04
誤字報告ありがとうございます!気付かなかった…。
「…エリオット」
「やだ」
離してくれません…。
女王が私に会いたいと聞いた翌朝、聖殿から正式に迎えが来た。
ただ、聖殿は女王と護衛である五つ星以上の聖騎士団でないと入れない決まりがある。
私は女王候補というちょっと特殊だが、いずれ聖殿に住まう可能性がある。多分特例で許されるだろう。
しかし、エリオットはどうだろう。
将来聖騎士団に入るとはいえ、今はただの子供だ。…いや、入団してもその時は新人の一つ星。聖殿の近くまでは来れても中までは入れない。
今まで散々連れ回したんだ。今回もそうだろう、とエリオットに思わせたのは他でもない私だ。…どうしよう。
腰に巻きついた手はめいっぱいの力を込めて離さない。私の力じゃビクともしない。
「…エリオット?」
びくり、と肩が震える。
意識をちょっと集中させると、腕もかたかたと震えていた。
「おいてか、ないで」
涙声だった。
私、もしかして知らない間に地雷踏み抜いたかしら。
エリオットの過去はよく知らない。過去は過去、今は今。エリオットが話したがらなければそれでいいと思っていたから。
でも、あんな孤児院にいたくらいだもの。…なにか、心の傷になることがあってもおかしくない。
「おいてかないよ」
弾かれたように上げた顔には、涙が溜まっていた。
「聖殿には女王様と、決められた人しか入れない。私だって例外中の例外よ」
「だって、お姉ちゃん、そのまま」
「ならないわよ。今日はお話だけ。すぐ帰ってくるわ」
エリオットは私がそのまま帰ってこないのではと思っていたみたい。
女王となるのは、力が完全に目覚め、安定する15歳と定められてるというのに。
「大丈夫、帰ってくるわ」
ゆっくり頭を撫でると、エリオットは安心したのかゆるゆるとその力を緩めた。
大丈夫よ、エリオット。貴方のこと、見捨てたりなんかしないわ。
「では、行ってまいります」
白銀に覆われた聖殿は、陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。
つ、ついに女王様に会うのか…!?
女王が好きというピンクローズが咲き乱れる庭園を抜け、私の背の5倍はあるだろう扉の前で馬車が止まった。
「ここから先は我々は同行が叶いません。扉の向こうには四聖剣の皆様がいらっしゃるはずです。そちらに着いて女王陛下の元へ向かってください」
「はい、ありがとうございます。リュカ様」
「…リュカでいいと申したのに」
「さすがに年上の方を呼び捨てにできませんわ。せめてリュカさんと呼ばせてください」
「…それもそうですね、ペルラ」
ここまでの案内はリュカだった。
馬車の中で女王について色々な話を聞けた。というより、リュカは宝石の類が(観賞用として)好きらしく、私の真珠がすごく気になってたらしい。そこからめちゃくちゃ盛り上がってしまい、ものすごく…という訳では無いけど、仲良くなりました。
だからゲームでも、なんか気の置けない雰囲気が出てたんだね…。
リュカを攻略するとき、最初ペルラペルラ言ってたからどうしようかと思ってたもん。
……今気付いたんだけど、もしかしてリュカって、ペルラの為に四聖剣になった説、あったりする…!?
え、ちょっと待って、それ本当だったら超可愛いんですけど!!あーなんで設定資料集エリオットのとこだけしか読んでないの私!!気になるじゃない!!まぁエリオットへの愛は揺るがないけどね!!
名残惜しい気持ちでリュカと別れ、扉の前に立つ。すると、わかっていたのか、ゆっくりと人一人分が通れるくらい開いた。
そして1歩を踏み出し、聖殿の中へと歩んでいった。
「嬢ちゃんがペルラか?」
ゆるりとした黒髪、適度に伸ばされた髭、一目で高級とわかる輝く煙管。
軽い口調で、ひょうひょうと周りを翻弄するような態度は風を司る四聖剣、フェリオだ。
…本当にゲームと姿が変わらないのね。
「ええ、お初にお目にかかります、フェリオ様」
「あー、硬っ苦しいのは嫌いなんだ。気軽に呼んでくれ。口調も崩せ」
「さすがに年上の方にそれは難しいですわ。フェリオさん、で妥協してくださる?」
「まぁ、…んー、いっか」
乱暴に頭を掻き、こっちだ、と私を促す。
歩を進めるたび、香しいローズの香りが強くなってくる。
一際光が強い場所に出ると、目の前には
白銀のラメが散りばめられ、輝く白いドレス。
ピンクローズのコサージュが誇らしく咲き誇る緋色のマント。
手入れの行き届いた艶やかなブロンドには、アクセントとしてパールが散りばめられている。
そして、女の子なら憧れたことがあるだろう、黄金に輝くティアラ。
薄いベールをしているのでお顔を見ることは叶わなかったが、この人が、女王なのだと確信した。
「貴女が、ペルラ?」
凛とした、強くも優しい声。
一瞬心を奪われたが、すぐに戻り、頭を下げた。
「お初にお目にかかります、女王陛下。ジュリオ様」
じっ、と女王の傍らに控えていた聖騎士団団長、ジュリオにも挨拶をした。
薄紫のサラサラヘアーに、髪より濃い紫の切れ長の瞳、団長のみが着用を許される六つ星の制服。腰には彼の武器であろう二丁拳銃がある。
…ジュリオもゲームと姿がかわらん…。本当に外見上の歳はとらないのか…。
女王がジュリオのエスコートで玉座からこちらへと降りてくる。
え、いいの?本来ならこっちから…いやでも玉座まで行くのは…とわたわたしてたら、そこでいいよ、とフェリオが笑った。
勘弁してよ、こちとら中身はあれでもまだ8歳なんだぞ。と、涙目で睨んだらますます笑われた。解せぬ。
「ペルラ、よく顔を見せて」
ひんやりと冷たい手が、私の頬に触れる。
白い指先は、陶器のようだった。
「貴女、力を暴走させずに魔物を浄化したそうね」
「は、はい。…ただ、エリオットがいなければわかりませんでした」
「エリオット?」
「私の…うーん、なんて言えば…弟分?ですかね。孤児院から引き取った子なんです」
「その、エリオットがどうしたんだ?」
「私、父の職場を荒らされて、頭にきてたんです。父の作る真珠が大好きで、この仕事を誇りに思っている父も大好きだったから。それが、壊されしまって」
「それで、力が暴走しかけたのね…」
「はい。けど、その時エリオットが私の手を握ってくれたんです」
温かく、優しい手。
ゆっくりと落ち着きを取り戻すのが、自分でもわかった。そして、どうすれば浄化出来るかも。
「陛下…」
「貴女はもう見つけたのね」
「へ?」
なんでもないわ、と笑ったが…気になる。なんだったんだろう。