閑話:すてたもの
首だけになったあの人を抱え、涙する姿を、私は美しいと思ってしまった。
「シャプシュ、それは…っ」
ずるり、と自身から溶けだした黒い影。それを圧縮し、丸めた。…とても醜いモノ。
アーシラトの声は、少し怯えていた。
「もう、必要ないでしょう?こんな感情」
「それは、そうだけど…」
マルガリータの力で出来たこの星は、エルを愛しいと思う気持ちだけで出来ていた。
この星に力を与え、安らかに眠れる場所にするのが、私たちの仕事だ。
こんな醜い、汚い感情は、彼女のせっかくの力を霞めてしまう。
「幸いここには、他の生物はいない。彼女の力も強く感じる。放っておいても消えるわ」
「……その様ね」
少しずつ、だが確実に浄化され行く様は、3柱にも見えた。
意を決したアナトが、私と同様にずるりと黒い影を引っ張り出した。
「あーあ、本当に醜いわ」
「貴女が一番過激だったものね」
「言わないでちょうだい…」
アナトに倣い、アーシラトとアスタルトも引きずり出す。
それらを丸め、地へと落とした。
「ふふ、なんかすっきりしてるわ」
「本当に。久しぶりにいい風を持ってこれるわ」
「アナトったら、暴風ばかりだったものね。木の葉が全て攫われた時はどうしようかと」
「わ、悪かったわね!!」
あぁ、こんな和やかな気持ちになれたのはいつぶりだろう。
彼女たちと笑い合うなんて、今まで無かったから。
「では、この星に祝福を齎しましょう」
天にまで届く炎は災厄を焼き尽くし
地を支える緑は安寧を作り出す
天を翔ける風は安らぎを与え
地と共にある水は悲しみを溶かす
エル、ごめんなさい。
その星は、今まで作り出したどの星よりも美しかった。
「…そうですか」
マルガリータは、その一言だけ絞り出した。
私たちの醜い感情のせいで、何もしていない彼女に、人にはとても重い役目を背負わせてしまう。
本来なら私たちが担わなくてはならないが、エルが死んでしまった今、1つの宇宙ばかりを気にかけることが出来ない。
「本当に申し訳ないわ…」
「…いえ」
近くにいることが出来ない分、私たちの加護と、力を与えた4人の騎士たちをマルガリータに与えた。
神ほどではないとはいえ、強大な力を持つのだ。狙われる可能性は十分有り得る。守り手は多い程いい。
「マルガリータ、最後に…一つだけお願いがあるの」
「お、お願い…?」
「貴女が名付けた星──エリュシオンのことよ」
「私の炎は、力を与え続けないと災厄を燃やすことが出来なくなってしまうの」
「炎を燃やすには燃料が必要でしょ?シャプシュの炎も、同じ」
「だから、マルガリータ。もし炎が消えたら、貴女の力で再び灯して欲しいの。私はいつ、ここに来れるかわからない」
なら、常にこの宇宙を、星を護っているマルガリータにお願いしたい。
エルの力と、私たちの加護を持つ彼女なら、出来ると信じて。
「炎が絶えれば、いつどんな災が起きるかわからない」
「星を、宇宙を護るためにも──人間の貴女に頼むことではないとわかっているのだけど」
「…わかりました。頑張ります」
「マルガリータ…」
お任せ下さい、と言った彼女の顔には、笑みが浮かべられていた。
それは遠い遠い昔の話。
誰も知らない、秘密の物語。
あの感情が今どうなっているかは、誰も知らない。




