15
「人の気配がない…?」
微かな違和感は、少しずつ確信へと変わっていく。
「これで15区画目か。さすがに明日は休養に当てるべきだろ」
「そう、します…」
以前より効率よく出来たからかぶっ倒れるなんてことはなかったけど、それでも身体に貯まる瘴気は確実に動きを遅くしていた。
「っし、ならエリオット。明日は1日稽古つけてやる」
「はい、お願いします!!」
「えっ」
ど、どうしよう!休養日はエリオット以外と過ごすつもり一切ないのに!変に他の人のルート進みたくないんだけど…!
あぁでもエリオットめちゃくちゃやる気…!これは何も言えない…。
…どうしよう。
「ぺ、ペルラさん…!」
「アスカさん?今日休養日なんですか」
「はい、そうなんです。ペルラさんもですか?」
こくり、と頷く。
エリオットいないなら泉で回復しようかなと思って向かっていたところ、アスカに声を掛けられた。
…そういえば、ちゃんと交流するのは初めてだ。
「あ、あの、もし良ければ、ご一緒にお茶しませんか!?」
「えっ、私?」
「はい、本当は女王様や聖騎士団の皆様をお誘いしたかったのですが、生憎ご都合がよくないらしく…」
あ、それ好感度低い時の断りでは…。
それで私のところってのはちょっと、あれ、だけど。
彼女とは話してみたかった。
「前にペルラさんのお菓子頂いてから、私も作れるようにって練習したんです」
でも、見た目はうまくいきませんでした…。と困ったように笑う。
…うん、見た目は、あれね。語彙力があれば皆様に伝えられるのに、私の語彙力では無理だわ。語学もっと勉強すればよかった。
「茶器も、使ったことないくらい、高そうで…いつも緊張します…」
紅茶を淹れる手も緊張からか震えていて、かちゃかちゃと音が鳴る。
うぅ、手を出したいけど、せっかく用意してくれてるから出しにくい…!!
結果、かなり渋味の出てるお茶に一部炭と化したお菓子を頂いた。…うん、まぁ、食べれなくはない。いや、ごめん、無理だわ。
「うーん…どうしたらいいんだろう…」
「…独学なの?」
「えっ!ええ、そうです。教えてくれる人なんて、いませんでしたから」
「お母様やご兄弟には?」
「ごはんのお手伝いとかはしてましたが、お菓子は贅沢品なので全く」
「贅沢品?」
「…エルドラードって知ってますか」
「えっと、この宇宙で最初に生まれた黄金の惑星、よね」
エルドラードは、太陽に1番近い惑星。
他の星からは金色に輝いて見えることからその名が付いたと言われている。
…ただ、ゲームに出てきた記憶が無いのよね。
実際太陽に近いと、灼熱地獄で生物なんて住めたものじゃないだろうけど、この世界では女王の力のおかげで生活は出来るはずだ。現に1番離れているエリュシオンでも(今は瘴気まみれだとしても)生活出来るのはそのためだ。
「他の星ではそう言われてるんですね」
「違うの?」
「…確かに、女王様のお力があるから、あんな星でも生活出来ます。ギリギリのところで」
気候自体は女王のおかげで安定はしているが、日光は避けられない。
そのため、植物や水は貴重品、家畜もほとんどいない。
他の星から入ってくる食料でなんとか賄っている。…それでも1日1食あればいい方だと。
こんな状況なので学校も、読み書きを教えてくれる大人もいない。
他の星に行っても、読み書きが出来ないので邪険に扱われる。
…ん?そんな話、ゲームであったか…?それとも主人公だから語られなかっただけとか…?
「そんな故郷の星を、変えたいんです。私は、女王にならないといけないんです」
ルビー色の目に雫が溜まる。
「お願いです、試験、降りてください…っ!」