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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
29/30

後悔

さらに別視点です。



 あの時の記憶が頭から離れない。




"ごめんなさい。いままでありがとうございました"




 扉越しに聞こえた言葉も、思い詰めた声も、ずっとずっと忘れられない。








 異世界から迷い込んだ少女、リナ・セリザワ。



 これといった特徴はなく、強いてあげるならば黒髪黒目の珍しい容姿。隠れ森で倒れているところを発見し、保護したのが始まりだ。




 通常ならば直ぐに然るべき場所まで届け出る。だが、言葉が分からないし文字も読めない。それに加えて見つけた場所が"隠れ森"ときた。


 ()()()()()により、隠れ森はアーノルド領の管轄で、更に隠れ森に関する全権利を持っている。そして今回はよく調べるべきだと判断した。だから、素性を知る為にも言葉を理解させなければならなかった。


 執事のヴァルターやメイド長、その他多くの者たちに空き時間に教えるように言い、本人の意欲もあって片言ではあるが話せるようになった。

 話を聞いてある程度素性や背景が見えたら何処かしらに施錠し、それで終わりにするつもりだった。だが、異国ではなく、異世界からでは話が別だ。



 絵空事、御伽話だろうと鼻で笑いとばす。なんてことが出来ればよかったのだが、そうはいかないものだ。


 話に出たリナの母国名も、文化も、時折顔を出す所作も、何もかも聞いたことも見たこともない。

 何十階にもなる建物が立ち並び、人が住むだけでなく、市場のような出店から雑貨、服屋等様々な店が一つの建物に入ってそれぞれが販売しているという。どのように管理・販売をしているのか、想像もつかなかった。


 それだけなら確証はないと言われるのかもしれない。けれども、自らの魔法が()()()()だと決定づけたのだ。





 "【真鏡(ヴァールハイト)】"




 真実を映す鏡という意味だ。



 この魔法は嘘を見抜く。

 そんな便利な魔法があるのならば、世の中平和になるなんて簡単。だが、現実は無情なもの。



 【真鏡】を使える人間は限られている。


 一、魔力量・質・使用できる魔法が全て中級以上であること。(中級とは、一般的に使われる魔法以上の能力、中型の魔物と戦えるぐらいのもの)

 二、風の属性魔法が使用できること。

 三、魔法を行使する前に指定された条件をクリアすること。



 一つ目は騎士団や有名な冒険者などにとってはあまり厳しい条件ではない。

 二つ目、まずここで殆どの者が脱落する。属性魔法を使える人はフェルガード国でもほんの一握りしか存在しない。且つ、風属性という指定があり、その希少さは跳ね上がる。

 そして三つ目、これがかなり厄介だ。


 先程の二つの条件を満たして、やっと魔法を使う前段階に入れるのだ。そしてここからの三つ目の条件とは、



 ・相手の目を何秒以上か見つめる。(魔法を使用する側の能力によって左右する)

 ・相手と最低三回以上言葉を交わさなければならない。

 ・発動時は相手の体の何処かに触れていなければならない。



 などなど。

 満たす条件や条件の個数によって魔法を行使する時間、精密度が変わっていく。


 因みにリナに使用した魔法は全ての条件を達成したお墨付きの結果だ。心を閉ざす等、軍でも一部の者にしか到達できない訓練をしていない限りは誤魔化すことは不可能。よって、リナは異世界人であると確定した。


 そうなれば不確かで中途半端な知識を教えるわけにはいかない。意味もなく隠れ森に居たなんてありえない。それが異世界人なら尚更、リナには何かがある。

 だから私自ら教鞭をとり、ざっくり、必要最低限の知識を与えた。だが、完璧とは程遠い勉強過程の最中、リナは姿を消してしまった。


 話で聞いていた異世界と比べてお世辞にも治安が良いとは言えない此方の世界。戦う術も持たない少女を一刻も早く探し出さなければならない。



 それなのに–––––––







「ねぇ、いい加減話してくれないかな」





 みっともなく震えながらも口を固く結んでいる馴染みの無い兵士。



 その立派な鎧は飾りなのかな?



アーノルド領(うち)にその汚い足でズカズカ踏み入って許されるとでも思ってる?」



 兵士の割には使い込んだ形跡が見られない綺麗な鎧に虫唾が走る。



 実力じゃないお飾りの兵士でも十分と、そう言いたいのか。随分舐められたものだね。



 素早く魔力を循環させ、練り上げる。抑えきれない魔力が風となり足元から吹き上げた。ディレットの【速度上昇】とはまた違った、少し緑がかった風が暴れながら体を覆う。


 軽く右手を上げた瞬間、一瞬にして複数の風の矢が出現。その数、およそ三十本は下らないだろう。

 即座に、且つ大量に矢を出現させる魔力量と魔力操作は、誰が見ても一線を画していた。



「おいおい。一斉に殺す気かよ」



 矢を向けられている兵士たちの顔色は青を通り越して白く変化。その様子に同情でもしたのか、横槍が入ってきた。反射的に眉間に皺がよる。



「庇うのかい?この汚い兵士(ゴミ)どもを?」



 この言葉を聞いて僅かながら顔を上げてディレットを仰ぎ見る兵士。期待を込めたその目が気にくわない。そして驚いた表情でこちらを見るディレットにも腹が立つ。



 一層のこと潰してしまおうか。



 さらに魔力を練り上げた。



「【檻籠(ガビア)】」



 固まる兵士たちの足元から風が吹き荒れる。上下左右に暴れる風は兵士たちを包み込むと、やがて大きな鳥籠を形成した。細かい無数の線–––––風が、止まることなく流動し、指一本の隙間なく囲んでいる。高さにゆとりはなく、飛び上がれるほどの余裕もない。



(それ)には触れないことをお勧めするよ。切り刻まれたいなら別だけどね」


「ジャスティン!」



 咎めるような声色に反射的に腕を振るっていた。腕の振りと同じ方向、ディレットに向かって風が吹く。



「ぶっ!おま、何するんだよ!」

「うるさい。私のする事に口出ししないでくれる?」

「俺にまでキレる必要なくね!?」

「もう一回して欲しいと?」

「言ってねぇよ!」



 ギャーギャー喚くディレットを取り敢えず黙らせようともう一度腕を振り上げた。が、慌てて同じ量の魔力をぶつけて風を相殺された。


 そしてその後の言葉に納得させられ、不服ながらも風をぶつけることは我慢することになった。







「隠れ森で殺すのはヤバイだろ。汚い血で森が汚れる。殺るなら出てからにしろ」



「あと、拷問用に二・三人は残しとけ。割らせる途中で死んだ時の替えが欲しい」





 この時の汚い兵士(ゴミ)どもの表情を出来れば絵に残しておきたかった。



 まぁ汚すぎて結局破いて捨てるんだろうけど。



 茶髪に少し垂れ下がった目。平均的な身長にどこにでもいそうな地味な服。ディレットはこの集団の中で一番まともそうな外見をしていた。

 だから兵士たちは"もしかしたら助けてくれるかもしれない"と期待したのだろう。結果は見ての通り、絶望に染まった顔を見れば自ずと分かる。


 目線を左へ向けると、そこにはポケットに手を突っ込んだディレット。気怠そうに森の景色を眺めていたが、徐に【檻籠】の中の兵士へ人差し指を指した。



「一番手前の奴と頬に傷のある奴。あー・・・あと一番小さいお前」



 指定された兵士は何事かとぽかんと口を開けていた。その様子を知らないのか態となのか、無視をしてその場を離れた。そしてこっちに歩いて来ながら一言。




「指定した奴等以外殺していいぞ」




 害のない顔をして口から紡ぎ出される残酷な言葉。怖がらせようと態としているのではなく、本心で言っているのだからたちが悪い。



「その三人はどうやって運ぶ?ロープで巻いて馬で引き摺るとか?」

「いや、そんなんで痛みに耐性ができても困る。俺が運ぶから地下室貸して」

「仕方ないな。最後に綺麗に掃除をして帰ること」

「了解」



 返事をした途端、【檻籠】の地面がせり上がる。



「うわああぁぁ」

「何だよこれ!?」



 足先から膝というようにせり上がった地面が徐々に体を覆っていく。殴っても剣で刺しても変化はない。ゆっくりと、けれども確実に土が体を覆う様は兵士たちの心を折るのに充分過ぎたみたいだ。絶望に染まった顔と普段通りの気怠げなディレット。


 咄嗟に手で口元を隠した。



 あぁ、本当にいい性格をしている。

 これだからディレットとの関係はやめられない。

 


 自然と吊り上がる口に嫌な気分はしなかった。ただ、ディレットに気づかれて面倒な事になるのは望んでいないから隠していたのだが。



「ジャスティン様」

「うん?どうかした?」

「恐れながら申し上げます。笑っていること、隠せていませんよ」



 アーノルド家筆頭執事、フェアの後継ぎであるヴァルター。王宮に引けをとらないと経験上自信をもって言えるほど、フェアは優秀だった。その後継ぎに決まったヴァルターが平凡なわけがない。

 しかし、自慢の執事に一つだけ複雑に感じることがある。



「あれ、一応手で隠していたんだけど」

「目が笑っていらっしゃいます。あと、先程のお声も随分と機嫌が宜しいように感じました」




 そう、気付きすぎること。



 人の行動や言動、目の動きや声色など、様々な情報から相手の感情を読み取る能力に長けている。


 読み取れて損はない。寧ろただの執事で収まらず戦闘能力にも秀でているため、アーノルド家にとっては非常にありがたい存在だ。



 頭では理解している。


 だが、それで全てよしかと言われれば話は別。



「それともう一つ」

「何か気になることでも?」

「謝罪か何かお詫びをするのであれば、早いほうがよろしいかと」

「謝罪?」



 意味が分からず首を傾げた。



「はい。ディレット様はいい加減に見えますが記憶力は人一倍ございます。細かい積み重ねで嫌気が差した、なんてことも無いとは言い切れません」



 何のことかと誤魔化す隙すら与えてくれない。のらりくらりと躱したところで、逃げ道を塞がれるのは目に見えていた。

 連鎖反応なのか、昔の記憶が次々と思い出される。遠い記憶に意識が飛んでいたせいで返事をし忘れてしまっていたところに、とどめの言葉を投げられた。




「少しでも気持ちがあるのでしたら行動されては如何です?()()()()()のように後悔されても遅すぎては意味がございませんよ」


「––––––––っ!」



 私の為を思ってのことならば容赦なく心を抉る優秀な執事。例えそれが私自身を傷付けようとも。



 体の力を抜いて溜め息を一つ。こうなったら認めるしか選択肢は無い。



「わかった、認める。後悔したくないしご機嫌でもとることにするよ。ヴァルター、アイツの好きな暴れ鹿のステーキと赤ワインを用意しといて」

「手配済みです」


「・・・・え?」



 歩き出していた足が止まる。うちの執事がちょっと何を言っているのか分からない。




「手配済み?指示は今出したよね?仮に先読みをしたにしてもいつ手配したの!?」

「ジャスティン様の性格上、素直に謝罪する事はまずございません。そうしましたら、お詫びにディレット様の好物をご用意なされるのは当然の流れ。ですから、先程ジャスティン様が【檻籠】を使用された際に家の者へ遣いを出しました」


「・・・お前は何になりたいの?未来(さき)読み師?軍師?」

「ジャスティン様の執事でございます」



 ヴァルターは一体何処に向かっているのだろうか。



「流石ヴァルターだな。そのブレない忠誠心に求められた以上のものを成し遂げようと努力する姿勢。好感がもてる」

「セーリオ様。恐縮です」



 未だ理解不十分なまま唖然としていると、何やら騎士と執事の少しずれた会話が始まっていた。



「気配の消し方も素晴らしい。家の執事を指導してほしいくらいだ」

「そんな滅相もない。アーノルド家の嗜みでございます。指導なんておこがましい事は出来かねます」

「相変わらず謙虚だな」



 セーリオ、空気を読め。転移魔法でこの場所に移されてから何もしてないでしょ。なのに何故腕を組んで偉そうにうちの執事を褒めてるの。


 そしてヴァルター。



 アーノルド家の嗜みって何!?




 立派な鎧に身を包み、真剣な顔で会話をするセーリオ。それに対し丁寧な対応を取りつつ、どこか嬉しそうな表情が見え隠れするヴァルター。拷問用の兵士の移動が完了し、満足げに木を背もたれにして足を伸ばすディレット。フードを被って森を眺めたまま微動だにしない人物一名。



 本当に色々と濃い集団だよね。

 だからこそ飽きないのだけれど。



 ここにもう一人いたらと、少し物足りなく感じる原因を思い出しては笑うのだった。




「早く用事を済ませて戻ってきなよ。じゃないとディレットが君の好物まで全部食べきってしまうかもね」



 


 

汚い兵士(クソ)→汚い兵士(ゴミ)に変更しました。腹黒でも汚い言葉を使う予定じゃなかったのに…。分からないものですね。

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