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マスター、愛してくれますか?

直接的なBL表現はありませんが、匂わせ表現がありますご注意下さい。

ふわりふわりと塩の匂いが漂う港町。

山と海に挟まれたこの地は国家運営のおかげで、他町のよりも美しく整備が行き届いている。数年前まで毒草の焼き畑だったこの地も、村の皆で力を合わせたおかげで、自給自足も楽になった。


それにしても、灼熱の太陽は相変わらずだ。

僕は太陽の眩しさに目を細めた。

「まあ、普通の人間とは違って自分の体温を自動的に変更できるプログラムが仕込まれているから、人より暑さは感じないはずなんですけどね」

といっても、どうしたって表面温度は下げられないから、多分、今40℃を越えた。

精密な機械だから、熱さは大敵。本来の固体はそれぞれクーラーボックスや、メンテナンス室などにしまわれているはずだ。しかし、旧式型で廃棄された僕にはそんなものはない。はやく冷えた部屋に戻りたい。

だけど()()()()に指示された以上、指令通りに動き、任務を全うしなければきっと今のマスターにだって棄てられてしまうかもしれない。生かされているだけの身の僕は、マスターを選ぶ権利も拒否権もない。

まあ、旧式型の僕の維持費も莫大なものだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。

僕が今()()()()と呼んでいる人の正式固有名詞は知らない。相方の人がリオ、と呼んでいたからリオなのかもしれない。けれど僕は名前を呼ぶことを許可されていないから、マスターと呼んでいる。

マスターはトウヨウジン、らしい。この地域では珍しい黒い髪に、ダークブラウンの瞳。片方の瞳は白濁症だか翼状片とかなんとかで白く濁っている。 マスターはその目を嫌いだと言うけど、キラキラとまるで光っているように見えるから、僕はその瞳が好きだったりする。

マスターは、いつも黒い服を着ている。ちょっとくたびれたらふな格好。マスターはあまり服を買わないから、僕が買い足している。それでも、マスターはいつものように黒いくたびれた服ばかりを好んでいた。

黒髪に黒の衣服。加えて大切だと言うロザリオを手首に絡めているため、マスターが勤めている研究所には、彼を「Ryan black wings(黒羽の王(くろはのおう))」という意味を込めて所謂渾名(いわゆるあだな)でライアンと呼んでいる人達がいる。

正直、あそこの人達は好きじゃない。

何度かマスターのお手伝いに行ったことがあるけれど、古いタイプの型だからかなんなのか、僕の体をじろじろ見ていたりプログラム表を覗きたいとか言っていた。

プログラムを変更できるのもマスターが持っている鍵紋章(かぎもんしょう)だけだから、覗かせることなんて出来ないけれど。

何はともあれ、解剖させられかけたことがあるから、その一件以来怖くてむやみには近づかなかった。

実はこれから向かう先は、マスターのいるその研究所なのだ。


はじめから許可を取っていることもあり、受け付けはすんなりと通れた。研究所の中はかなり広くて、白い電光板のような壁が無機質に続いている。所々に青いバラのような紋章があり、それが扉の印らしい。赤になっているのが鍵がかかっている、とかなんとか前に来たときにマスターが言っていた。

こちらも無機質な造りのエレベーター。マスターに指定された階を押して、扉を閉めようとする。

「まってください!」

開閉ボタンに触れる直前、白衣姿の研究員に呼び止められた。呼吸を乱し、白衣の上からでも分かるくらいに胸を上下させていた。

「すみません、ありがとうございます」

「いえ、何階ですか?」

「あ、いえ、同じみたいなので大丈夫です」

そういって彼は開閉ボタンに触れた。ゆっくりと扉が閉まり、彼の荒い呼吸だけが残った。

少しだけ心配になり、顔色を伺う。

「あの、大丈夫ですか?」

彼は驚いたような表情をした。

「え、あ、大丈夫です…失礼しました、僕に話しかける人なんて珍しいので、少し驚いたんです」

「…?ここの研究員の方ではないのですか?」

「あ、えっと、そうなのですが、いろいろとありましてね」

ゆっくりと目を伏せる彼は訳有り(わけあり)らしい。綺麗な金の髪の毛が、さらりと落ちた。

「綺麗な髪ですね、こんなに見事な髪は見たことがありません」

「?そうですか?僕はあなたの赤い瞳の方が美しいと思います」

彼はへにょ、と笑った。

「白銀の髪に赤の瞳。まるで兎のようですね」

うさぎ?うさぎはこんな色をしていただろうか、そんなことを考えていると、

「White rabbit。もしかして、みたことないですか?」

こくこくと頷く。教科書や昔のマスターが教えてくれたのは野生の、茶黒のまだら兎だった。

「とても可愛らしいですよ、今から行く先にもあるので、見てみますか?」

そこで、本来の目的を思い出した。

「えっとすみません、実は、先約があって」

「そうでしたか、それは残念です…今度機会があったら、遊びに来てくださいね」

そこで、目的の階を知らせる短いベルの音がした。

「僕の名前はカインです、また今度」

扉が開くと、ぱたぱたと走っていってしまった。忙しないが優しい人だな…ふっ、と笑い、目的の場所に向かった。


「マスター、来ました」

扉の前で呼び掛ける。すると、扉にある赤い薔薇の絵が青に変わり、自動的にドアが開いた。

大量の画面に、大量のエアースクリーン(空気中に投影する画面)、薬品の匂いや機材臭、それにシガーのスモークが立ち込めている。

その中央、くるくると回る椅子に座っていた影が、ゆらりとこちらを見た。

「遅い」

「すみませんマスター」

マスターは小さく舌を打ち、ふかしていたシガーを水を入れた容器に突っ込むと、こいとばかりに首を傾げた。

マスターはへびーすもーかーというやつらしい。だけど、僕の体は埃などの小さなゴミ等を遮断し、クリーンする装置が狂ってしまっているため、僕の前ではマスターはシガーを吸えないそうだ。

「どうぞ」

所望品を手渡すと、めんどくさそうに換気のスイッチをいれた。

「ああ」

「マスター、ではこれで」

「まて」

僕の腕を掴むと、マスターは1度だけ目を合わせた。

「マスター?」

「お前、いやな臭いがする」

「臭い、ですか?」

はて、僕は機械だから、そもそも臭いはない。油を指すような古いタイプでもないし、衣服はこまめに洗濯しているつもりだ。この前マスターにつけてもらった人工体臭かな?とも思ったが、それも臭うまでには至らないはずた。

試しに服の裾を嗅いでみたが、解らなかった。

「…ここに来るまでに誰かに会ったか?」

「?ああ、はい。カインさんという方とエレベーターに同乗してましたが…」

マスターはまた舌を打った。今度は大きめなやつだった。

「マスター?」

「あいつといただけか?」

「はい。少し話して…」

「何を?」

「え?金髪が綺麗だとか、赤い瞳が兎みたいだーとか?…あ、あとWhite rabbit?を見せてくれると…」

「あ~、…めんどくせぇ…いいか、あいつには近づくな」

「え?どうしてですか?」

「いいから、近づくな。」

「…はい」

マスターの低音の声に頷きながらも、納得のいかない顔をしていたらしい。マスターは僕の顔を見るなり眉を潜めた。

もっとも、マスターの分厚い前髪で目元なんて見えないけど。

「そんな顔をしないでくださいよ、マイマスター」

「黙れ」

冷たい声、マスターはいつになっても僕に振り向くことはなかった。

マスターに使えてだいぶたった今も、扱いはあまり変わらない気がする。もっとも、最低限管理だけでもしてくれれば、僕は良いのだけれど。

前のマスターも、前の前のマスターも、人権の無い僕を乱暴に扱っていた。繊細だったはずの僕の内蔵も、そのために改良を重ねて、原型の僕とは性質すらも違う。

異常なほどまで整った顔。色素すらもないから、白い肌も光に当たると銀に見える髪も、忌まわしい赤の瞳も、内蔵メモリーや、度重なる改良の末に変化してしまった。

時おり人のように欲求がでるのも、そのせいだ。きっと回路がおかしくなってしまったんだ。

僕が思案していたのに、おかしく思ったのか、マスターが僕の腕を引っ張った。

「…!どうかいたしましたか?危ないですよ」

「…」

「マスター、僕の体は人と違って重いんです。マスターだって潰れちゃいますから…ほら、手を離してください」

「重いっつったって一般人男性の体重よりも無いだろうが…この前バッテリーも新型に変えたし、モーターも縮小しただろ…。かなり軽量したが。…それとも、俺がそんなに貧相にみえるか?」

はたと思い出す。確かに、以前とは違い体が軽い。原動力であるものを縮小し他の部品に過剰動作しないようにパーツの殆どを縮小や制御したため、その以前の感覚が抜けないのだ。

その代わりに機械独特の匂いや部品交換の間隔が狭まったのは、かなり嬉しかったのを覚えている。

「いえ、失礼しました。ですがやっぱり気にもなりますよ」

「…」

そしてまたマスターは黙ってしまった。

一瞬だけ見えたダークブラウンの瞳に白が飛んで、キラキラして見えた。

他人事のようにそれを綺麗だなと思いながらも、目の前のマスターが何を考えてるのかが分からなくて困惑した。

「マスター…?」

「体は大丈夫か?何か気になるなら、人工細胞に定着する前に外したい」

「…?いえ、特にはありませんよ」

「そうか…ならさっさと戻れ」

「はい。わかりました、それじゃあ失礼しますね、マスターも無理はせず、はやく帰って来てくださいね」

「…」

いつもの一言を添えて、さっさと帰ろうとドアを閉じようとした時だった。

「…寄り道はするなよ」

マスターがぽつりと呟いた。

シュン、と音がして扉がしまる。普段はしないやりとりが、なんだかこそばゆくて嬉しかった。


そんな事があったから油断していたのだろう。夕飯の買い物を終えて、家に向かう最中にうっかり誘拐されてしまったのだ。

目隠しをされて、凄く冷たくて狭いboxか何かに入れられてる。情報を遮断する特殊な設定があるのか、GPSが反応しないし、ここがどこだかわからない。

「はっ!、メールなら…!あれ?」

マスターに助けを求めたくてもメールもコンタクトも出来ない感じだ。

そう気づいたとき、嫌な汗が背中を伝った。

僕が捕まっておそらく4時間たった。もしかしたらとんでもない噂のある廃棄施設とかに持っていかれて、レアメタルを取られたり、コアを取られたり、チップを取られたりするのだろうか。

僕が住んでいる地域はあまり治安がよくない。

人工体を盗んだり、壊したり部品にして売ったりと度々ニュースになっていたりする。



「まさか、僕がこんなことになるなんて…」







初めて投稿するのでちょっぴり不安ですが、ここまで読んで頂きありがとうございます。

もう少し続く予定なので、よろしければお付き合い下さいね。


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