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プロローグ

書き出し祭りで書いていたものの連載です。

 

 バタバタバタ……

 本来は廊下を走る音なんて聞こえる筈が無いのに、その音が響いています。


 どうしたというのでしょう。

 先ほど夕餉の時刻なのに突然お客さまの訪問があったからかしら?


「お、お嬢さまー、大変ですっ、奥さまがっ」


 まあ、なんていう事でしょう。部屋をノックもせずに私付きの侍女が駆け込んできましたわ。


「なあに、ノンナ。ノックぐらいなさいませ」


「ゴホッ それどころじゃありませんっ。奥さまが旦那さまに……」


 げほげほと喉を鳴らしながらノンナがしゃべります。


「母さまがどうしたというのです? 父さまに何を?」


「物を投げつけられて、お二人が喧嘩をなさってますぅ」


 はいっ?

 あの母さまが? あの父さまと?

 屋敷の中ならどこでもイチャイチャしているあの二人が?

 一体、何事ですの?


「二人はどこです? 応接の間ですか?」


 私は座っていた椅子から下りノンナに問いかけました。とりあえず二人を止めねばなりません。ところでお客さまはまだいらっしゃるのかしら?

 いつもなら走る事なんて致しませんが、今は急がねばなりません。

 ノンナが私の先を走って行きます。私も急いではいるのですが、いかんせん五歳児にはスピードがありませんのー。それに体力もありませんのー。


 はぁはぁ……

 息が……くるしいです……


 ノンナの後をぱたんぱたんと走り着いた所はやはり応接の間でしたわ。

 息を調える間もなくノンナがドアを引き開けてくれたので入ろうと、部屋に足を踏み入れた途端……


 ばふっ と ごぉぉーーーん……



 何かが顔に正面衝突……そのまま後ろに倒れました。


 きゃあー……あれ……シア……


 最後に聞こえたのは母の声だったのでしょうか。私はどうやらそのまま意識を失ったようです。




 はっ。ここは……

 どうやら自分の部屋のベッドのようです。天井の絵に見覚えがありますから。


 そうそう、自己紹介を忘れていました。

 わたくし、フール子爵が一子アレクシア・イル・フールと申します。年は五歳です。未だ下に弟妹が居りませんので嫡子ですの。

 父はフェリクス・ノルド・フール子爵と申します。輝くブロンドは短く整えられ、瞳は冷たく見えるサファイアブルーです。とても男らしくちょっと厳つい顔をなさってます。国の文官で外交を担当しておりますのよ。母はセレネといいふわふわのミルクティーベージュの髪は背中を覆い、柔らかく光る琥珀色の瞳を持っているの。背は低めで可愛らしいと評判らしいです。そんな二人の間に生まれた私は母と同じ色を持ちながら顔立ちは父そっくり。悲しくも容姿は微妙なのです。

 そして実は前世の記憶が少し残っていますのよ。ええ。ほんの少しだけ。日本で生まれ育ち、子を育み、そして死んだよう()()です。生まれてすぐに自分が転生した事だけは分かったのですが、前世の名も覚えていない半端な記憶しかなかったのです。何となくですが子育ての記憶があるような。それでも日本という国で生活していたのはしっかり覚えていました。今はダヴリル王国という所で生きていますわ。

 その時から意識はしっかりしていても身体の能力的に……赤ん坊から人生をやり直しましたわ。言葉も両親や乳母たちのそれを聞いて覚えましたの。今にして思えばずいぶん変な赤子でしたわね。まあ今でも幼児ですが。


 などなど……ぼーっとしながら考えてますと、両親の声が聞こえました。


「シアっ。大丈夫かい? どこかおかしな所はないかい?」

「シアっ、ごめんなさいね。かあさまのせいで……」


 心配そうな父と泣きそうな母の声。

 二人はベッドをのぞきこむようして私を見ていました。

 その後ろにノンナと執事のセバスが私を見ています。


「大丈夫ですわ。どこも痛くありませんし。母さまも気にしないでくださいまし」


 母はハンカチで涙を拭きながらうなづいています。

 そういえば何故二人は喧嘩などしていたのでしょうか。


「母さま、どうして父さまとケンカをなさってたの?」


「父さまに隠し子がいたのよ。ぐすぐす……君一人をずっと愛し続けるよっておっしゃってたのに。わたくし、わたくし、くやしくて」


 それまでしおしおと涙していた母がキッと父を睨みつけていいます。

 はっ? 何かの間違いでは?

 父を見ると首を横に激しくふっています。

 両手も違うと言いたげに横に何度もふっています。


「な、何が違うのよーっ。ではあの娘はなんですの。母親は貴方の実家で働いていたそうではないですか」


「知らないよっ。全く身に覚えがないっ。私は無実だ。何かの間違いだ」


「ご実家の紋が入ったハンカチーフと手紙を持っていたではないですかっ。それでも覚えが無いと?」


「知らないものは知らないよっ。私はレネ以外を抱いた事はないんだから」



 ふーん。父さまの浮気ですか。それも実家で……あれ? 娘って?


「二人とも落ち着いてくださいな。父さま、その娘さんっておいくつですの? まさか私より年上なんて事はないですよね?」


「年は聞かなかったような。でもシアより幼い気がするよ」

「そうですね。シアよりは下かしら」


 ……上ならば浮気も有り得るかと思ったのてすが。下ならば騙りかしら。


「はぁ。母さまも父さまも、落ち着いて考えてくださいまし。私たちこの国に戻ってきて一年も経っておりませんわ。どうやっていない国で子供がつくれるのです?」


 まったくもう。二人は結婚してすぐに一つ国を挟んだその向こうの国プワソンに赴任したと聞いていますわ。赴任が決まって一人きりで行くのが嫌だと結婚を早めて、私が生まれてもあちらから帰って来なかったのに。漸く帰国したのが半年前ではないですか。



「「「「あっ!」」」」


 両親どころか執事たちも慌てていたようです。まあ、何かの証拠とやらを見せられて気が動転していたのでしょう。五歳児にでもわかることですのに、まったくもう。皆さましっかりなさりませ。


「それでお客さま達はどうなさってますの? そのまま応接の間でお待ちですか?」


「「「「あっ!」」」」


 わかりました。放っておいたのですね、みんなで。

 お客さまを放ってはいけません。私も起き上がれるようなので一緒に応接間に向かいます。ただし父に抱き上げられてです。歩かせては貰えませんでした。


 応接間に戻ってみると、小さな汚れた子供だけが残されていました。

  キョロキョロと見回しましたが、大人はどなたもいらっしゃらないようです。

 どうされたのでしょう。まさかこの子だけを置いて帰ってしまったとか?


 後ろで父が何か手配をしているようですので、そちらは任せましょう。

 とりあえず私はこの子に話を聞いて見ることにしました。


 薄汚れてやせ細っています。髪もばさばさです。背は私より手のひら分より小さいみたい。

 幼いこの子が自分で騙るわけもなし。ええ、大人のせいですわよね。

 とりあえず目をみて聞いてみましょう。私は少し腰を屈めて話しかけました。


「あなたのお名前は?ちゃんと言えるかしら?」


「リルはエイプリル・フールって言うんだっておかあちゃんがいってた。おとうちゃんがむかえにきっとくるからまってようっていったの。おかあちゃんがしんじゃったからおじちゃんがおとうちゃんとこにつれてくって」


 こくんと頷くと甲高い小さな声で応えてくれました。


「そう。お母さまが亡くなられたのね。ところでリルの年はいくつか分かるかしら?」


「あのね、リルはこんどごさいになるの」


「そう。こんど五歳になるのね。何の月かわかるかしら?」


「よんのつき!」


「偉いわ。ちゃんと自分のことがいえたわね。リルのお名前はエイプリル・フール。四月になったら五歳になるのね」


 この子から聞き出せるのはこれくらいね。


 きゅるるきゅー


 あら、なんの音かしら?


 見ると目の前の子がお腹を抑えています。先ほどからきゅるきゅると小さく音がなっていたようです。では汚れを落としてご飯でも食べさせましょう。

 ノンナに命じておけば大丈夫!


「ノンナ、この子を風呂に入れて汚れを落としてちょうだい。後で何か食べるものを与えて置いて。部屋は客室でいいわ」


 父はセバスに何かを命じています。終わりそうにないですね。そうですか。



「母さま、すべき事は殿方に任せて先にご飯をいただきましょう」


 両手を握りしめて冷たくなっている母の手をとり声をかけます。

 母ははっと気づいたような顔をしたかと思うと、私を抱きしめて小さくありがとうって。


 そのまましばらく抱きしめられていましたが、私もお腹が空きました。夕食がたべたいです。


 母と美味しい夕食を済ませると自室に戻ります。

 ふとあの子が気になり客室に向かう事にしてそのドアをノックをしようとした時です。中からノンナの声が聞こえました。


「シアお嬢様が手配をしてくださったのですよ。大人しく今夜はここで眠る事。分かりましたね」


 ノックをして入りますよと声をかけました。

 ドアを開け中に入るとノンナはベッドの横でリルを寝かしつけようとしています。


 風呂で汚れを落とし、きちんとブラシをかけられたその髪はストロベリーブロンド……瞳はエメラルド……


 どこかで見たような、聞いたような……


 名前はエイプリル・フール……


 これは………まるで恋愛シミュレーションゲーム『フェイク()トゥルー(真実)か』の主人公(ヒロイン)ではないですか!





よろしくお願いいたします

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