情報は命
マックイ男爵令嬢が副隊長様を微妙な顔をして睨んでいる。
「忘れてた、この人策士で鬼畜設定だった」
「へー、そんな設定なんだ」
「その上戦闘狂と狂った設定のはずなのに、仲良くなった方いいルートと悪い方がいいルートがあるのがムカついたの覚えてる。」
おもいっきり副隊長様を睨みつけるマックイ男爵令嬢にニコニコと受け入れる副隊長様。
「あぁ、そういえば名乗ってなかったね。
私の名はミシャエル。好きに呼んでくれて構わない」
「今ほどあなたルートがなくて、あなたの真名が分からないことに悔いたことは無いわ」
「それは良かった」
バチバチと火花を散らす2人に、ひぇっと肩が上がる。
「レナ」
「トレヴァー」
トレヴァーがミシャエル様の側を離れて私の手を取ってくれる。
「良かった、あなたと離れてしまうかと」
「こればかりは俺の力じゃない。副隊長様の力添えがあったからこそだ」
嬉しそうに笑うトレヴァーに、私も嬉しくなって微笑み返す。
「あぁ、そうだサーベラス公爵令嬢」
「どうぞ楽にお呼びください。」
「じゃあ、レナリア嬢と、」
「はい。」
「レナリア嬢。
その紋様の魔法石を貰えるか?」
そう言われて、ようやく自分が未だにそれを握っていることを思い出す。
しかもこれはマックイ男爵令嬢の物で、決して自分のモノではない。
「大変失礼いたしましたわ。
マックイ男爵令嬢も、ずっと握り締めて申し訳ありません。」
「あの、レナリア、様?」
「?はい?」
「紋様のことは全然大丈夫です。それと、すいません。私あんまりお嬢様教育が出来てなくて不愉快にさせているかも知れません。どうぞ不愉快な点はご指摘ください」
マックイ男爵令嬢は元に戻った可愛らしいドレスを広げながら、気まずそうに言う。
「2人仲良くして行かないといけないからな、遺恨は残さない方がいいだろ」
そう言うミシャエル様に頷いて、1歩前に出てマックイ男爵令嬢を見る。
「では、言わせていただきます」
「ど、ドンと来い!」
意味がわからない言葉に首を傾げるが、そのまま続ける。
「まず初めに、私の前で私が話しかけた際フランシス皇太子に抱きつきましたが、あれは目上の人に対する行動としては不敬に当たります、故に貴族社会では処罰されても文句は言えません。しかも、私の家とマックイ男爵令嬢の家ではだいぶ差があるので下手したら首が飛びます。あの場ではフランシス皇太子と私が何も咎めなかったので誰も何も言いませんでしが、本当なら危なかったのでやめましょう。次に、私をレナリア様、と呼ばれましたがそれもダメです。目上の人には必ず家名で、そしてその後に、夫人、や当主様、と付けるのが正解でございます。また、目上の人が話しかけてないのに話しかけるのも不敬ですし、トレヴァーに避けられて転んでしまった場面があったでしょう?パートナーが近くにいない時に転んでしまってならしかないですが、パートナーが近くにいたのに、自分1人行動し転んでしまったらパートナーのメンツを潰ししまいます、気をつけて足を進めてください。それから、」
「レナリア嬢?」
「はい?」
スクスクと笑うミシャエル様に名を呼ばれ止まる。
「マックイ男爵令嬢とトレヴァーが固まっている」
「え?」
私の横にいたトレヴァーは情報量の多さに苦笑したまま固まっているし、マックイ男爵令嬢に関しては頭から煙が出ている。
はっ!またやってしまいましたわ!
私は昔から1度理論的に話し始めてしまうと止まらない癖があって、直さなきゃと思っていたのに、恥ずかしい!と思いながら両手で頬を覆うがミシャエル様からは笑われるばかりだ。
「あ、あの」
ようやく復活したマックイ男爵令嬢がオズオズと話し始める。
「はい?」
「あ、話しかけちゃダメ....」
私がさっき言った言葉を気にしてか、どうしようかと迷っている様子のマックイ男爵令嬢に助け舟を出す。
「相手が自分と向き合っている場合は構いませんわ」
ホッとため息を着くと、きちんと目を合わせてくる。ここはプラスポイントですわ。
「あの、全部は理解出来ませんでしたが、あの沢山不敬なことをしたのは分かりました。申し訳ありません。サ、サーベラス公爵令嬢様。」
ガバ!と頭を下げるマックイ男爵令嬢にクスッと笑ってマックイ男爵令嬢の手をとる。
「令嬢は優雅にお辞儀するものですよ。そんなに勢いつけてはなりません。」
「あう。」
「それに、レナ、で構いませんわ」
「え、」
「どうぞレナでも、レナリアでもお好きにお呼びください。
だって、2人で1つになるのでしょ?」
様付けも結構です。と言うと、マックイ男爵令嬢は嬉しそうに目を輝かせる。
「あ、ありがとうございます!れ、レナ。」
恥ずかしそうに言うマックイ男爵令嬢が可愛いくて、母性?保護欲?が沸き立てられ余計にニコニコとしてしまう。
「わ、私のこともキャルとお呼びください!皆さんも」
「えぇ、よろしくね、キャル」
「はい!」
「ところで、気になったことがあるのだけど」
そうキャルに言うと、首をかしげて次の言葉を待ってくれる。
ふふ、なんて可愛らしい。
「ミシャエル様に使ってた言葉遣いで話しても....」
「だ!ダメです!」
「そう?」
ブンブンと頭を縦に振るキャルに、なら、と大人しく引き下がる。 それが楽ならいいと思ったのだけど。
「そろそろそれを貰っていい?」
「あ、失礼しましたわ」
そう言ってミシャエル様に紋様を渡す。
が、ミシャエル様が私の手のひらから取ろうとすると、バチッ!と大きな音を立て阻まれる。
「え!?」
「チッ」
舌打ちをするミシャエル様はギッ!と紋様を睨む。
「おい、晴海」
「その名前で呼ばないで、キャルの方がいいわ」
「ならキャル、お前は何の神に愛されていた」
「えーと、確か愛の女神だった気が」
「..........副隊長様?」
キャルが愛の女神と言った瞬間、ミシャエル様から冷たい空気が流れ出す。
ミシャエル様を中心に薄い霜が床をおおっていく。
「ふ、副隊長様!冷気が」
そうトレヴァーが言うと、大きくため息をつく。すると冷たい空気も収まる。
「怒らせたら氷漬けにされるって、ホントだったのね」
「何もしなければしないさ」
レナリア嬢、それを下に落としてもらえるか?というミシャエル様に従って床に紋様を転がす。
「少し離れた方がいいかも」
トレヴァーの言葉に、キャルと一緒に首をかしげながらも、お互いの腕に抱きつきなん歩か後ろに下がる。
それを確認したミシャエル様は、もう一度舌打ちをすると、ゲジっ!と紋様を足踏みにする。
えぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?
それって神様の物じゃないんですの!?いいんですのそんなことして!?神騎士は特別ですけど!?怒られませんの!?!?
トレヴァーを見ると、どこか遠い所に思いを馳せているように明日の方向を向き、キャルもあぁ、そういえば、と言いながら何だか納得した上で明日の方向を向いている。
せ、説明を!説明してくれる人を急募しますわ!!私だけ意味がわかってないなんて辛いですわ!プリーーズ!!!説明屋さーーーん!!!
そんなことを心の中でいると、ミシャエル様は更にもう一度強く踏みつける。
「てめぇ!こら!!!ミシェル!!出てこい!!こんなこと聞いてねぇぞボケぇぇぇえ!!」
足ともに向かって叫ぶミシャエル様。
ミシャエルにミシェル、何だかとても似ていますわね。てか、そっくりですわ、てか、ミシェル様って愛の女神の名前では!?!?
また大きな驚きが頭の中で響く。
愛の女神様の名前をそんなに雑に呼ぶんですの!?しかも呼びかけているものを踏んでいますわ!?大丈夫ですの!?!?
すると、名前に反応するかのように、バチン!!と大きな音がして、周りに電撃がバリバリとなりながら紋様を囲むように出てくる。
え、え?なんですのこれ?
咄嗟にキャルを庇うように、自分の胸元あたりにある頭を抱き込む。すると、私の周りにも誰かが抱きつく。トレヴァーが守ってくれているのだ。
その行動にきゅん!としながら大人しく守られていると、より一層大きな電撃の音がひびき、紋様から明るい光が一直線に上に向かって伸びる。
幻想的なそれは、7色に光り、月の光を浴びて、周りは光粉が降り注いでいる。
そして、何より、その光の中に映像のように浮かび上がる一人の女性の姿。
薄いベールを体にまきつけ、その妖艶さを隠すことなく美しく魅了させ、なんとも美しい女性。
どことなくミシャエル様に顔が似ている気がする。
「あら、私の愛し子の2人ね。」
ふふっ、と笑われながらドキッ!と心臓が跳ねる。
同性の笑みでこんなにドキドキするなんて。
「愛の女神、ミシェル・ローザ」
そう呟いたキャルに、女神様が手を伸ばす。
が、それが届く前にミシャエル様が紋様を蹴り飛ばし、女神がゴロゴロと転がっていく。
「きゃぁぁあ!!!」
叫び声を上げながら転がっていく女神。
「感覚あるんだ。」と外れたことを言うキャルに、苦笑をしたまま蹴り飛ばした本人を眺める。
「ちょっと!!神様になんて事するのよ!!それ私の依代よ!!今の現世での依代!よ・り・し・ろ!!!扱いを考えなさい!」
「ごめんねー、」
「いたいたいたいたい!!!!」
ごめんねー、と謝る割には、足でグリグリと紋様を踏みつけるミシャエル様。
えーと、これは?
「ナシオンディユでも有名な犬猿の仲のおふたりだ。」
「ちなみに、ミシャエルとミシェル様は人間だった時代は双子の姉妹だったらしいですわ」
トレヴァーの言葉に付け加えるキャルに、どっからそんな情報が、と驚きながらも見守る。
ギャンギャンと言い合っている2人をハラハラと見守る。
「そんなに心配しなくても大丈夫」
「え、でも相手は神様で」
トレヴァーの言葉を信用出来ない訳では無いけど、いくら神騎士のNo.2と言っても神様相手では分が悪いだろう。
「まぁ、副隊長様は、色々規格外だから」
そうまとめるトレヴァーに、そんなもんなのだろうか?と首を傾げるが、ミシャエル様のが無事ならいい、と大人しく見守る。
十数分後ようやく終結したのか、紋様をそのまま放置してミシャエル様がこちらに来る。
それによって女神様がさらに騒いではいるが完全無視だ。
「ミシェルと話し合って」
話し合って?言い合いしているようにしか見えませんでしたわ?
「こっちで勝手に決めさせてもらったが出発は明日。
明日の夜六時、黄昏時に迎えに来る。
トレヴァーはこっちにいてくれて構わない。キャルは侍女はいらないだろうがレナリア嬢はいるだろう」
私が侍女がいらないって決めつけないでよって文句を言いながらもキャルは大人しくしている。
「侍女は1人まで、まぁ、こっちにもいるから連れてこないなら連れてこなくて構わない。この国の王への伝達はトレヴァー、お前に任せた。」
顔が引き攣りながらも返事を返すトレヴァー。まぁ、明日でお宅の公爵令嬢と男爵令嬢を連れていきます。じゃーねーっていきなり過ぎて言い難いわよね。助けれないけど頑張って、と心の中で応援する。
「内容は以上だ。
質問は?」
「はい!」
元気に手を上げるキャルに、ミシャエルが指を指す。
「お迎えはナベルがいい!」
「ナベル、というとナルベルトの事で間違いないか?」
「そう!そのナベル!」
「予定を聞いてみておこう。」
やったー!とはしゃぐキャルを可愛いなぁっと思いながら見守る。
「まぁ、荷物はこっちで用意しとくし、ドレスとかはミシェルが喜んで今から選ぶだろうからそんなに数はいらない。
持ってくるものは特にない。この世界で手に入るもので手に入らない物はひと握りだし」
そういうミシャエル様に、確かに、と頷く。
ナシオンディユには人種、性別全てを問わず様々な人々が集まる。
しかし、その集まれる人間は死後と決まっており、死後にナシオンディユを望むなら厳正された人間だけがナシオンディユの城下町で暮らせる。
その厳正された人は何かで功績を上げたり、人に知られなかったが素晴らしいことをした人ばかりらしい。だから、素晴らしいものを作れればナシオンディユに行けるので、ある意味職人などの聖地と呼ばれている。
そしてキャルのような愛し子は巫女と呼ばれ、王城に登城でき、そこで暮らすことが出来る。
私たち一般人が知ってるのはここまで。まだまだルールとか多岐に渡るだろうがこれ以上はこっちの世界じゃ流れてない。
あら、わたくし、情報がほとんどありませんけど、生きていけるかしら?
なんか、めっちゃギャグに進んでる。




