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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
3/30

突然に



「お先に失礼します。お疲れ様でーす」



 時刻は十九時二十分。


 大抵お昼から夕方にかけてシフトを入れているんだけど、今日はちょっぴり残業。期間限定のハンバーガーが出たばかりの金曜日は何かと忙しく、大抵の人は時間通りに帰ることは出来ない。私はこのバイトに入ってなかなかの年数が経っているため高確率で止められる。



「ごめん、ちょっと助けて!」



と。



 まぁ社員は好きじゃないけど主婦さんや他のバイトメンバーは好きなので用事がなければ残ってお手伝い。そしてやっと落ちついたので帰るところ。

 連勤の疲れのせいか、いつもより重く感じる鞄を自転車に乗せてゆっくりと漕ぎ始めた。



「あっついなぁー」



 丁度梅雨の時期で空気もベタついて、さらにバイト後のベタつきで少しイライラ。信号にひっかかるだけで舌打ちしそうになる。自転車って止まった瞬間に汗がぶわって出てくるのどーにかなんないのかね。とか考える。一時停止なのに止まんないで車が突っ込んで来たらガンとばす。白い線の内側にちゃんと入ってるのにクラクション鳴らされたら



「ふざけんな。ちゃんと入っとるやんけ!」



とキレる。暑いのが大の苦手な私は沸点が猛烈に低くなってしまうのだ。


 コンビニに寄ってミルクティーを飲みながら帰ろうか、それとも我慢しようか毎回考えてしまう。いつもなら誘惑に負けて買ってしまうのだが、今回はなかなか手強い。もうコンビニを二つも通り過ぎている。



 あー今日は買わない日かも。



 そしてあっという間に帰り道の半分は過ぎた。

 何気なく辺りを見回すと、幼少期に大変お世話になった大きな公園が目に映る。



 私は反射的にハンドルをきった。



 車が入れないように立ち並ぶ小さな鉄の棒の間を避けながら進み、砂利道をゆく。思っていたよりも少し小さめな滑り台が子供の頃の思い出を甦らせた。



 昔は後ろ向きとか、寝転がりながら頭から突っ込んだりとかしたなぁ。





「・・・」





 行くか。



 誰もいないのですぐ帰られるように滑り台の降り口付近に自転車を止めた。

 そう、この瞬間から始まっているんだ。どのくらいの速さでこの滑り台を降りられるかが。



 木製の階段を駆け上がり、チェーンで横向きに吊るされた十本ぐらいの丸太の上を走り抜ける。一歩間違えれば滑って転ぶか、丸太と丸太の間に足が入り男性だと悶絶ものになってしまうかの、このスリリングが堪らない。

 通り抜けた先の小さな階段を駆け上がり、無事頂上に到着。はぁはぁと息を切らしながらも達成感がじわじわとくる。



 でもまだ終わっていない。

 最後に滑り込むんだ。



 私はダッシュして入口に向かいそのまま軽いヘッドスライディング。



 やばい、勢い良すぎた。



 サッと血の気が引く頃には見晴らしのいい気色が広がっていた。



 やばいやばいやばいやばい



 こんなんで骨折とか笑えない。

 てかこのままだと打ち所悪かったら死ぬんじゃ?

 親になんて顔向けしたらいいんだ!!



 とかぐるぐる考える。




 ゴンッ




「ブフッ」




 顔面鉄板直撃。痛さに悶えつつ顔をあげると丁度真ん中辺りで急停止していた。



 あ、ジーパンだった。



 そう、バイトの制服は下はジーパンなのだ。上はちょっとダサいモノクロチェックのシャツ。それが隠れるようにグレーのパーカーを着ています。まぁ滑り台を綺麗に滑れる服装ではなかったということだ。


 とりあえずこの状況をなんとかしなくてはと思い、足と手を側面につけ徐々に下りていく。端から見ればかなりダサい蜘蛛男のようだが命には替えられない。

 最終的に何も面白くなく、ただ足や手を負傷して終わった。更に言えば時間のロスでもある。



 次回こそは必ず・・・!



 胸に誓い、愛用の自転車に跨った。この自転車はオートライトで、しかも灯りは強いほう。夜の道もどーんとこいだ。暗くなった公園を抜けようとブランコの傍の道を走る。両端に並ぶ木から虫の鳴き声が聞こえて寧ろこっちが泣きそうになった。


 真っ直ぐ進むとフェンスがあるのでそこを右にハンドルを操作した。



「あー、今日の夜ご飯何かなぁ」



 昨日は大の苦手の麻婆茄子だった。ナス無理。あのきゅこきゅこした感じに中のぶにょっとした食感が苦手。無論、味も受け付けない。だからこそ今日は美味しいものが食べたいと強く、非常に強く願っている。

 少し燃えてきたところでスピードアップ。早くご飯が食べたいし何よりも暑い。ギアはついてないけど五に設定して、尚且つフルスピードで漕いでいるつもり。







「────っぶないっ」






 キキィィィ────






 二万円弱で新車に買い換えてよかったとブレーキの鋭さを見て改めてそう思った。危機一髪避けられた事に安心しながらも、痛いぐらい活発に動く心臓を深呼吸をして調える。勿論、飛び出して来たのがどんな人物か確認するのも忘れない。



 マイ・マウンテンバイクのライトに照らせれていたのは、金に近い茶髪にクリーム色の膝下ワンピース姿の女の子。大人の雰囲気を漂わせつつも、どこか幼い顔立ちから未成年だと判断する。


 少女は髪よりも茶色に近い大きな目を一層大きく見開き、こちらを凝視していた。



 いや、私がびっくりだから。



 つい心の中で軽く突っ込んでしまった。





「─────。──!」





 突如目の前の少女の体が激しく揺れ始めた。

小刻みに上下に動く様はさながらマッサージ機の振動に似ている。



 とか現実逃避してみるけど、どこからどう見ても震えているわけで。厄介ごとの臭いしかしないのに逃げることが出来ない。



 そのまま痙攣して倒れてしまうんじゃないかと思うほど激しく震える少女。


 そんな様子にとてつもなく嫌な予感が増した。申し訳ないけどこのまま無視して立ち去りたいとも思った。だって明らかに何かに巻き込まれています、と言い出しそうな格好だから。


 ワンピースは所々擦り切れていて、茶色いシミも幾つか目に留まる。とどめは顔や足から流れる血だ。これで何の事件もないとは誰が見ても百パーセント言い切れないでしょ。



 取り敢えず、警察に電話しよう。



 パーカーのポケットから携帯を取り出し、イチイチゼロ。


 できなかった。

 何をトチ狂ったのか、少女が籠をガンガン揺らしながら叫んできたのだ。近づいて来た少女は意外と成長していて、私とそう変わらない外見だった。きっと力は倍以上強いんだろうけど。



「─!───!!!」



 何を言っているのかわからない。日本語、英語、中国語など、アジア圏ではないのは確かだ。言っている意味が分からないとジェスチャーしてみるがそんなのお構いなしに揺らし、叫び続ける。



 突如、目の前でいきなり叫び出したかと思うと、私から見て左側を指差し、そして私の顔を両手で挟んできた。いきなりのことで頭が回らず固まっている顔を容赦なくぐぎりと回転させられた。





「────な・・・に・・・・あれ」




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