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詐欺ですわ

それを合図として天獣が次々と広間に降り立ってゆく。

終わった。

私たちの国は、永久に指を刺されて笑われる国となった。神に逆らった国だと。


「あぁ、トレヴァー、貴様も剣を取る許可を与えよう。さぁ、お前が未来を見いだした者の勇気を、知恵を、英断を見せておくれ!!!」


そう副隊長様が叫んだ瞬間降り立った天獣が尾を一振する。それだけで晩餐が並んだテーブルは、ほとんどが飛ばされ壁に当たる。

貴族たちの悲鳴が響き渡り、会場全体が大混乱に陥る。フランシス皇太子なんてカタカタと足が震えて立っているのもやったのようだ。


王やその側近兵士、また騎士団等が魔法で飛び散る残骸等を避けてはいるが、天獣の興味が人間に向いた瞬間終わりだ。


「くっ、」


トレヴァーが軽く息を漏らすと立ち上がり腰に提げた剣を抜く。

その様子に副隊長様の目がキラリと楽しそうにひかる。その瞬間理解する。こんな、たかがこの一国滅ぶだけ。神騎士や神にとってはどうでもいいことなのだと。

そしてたかが私たち人間の数百人。死ぬのも変わらないと言うことが。


トレヴァーが剣を一振する。すると壁に亀裂が走り、その隙間に人が数人程通れる穴が出来る。

トレヴァーなら、神騎士なら、あんなにも我らが魔法師団が打ち込んでも壊れなかった壁がいとも容易く壊されてしまうのだと思い知る。


「邪魔だ!!!」


トレヴァーのその一声に、神騎士の怖さを思い出した人類が肩を上げる。トレヴァーにも向けられている恐怖の目線。

ガシャン!と音を立てて1人の男性が穴から外へ抜け出す。その事によって緊張の糸が切れたのか、次々と貴族たちが部屋から出ていく。

副隊長様は何も言わない。むしろ楽しそうに目を細める。


「レナ、」

「っ!はい!」


トレヴァーがゆっくりと立ち上がる。その瞳はランランと輝き副隊長様に向いている。


「王子とその女を連れて逃げろ。」

「!!」

「副隊長様相手だと殆ど相手にならないだろうが、天獣ならいくらか稼げる。

その間に逃げろ。」

「っ!嫌よ!」

「頼むレナ。俺が愛したこの国を、俺が産まれたこの国を、救ってくれ。」


トレヴァーが、産まれた国。そんなこと、初めて聞いた。

私は貴方の事を何も知らない。好きな物も、日常何してるかも、神騎士になった理由も、どの年代の人間なのかも。

だからあなたの事を知りたい。だから、あなたから離れたくない。


喉まででかかった言葉を止める。

そんな事を言ったら、トレヴァーがどんなに困るかが想像できるから。きっと、トレヴァーは笑いながら、苦笑しながら背中を預けてくれる。

でも、きっと私を守りながら戦う。


そんなの、私が足を引っ張るなんて、

そんなことは嫌だ。


「分かった、」


そう答えるとトレヴァーの腰から短剣を引き抜き、重たい、無駄にヒラヒラしたドレスを破る。

素足を晒し、フリルを取り去り、薄い1枚のドレスを縦にも切れ目を入れて走りやすくする。


「頼んだ」

「うん!」


私がトレヴァーの横を離れる。

その瞬間トレヴァーから殺気が漲り、天獣達はトレヴァーに目を向ける。

トレヴァーが天獣を引き付けてる間に逃げ出さなきゃ!


初めはより近くにいた男爵令嬢の、腰に巻き付けられたドレスのリボンを引っ張る。


「きゃっ!」


グイッと引っ張ると思ったより重く、ぐっ、と喉がなる。

あーもう!なんでこんな重いドレス着てるのよ!

舌打ちしたい気持ちを抑えながらフランシス皇太子の元へ行く。


「王子!動けますか!」

「え、あ、あぁ、」


真っ青な顔になりながらこっちを見る。

ヂッ!使い物になりそうにないわね!

男爵令嬢は黒いモヤに手足を縛られ動かすことは出来ない。フランシス皇太子はガクガクと足が震えるばかりで何か出来るとは思えない。

何か、いい方法は


「レナ!!!」


トレヴァーの声に引かれて後ろを振り返ると、目の前に大きな牙。

っ!!!!


急いで身体中の魔力をフル活動させ、防御魔法を貼る。間一髪で間に合ったそれは、天獣の口を防ぎ、天獣の牙に対抗するようにバチバチと音が鳴る。

っ、咄嗟の展開だったから必要以上に魔力を込めてしまった。私、そんなに魔力高くないのに!


「あ、う、うわぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!!!」


はぁ!?!?!?

ちょ、待ちなさい!!!

フランシス皇太子が何かの糸が切れてしまったかのように、発狂しながらトレヴァーの作った出口に走る。


ふざけないでよ!!

この事態を巻き起こしたのはあんたでしょ!!なんであんたが逃げてんのよ!!!


「っ!レナ!!」

「大丈夫!!」


トレヴァーが天獣の横顔を殴りる。「ギャウン!」と鳴いた天獣は、まだ頭が回るのか首を振っている。

トレヴァーの声で焦りが消え、急いで体に魔力を回す。それだけで身体能力はだいぶ向上する。


「キャロライン・マックイ男爵令嬢。

持ち上げますわよ」


短剣でビリビリっとマックイ男爵令嬢のドレスを破り、横脇に抱き抱える。

あ、だいぶ軽くなったわ。


「マックイ男爵令嬢?」


先程からブツブツと何かを言っている。首を傾げながら聞き耳を立てる。


「なんで、断罪しようとしたら理不尽に公爵令嬢に落とし入れられそうになって、公爵令嬢にお熱なトレヴァーが来る所だった筈なのに、そこまでは良かったのに、そこまでは一応シナリオ通りだったのに、私を見てすぐに愛し子とトレヴァーが気付いて膝を着いて謝る筈だった。でも、そこでトレヴァーを怖がるふりをしたら副隊長が来て神と交渉して私をナシオンディユに連れていくはずだったのよ。そっから第2巻が始まっるはずだったのに。なんで、何のためにハーレムエンドの皇太子エンドにしたのよ。このルートに行けば唯一出て来る第2巻の予告だったのに、ナベルに会うためにこのエンドにしたのになんで、なんで、」


半分以上意味がわからない。


「う、うわぁぁ!!」


っ!

皇太子の叫び声が響く。もうすぐ出口と言うところで、皇太子はボタボタと唾液を落としている天獣に睨まれている。

一応剣を前に掲げ、天獣に向けてはいるが意味はなさそう。

っ!あの天獣は


「ヘレガ!!!」


トレヴァーが名を叫ぶ。一瞬だけこちらを見た気がしたが、意味が無いものとしてすぐに皇太子に瞳を戻す。


「副隊長様!!もうよろしいでしょう!!!この者達は十分に恐怖を味わいました!!

どうぞ御容赦を!!!」

「まだだ、」

「なぜ!」

「なぜ?その、お前の婚約者の脇に抱えられている令嬢に問うといい。

このシナリオがどのルートに繋がっているのかをな」


そう言う副隊長様にマックイ男爵令嬢が、はっ!としたように顔を上げる。

それにニヤリと笑った副隊長様が、パチン!と指を鳴らす。

すると、さっきまで暴れていた天獣達が、嘘のように大人しくなり、その場にお座りの体制をとる。毛ずくろいをしたり、寝ようとしているのか伏せになったりと、自由に、今までの姿がうそのように愛らしくなる。


え、これは、大丈夫、なの?

訳が分からずその場でマックイ男爵令嬢を抱えたまへたり込む。


「あ、ぅあぁぁ!!」


天獣が止まったことにより、逃げ出そうと手足を動かすフランシス皇太子。

私もトレヴァーも咎めることは出来ず、そのまま見送ろうかとするが、


「チッチッチッ」


舌を鳴らすような軽い音が響き、その瞬間ヘレガが前足を出し、フランシス皇太子をペちゃん!と倒す。

多分死んではないわね。


「せっかく用意した舞台なのに逃げるなんて」


そうやっておちゃらけた様子で言う副隊長様。

まるで歩くように空中から降りてきて、最後は中心にいた一番大きな天獣の鼻先に足をつける。

それに心得た、とばかりに天獣が頭を床に下ろす。その姿はまるで壁画に描かれた神の降臨。慈愛の母神であるシンリー様が、太古の昔聖女に力を授ける為に、地上に降りてきた姿と同じだ。

息を飲んだのは私だけ。

横のマックイ男爵令嬢は何か知っているのか、ブツブツと呟いている。


「副隊長様、お戯れはこれぐらいにしてナシオンディユに帰りましょう。」


ゆっくりとこちらに歩いてくる副隊長様の後ろに付き従い、トレヴァーが説得を試みる。


「トレヴァー」


その言葉だけで意味を察したトレヴァーは、目を伏せ、「出過ぎた真似をしました。」と言ってすぐに黙ってしまう。


「さて、予定通りに進んでいたものがいきなり狂ってしまう気分はどう?

佐藤 晴海(はるみ)さん。」

「っ!?」


横で床を見つめていたマックイ男爵令嬢がいきなり顔を上げたと思ったら、酷く驚いた顔をしていた。

サトウ ハルミ?何かしらそれ、新しい生き物の名前?


「あなた、転生者?」

「へー、君たちの世界では転生者って言うのか、君みたいなイレギュラーを。」

「答えになってない!」

「答えはノーだ。」


よく分からないやり取りをポンポンと交わす2人。意味がわからないし、関係なさそうな話なので大人しく横にいる。


手足を見渡すと、あんなに石が飛んだり柱が倒れたりしたのに傷がひとつもない。しかし、ドレスは自分で破いたとはいえ原型のげの字も残ってはいない。せっかくトレヴァーと踊れるからって新調したドレスだったのにズタボロだ。

すこしだけブルーな気分になりながら当たりを見渡す。

そこには豪華絢爛だった広間の姿は無くなり、月日が経ってしまい、風化したお城のような雰囲気が強い。壁に飾られた、この国一番の職人たちが作った発光灯も砕け散っているものも少なくない。


ズシズシという音が近づいてくる。

っ!

ヘレガが近づいてくるので、すぐにでも止めれるように立ち上がる準備をする。

ヘレガは私の前で立ち止まると、ジーと瞳を見つめてくるので見返す。ヘレガと初めて会った時にトレヴァーに教えて貰った。天獣は、先に視線を外したら一生格下に見られてしまうと。

先に天獣が逸らしてしまえば対等。そっから下でも上でもどっちにもなるらしい。

ヘレガとしばらく見つめあった後、フイッとヘレガが先に目をそらす。

勝った!

WINNER!と心の中でガッツポーズをするが、ヘレガが口を開いたことによって、その喜びが急速に冷える。

いや、噛む訳では無いはず、ヘレガはそんな子じゃない、大丈夫。

そう言い聞かせゆっくり口を開く。


「ヘ、」


しかし、その口は呟こうとした言葉じゃない言葉が先に出ることとなる。


おうぇ、と言うようにヘレガが口の中にあったものを吐き出す。


「へ、ヘレガァァ!?!?」


急いでヘレガに駆け寄り口の中を見る。

傷付いてない!大丈夫!

傷がない口の中を見て、ひと安心するときちんとヘレガに向き直る。


「ヘレガ!!こんなものを食べてはダメでしょう!具合が悪くなってしまったらどーするのですか!?

そこに直りなさいヘレガ!お座りよ!!後ろに下がるのもダメ!!その場でお座り!

まったく!こんな汚いものを食べて!どんなバイ菌が着いているのか分かりませんのよ!?そんなことして具合が悪くなっても私もトレヴァーも看病したくありませんわよ!?自業自得という言葉を覚えなさい!因果応報と言う言葉もですわ!

今回ばかりはしゅん、として上目遣いしても許しませんわ!!バイ菌しかついてなさそうなあんな汚らわしいものを口に入れるなんて!そんな子に育てた覚えはありません!何ですって!?言いたいことがあるならはっきりおおいなさい!不味かったから私のところに持ってきてちゃんと吐き出した?バカをおっしゃい!口に入れた時点でバイ菌は口の中にいるのですよ!!全く!これよりいいものをいくらでも用意致しますわ!だから!絶対にこんな汚らわしいものを食べないこと!いい事!?返事はハッキリ!」


ウォン!と応えたヘレガに満足に頷く。もしこの手に扇子がありましたら一発ヘレガを叩いてましたわ、優しくですけど。

しゅん、とするヘレガを撫でながら、足元にあるヘレガの口から吐き出された物を見る。

ヘレガのヨダレがベトベトに付いたそれは、この国の皇太子。フランシス・フォン・アラバスタン皇太子殿下です。

あらやだ、皇太子相手に汚らわしいとか言ってしまったわを。まぁいいでしょう。ヘレガにこんな女タラシが移ったら悔やんでも悔やみきれませんもの。


足元に転がるそれを冷たい目で見ながらヘレガを撫でると、ヘレガは私の胸元をフンスと鼻で押してくる。


「あら?どーしたのヘレガ?」


ヘレガが鼻を離すと、コロリと胸元から出てきたのは愛し子の紋様?でしたっけ?それがどこからか現れた。

どうやらヘレガは私の体内からこれが出ないように鼻で押さえつけていたようだ。しかし、出てしまったので悲しそうに私が手に取ったそれを眺める。

少しは私と離れるのが寂しいと思ってくれてるのかしら、と笑うとヘレガは悲しそうに鳴いた。この愛し子の紋様が体から出てしまったということはナシオンディユには行けないということ。ヘレガとトレヴァーとはお別れということだ。


「レナリア・フォン・サーベラス公爵令嬢」


そう声をかけられるので、後ろを振り向きドレスの端を持って頭を下げる。

声をかけてきたのは副隊長様だ。

ゆっくりと姿勢を戻し顔を上げると目が合う。


「あぁ、紋様が体から出てしまったのか」

「えぇ、副隊長様。お気を使って頂いたのに期待に添えれませんでしたわ。申し訳ございません。」


そう言ってもう一度頭を下げると副隊長様から手が差し出される。

頭を上げ、疑問符を浮かべながらも男性の手を断るという事は相手に恥をかかせることと同義である。故に、手を重ねていいものかと思案する。とは言っても副隊長様は女性のようだが。

どうしようかと迷っていると、トレヴァーと目が合う。トレヴァーが安心させるように笑って頷くので大人しくそれに手を重ねる。


すると、ふわりと自分の周りを優しい風が包み込み、まるで再生されるかのようにドレスが下から元の形になっていく。

それに驚き目を開く。

こんな素敵な魔法見たことがない。


「突然の乱入申し訳なかった。

こちらのキャロライン・マックイ男爵令嬢が運命の神が決めた行動と違う行動をしてしまってね、それの修正の為の行動だった。理解してくれると嬉しい」

「えぇ、それはもちろん」


圧倒的上位者からの謝罪に戸惑いながらもそれを受け入れる。


「私は後悔しておりませんわ」

「R-18のゲームじゃなかった時点で気づいてくれたら私も楽だったな」

「ゲームには処女が通過の条件なんて描いてありませんでしたわ。」

「健全なゲームだったんだろうな」


副隊長様とマックイ男爵令嬢の意味のわからないやり取りに首を傾げる。


「まぁ、とりあえず、サーベラス公爵令嬢からもその紋様が飛び出したんなら仕方ない、2人で1つとして登城させようと思う」

「2人で」

「ひとつぅ?」


意味がわからない、と疑問符を浮かべながら呟くマックイ男爵令嬢と一緒に、自分も首を傾げる。

てか、マックイ男爵令嬢?なんだか素?って言いますの?さっきみたいな可愛いらしい女の子感が消えてますわ。


「マックイ男爵令嬢は紋様の持ち主だろ?でも通過するための処女は持ってない。逆にサーベラス公爵令嬢は紋様に認められてはいるが、短時間しか体に収めることは出来ない、しかし処女である。

なら、お互いがお互いの短所を補うように、2人で1つになればいい。」

「合体とかいう話じゃないよね?」


やっぱり、言葉使いが違いますわ。

変わりすぎたマックイ男爵令嬢に首をかしげながらも、しっかりと話を聞く。


「あぁ、別に2人で登城に決まっている。」

「そう、ならいいわ」


マックイ男爵令嬢の返事に嬉しそうに笑った副隊長様。続いてこちらを見たので頷き返す。


「私も、トレヴァーといれるなら構いませんわ」

「なら交渉成立。

ちなみに、2人が1つになることは無いけど、登城しても2人で1つというふうに見られるから、どっちかが足を引っ張ったら自分も引っ張られるから」

「はぁ!?」

「えぇ!?」


驚きを上げる私とマックイ男爵令嬢にしてやったり顔を浮かべる副隊長様。


ブックマークするが一件着いてくれて嬉しくて嬉しくてその勢いだけで書き上げた。

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