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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
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7


 チュンチュンチュン



 コンッココンッ



「『───ん・・・朝か・・・』」



 ぐぐーっと体を伸ばし、ベッドから降りて窓へ向かう。小さな口を使って一生懸命窓をノックしている小鳥を発見。そんな可愛らしい光景が毎日の始まりだ。

 鍵を開けて窓を上に押し上げる。



「『おはよう、今日もいい天気だね』」


「チュンッ」



 可愛い返事のすぐ後、私の肩へと移動した。小さな羽根をバタつかせて早く早くとねだる姿はなんとも言えない。緩む頬をそのままに窓際に設置された小さな棚の引き出しを開けた。ちなみに場所は一番上。毎朝使うにはやっぱり届きやすい場所がいいもんね。一番上といっても高さ的には私のお腹辺り。ここが使いやすいベストポジション。


 中から小さなお皿と袋を手に取る。お皿はその棚の上に置き、その中に袋に入っていたパン屑を少量入れた。

 バタバタと懸命に羽を動かしお皿に向かって飛びかかる青い小鳥。



「『ゆっくり食べていいのに』」



 忙しなく嘴を動かす可愛らしいその動作にちょっと笑ってしまった。


 そこから三歩進んでクローゼットを開けると、色とりどりの洋服が並んでいた。私はその中から比較的地味なワンピースを取り出し着替る。着ていた服を綺麗に畳んでハンガーで掛けられている服の下に仕舞っておく。クローゼットの右側に設置された全身鏡で最終チェック。



 リボンOK。

 エプロンOK。

 靴下OK。

 髪・・・あ。



 二番目の引き出しからゴムをとって一つに結ぶ。



 よし、これで完成。



 私は足早にドアに向かい去り際に一言。



「『また後でね』」


 

 もぐもぐと頬張る小鳥に笑みを零し、部屋を後にした。








「おはようございます」

「おはよう」

「いつものソコにあるから」

「ちょっ、それこっちだって昨日も言っただろう!」

「あぁ?聞いてねーよんなもん!その歳で物忘れかよ」

「あ?」

「やんのかコラ」



 朝のキッチンはいつ見ても忙しそうです。

 私は邪魔にならないように今では自分専用になった食器を持ち、バイキングのようにお皿に盛っていく。


 サラダ、パン、一晩煮込んだ山菜たっぷりスープ。最後にお水を入れてフィニッシュ。


 簡単に見えるこの朝食だが嘗めてはいけない。ここの料理人達は朝だからとか、今日はあまり人がいないからとかいって手を抜く人達ではない。だからこそさっきみたいに罵声が飛び交うのだけど・・・。


 邪魔にならないように素早くトレイを持って使用人専用のテーブルへ移動。



「いただきます」



 パンから食べようと手をのばすと熱いのなんの、触れない。でもこれをどう攻略して熱々のパンを口に入れるかがまた楽しい。上手く行き過ぎても舌を火傷するから注意が必要でもある。


 そんなこんなであっという間に完食。



「ごちそうさまでした。おいしかったです!」



 小さなシンクにお盆や食器を置いてスポンジを手に取る。



「おう、お粗末様だ!」



 大きな口を開けてガハハと笑うコックさん。最初ここに来た時には不思議そうにしていた、日本では当たり前の食前・食後の言葉。その意味を聞かれた次の日から言葉が返ってくるようになったのだ。



「何威張ってんのさ!そんな暇あるならちゃっちゃと手を動かしな!」



 見た目とは反対な言葉使いが出てくる美人な女性。四十五歳になると聞いたがどう見ても三十代前半にしか見えない。

 コックさんは大きく舌打ちすると私の肩を力強く掴んだ。



「うるせぇ。いっつもちゃんと感謝してくれるのはリナだけなんだよ。それに返事しないでどうするよ!」



 なぁ?と言って眩しい程の笑顔を寄せる。

 そう言って頂けるのは嬉しいのですがすみません、肩痛いです。あとちょっと近いです。


 コックさんの力が強すぎて肩に指が食い込んでいる。熊並みに大きな体に見合った力なのは分かっているのでどうか勘弁して下さい。ちなみにこの方、影ではその外見通り熊さんと呼ばれている。



「そんなのアンタに言われなくても知ってるよ。それよりもいい加減手を放したらどうだい?その馬鹿力のせいで痛がってるように見えるけど?」

「あ?そうなのか?」

「・・・すこしですが・・・」

「おう、わりぃな!」



 ニカッと笑う背景で女性は大きな溜め息を吐いていた。



・・・・うん。



 私は二人に一礼してキッチンを後にした。







 朝は窓拭きから始まり、飾られた絵画や置物、そして床掃除。毎日決まった範囲をずらしてローテーションで行っている。最初は拭き方とか、置物の向きとか覚えるの大変だったけど今では慣れたものだ。寧ろどれだけ効率よくこなせるかが自分の中での課題であり、楽しみでもある。



 そして現在、私は分厚い本二冊とノート一冊を持って長い廊下を歩いていた。少し大きめの扉の前に着くと小さく深呼吸。落ち着いたところで三回ノックした。



「りなです」

「はーい、どーぞ」

「しつれいします」



 金のノブを回し、慎重に扉を開けた。




 サラサラと靡く金色の糸。

 高い鼻に薄い唇。

 スラリとした体型。



 丁寧に本を捲るその姿はいつ見ても絵になる。私はその情景に毎回感嘆するんだ。



「何してるの?早く入っておいで」



 本から目を上げて微笑みをおとす。



「はい」



 そそくさと空いている椅子に座った。一番離れている椅子に。




 ・・・・




「・・・ねぇ、毎回思うんだけど私の事が嫌いなのかな?」

「ちがいます。おそれおおいんです」

「でもさ、私とキミの仲じゃないか。こっちにおいでよ」

「メイドとしゅじん、おべんきょうしていただいているだけでわたしはしあわせものです。ほんとうにありがとうございます」



 深く深く頭を下げた。






 あれからおよそ二ヶ月が経った。

 窓ガラスを割って飛び出したあの頃からだ。それ以前は時間感覚が分からないので数えていない。というより、あまり覚えていないと言った方が正しいかな。


 あの時私の首を締めた張本人が今目の前にいる男性、ジャスティン・リーク・アーノルド様。この三階建の大きなお屋敷の持ち主で、確か八代目だったと思う。結構有名な貴族らしく、よく色々なお客様が訪ねてきている。


 一番最初に出会ったあの時に言葉が通じないことを逸早く気づいてくださり、こうしてほぼ毎日仕事が終わった後に勉強を教えてくださる。見ず知らずの私を屋敷に置くだけでなく、更には働かせて頂いている。



 感謝以外の言葉が出てこない。



 自分の幸運さを無下にしないように、毎日予習復習は欠かさなかった。なんとかゆっくりのテンポなら日常会話を理解することは出来るようになった。話すとなると少し考えたり、上手く言葉が出てこないことが多いがなんとか過ごせている。これも本当にアーノルド様の御蔭だ。



「それは嬉しいのだけれど、私も寂しいから次はせめて一つ近い椅子に座ってほしいな」



 ね?と優しく微笑みかけて下さる。

 なんて神々しいのだろう。



 アーノルド様は茶色い本を一冊手に取ると一ページ目を開いた。



「じゃあ早速昨日の復習をするよ。この世界は──」


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