『新風』
「あの、俺達は3人でやってくつもりなんで」
「だが、最初は初心者だけだと苦労するのは目に見えているだろう?」
「王都で長年冒険者やってる俺達についてくりゃ、色々楽させてやるぞ!」
「ええっと、みなさんの勧誘は凄く嬉しいんですけど!」
俺たちの周りにいる冒険者達の悪意の無い顔に強く言えずにぐぅ、と唸る。 だがまあこの勢いだと強く言っても聞いてくれそうに無いが。
ハッと悪寒がして隣を見るとスカイの表情がストンと落ち、真顔になっていた。
それはまるで、どいつからヤってやろうかという目に見えて。
ヤバいそろそろスカイがキレる!
昔子供の頃キレさせてしまった時の事を思い出して少し涙目になる。あれは怖かった。
いつもの感じでからかった時はまだしも、本気で怒るとスカイは微笑みながらどこまでも追い詰めてくるタイプなのだ。
あの時以来何度目の笑ってない微笑みに泣かされたことか。 きっと周りにいる冒険者達の顔も既に覚えられているに違いない。 更に恐ろしい事にスカイの記憶力はずば抜けて良いのだ。 何年も前の事を指摘されたことが何度あったか。
クウもスカイの微笑みの恐怖を思い出したのかオロオロと落ち着かせようとしているが意味が無さそうだ。 俺達の事を無視してどんどんヒートアップしている周りの人達は声をかけても聞いちゃくれない。
はっ! そうだ! と、これだけ騒がしくしてたらギルドが何か対応をしてるれるんじゃないかと思い、リリナさんがいる受付を振り返った瞬間だった。
「本当、うるっさいわねぇ」
「……同感。黙らせる」
2人の女の人の声が聞こえ、突然周りの人達がバタバタと倒れていく。
驚いてその内の1人に近寄るとどうやら寝ているらしく、倒れた時に体を床にぶつけたくらいで怪我は無さそうだ。
「はぁ……これで静かになったわね。 ……あら? 中々カワイイ子達じゃない」
「ディー。 ……確かに3人とも、明るい」
声の主は食堂で早めの夕食を食べていたようだ。
大きめの丸いテーブルに居たのは5人の冒険者達。
カールのかかったブロンドの髪を腰まで伸ばしている女の人と金の狐の耳と尻尾を持つ少女。
確か極東と呼ばれている島国の民族衣装を着ている男の人に立派な体格と筋肉を持つ老年の大男。
そして、滅多に人の国では見かけないとされるエルフの男の人がいた。 しかも、その首には細長いドラゴンが巻き付いている。
同じテーブルについているしおそらく、5人はパーティを組んでいるのだろう。
「あ、ありがとうございました」
「いいのよぉ。 ねぇ3人共。 ちょっとこっちに来なさいよ」
クスクス笑っている女の人に手招きされる。
助けられたし、どうする? という意味を込めて2人に視線を送ると「任せる」って目で見てきたのでテーブルに近づく。 後ろから不穏なオーラが漂ってる気がするけど長年一緒にいた俺達がアイコンタクトを間違えるはずは無い。 ……ハズ。
「ベス。 助けたのはいいが何をするつもりだ?」
「だってこの真ん中の子、貴方と似た珍しい色してるし、3人共明るいから丁度いいかと思って。 新人なら更にいいでしょ?」
「はぁ……確かにそうだが本人の意思を考えろ」
ベスと呼ばれた女の人がディーと呼ばれたエルフの人に楽しそうに笑いかける。 俺がエルフの人と似た色……? 俺は茶髪でエルフの人は金髪だから、もしかしてさっきの水晶の色……魔力のことか?
「ええと、3人共。 初めまして。 私達は『新風』っていうパーティなんだけど、良かったら一緒に夕飯でも食べていかないか?」
「今から宿探す所だったんで結構です」
「ちょ、スカイ!」
不機嫌オーラ丸出しで『新風』というパーティの先輩達に突っかかっていくスカイを慌てて止める。
嫌だったのねアイコンタクト間違えて読んでごめんって! ああクウもいつにも増して無表情じゃんかなんで間違えた俺よ。
とりあえず動かないクウは後回しにして不機嫌オーラを今も続行して出しているスカイを止めようと決めた所でまた誰かにくすくすと笑われた。
「スカイ君。 その5人はAランクパーティの『新風』。 ギルドからの評価も高いし、私の友人でもあるのでそこまで警戒しなくても大丈夫ですよ?」
「リリナさん!」
ギルド職員であるリリナさんからのお墨付きなら……。 と、ようやくスカイがオーラを引っ込めてくれた。 リリナさんが女神に見える。
そんな俺達を見てまたくすくす笑っているリリナさんの後ろでは眠った冒険者達をギルド職員の人達が数人がかりで隅っこに引きずっていた。 仕事を増やして申し訳ない。
それにしても強そうだとは思ってたけどまさかAランクパーティの人達だったなんて思わなかった。 みんな迫力あるし、なんていうか一言でいうならかっこいい。
エルフのディーさんがリーダーなのか、エルフのイメージである緑色で統一してある装備はまるで俺の好きな本の中に出てきた冒険者そのもので。鍛えられたその体からはどうやったって俺達にはまだだせないようなオーラがある。
それに、さっきは色々あったからスルーしてたけど俺は大の筋肉好きなのだ。 どれだけやっても自分に付かない分余計に。 スカイの不機嫌オーラから解放された俺は自然とお酒を飲んでいるお爺ちゃんの筋肉に視線がいってしまう。
なにあの筋肉超強そう。
後ろに立てかけられている大剣とか俺なんかじゃ持つのも苦労しそうだ。 あの筋肉があれば軽々振れそうだけど。
お酒を飲んでいるお爺ちゃんがブンブンと大剣を振り、モンスターを蹴散らしている姿を想像する。 ……なにそれかっこいい!
俺の視線に気がついたのかお爺ちゃんがムキッと腕を曲げて力こぶを作る。
「うおおお! 凄い!」
「じゃろう? 話の分かる子じゃな。 ほれ、こっちに来なさい。 よかったらこの肉をやろう」
「はい! 腕、触ってもいいですか!」
「いいぞいいぞ、ほれ」
「ふおおおおお! 凄い! カチカチ! 筋肉!」
「………ソラ……」
俺の父さんや村にいた元冒険者の大人にも腕とか腹筋とか触らせて貰ったことがあったけど比べ物にならないくらい立派な筋肉だ。 一体どれだけ体を苛め抜いたらこんな筋肉が付くのだろうか。
更に力を込めたのかぺちぺち叩いてもビクともしない。 かっこいい!
後ろからスカイの呆れた声とか聞こえないもんね!
ソラ君は筋肉好きです




