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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
28/30

隠れ森

別視点です。


久しぶりの投稿です。

気長に見ていただけますと幸いです。。。



 太陽が真上に登るお昼時。

 燦々と降り注ぐ光は鳴りを潜め、空一面を濁った灰色が覆い隠す。


 誰もが空を見上げ、その異常さに息を飲む。

 普段なら賑わっている町も静まり返り、人の気配すら感じられるか定かではない。




 張り詰めた空気が漂う中、切り裂くように荒々しい蹄の音が地を揺らす。


 

 決して真っ直ぐな道ばかりではない。



 細い道も急なカーブも、一瞬たりとも速度を落とさず駆け抜ける。一頭でも迫力があるに関わらず、それを数馬、更には等間隔で走り続けるその様は美しく、且つ、恐ろしい。



 そんな馬を操る乗り手は、統一されていない異色な集団。



 鈍い光を放つ鎧、若草色のマントを被る旅人、何処にでもいそうな一般的な服装、そして皺一つ見当たらない燕尾服を身に纏い、それぞれがその類稀な腕を振るう。


 先頭を走るのは、又もや他の人とは違う姿をした人物。


 華やか、けれども主張し過ぎない絶妙な加減で調整されたデザインは、目の肥えた者なら一発で見抜く一級品。馬が駆ける度、服の装飾が動きに同調して波打ち、それに伴って金の髪が後ろへ靡く。

 中性的な顔立ちに見えなくもないが、喉仏や馬の手綱を握る手が男だと主張していた。





「門を出たら俺が先頭を走る。ヴァルターは俺がいたポジションについてくれ」

「承知致しました」



 目立たない服を着た茶髪の男が後ろを走る執事––––ヴァルターへと声を掛けた。淀みのない返事にきちんと聞こえたのだと安堵し、直ぐ様次の目的である先頭を走る人物へと声を張った。



「ジャスティンは分かるな?」



 俺の問いに軽く手を挙げる。それを見て咄嗟に深い溜息が溢れた。




 こいつキレてやがる。




 その判断基準は沢山あった。



 例えば、さっきの返事の仕方。いつもなら微笑みながら返事をする、若しくはとぼけた顔で聞いていないなんてふざけたことをぬかす。それが無言で、しかも片手で返事を流すなんて、まぁありえない。

 後は馬の走らせ方や声とか諸々あるが、一番の要因はこれしかない。



 暖かみが一切なくなった目だ。



 いけ好かない奴と話すときでさえ感情を押し殺すその瞳が、隠しきれない静かな怒りを秘めていた。

 誰が抑えるんだよ、とか思うけれど、理由が理由なだけになんとも言えない。




 門を越え、それと同時に陣形が変わる。

 俺が先頭、ジャスティンが中央、殿はヴァルター、他の二人は左右に位置どりする。陣形が整った所で、先頭に立つ役目を果たすために得意の魔法を使った。



「【速度上昇(プレスト)】【拡張(エクタシス)】」



 まず初めに、風が俺の体を馬ごと覆う。隙間なく包まれた後、今度は後ろ目掛けて吹いていく。ものの数秒で陣全体を覆うと、一段階馬のスピードが上がった。それに比例して顔にぶつかる風の量も増加。上手くいった証拠だ。



 準備も整ったことだし、そろそろ行くか。



 手綱を軽く引いて足で相棒に合図を送る。俺の意図を難無く汲み取り、少しもスピードを落とさず方向転換。後ろには既に手で合図をしていたため、乱れることなくついて来る。


 今からはスピードを一定に保ちつつ体力を温存しなければならない。目的地は遠く、通常ならば三、四時間掛かるところを休みなしで走り抜ける予定だからだ。長時間の騎乗に備えるため、少し腰を上げて座り直し、なるべく無理のない体勢を整えた。






 日が傾き始めた頃、ようやく目的地を視認出来た。


 まだ距離はある筈なのに視認できる。ということは、視界の端から端以上に続く森林地帯がその広大さを物語っていた。



 徐々に距離が近づいてくると、スピードを緩め後方に下がる。反対に俺の前に出て来たのは金色の髪を靡かせたジャスティン。森の手前で馬を止め、俺たちはジャステインの後ろに横一列に並ぶ。全員馬から降りて片膝を立てると、右手は心臓に添え、左腕を背中に回した。

 神礼––––これは敬礼の中で最も高位の敬意を表している。

 



 敬礼の種類は大きく分けて四つ。


 一、目礼。目線を下げてゆっくり戻す。その際には頭も軽く下げる方がより丁寧。


 二、敬礼。胸に手を添え、お辞儀をする。一般的に多く使われるもの。挨拶だけでなく、相手からのお願い等を承る時にも使用される。主に男性が使用。基本、女性はカーテシー。


 三、最敬礼。片膝をたて、立てた膝と同じ側の手を膝の上に添える。反対の腕は背中に回して頭を下げる。通常、騎士が使用するが、王との謁見、又は謝罪する際にも使われる。主に男性が使用。基本、女性は深く膝を折ったカーテシー。


 四、神礼。王にも滅多に使用されない最も尊い敬礼。片膝を立て、右手は心臓に添えて左手を背中へ回し、頭を下げる。これは人間の中で最も大事な部位、心臓を相手に差し出すという行為を表している。相手に全幅の信頼を寄せ、且つ、その相手の為なら命を投げ出しても構わないという意味。



 この神礼が何故滅多に行われないのか。



 神礼––––神に最上位の敬礼をする。神の前で発する言葉に嘘偽りは許されない。つまり、場合によっては契約という形で相手に身を捧げる事になる。相手の意に添わぬ行動ないし言動をとったとしたら、その相手が望むのなら死に至る場合もありうるのだ。




 そんな最上位の神礼を躊躇うことなく全員が行った。因みに俺を含め、ジャスティンですら対象者の姿を見たことはない。だが、これよりも下の敬礼は許されないということは重々承知している。



 神礼を行った体勢のまま数分は過ぎただろうか。一言断りを入れ、徐にジャスティンが立ち上がる。



「反応がない。やはり何かが起きている」

「つーことは、いつもは何かしらの反応があると?」

「ああ。いつもなら一分も経たないうちに森が動く」

「森が動く・・・」



 質問に対し、返ってきた予想外な答えに戸惑う。呟いたヴァルターの言葉に知らないのは自分だけじゃなかったと一安心。



「正面に聳え立つ木が左右に動くんだ。まるで道を開くかのように」




 ・・・・・え?



 森が動く?




「でも何も反応ないんじゃね。仕方ない、取り敢えず中に入ろうか」

「勝手に入ってもよろしいのでしょうか?」

「本来ならダメだと思うよ。だけどこの森に()()()()()()()()が我が領土に入ってきたと耳にしてね。更に行き先は不可侵条約が定められたこの"隠れ森"と言うじゃないか」


「そんな勝手なことが許されると思う?無理だよね。誰の断りがあってアーノルド領(うち)に入ってきてるのかな?もう潰すしかないよね?」



 にっこり笑いながら首を傾げるその姿は、本来ならば整った容姿も合間って愛嬌があるのかもしれない。だが、恐ろしい程冷めた瞳に無理やり吊り上げた口なんて、恐怖以外の何物でもない。



「ま、まぁ一旦落ち着け、な?じゃあ森の中に入るってことでお前らもいいな?」



 振り返って他三人に確認。無言で頷きまくる三人を見て察した。コイツら俺に押し付けやがった、と。



 確かにこの中で、ジャスティンに遠慮無くなく発言出来るのは俺だけかもしれない。子供の頃からの腐れ縁というか、家族ぐるみで交流があったし、気兼ね無く付き合える仲ではある。だけど、だけどな。



 キレてるコイツは手に負えないんだよ!!



 言葉巧みに誘導し、気づいた時にはもう逃げ場がない状態まで追い込まれる。怒りの度合いにもよるが、酷い時は身も心も再起不能になり、存在していたことすら消えるとか。



 遠い目で昔の記憶を辿る。思い出されるのはキレたジャスティンを唯一鎮めることができる人物。特徴的な黒髪黒目のムカつくぐらい整った顔立ちのアイツ。フェルガード国で最強と名高い団服を着こなし、堂々と闊歩するその姿に他国は畏怖の念を抱く。



「お、おいディレット!」

「んだよ」



 人がせっかく現実逃避してるっつーのに!



 ディレットと呼ばれた人物––––つまり俺は、不機嫌な声のまま振り向く。そして予想外な出来事に目が点になる。

 アイツが着ていた団服、元い立派な鎧を着用した男の足下に魔法陣が描かれていた。既に光を放っていることから見ても、もう止めることは出来ないだろう。大の男が縋るように、しかも上目遣いで助けてと訴えてくるその様は正直気色悪い。



「お前、魔法得意だっけ?」

「え、今そこ突っ込むのか!?違うだろ!」

「あー、残念だけどもう遅いみたいだね。あっちに着いたら大人しくしとくんだよ」

「はぁ!?あっちってなん––––––」



 魔法陣から一層光が溢れ、収まったと同時に男の姿も消えた。



 本格的にやばいか、これ。



 一先ず探索魔法を使用。と思いきや、ジャスティンが俺の腕を横から掴んで止めた。その行動に自然と眉を顰める。


 逸れた場合、捜索する為に一分一秒も無駄に出来ない。僅かな差で生死の境となってしまうからだ。


 だからジャスティンの行動の意味が分からず、目で説明を促した。すると、悪びれもなくただ一言。



「使うだけ無駄だよ」

「はぁ?お前無駄ってなんだよ!目の前でセーリオがいなくなったんだぞ!やってみなきゃわかんねぇだろ!」

「うん。でもね、無駄なんだよ。だって––––」



 その時、ジャスティンを黄金の光が覆った。足下には案の定、鎧の騎士–––セーリオと同じ魔法陣が光り輝いている。

 先程の光景を目の当たりにしたため、これから起こる事を予測した瞬間、血の気が引いた。



「まさか、お前までいなくなるのかよ!」



 咄嗟に走り出す。

 けれども遅いと言わんばかりに輝きは増し、ジャスティンの体を覆う。シリアスな場面と裏原に陽気な笑い声が響き渡る。気でも触れたかと笑った本人に焦点を合わせると自然な笑顔を浮かべていた。



「よかった。まだこの森は見捨てられていない」



 そう溢すと、幸せな表情のまま姿を消した。

 一体何が起きているんだと考える間もなく、同じ光が俺を包み込む。



 おいおい、マジかよ。



 とうとう自分の番がやってきた。他の奴等はどうなったか確認したくも自分が輝きすぎて何も見えない。



 仕方ねぇ。なるようにしかなんねぇだろ。



 何が起きてもいいように、取り敢えず手にナイフを数本忍ばせる。ジャスティンの様子から悪いようにはならないだろうと、なんとなく思うけれど、念には念をだ。

 諦め半分、覚悟半分決めた矢先、待ち望んでいたかの如く一層光り出す魔法陣。



 さぁ、この先一体何が起きるのか。



 徐々に吊り上がる口は先程までの恐怖心を微塵も感じさせない。ただただ溢れんばかりの高揚感を表していた。



 未知のものに対する好奇心を抑えつつ、肩の力を抜いた。それと同時に視界が真白になり、やがて体の感覚がなくなった。



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