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第1話「二人の最強」

はじめまして、まったり週1更新できたら良いな~と思う趣味の世界

 数多のモンスター達が徘徊する広野で、二つの影がぶつかる。

 一つは小柄な白髪の少女。

 身長は150cmくらいだろうか。小さな身体には軽量優先の為、最低限の防具しか身につけていない。

 彼女は、つぶらな金の瞳を今は鋭く開き、右手に持つ相棒の片手直剣レーバテインを握りしめ、残像を残す程の鋭い動きで眼前の敵を何度も切りつける。

 しかし辺りに響くのは剣と鎧がぶつかる金属音のみ、左からの袈裟斬りを寸前のところで回避すると、少女は息を吐いた。


「やはり、正面からは無理だね」


 呟き、少女は左手に幾つもの魔術式を展開。

 選択するのは上級切断強化、上級耐久強化、上級炎属性付与。

 次に右手に持つ剣の刀身に触れると、それを纏わせる。


「付与魔法、おまえも本気だな!」


 七色の輝きを放つ剣を見て、相対する鎧を纏う少年は不敵に笑う。

 少女と違い、彼は頭部以外に鎧を纏っている。煌めく鎧の纏うオーラは、見ただけで容易には断ち切る事は難しいとわかる。

 そして右手に持つのは身丈ほどもある大剣。普通ならば振り回すのは容易ではないそれを、彼は眼にも止まらぬ速度で振るい少女を的確に捉える。


「っ!?」


 受ければ剣ごと真っ二つにされる。

 そう判断した少女はとっさに身体を後ろに倒して回避。そのままバク転して姿勢を立て直す。

 敵は大剣を振り抜いた状態。

 今なら行けるか?

 バク転した力を殺さずに足の裏にため込み、そのまま少女は突貫。

 ロケットの如く飛び出し、騎士との距離を一気に詰める。


「もらった!」

「それはどうかな?」


 突貫した少女は背中にヒヤリとした殺意を感知。

 まさかあの状態から攻撃を繰り出せるのか?

 いや、あいつならやれる。

 少女は疑いを確信に変えると、とっさに身体を反転。真上から迫り来る大剣の側面に斬撃を放つ。


「ぐっ……!?」


 激しい金属のぶつかり合い。

 少女の顔には余裕がなかった。

 振り下ろす力と振り上げる力。当然ながら前者が強いのは当たり前なのだが、此方は回転の力を加えてる上に剣には付与魔法をかけて強化しているのだ。それにも関わらず打ち払えないとは何て圧倒的な筋力。

 如何なる時も戦いを最後に制するものは集中力とたゆまぬ鍛錬によって鍛え上げられた筋肉だ、とは今相対している少年の持論。

 これだから脳筋は!

 このままでは受け流すのも困難と判断した少女は、剣の魔力を爆発させてその場から緊急離脱。素早く大剣使いの範囲外に逃げた。


「はぁ、はぁはぁ」


 あと一歩判断が遅かったら真っ二つにされていた。

 汗を拭い、少女は武器を構える。

 流石は、この世界初VR(・・・・・)MMORPG、ソウルワールドにおいて初のレベル70の到達者。他のプレイヤーとは格が違う。

 それに対して自分のレベルは68。ステータスの差はそこまでないが、このゲームはレベルを10上げる事にステータスポイントと共にスキルかアビリティのどちらかを選択して取得できる。もしもアイツが自分の知らない能力を取っていたら此方の勝率は2割くらいか。


「だけど、負けるわけにはいかないんだよなぁ」

「それはこちらの台詞だ、あお

「こらこら、不用意にリアルネームで呼ぶんじゃないリュウ」


 プレイヤーネームで呼ばれた少年の方は絶えず此方の動きを警戒しながら「つい口から出てしまった、すまんすまん」と軽い謝罪をする。


「でもこの戦いに勝ったら俺は“彼女”に告白できる権利を得られるんだ。戦績は128戦で俺が65勝と勝ち越しているが、こういう大切ものが賭けられた勝負でのおまえの勝率は100%だ」


 まったくもって油断はできない。そう言うリアルの親友ことリュウに蒼は「当然だ」と答えた。


「こちとらユーとは幼稚園からの付き合いなんだ。中学で知り合ったおまえにハイそうですかって許せるか」


 ユーとはこのゲームで自分達のサポートを担当する幼馴染の少女だ。

 母親がイギリス人らしく、自分が見ても見事な金髪碧眼の美少女だと思う。そしてそれはアバターにも反映されており、プレイ中に彼女が告白された回数は最早両手の指では数え切れないほど。リュウが好きになっても仕方のないことである。

 という自分も、この場のノリでこんな事を言ったものの正直なところ好きな人に告白するのは個人の自由だ。彼の恋路を邪魔する権利なんて自分にはない。

 なら何故にこんな事になったのか。

 それは、この勝負を提案してきたのが元はといえばリュウだからだ。

 自分は夏休みが終わったらユーに告白したい。自信をもって彼女に伝えたいから今から俺と勝負して欲しい、との事。

 つまりは自信がないから助けてくれってことなのだろうが、だからと言って負けてやるつもりは毛頭ない。

 蒼は剣を天に翳すと、告げた。


「付与魔法、開放」


 刀身に込めるのは、耐久強化をベースにその上に火属性、水属性、土属性、風属性、雷属性、光属性、闇属性を幾重にも積み重ねる。

 耐久強化で底上げされたレーヴァテインの耐久値を超えてしまわないようにギリギリのラインまで付与を重ね、刀身に循環させ、最後にそれらを切断強化の付与魔法で一つに束ねる。

 すると刀身が光り輝き、闇夜すら切り裂く真っ白な剣に変貌を遂げた。

 これぞ蒼が白の戦乙女と呼ばれる理由。

 魔法剣士の奥義の一つ、


「極限魔法剣技」


 完成した一つの究極に天と地が震える。

 その圧を前にして、リュウも大剣を構える。


「おまえのそれを破って、俺はユーに告白する」


 大きく息を吸い、そして吐く。

 腰だめに構えるは特定の超高難易度イベントボスを倒す事でしか入手できない大剣ティターン。彼を剛剣の鬼と言わしめるこのゲームで一番大きく、そして重い武器。

 最前線のプレイヤーの誰もがアレは使い物にならないと使用を諦めたその武器だが、リュウだけは頑なにそれを握り続けた。

 その末に獲得した70レベルアップボーナスのエクストラスキル。


「見せてやるぜ、これが今の俺の全力だッ!」


 大剣と共に駆け出すリュウ。

 それと同時に前に飛び出す蒼。

 雄叫びを上げながら、2つの刃が交差して、

 ──世界から、音が消えた。





◇ ◇ ◇




 気がつけば夜になっていた。

 プレイヤーネーム、リュウこと土宮龍二つちみや りゅうじに決闘を挑まれたのが確か昼食後の午後14時。

 そんでもって只今のお時間は19時。

 ということは、丸々5時間は戦っていた事になる。

 いやー、実にすごい戦いだった。着ている服とか汗でびしょびしょですよ。

 壱之蒼いちの あおは頭に装着していたヘルメット状のVR器具を外すと、疲れ切った身体にムチを打ってシャワーを浴びに一階に降りる。


「あいつあんなスキルを取得していたとはなぁ」


 やはり一つの事を極める事は悪くない。

 最近はレベル上げ以外でも、同じスキルを使用する事で得られる熟練度を上げる事でエクストラスキルを入手できるという攻略情報が多数ネットに上げられているのを見かける。

 例えば体術とかを獲得するには、モンスターを素手で100体以上討伐しないといけなかったり、更にその上の忍術は体術のスキル熟練度を全て50以上にした上で刀スキルの熟練度も上げないといけなかったりと実に面倒な仕様となっている。

 という自分の魔法剣士も似たようなものであり、剣士の各スキル熟練度100、魔法使いの基本的な各属性スキル熟練度を100上げる事でようやく付与魔法が解禁されて、そこから更に…………。

 思い出すのも恐ろしい。

 たった一ヶ月で魔法剣士に至った自分だが、解禁方法を語った際には他の最前線プレイヤーから帰ってきた言葉は頭おかしいの一言だけだった。

 いや、モンスターをひたすら狩りまくってたおかげでね、多額の資金も手に入りますし経験値でレベルも多少は上がりましたから悪いことではないのですよ?


「まぁ、社会人には絶対に無理ですわな……」


 洗面台に行き、汗まみれの服を脱ぐと浴室に入る。湯船にお湯を貯めるのが勿体ないのでこの2ヶ月間は全てシャワーで済ますのが普通になってしまっている。

 ふぅ、と息を吐く。

 ソウルワールドでは白髪金眼の少女のアバターでプレイしているが、当然ながら現実の自分は男だ。

 ショートカットの黒髪。黒い瞳。贅肉のない細い170センチのごく普通の男子高校生。これといって特徴のないごく普通の人間、それが自分だ。

 蒼はシャワーの湯を素早く浴びると、適当に頭と身体を洗って浴室から出た。

 身体を拭き、服を着ながら今日の夕飯の事を考える。

 だが最近は食欲というものが著しくなくなっている。手間を考えると食器も出したくないのでやはりカップラーメンが無難だろう。

 両親と妹がいたら怒られそうな事をしているが、そもそも両親は現在アメリカに出張中で妹も留学中だ。ここでだらしない事をしても怒る人はいな──


「こらぁ! せっかく人が夕飯のお裾分けしにきたのになにインスタントラーメンの準備をしてるのよ!」

「げ、その声はユー」


 背後を振り向くと、そこには160センチ前半くらいの金髪碧眼の少女がタッパーを片手に仁王立ちしていた。

 彼女の名前は水無月優みなつき ゆう10年前にこの街に引っ越してきた母親はイギリス人、父親が日本人のハーフだ。

 顔立ちはモデルのように整っており、当初引っ越してきた時は人見知りな性格も合わさってお姫様みたいだなと思った。

 まぁ、今では世話焼き好きのお節介者なのですが。

 全国の男性から怒られそうな事を心中に抱きつつ、蒼はため息を吐いた。


「おまえ鍵持たされてるからって無断で入るなよ」

「あら、うちのママ特製カレーを持ってきたのにその言い方はないんじゃないの?」

「それは失礼致しました姫君」


 即オチ手の平大回転。

 カレーはしっかり保存したら長持ちするので便利なのです。おまけに素のカレーでもよし、揚げ物の惣菜を買ってきて添えてもよし、うどんを湯がいて入れてもよしの神料理なのです。

 土下座をしてタッパーを受け取ると、蒼は白米を炊いてない事に気づき即座に冷蔵庫からうどんを取り出した。


「おまえ今日は飯済ませた?」

「うん、だから今日は配達と様子を見に来ただけよ」

「様子って俺の信用ないのなぁ…」

「だって放っとくとあんたずっとソウルワールドしてるでしょ」

「否定はしない!」


 即答すると優は呆れた顔をした。


「宿題とかはちゃんと済ませてるわけ? 明日から始業式なのよ」

「終わってるわけないだろ。なんせこの2ヶ月間ずっとソウルワールドしてたんだからな」

「偉そうに言うことじゃないわね。さっき電話で会話したけど龍二はちゃんと済ませてるらしいわよ」

「そっか、アイツは優等生だなぁ」


 適当に相槌をしながら、蒼は夕食の準備を済ます。

 今日は4分の1を利用してシンプルなカレーうどんだ。

 水無月の母親は料理上手であり、カレーにいたってはスパイスまで自家製のブレンドを作っているらしい。

 様々なスパイスが合わさり素晴らしい香りを放つカレーをうどんに絡ませ、頬張る。

 美味い、説明不要。

 今日のはフルーティーな感じがするが、一般人である自分にはこの精密に組み立てられた味を説明できそうにはない。

 それをあっという間に平らげると「私もう帰るね」と言って此方に背を向ける優に蒼は一つだけ尋ねた。


「アイツ、ちゃんと言えたか?」


 それに対して、優は苦笑して見せる。

 十分だった。

 自分も苦笑すると優は「おやすみ」と言って扉を閉めた。

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