09
「だいぶ瘴気に当てられたわね」
私たちが帰ってくることに気付くと、女王はたっぷり3秒抱き締めた。
───体が、軽い。
もしかして、あの時最後に抱き締めてきたのもこのため…?
「お茶の用意をしてあるわ。今日はゆっくり休んで」
明日から本格的に始めてもらうから、って聞こえた気がする…。
女王の力が込められた紅茶は体の中から瘴気を消してくれた。
エリオットは会ったことにびっくりしつつも、エリュシオンが試験会場になるとは事前に聞いていたらしく、一言挨拶しただけですぐ仕事に戻った。
その事に寂しいとは思いつつ、まだ一つ星だから仕方ないんだけどね…。
聖殿内に用意された一室は、広めの1DKと言っても差し支えない設備だ。
ゆったりめの湯船とシャワー、ぴっかぴかのトイレ、オーブンレンジ完備のキッチン…お菓子作れる!と喜んでしまった。
寝室のベッドは天蓋付きのクイーンサイズかな?家にあるのより全然大きい。
もちろんふっかふかで、思い切りダイブしたらそのまま眠気に襲われてしまった。
「おはようございます」
寝落ちたおかげで限界までぐっすり、体力気力は回復できたと思う。
今日からは多分動き回るだろうから、手持ちで動きやすいのを選んだつもりだ。
対するアスカは──まぁ急な呼び出しだったからね、昨日と大して変わらないふりふりのワンピースだった。
「さて、今日からエリュシオンを頼むわね」
「昨日体験したからわかると思うが、2人の体は瘴気に弱い。対して多少の耐性がある四聖剣を2人ずつ連れていくこと」
あ、なるほど。
リュカに背中をさすって貰った時楽になったなと思ったけど、女王に抱き締められた時と同じ効果があったんだね。
ゲームの都合かと思ってたけど、ちゃんとした理由があったんだ。
「力との相性もあると思う。好きな奴を選んでもらって構わない」
「アスカさん、先にお選びになって」
「え!?えー…えっと…」
いきなり振られたことにより、目を白黒させ指が宙に浮いている。
うーん…。
「まだ、決まってないなら、お先にいいですか?」
「あっはい、どうぞ!!」
「ではまず…スーリヤ様」
「お、おれ!?」
スーリヤは予想してなかったのか、目を丸くして思わずといった表情で私を見た。
ちょっと面白くて笑いそうになる。…あ、リュカの肩震えてる。あれは笑ってるな。
「燭台に炎を灯すのでしょう?私、水や氷みたいな液体、個体とは相性が良いのですが、炎みたいな気体とは悪いようで…」
「あっ、そっ、そーいうことか!うん!わかった!任せて!!」
「よろしくお願いします」
「こっ、こちらこそ!」
なんで真っ赤になってるかはよく分からないけど、同行してもらえることになった。
師匠のリュカは満足気にこちらを見た。
あとは────
「あと、エリオットをお願いします」
「ん?」
「え?」
「は?」
「お?」
「そう来ましたか…」
「言うと思いましたよ」
今後どうなるかは分からないけど、どの展開でも私が死ぬことは確定してるんだ。
なら、多少のわがままでエリオットを選んでも良いよね?
「エリオットの浄化能力は優れていると聞きました。聖騎士団に入ってからはわかりませんが、戦闘も優秀だとか」
「あぁ、3ヶ月前にエリュシオンに配属になった子ですね。確かに優秀だと聞いていますよ」
「彼とは幼い頃からずっと一緒で、力の相性がいい事もリュカさんと確認しています」
「あぁ、思い出した!初めて魔物を浄化した時に聞いた名前ね。なるほどなるほど」
おお、あの少しの話だけで覚えているのね、さすが女王。ジュリオもそれで思い出したのか、納得した表情だった。
「でも、一つ星だよね」
「14歳ですが」
「は!?聖騎士団って15にテスト入団、星が貰えるの16からだろ!?俺だって15に入ったぜ!?」
「僕の一番弟子ですよ?特例に決まってるでしょう」
「それにしても、でしょ。よく女王が許したな」
「────予感がする、と」
その言葉に全員の視線が女王に集まると、ゆるりと唇が弧を描いた。
「わかったわ、許可しましょう。彼からは何故か四聖剣並の力が宿っているようだし」
「えっ!?」
なんかトンデモ爆弾放り込まれたよね?スルーしちゃダメだよね?
「でも、まだ一つ星。何かあればスーリヤの責任よ。それでもいいかしら?」
「────はい」
よくねーよ!?という叫びが聞こえた気がしたが無視だ無視。
私はエリオットを攻略するんだから!!
アスカは結局自分で決められず、教育係も兼ねてリュカとニコラスになった。フェリオが教えるとかどう考えても無理そうだもんね!
「ペルラ!」
「エリオット!」
昨日は一瞬しか会えなかったから、3ヶ月振りのエリオットを堪能する。
背はいつの間にかかなり伸びてて、ヒールを履いていないと顔を見るのに首痛めそうだわ。一体どこまで伸びるのやら…。
ぎゅうぎゅうときつく抱き締めるエリオットに、さすがに苦しいとギブする。
ごめんと力は緩められたが、手は離れなかった。…あれ?
「体が、軽い…」
拠点となる小神殿に着くまでに、少しだが瘴気に当てられた。正直、立ってるのもやっとだったのだ。
スーリヤに支えられてたから何とかなってたが…これが。
「凄い瘴気だったもんね、払えてよかった」
しっしっと手を払う仕草。…それで払った?いや、さすがに違うよね…。
「あの、もういい…?」
「「あ」」