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02


「彼を引き取るわ」


その小さくも温かい手は、僕をこの地獄から救いあげてくれた。




しんしんと雪が降り積もる頃。

毎年恒例の孤児院への巡回を行っていた。


ペルラ──私の母は元々孤児で、父がたまたま寄った孤児院にいた母を気に入り、召し抱えたことをきっかけに結ばれた。

孤児がどれだけ過酷か知っている両親は、複数の孤児院にかなりの額の寄付をしていた。

本当なら足長おじさん的な?匿名で寄付をしていたのだが、子供たちから直接お礼が言いたいとの申し出が多数あり、こうして年に一度回ることにしたのだ。


私も5歳からこの巡回に加わっており、それ以外でも顔を出すようにしている。

年上の人はお兄ちゃんやお姉ちゃんみたく可愛がってくれるし、下の子たちは弟妹みたくかわいいし。同い年の子は友だちみたく遠慮なく接することが出来る。

やっぱり令嬢となると、周りも同じようなのばかりで息が詰まってしまうのだ。



「さぁ、これでお終いだ。ちょっと遅くなってしまったね」



「お父様が引き取り手の決まったセシル姉を離さなかったからでしょう?」



「仕方ないだろ、セシルは本当に小さい頃から面倒見てたんだから!!」



まぁ、私もセシル姉にはずっと可愛がってもらってた。

絵本を読んでもらうこともあったし、学校に通うようになってからは一緒に宿題もやっていた。

だから、そこに行けば会える存在じゃなくなるのは、ちょっと寂しい…かな。


はぁ、と冷たくなった手に息を吹きかける。

私たちも早く帰って暖まりたいわ。



「ん?こんな暗いのに薪割りの音がするぞ」



「明かり、点いていません。こんな視界じゃ怪我しちゃう」



持っていたランタンを音のする方へ向けると、そこには



「───え?」



この寒空の中、たった1枚の薄手の布で覆われた、皮と骨しかないように見える体で薪を割る子供たちの姿があった。








「ここも孤児院だったのか…いつの間に」



子供たちを急いで室内に入れ、暖炉に火をつける。

…てか、薪は十分すぎるほどある。最悪でも3日は持つ量だ。



「毛布もないなんて…これではすぐ冷えてしまいます」



「今調達してもらってるよ。…君、ご飯は食べたかい?」



「…?」



話しかけられた子は、きょとん、と父を見上げていた。

言葉がわからないのか、それとも…。



「なに勝手をしている」



ばん、と大きな音をたてて扉が開かれる。

デb…あ、いや、なんて恰幅のいい…おっさんなんだ…。

そいつはジャラジャラと金と宝石の装飾をしている。…全部本物だ。なんて悪趣味な。



「君はここの管理者か」



「それがどうした、部外者よ」



「なぜ子供たちをこの寒空の下、布1枚で薪割りをやらせていたんだ」



「それが彼らの仕事だからだ。働かざる者食うべからず、と言うだろう?」



「の、割には与えていないようですが」



なにかしら作れないかとキッチンを漁っていたが、少量の砂糖と塩、食パン1斤と、どう考えても食事をしている様子が見えない。

お鍋などの調理器具も見当たらず、ガスも水道も泊まっている。

孤児院は慈善活動のため、余程自分の稼ぎがあるか、寄付がないとやっていけない…が、身なりを見れば、金がないわけではない。



「体の垢も酷い。シャワーはどこです」



「そんなの必要か?死にはしない」



「死にますよ」



あーあー、お父様ったら本気で怒って。

声が冷たくて、子供たちが怖がってるじゃない。



「捨てた親も親だが、拾ったのなら責任持って育てろ。それが出来ないなら潰す」



「ほーん…やれるものならやってみろ。逆に貧乏なお前を潰すがな」



がっはっは!と汚く笑う。うわっ、唾が飛んできた。



「カリスト様、ペルラ様、お待たせしました」



「あぁ、準備出来たか」



「え、一体、何を」



父はぱんっ、とひとつ手を叩く。



「さぁ、みんな。これからおじさんのとこに行こうか。あったかい服にあったかいごはん、もちろん、お風呂にも入れるよ」



「なっ、何をする!」



「なにって…保護ですよ、保護」



あー…と頭を抱えるも、こういうのはほっとけないのはよく知ってる。

今日巡った孤児院も、今回みたく一旦保護し、改めてうちで作ったところばかりだ。



「さて…君のことは前々から噂になっててね」



「え、そうなの」



「あぁ、気になって調べてはいたんだ。…まぁ、こんな惨いことをしてるとは思ってなかったけどね」



「調べる…一体、なにを」



「君の商売だよ。多分、ここの子たちを不眠不休で働かせてそれを売ってたんだろう。定期的に死体遺棄されていたし」



「死っ…!?」



「な、何の話だ!?関係なかろう!!」



「小綺麗な子は奴隷として売り捌いたかな。女の子が圧倒的に少ないし」



「そんな…っ」



人身売買はこの世界では禁忌に近い犯罪だ。してはならないことと教えこまれてるはず。私だって分かる。



「君は禁忌に踏み入れた。豚箱で反省するがいいよ。───そんな時間があればね」



父の合図とともに、警察らしき人が何人も入ってきて、あのおっさんを捉えた。

喚いてはいるが、プロには適わず、ズルズルと引きずられていった。



「…さぁ、君たちは自由だ。これからどうする?」








「まぁ、そんなことが…」



連れてきた子たちを順番にお風呂に入れ、温かい服に着替えさせる。…サイズが合わないのは仕方ない事だ。

話を聞いた母は、自分のことと重ねてしまい、酷く心を痛めた。



「お医者様には明日診てもらおう。今日はとりあえずスープでも飲んで」



「そうね、ずっとごはんを食べていないのなら、いきなり詰め込むと逆にいけないわ」



お風呂と着替えが終わった子から順番にスープを振る舞う。

うぅ…美味しそう…。

ぐぅ、とお腹を鳴らすと、両親はくすくすと笑い、最後の子とお風呂を済ませたらごはんにしようと言った。



「さ、貴方が最後よ。行きましょう」



「…あ、」



細い体を傷付けないよう、優しく、でも汚れがちゃんと落ちるようしっかり洗う。

こうやるんだよ、こうするといいよ、と教えながら。

その子は頷いたり、首を振ったりと返事はするが、言葉にしない。…話せないのかな。


あわあわの体をお湯で洗い流し、先に髪の毛だけタオルで拭く。

すると、汚れが落ちたのか、彼本来の色を取り戻した。




…うわぁ、綺麗な栗色の髪。


よく見ると、瞳も淡いエメラルドグリーンで、ずっと見てると吸い込まれそう。


思わず手を伸ばすと、びっくりしたのかぱしん、と叩かれてしまった。

がたがたと震えているから、もしかしたらトラウマなのかもしれない。



「ごめんなさい、軽率だったわね」



もう触らない、と態度で示しゆっくりと湯船に浸かる。

おいで、と誘うと私がなにもしないとわかったのかおずおずと入ってきた。



「温かいでしょう。これが本当なら当たり前なのよ」



目を輝かせ、お湯を手でちゃぷちゃぷと弄ぶ。波が立つとちょっとびっくりしているが、初めてのことなのか、どちらかと言うと感動のが大きいようだ。



「あ、そういえば自己紹介してないわね。私はペルラよ。貴方の名前は?」



名前…?と言いたげにぽかんとする。

数秒そのままのあと、彼はゆっくりと首を振った。

…名前が、なかったのかしら。

勝手に付けるのも迷惑かもしれない。でも、名前がないと呼べない。

うーんうーん、と唸っていると、あるひとつの設定を思い出す。


そういえば、エリオットは孤児院出身だわ!

貧しい孤児院で困難がありつつも育てられ、10歳になる頃に浄化能力が認められ、聖騎士団へスカウト。

その時エリオットと名付けられ、訓練生として3年間学び、13歳の頃に正式に聖騎士団所属となったはずだ。

主人公とは1つ違いなので、ゲーム開始時は正式に入団してから1年にも満たない一つ星持ちだったと思う。


そして彼は、そのエリオットと同じ髪色、同じ瞳をしている。

───もしかして、彼がエリオット?



現時点ではあまりにも痩せすぎていてるし、声も聞けないのでわからない。

でも、もし彼がエリオットなら。





「お父様!!」



「どうしたペルラ。まだ髪が濡れているぞ?」



「お父様、私の願いを聞いてくれませんか」



困惑顔の彼の手を引き、父の前に立つ。



「彼を引き取るわ」




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