り抜く。

 この状況ではアリスの結界は間に合わない。

 剣士である僕が守らなければ。

 2人を背にした蒼は、迫りくる太刀を剣で受け止める。

 大広間に響き渡る重い金属音。

 拮抗するのは、一瞬だけ。

 力の差が違いすぎる。

 龍二みたいに弾いたり受け流すなんて、とてもじゃないが無理だ。

 踏ん張ることすらできず、あっさり足が地面から離れると、蒼は遠く離れた壁まで弾き飛ばされた。

 僅か数秒で着弾。

 壁に叩き付けられた僕は、そのまま地面に倒れる。

 全身のダメージは3割程。しかしどうやら頭を強く打ったらしい。

 朦朧とする意識。

 霞む視界の中、2人の窮地に龍二が間に合うのを見届けると、

 僕は、意識を失った。

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