第五十一話 会議
魔王との和平交渉の後、部屋を出て歩いていく魔王に付いて行く。
「人間の姿では目立つのじゃ。何か変装できるものはあるのじゃ?」
あー、そうだな。
古代魔法の変身を使い、魔族の姿に変化する。
この魔法は魔族に完全に変身しているので、鑑定で種族を見られない限り、人間だとは思わないだろう。
隠蔽スキルを最大まで持っているので、鑑定される心配もほとんどない。
まあ、変身しているところを見られたら簡単にわかる訳だが。
「面白い魔法を持っているのじゃな」
「割と最近習得した古代魔法だ」
まあ数週間前のことなのだがな。
たまに魔王と会話しながら歩いていき、着いたのは訓練場のような広場。
「ん?会議室的なところじゃないのか?」
「実力を確認するためじゃ。妾は鑑定のようなものを持っていないのじゃ」
なるほどな。
まあそれなら、結界を張るとか言ったんだから魔法重視のほうがよさそうだな。
「行くのじゃ!」
そう言って魔法を詠唱し始める魔王。
普通なら詠唱が長めにかかる魔法と思われるのだが、高速詠唱のスキルにより、かなり早く詠唱し終えて放つ。
「魔族の世界」
この魔法は、魔族には強化効果が、それ以外には弱体化効果が働く、と言う物。
恐らくステータスの種族準拠なので俺には弱体化が働いている。
とは言っても数倍あるステータス差が埋まりきるほどではない。
「聖なる矢」
光属性初級魔法に聖属性を乗せた物。
聖属性は魔族に対してダメージが上がるらしいので、今回使ってみた。
魔力を多めに込めているので初級魔法が元ながら対魔族の威力は十分。
ちなみに初見殺しの追尾が付いていて、避けても戻ってくる、のだが、しっかり防御によってかき消された。
「破壊の闇」
続いて魔王が撃ってきたのは闇属性上級魔法。
触れたものを片っ端から破壊する闇の弾を生成して操ることができる。
強力だが、それよりも魔力の多い魔法をぶつければ消えるらしい。
と言うわけで適当にな魔法を撃って消し、さらに魔法を放つ。
「絶対零度」
相手は凍る。
「炎獄」
と思ったのだが火魔法で相殺された。
そろそろ強い魔法撃つか。
「神の隕石」
光属性と土属性の複合魔法で、対象に神々しい隕石を落とす。
ちなみに天井はすり抜ける上、周りの建造物は破壊しない設定にした。
魔力をかなり込めているので、魔王とて無事では済まないだろう。
ここよりも直径が大きいので、確実に当たる。
そして着弾した隕石は魔王に大ダメージを与え、消滅した。
ちなみに魔族たちには気づかれないようにしている。
「なんなんじゃその魔力は!妾の数倍と言うのは本当のようじゃな...和平を成立させないと魔族が滅びそうなのじゃ...」
さすがに敵対しても滅ぼしはしないだろ。
まあ最後の最後まで抵抗されたらどうかは分からないが。
「まあ、これだけの魔力があれば結界の件は信じてくれるよな?」
「もちろんなのじゃ」
よし、とりあえず問題なさそうだな。
平和に一歩近づいた。
「あ、言い忘れていたのじゃが、野生の魔物は止まらないということは理解してほしいのじゃ」
それは問題ないな。
むしろそこが止まったら冒険者のほとんどが転職を余儀なくされる。
「大丈夫だ。レベル上げには役立ってるしな」
「なら良いのじゃ。では、配下を集めて会議をするのじゃ。合図をしたら人に戻って入ってきてほしいのじゃ」
そう言って歩いて行った。
俺も返事をして付いて行く。
数分後。
魔族の幹部たちが魔王城の会議室に集まった。
俺は会議室外で気配を消した状態で待機している。
「魔王様、緊急会議とのことですが、どのような議題で?」
執事服をまとった白髪魔族が魔王に問う。
「戦争をやめたいという人間がこの城に来たのじゃ」
魔王のその発言を聞き、幹部たちからざわめきが起こる。
まあ唐突に言われたわけだからそうなるよな。
「この城に?そんな気配はなかったみたいだけど」
露出の多い格好をした女魔族が発言する。
隠蔽や結界のおかげで気づかれてないようだ。
「それでそいつがどうかしたのか?」
筋肉ムキムキの大男魔族が質問する。
「和平を申し出てきたのじゃ」
「となりますと、人間側からの使者、と言うことですか?」
最初の白髪魔族がそう予想する...がそれは違う。
「それがただ戦争を止めたいだけの人間だったのじゃ。人間を攻めない代わりに人間側も魔族を攻めないように説得、それが終わるまではこの大陸の周囲に結界を張る、とのことじゃ。妾達の問題であった人材不足と其方らの仕事、料理もすべて解決策がある、とも言っておったのじゃ」
解決策、の所で魔族たちから驚きのような声が上がる。
まあ今まで困ってきたことを一気に解決できるとなったらそりゃ驚くだろう。
「魔王様、大陸の周囲に結界など我々でも不可能でしょう。人間にできるとは到底思えないのですが」
研究者っぽい感じの魔族が声を上げる。
さっき魔王にも言われた点だ。
やはり普通に考えてかなり無理がある感じなようだ。
「その件は問題ないのじゃ。あの人間は妾よりも数倍強い。魔力をすべて使い結界を張ったとすれば、妾の全力でも壊せるか難しいと思うのじゃ」
ちょっと持ってないか?
さすがにそれは無いと思うんだが。
まあ全力じゃなくてさっき使ってた程度の物ならギリギリ防げると思うが。
「では入ってきて良いのじゃ」
魔王にそう言われたので、室内に転移して隠蔽を解いた。




