ちょこれーと
僕の家には小さな子犬がいる。
名前はちょこれーと。
ちょこれーと色をしているから、ちょこれーと。
家族みんなはちょこと呼んでいる。
ちょこはいたずらが大好き。
パパの靴下も何枚も破いた。
僕の靴もボロボロにされた。
だけどママは言う。
「チョコがイタズラをするのは、チョコが大きくなるためよ」
よく分からない。
僕が同じことをすれば、パパとママは怒る。
でもちょこには甘い。
子犬だからとか、赤ちゃんだとか。
僕も赤ちゃんの頃はいたずらをたくさんしたって、ママが言っていた。
「ちょこ! ダメ!」
僕の幼稚園の画用紙を破いたちょことは、キョトンとした顔をした。
悪いことだと分かっていない。
僕はちょこを思いっきり叩いた。
そしたらちょこはキャンと鳴いて、ママの所へ行く。
ママが部屋に来て「チョコ、たくさんイタズラしたね」って笑うだけ。
僕が画用紙を破いたら、怒るのに。
「ママはちょこに優しくすぎる。もっと怒って!」
「陽太はもう少し大きくなったら分かるわよ」
そう言ってママは掃除機を取り出す。
チョコはいたずらを忘れて、今度はクレヨンを食べようとした。
そしたらママが「チョコ、ダメ!」って怒った。
始めてママの怒った姿を見た。
「ちょこに優しくしないの?」
「クレヨンはチョコにとって毒なの。だから毒は食べちゃダメって教えているのよ」
ママは言った。
ちょこはまだ悪いことも良いことも分からない。
だから僕が教えてあげるんだって。
ちょこにとってお兄ちゃんは僕なんだって。
「チョコに優しくするのよ」
そう言ってママは僕のおやつを作り始めた。
ちょこがいなくなった。
僕が自転車の練習をするためにドアを開けておいたら、ちょこがいなくなった。
ママは怒るよりもすぐ、けいさつに電話した。
チップがあるから、すぐに分かるんだって。
でもちょこは人気の犬だから、誰か悪い人に盗まれるかもしれない。
そう言っていた。
僕はその夜、いっぱい泣いた。
いつもならちょこが来てくれるのに、今日は一人ぽっち。
パパもちょこを探すため、近所を歩いている。
僕も行きたかったけど、じゃまになるからダメと言われた。
子供の一人歩きはダメなんだって。
ちょこ、早く帰って来て。
僕は一生懸命に神様にお願いした。
お願いです。
ちょこのお兄ちゃんになるから、ちょこを返して下さい。
ちょこが悪い人に捕まらないようにして下さい。
ちょこはその日帰って来なかった。
ちょこ、お腹すかせていないかな。
寒くないかな。
ずっと幼稚園でもちょこのことばかり。
いつも楽しい外遊びもつまらない。
ちょこ……。
ちょこは一週間帰って来なかった。
パパも諦めたのか、もう探しに行かない。
車にひかれたのかもってママが言っていた。
僕は悪い人に盗まれたのかもと思った。
家の中がすごく暗くなった。
ちょこは太陽だったんだ。
いたずらするけど、僕の大事な弟だったんだ。
僕が眠ろうとベッドに入る頃、電話が鳴った。
そしてパパが言う。
「チョコが見つかった!」って。
僕は急いでベッドから飛び起きると、パパの方へ駆け寄る。
パパは電話で「はい」とか「ありがとうございます」とか言っていた。
パパは車でちょこを迎えに行くと言う。
僕は必死にお願いして、パパとママと一緒に、ちょこを迎えに行った。
ちょこは、家から三キロも離れた家にいた。
そこにいたのは悪い人じゃなくて、優しいおばあちゃん。
チップのことを知らなくて、ずっとお世話していたらしい。
たんすの角がかじられていた。
でもおばあちゃんは、ずっとちょこの世話をしていた。
足が悪くてけいさつに中々行けなかったらしい。
僕はおばあちゃんにありがとうと言った。
するとおばあちゃんはいった。
「私も柴犬を飼っていてねぇ。寂しそうに歩いているチョコちゃんを放っておけなかったの」
ちょこは少しやせていたけど、元気いっぱい。
しっぽを振って僕の所に来た。
「ちょこ、ごめんなさい」
僕が泣き出すと、ちょこは顔を舐めてくれた。
うん、いつものちょこだ。
「謝礼は良いから、リードを買いなさい。私の犬もリードが無くて死んだから」
おばあちゃんの犬は車にひかれたらしい。
パパとママは何度も頭を下げて、僕も頭を下げた。
帰り道、ママが「新しいリードを買おうかしら」と言った。
パパも「うん」と答えた。
僕の答え?
もちろん「うん!」だ。
ちょこは今日もいたずらをする。
新しい首輪はちょこれーと色に似あう黒のリード。
あと1回病院に行ったら、散歩できるって。
僕はちょことの散歩が楽しみだ。
僕の弟の名前はちょこれーと。
まだ赤ちゃんだけど、すぐに大きくなる。
そしたら散歩して、一緒に走り回るんだ。
ちょこ、大好き!