表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
30/30

現実

あけましておめでとうございます!

今年ものんびり更新していきますので、よろしくお願い致します!



 大きな道に立ち並ぶ屋台や出店。良い天気も相まってなのか、賑わう市場に引き寄せられる人々。


 元気よく呼び込む男性に、販売している商品に惹かれ足を運ぶ女性。子供連れの家族は小さな屋台で串焼きを頬張り幸せそうな顔をしていた。



 表通りから一本横に逸れた道に足早に動く影が一つ。全身を黒のマントで覆いフードを深く被っていた。幸か不幸か、その存在に気づくものは一人もいない。


 やがて影は少し大きめな建物の前で立ち止まった。一度建物全体を眺めて深呼吸。気合を入れるかのように短い息を吐き、そっと扉を開けた。途端に様々な声が耳に届く。

 長テーブルでは食事をとる人や雑談に興じる者、奥の階段には大きな荷物を一生懸命運ぶ子供とそれを微笑ましく眺める親。

 グラスがぶつかり合う音を聞きながら正面のカウンターに座る女性の元へと足を運んだ。



「すみません」



 小さく、けれども透き通った声。声を掛けられた女性は目の前にいたにも関わらず、その存在を今認識したかの如く驚いた表情を浮かべる。



「気付けなくてすみませんね。お泊まりですか?」

「はい。連泊でしたら何日まで可能ですか?」

「そうですね・・・今の時期だと一週間ってところかねぇ」

「一週間・・・」

「あとは一度精算してもらって、後は部屋の空き状況で再度手続きしてもらう事になるんだけど・・・」

「それで結構です。最大でお願いします」



 声が若く聞こえるせいなのか、受付の女性は話を進めるたびに口調が砕けていく。恰幅の良い、如何にも食堂のおばちゃんの朗らかな雰囲気に自然と肩の力が抜ける。



「あと、図々しことは承知しておりますが、宜しければ角部屋、もしくは人と離れた部屋をお借りすることは出来ますでしょうか?」

「人と関わりたくないってことかい?」

「はい。少し情けない話になるのですが・・・」



 そこで一旦話を区切り、被っているフードに手を掛けた。カウンターに近付いて少しだけフードをずらす。すると、口元に手を当て息を呑む女性。それを確認した後、直ぐ様フードを深く被り直した。



「恐らくコレが原因なのでしょう。とある男性にしつこく声を掛けられまして。何度もお断りをしたのですが聞き入れてもらえず、挙げ句の果てにはその・・・少し、言い辛いのですが・・・––––」

「もういいよ。充分わかったから。無理して言わなくていいんだよ」



 女性の温かい手がそっと肩に触れた。



「それだけ綺麗な顔してたら周りが黙ってないよ。女の私ですらドキッとしたしね。大丈夫。男が泊まってる部屋からなるべく離れた部屋鍵を渡すからね」

「我が儘を言ってすみません。本当にありがとうございます」



 深々とお辞儀をすると慌てて体を起こされた。顔を寄せ、小さな声で囁かれる。



「これは忠告というかアドバイスなんだけどね、その喋り方直した方がいいよ」

「何かおかしいのでしょうか?」

「おかしくはないさ。ただ、上品すぎるんだよ。例え顔を隠しても言葉使いや立ち振る舞いで良いとこの人って分かれば、手を出してくる奴らはごまんといるさね。色々な意味で、ね」

「かしこまりました。重々きを・・・気をつけます」



 女性は早速同じような言い回しに苦笑いを一つ零し、少し落ち込んだ雰囲気が漂う目の前の人物へ部屋鍵を渡した。

 フードを被った人物は鍵を受け取り、小さく頭を下げて口頭で説明された場所へ向かう。丁度曲がり角を過ぎた行き止まりの一室。角部屋で、更に階段から上がって一直線に見えないようにとの配慮が伺える。


 女性の好意を無駄にしないよう辺りに人がいないか確認し、素早く部屋の中へ入った。そして即座に鍵を閉める。取手を握って何度か回しながら押してみて確実に閉まっているか確かめた。確認後、戸を背にずるずるともたれながら崩れ落ちていく。長く、そして重い息を吐きながらフードに手を掛けた。



 さらりと溢れ出る銀の糸。艶やかな髪は一本一本が細く、まるで極上の絹のよう。綺麗にカールされた睫毛は頬に影を落とすほど長く、閉じていた瞼が開くとそこには青い宝石が埋め込まれていた。光の加減によっては深くも淡くも見える不思議な青。小さな唇は程よく膨らみ、桜色よりも少し濃い色合い。服から覗くきめ細やかな雪肌が他のパーツと組み合わさり、とめどない色気を醸し出す。



「––––––んでこうなったの・・・」



 呟く声ですら心地良い澄んだ音色を奏でる。




 作り物と言われても分からない、寧ろ作る事すら出来ないのではないかと思われるほど現実離れした容姿の人物–––––ケイ・ラヴェナル。つまり僕は、未だにこの状況を理解出来ないでいる。いや、理解したくないと言った方が正しいかな。




 事の発端は昨日の夜中まで遡る。




 月守祭の次の日、後夜祭を楽しんでいた村人達。月守祭当日に比べて後夜祭は飲んで食べて踊っての大騒ぎ。


 そんな中、水を差すように現れた盗賊。例えお酒を飲んでいたとしてもゴロツキ共に負ける村人ではない。即刻排除し祭りの流れに戻したのだが、何故か騎士が流れ込んできた。アーノルド領とは違った鎧に違和感を覚えた直後、問答無用で剣を抜かれた。普通ならばその辺の騎士が束になっても村人の圧勝らしい。


 でも、今回は違った。呼吸するかの如く使用できる魔法が何故か上手く発動しなかったのだ。戸惑う時間すら与えて貰えず、村人は接近戦を余儀なくされた。

 相手は魔法も使えるのにこちら側は物理攻撃のみ。数の暴力も相まって、押され始めるのに時間は掛からなかった。


 その時の()といえば口をぽかんと開けたまま固まっていた。目の前で起きていることが受け入れられずどうしたらいいのか分からない。そんな私を引っ張って走り出す二人の守り人。他の村の女に刺されかけたあの二人だ。村の外、森の中へ目掛けて走り出したが残された人達が気になって振り向いてしまった。


 それがいけなかった。


 振り向いた先に見えたのは全て村人の背中のみ。そして今まで通ってきた道を塞ぐかのように戦っていた。



 そう、私を逃すために。



 その事実を認識した途端、頭が真っ白になった。

 なんで、どうして、なんて陳腐な言葉は出てこない。だって理由なんて一つしかないもの。私が"適合者"だからだ。では何故衝撃を受けたのかというと、ただ単に命の奪い合いが発生した状況に、命をかけて自分を守るという行動をとった村人たちが理解できなかったからだ。

 日本とはかけ離れた世界観。それを如実に表した目の前の光景に唖然とするよりほかなかった。


 固まる私を気にせず引っ張り続けた二人は、やがて神殿の前に辿り着くと足を止めた。そして二人が言葉にしたものに私はまた唖然とするのだった。



 "中で森神様がお待ちです"

 "ここは私たちにお任せください。決して一人も通しません"

 "中にですか?いえ、私たちは入れないのです。それにここを任された事が信頼の証。私たちはそれに応えねばなりません"

 "安心してください。主様の視界に入る前に排除しますから"



 爽やかに、しかも笑顔で私を見送ったのだ。

 腕を引っ張って中に入れようとしても動いてくれないし、寧ろ背中を押されて神殿に入れられた。途端に足元に輝く金色の魔法陣。召喚される真際に動いた村人の口が私の心を突き刺した。



 "生きのびて下さい"


 

 それだけじゃない。召喚された後に待っていたものも私には耐え難いことだった。



 召喚先にいたのは予想通りの威厳漂う銀色の狼だけでなく、ストロベリーブロンドのよく知った顔が真剣な面持ちで待ち構えていた。

 こちらが口を開く前に相手側の言葉が先に発せられる。



「無事でなによりだ」

「それに関しては疑っていなかったけど、傷一つでもついてたらあの二人を締め直さなきゃなんないとこだったよ」



 いつも通りの声のトーンに少し肩透かしを食う。



「私は大丈夫だけど、だけど何?今何が起きてるの?どうして村人は私を身を挺してまで守ろうとするの?」

「ケイ・・・。それは–––––」

「分かってる。この力のためだよね?長い間この神殿とレフに守られていた大事なものだから。だけど、それでみんなが犠牲になるなんておかしいよ!」



 大統領を守るSPだってお金を貰うという対価がある。けれども私には何もないし何もしていない。



「犠牲じゃないよ。私たちがしたくてしていることだからね。それにその力のためということもあるけど、みんなケイを失いたくないの。だってもう村の一員でしょ?」



 眩しいくらいの笑顔。身近に死を感じた状況から普段と変わらない雰囲気を出すちーちゃんを見て涙腺が緩む。



 でもねちーちゃん、その言い分は私が村のみんなを自分のせいで失いたくないって思うのと同じなんだよ。人間不審になって壁も作りまくっていた私を、嫌な顔せず受け入れてくれたみんなを嫌いになんてなれなかったんだから。



 潤む視界に映った銀色の毛並みに無意識に手が伸びる。ふわふわな毛波が血の気が引いていた手を温めてくれる。徐々に落ち着きを取り戻そうとしている最中、身近な場所から視線を感じた。



「なに?」

「・・・・・」



 答えないレフに不安が募る。

 そしてその嫌な予感はあたってしまう。






「ケイ。ここでお別れだ」






 目の前が真っ暗になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ