表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
8/30

8

少しずつ閲覧数が増えていく日々。

驚くと共に涙が出そうなぐらいありがたいです。


 世界の名前 エンドコア



 この世界は魔法が発達し、科学という二文字は無いに等しい。所謂、異世界設定の王道である『剣と魔法』の世界だ。




 現在、特に有名な国は大きく分けて四つ。


 西の砂漠にはサン国。厳しい環境に生きる国民は心身共に強く、軍事国家としてのし上がってきた。

 北の雪山にはマーレス国。あまり世間には知られていない幻の魔法が存在するという。

 南の海にはフィッシェン国。海に近い場所に国を作り、漁業だけでなく豊富な作物を売りとしたものなど、商業が盛んだ。

 三ヵ国の中心の森にはフェルガード国。一番均衡の取れた国であり、豊かで平和的と言われている。


 それぞれ距離も角度(方角)も誤差はあるが大まかに位置するとこうなる。東は未開拓地であり、立ち入り禁止区域にもなっている。







 昔々、まだ人が争っていない平和な時代、小さな一つの村に男の子が生まれた。


 名前はベルード。

 標準的な子供で特に害もなく普通に暮らしていた。



 ベルードが十六歳になった頃、村に一人の女が訪ねて来た。



 両親が野獣に襲われて亡くなってしまった

 どうにか自分は逃げ延びたが行く場所が無い

 どうかこの村においてはくれないだろうか


 と。


 村長は迷わず頷くと女を受け入れた。

 女はベルードの隣の家に住んだ。


 ご近所ということも相俟って、仲良くなるのに時間は掛からなかった。




 それが悲劇の始まりだった。




 女は男に秘密の話をした。


 私は"魔法"が使えるのだと。


 そしていつも村の為に励んでいるベルードにも教え、力になりたいと。


 ベルードは半信半疑で女の魔法とやらを見ることにした。女が右手の掌を上に向けるとそこに赤い光が現れ、突如炎が吹き出す。女の手の上で揺らめく炎はベルードが日常的に見てきた焚火の炎と何の違いもない。更には、その炎を飛ばすことが出来ると知り、その凄さに興奮した。




 私もその力が欲しい。




 それからベルードは毎日魔法を練習し続け、どんどん力をつけていった。



 二十歳を過ぎた頃には生まれ育った村だけでなく、地方からも求婚相手が押し寄せてくる程だった。農作業や自主鍛錬で引き締まった体と整った顔、それに分け隔てなく優しい心遣い。そんな男を放っておく筈がなかった。

 けれどもそんな娘達を相手にせず、密かに女を一心に思い続けていた。




 だがそんなある日、村に一人の男がやってきた。

無愛想で無表情の男だった。


 村人たちは警戒したが、ただ表情の変化が乏しいだけとわかるとすぐに打ち解けた。男は色々な村を転々としている旅人であり、旅の途中で手に入れた商品を売り買いし、生活していた。


 けれどもベルード一人は男を認めていなかった。

 心の奥底で何かが引っ掛かっていた。



 それは思いも因らないところで発覚した。



 ベルードが好きだった女と旅人の抱擁だった。

 それだけでなく、手を繋ぎ顔を寄せ合い、笑いあっていた。その光景を目にした途端、言葉では言い表せない激情が暴れ出す。



 何故

 どうして

 近寄るな

 触るな

 こっちを見ろ

 好き

 愛している



 こんなにも君を想い続けているのに何故その男を選ぶ?



 側にいたのは私なのに



 どうして?



 君の笑顔は私のものだろう?



 私が特別だから力をくれたのではないか?



 何故私の隣にいないのだ




 それならば一層の事






 殺してしまおうか






 それなら永遠に(ずっと)一緒にいられるよね







 愛しているよ。––––。









 ベルードは必要最低限の荷物を持って村を出た。

誰の呼び掛けにも答えず、言葉も残さず、村を去ったのだ。



 やがてベルードは一つの大きな山の頂上に辿り着いた。


 黒く濁った空気と纏わりつく熱気。

 所々に赤い線が浮き出て、噴火を今か今かと待ちわびているようだった。



 大きくぽっかりと開けた場所へ足を進めると、一つの巨大な石版の前に辿り着いた。

 石版の中心に刻まれた文字から溢れ出す不気味な赤い光。




 "我に捧げよ さすれば滅びを与えん"







 それから数年後、世界に魔獣、魔物と呼ばれる存在が発見されるよになった。特殊な力を持ち、凶暴でとても人の手には負えなかった。それだけでなく、襲われた村は食料不足に陥り他の村を襲うようになったのだ。



 その知らせを聞いた女はすぐに魔法という存在を皆に話した。皆はすぐに女から力を貰うと戦いに向かった。

 その中にはあの旅人も含まれていた。



―何十年も何百年も戦いは収まらなかった。



 そして何処かの時代で相手の力の源を封印することに成功したのだ。

 だが、その代償は決して少なくはなかった。



 その後、残った少ない者達は一致団結、力を合わせて国を築き、今に至る。









   

「─────とまぁ、こんな感じかな?」



 アーノルド様は本を閉じると元の場所に戻した。



「何か質問はありますか?」



 さっ、と右手を上げる。



「はい、リナくん」

「どうして”どこかのじだい”なんですか?」

「あー、これはね、何処にも続きが書かれていないんだよ。というより、無くなってしまったと言った方がいいかな」

「・・・なくなった?」

「そう、まずは封印に成功した人物が今私たちがいる、このフェルガード国出身である事は前に教えたよね?」



 私はこくりと頷く。



「何故それが分かるかは、この国の王様が住んでいるお城、フォレスト城に大切に保管されている一冊の本に書いてあったんだ」


「でもね、それしか書いていなかった。それ以降のページは何者かによって盗まれていたんだ。その事は大きな事件となって大掛かりな捜索隊を出しているんだけど・・・未だに何の進歩もないのが現状なんだ」


「だからこの物語はその一冊の本に書かれていた文章を使いつつ、考察や予想も含まれている。よって、全部が正しいとは言いきれない」



 そこでお茶を一口。



「他にはあるかな?」

「はい。ひがしのたちいりきんしくいきは、ベルードがいったとこですか?」



 アーノルド様は少し大きく見開くと、やがて小さく笑った。



「リナは賢いね。すぐに覚えたと思ったらそこに気がつくなんて」

「アーノルドさまのおしえかたがおじょうずだからです」

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるね。ではその期待に応えようかな」


「リナが予想した通り、東はベルードが魂を売ったといわれる場所があるんだ。ルインループ、別名”破滅の山”」

「はめつ・・・」

「緑なんてなく、黒と赤と茶色が入り混じってる空間が広がっている。そこには尋常じゃない強さの魔物が多く存在し、山の頂上を目指して生還した者はいないとか。東側の全てがそうなっている訳じゃないけれど、山に近づけば近づく程強くなっていくんだ」



 私は魔獣や魔物という存在に会ったことはないけど、これから先も会わないことを切実に祈る。


 アーノルド様は立ち上がるとふいに私の頭を撫でた。



「今日はここまで。明日はちょっと用事があって出来ないからこの本を読んでおいてね」



 そう言ってクリーム色の本を手渡された。見た感じページ数も少なそうな薄い本。何気なく表紙に目を落とした。



 『たのしくまなぼう』



 何の本かとてつもなく気になったがここで開けるわけにもいかず、急いで立ち上がる。



「ありがとうございました」

「うん、またね」



 丁寧に一礼をして音がしないようにそっと扉を閉めた。






 夜ご飯を食べ終えた後、共用のお風呂で体の汚れを落として薄い生地のワンピースに着替えた。


 この世界にお風呂があるなんて誤算だった。もちろん、良い意味でだけど。


 窓際の棚の上には朝居た小鳥がとまっていた。



「『今日はね、歴史について勉強したんだ』」



 私はすぐ傍に合った椅子を引きながら小鳥に話し掛ける。いつからか、その日にあった出来事を話すことが日課になっていた。



「『この世界には魔法があるんだよ。科学もあるし魔物や魔獣もいる。私の住んで居た所とは大違い』」


「『アーノルド様は相変わらすお話上手で馬鹿な私でもすぐに覚えられるんだ』」



 小鳥の頭を人差し指で優しく撫でる。



「『ここはね、私がずっと望んでいた世界なんだ。魔法が溢れるファンタジーな世界。物心が付いた頃からファンタジーが大好きで、色んな小説も読んだよ。ヴァンパイアだったり、エルフ、ドワーフ、妖精、数え切れないぐらいたくさん。携帯小説だって読み続けた。その願いが叶ったんだ』」



 撫でられて気持ちよさそうな小鳥は私の指先を軽く啄ばむ。



「『でもね、今思うとさ、どれだけ馬鹿だったんだろうって思うんだ』」



「『知らない世界に私一人なんて、生きる価値ないのにね』」



 あの頃の自分に言ってやりたい。



 家族に恵まれ、バイトの人たちにも恵まれ、元ではあるが、彼氏にも恵まれていた。



 けれども私はどこかこの現実が、ありきたりな毎日のサークルが、




ツマラナイと感じていた。




 小説の主人公みたいに両親が既にいないとか独りぼっちとか、家族仲が死ぬほど悪いとかなら良かったのかもしれない。でも私はほとんど恵まれている環境なのに、それに気がつかず無い物強請りばかり。



 だから罰が当たったんだ。



 私は小鳥を掌に乗せて窓へ運んだ。



「またあしたね」



 もう一度私の指を啄ばむと軽やかに飛び立った。

 窓の鍵を閉め、電気を消す。窓から入る月明かりを頼りにベッドまで歩いた。ちょっと固めなベッドに横になると今日の疲れが一気に押し寄せてくる。







 濡れる頬には気が付かないフリをして、私はそっと目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ