06
「てやーーっ!!」
「大振りすぎる。余計な力が入ってる」
威勢のいいかわいい声と、それを流すような冷静な声。
なんとなく察しただろう。
エリオット、本気で聖騎士団目指し始めました。
「週一で良ければ僕が面倒見ますよ」
「リュカさん神様ですか?」
「え?」
定期報告のため──リュカは週一で我が家に来ていた。
私とリュカが仲良いことを女王とジュリオは知っているので、多分わざとこの仕事をさせているんだと思う。
まぁ、私もリュカも、父も楽しいので文句はない。母もかなり好意的である。ちなみにエリオットはぶすくれている。
リュカが来ると、エリオットは稽古だーと言って、庭でトレーニングをしているそうだ。見ようとすると「ペルラは見るな!!」とめちゃくちゃ怒られるのでもう行かないとこにした。
てゆーかいつの間に呼び捨てにしたんだあの子…!!お姉ちゃん呼び可愛かったのに!!!!
とまあ、やる気になったのはいいんだけどね、聖騎士団になるためって何したらいいのかだーーーれもわからない状態なんですよ。
条件があるのはわかってるけど、浄化能力ってどうやればわかるの…?
あまりわがままの言わないエリオットの強い望み、なるべくなら叶えたいじゃない?
とは思うものの…。
頭を抱えていた私たちに救いの手を差し伸べたのは、あまりにもその役にぴったりの人だった。
「ってことで、師匠のリュカさんです」
「なんでこいつなの…」
「リュカさんは聖騎士団の中でも特に優秀で、本来なら10年掛けてもなれない隊長に入団後6年で就任、更には最年少四聖剣候補として団長から期待されている方なのよ」
「おや、よくご存知ですね」
そりゃプロフィール&世界観ページ読み込みましたからね!!
ASKAはその世界観に惚れ込んで買いましたから。エリオット沼に突き落とされましたけれども。
「そうだ、リュカさん。私も戦えるようになりたいんです」
「…女王を護るのが聖騎士団、四聖剣の役目です。貴女は覚えなくても良いのでは」
「いえ、そういう訳にはいきません」
あの日、魔物が出た時、溢れ出る力でなんとか浄化した。
けれど、本来なら弱らせてからでないと相殺されてしまう。
その時、聖騎士団の到着は遅かった。
「あの時は…」
「謝らなくていいです。でも、今後もあるかもしれない」
アスカの1番嫌いなところは護られる前提のコマンドだ。
なら私は自分も戦えるようになりたい。
もし聖騎士団がいなくても、何とかできるように。
護られるだけでない、私だって護りたい。
「───わかりました」
ふぅ、とため息をつくと同時に懐から白銀に輝く短銃を取り出した。
「僕が威嚇用で使うものです。なので威力がどれ程のものかはわかりません」
聖騎士団謹製で、力を弾にして撃ち込む。
女王の力であれば、実用化出来るのではないか。そう判断したらしい。
「これの扱いはダリウスが1番上手い…ダリウス」
「かしこまりました」
おお、三つ星。班長さんですな。
プラチナブロンドとアメジストのような深い紫の瞳が印象的だ。
「今日は弾を込めるまでにしておけ。来週から場所を変えよう」
「場所を…?どこにするんですか」
「僕達の屯所です。あそこなら射撃場もあるし、開けているから訓練にはもってこいなんです」
「あぁ、能力測定も可能ですしね。エリオットくんのためにもいいと思います」
「能力測定…?」
「浄化能力を測る事ができるんですよ」
ど、どうやるんだ…めちゃくちゃ気になる…。
まさか、魔物と対決させるわけでは、ない、よね…?
「僕は引き受けたからには、中途半端にはやらない。…生半可な気持ちで聖騎士団に入ろうと言うなら今すぐ辞めろ」
「…辞めない、決めたもん。絶対なるって」
「…そうか。でも、浄化能力がないと話にならんぞ」
「ある!絶対あるもん!聖騎士団になるんだー!!!」
「威勢だけはいっちょ前だな」
その日はやっておいた方がいいトレーニングや練習を伝授していったらしい。
私は弾の込め方を習っていた。
力を具現化させるのって難しいのね。
力をコントロールするのにもいいって言ってたから、多分前々から考えてたと思うな。
翌週より、リュカの迎えで聖騎士団の屯所で特訓を続けた。
エリオットの浄化能力は並ではなかったらしく、過去類を見ないくらい高い数値だったと聞いた。
最初は突っかかるだけだったリュカに対しても真面目になり、その姿勢を気に入った他の団員たちとも仲良くなっていった。
そうして特訓を続けていると体が少しずつ大きくなっていき、頭1つ分下だったエリオットが、いつの間にか逆になっていて、体つきもがっしりしている。
それに────私の好きなエリオット、そのままの姿になりつつあったのだ。
やっぱり、彼がエリオット。数年越しに当たった勘に、ほんのちょっとだけど嬉しく思った。
リュカの指導は、テスト生としての1年間分はもちろん、その後にも必要になる知識や技術をごんごん注ぎ込んだ。
他の団員たちと手合わせしてる姿も見かけるが、劣勢になってるとこなんて見たことない。それくらい、強くなっていた。
そのためエリオットは、特例中の特例として、13歳でテスト生を吹っ飛ばして入団と相成った。
リュカはゲーム通り、24となってしばらくすると四聖剣へと昇格した。それからは聖殿にずっといるからか会うことは叶わなかったが、時折手紙が送られてきた。
数回に1度女王からの手紙も入ってたりした。
空いた隊長枠には、私に銃を教えてくれていたダリウスさんがなった。納得。
リュカが四聖剣になってからはダリウスさんが私たち担当だ。今では師匠と呼び親しんでいる。
私はと言うと…
「ですから、お稽古はしませんっ!」
「何故なんだペルラ。立派な女王になるために必要な事だろう?」
「いーえ、ここのリストにあることはほとんど関係ありませんわ」
乗馬、水泳、フェンシング、ピアノ、社交ダンス、語学、刺繍etc…
フェンシングと語学、社交ダンスは習っても良いかなと思うけど他は…うん、必要ないかな。
「立派な立派な言いますけど…お父様、今の私では立派ではないと言うのですか?今までのお父様、お母様の教育が間違っていたと?」
「ペルラ…?」
「私の自慢のお父様、お母様を馬鹿にするのはやめてくださいっ!!」
バンッと思い切り机を叩く。
その音にびっくりして父は目を大きく見開き、母とエリオットが書斎へと集まった。
「女王のことは私が1番よくわかってます!周りの戯言など気にせず、私と、私を育てたお父様とお母様を信じてください!!」
「ペルラ…っ!悪かった、私が悪かった…!!」
…これで、目標のひとつは達成したかな?
あと、せっかく習うなら美味しい紅茶の淹れ方とお茶菓子の作り方がいいな♡と言ったらすぐに手配してくれた。
初日に女王にご馳走するんだ…!
とまあ、こんな感じで、なんとか言いなりになることは避けることが出来ました。
あーよかった!
そして、15歳になった日。
聖殿専用の白銀の馬車が、迎えに来た。