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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
27/30

月守祭

久し振りの投稿です。

不定期更新で心苦しいですが、今後ともよろしくお願いします!



 とうとう待ちに待った日がやって来ました。

 何か分かります?

 そうです!ご想像通りです!


 皆さんお待ちかねの"月守祭"!

 年に一度のお祭りでございます!!




 朝からハイテンション(内面のみ)で過ごしています。

 まず、朝は興奮しすぎたせいか寝覚めがよく飛び起きました。その後、魔法の練習に時間を費やするも集中力がなく散々な結果に。レフからドクターストップではなくティーチャーストップがかかりました。ではこのエネルギッシュな気持ちをどこにぶつければいいのか?答えは簡単、村に出てお祭りの準備や農業を手伝ったりして発散完了。



 それでも発散しきれてないから未だにテンション高いんだけどね!



 そんなこんなでもう夕方。いつもは守り人の休憩や団欒の場に使われている広場には円を描くように松明が設置され、中心には大きな焚き火がこれでもかと主張していた。小学生の頃に体験したキャンプファイヤーを思い出させる光景に一層わくわく感が止まらない。


 玉ねぎと同じ味のシミルンとジャガイモみたいな味がする芋を胡椒で炒めたものをつまみながら、開演時間まで時間を潰す。特等席である一番前、ではなく、中央より二つ後ろのベンチに座り熱々の食事を堪能。



「主様!是非一番前にどうぞ」

「さぁさぁ遠慮せず!」

「いえ、私はここで充分です。楽しみにしている子供達を前に座らせてあげてください」



 同じやり取りをする事数回。その度に守り人にとって"主様"という人物が重要視されている事実にプレッシャーを感じる。



「なんと慈悲深き方!」

「お前達、しっかり感謝するんだぞ」


「ぬしさま、ありがとーございます!」


「お気になさらず。一緒に楽しもうね」



 無邪気に手を振る子供たちに笑顔で対応、手も振り返し近付いてきた子供には頭を優しく撫でて愛想を振りまく。



 プレッシャーからくる罪悪感と謙虚という名を盾に断ったとは言えない・・・。

 笑顔の裏に隠れた本音には是非とも気づかないでほしい。








 ドンッ ドドンッ




 和太鼓に似た音が響き渡る。


 開けた広場の筈なのに、まるでホールに居るかのような重厚な音の響きに驚く。恐らく何かしらの魔法が使われているのだろう。思った以上の本格的な出だしに自然と期待が高まる。


 太鼓の音がピタリと止まる。


 すると、何処からともなく鳥の囀りが聞こえ、風に吹かれた時のような葉の音が会場を包み込む。音量が大きくなるにつれて暗かった周囲が明るくなり、そして焚き火の前に徐々に映し出された昼間の森の光景。咄嗟に周囲を確認すると真後ろは守り人の顔と通常の村の風景が広がり、左右も同じく変わりはない。ただ、正面の広場の中心に作られた劇の為の空間にだけ、昼間の森の光景が映し出されていたのだ。



 ふぁ、ファンタジーーー!!



 物語が始まる前から気分は上がりっ放し。口から飛び出かけた歓喜の声をなんとか押し殺し、若干前のめりの姿勢になる。そしてタイミングを見計らったかのように左側から登場した女性。

 その女性は可もなく不可もなく、平凡という言葉が似合う女性だった。性格も明るすぎず暗すぎず、周囲との関係も普通。ただ一つ違ったのは、唯一の家族である弟に対しての深い愛情だった。



 どこにでもいそうな女性、そんな人物が中心の物語が今始まった。









 見終えた感想を一言で表すと、胸いっぱい。



 いやボキャブラリーなさすぎじゃない?と思った人もいるだろう。だがしかし、この言葉が適切なんだなこれが。


 笑いあり涙あり、主人公が怒ると自分の感情もそれにつられてヒートアップしていたり。のめり込むってこのことを言うんだなと身をもって感じた時間だった。

 戦闘シーンは実際に魔法を使ったドンパチですよ。もうあれだよあれ、少年が初めてロボを見たときのあの目の輝きを想像していただけるだろうか。刃のぶつかり合う音や魔法で火を放った時の熱が本当にリアルで、こっちにまで飛んでくるんじゃないかとヒヤヒヤしたぐらいだ。そしてなんとも言えないのが劇の終わりのセリフ。



『ゆめゆめ忘れるな。天秤の皿は一つではない。どれか一つでも欠けた時、地の底より悪しきモノが世界を包むだろう』



 厨二病ちっくだけれども、こう、続きそうなワクワク感があるというか、アニメだったら絶対に二期に続く終わり方というか。まだ何かあるんだよ的な雰囲気を漂わせているのが個人的には好き。

 


 あぁ、もう一度見たいな。

 戦闘シーン白熱してたし。



 思い出すだけで高揚感に包まれるが、それと同時に一つ気になる点が思い浮かぶ。それは何か。



 ちーちゃんがいなかった。



 少し遡ってみよう。

 ちーちゃんは"カテーナ"という名前の人気キャラだったはず。しかし、カテーナと呼ばれる人物は出ていない。主人公が一度湖のほとりでその名を呟くシーンはあったけれどもカテーナ自身は見ていない気がする。ちーちゃんは最初の方にちょこっと村人Aみたいな役で出ていた気がしたけど、あれは流石にメインじゃないだろうし。


 ちなみに戦闘シーンはあの鳥肌男・・・ちーちゃん二号が活躍していた。非常に悔しいけれど、めちゃめちゃかっこよかったです。使用する魔法も近距離戦も、素人でもその凄さが分かるくらいだった。もしかしたら、あの男が村一番の使い手なのかもしれない。



 戦いに夢中になりすぎて視界に入っていなかったのだろうかと記憶を思い起こしていると、右肩に小さな衝撃が走る。そして間髪を容れずに胃が捩れるような圧迫感に襲われた。



「ぐぅぇッ」

「つーかーれーたー」

「はな、はなせッ!!」

「無理。癒しが欲しいもん」

「うぐッ」



 蛇の方が加減をしてくれるのでは、と思うぐらいお腹を圧迫する腕に一層力が入り、呼吸すらままならない。



 こ、このままでは折角美味しかったお芋ちゃんが口からフライアウェイしてしまう。



「ち、ちーちゃん、腕緩め・・」

「ヤダ」

「うぷっ」



 鼻の奥がツンと痛む。いよいよ限界が近い。

 短く呼吸を繰り返した後、無理やり大きく息を吸い込んで今できる最大の猫撫で声とぶりっこを発動した。



「でもこのままじゃ・・・ちーちゃんとぎゅう・・でっきないもん」

「ッ!!それはダメ!」



 その言葉と同じタイミングで開放感が体を包み込む。が、つかの間の休息と言いますか、次は首を絞められました。私の頭を抱え込んで後頭部辺りに頬をすりすりと擦り付けている。



 まぁ、リバースするよりかはマシか。

 自分が発した気持ち悪い声と言葉に精神はすり減らされたが、得たものに比べれば我慢できる。



「あ、そういえばさ、ちーちゃんどこに出てたの?」

「どこって?」

「劇だよ。一番人気のカテーナって役でドンパチすごいって聞いてたのに見つからなかったんだけど」


「・・・ちーちゃん?」



 返事がないので疑問に思い、顔を上げるとそこにはムカつくぐらいニヤニヤした顔がこっちを見ていた。何を考えているのか細かいところまでは分からないけど、碌でもないことは間違いない。



「どういうこと?」



 念押しの意味を含めて尋ねるが反応は同じ。ニヤニヤ笑い続けるだけ。



 あ、ダメだこれ。



 体のどこかでぷっつりと何かが切れる音がした。




「・・・・・」

「ケイ?」

「・・・・・」

「あー・・・ケイさーん?」

「・・・・・」

「悪かった!私が悪かったから無言でそんな目で見ないでーッ!!」



 そんなに態度に出ていたのだろうか。ただ、コイツを一度ぶん殴ってやろうかとか、これから暫くフル無視しようかとか、嘘泣きで無理難題をふっかけようかなとかしか思ってなかったのにな。



「声、心の声全部漏れてるから!」

「だから?」

「え?だから?」

「いっつも唐突に抱きついてきてしかも腕力半端ないし。毎回苦しいって言ってんのにさ。なんで直さないの?仲良いから何でも許されるとか思ってんの?」



 先程の猫撫で声からは想像もつかないドスの効いた声が自然と口から溢れ出す。



「ちーちゃんがほぼメインの場面に出るゆーからめちゃめちゃ楽しみたかった戦闘場面でも頭の片隅で探してたのに」

「か、かたすみ」

「結局おらんし聞いたらからかわれるしなんやねん。そんなんやったら無駄に時間使うんちゃうかったわ」

「ケイ・・・」



 怒りの言葉の端に込められた正直な思い。自分の意志とは裏腹に勝手に飛び出ていく。



「嘘つかれたんかと思った」

「嘘じゃないよ!!ちゃんと居たから!」

「・・・・」

「ほ、本当だよ?」

「・・・・いぃ」

「え、ごめん、聞き取れなかった。もう一回言ってくれる?」

「っ、だから・・・それならいいって言ったの!何もなかったんなら・・それでいい」



 これが本当の理由。ちーちゃんが私に嘘をつくなんて相当な理由がなければしないってことぐらい分かる。だからこそ姿が見えないことに焦りと心配する気持ちが徐々に大きくなっていった。それなのにからかわれるとか、ないわって思ってちょこっとキレた。


 まぁ勝手に心配して勝手に怒って、お門違いだろうけど。



「・・・ぁと」



 小さな声に何だと目線だけ上げる。声を発した本人は顔を俯けている為どんな表情をしているのか分からない。


 あれかな、もしかして自分勝手に怒っちゃったから流石に不快に感じたのかな?


 そう思うと徐々に血の気が引いていく。折角仲良くなれたのに、自分を偽らずに過ごせる唯一の人間なのに。自己中心な私はあんな暴言を吐いたにも関わらず、ちーちゃんを失いたくないと思っている。



「ケイ」

「な、なに?」

「・・・・」

「あー、えっとね、さっきのは全部本心ってわけじゃなくてね、その・・・言いすぎましたごめんな–––」





 ふわりと鼻孔をくすぐる柑橘系の香り。


 いつもの匂いだと理解した時には、言葉を遮るように口を塞がれていた。



 何が起きたのか疑問に思う間も無く、壊れ物を扱うみたくそっと回された腕に包み込まれる。




「もう本当に大好き」




 女性にしては少し低めな声が鼓膜を震わす。 ぞくりと背中が震えたが、気合いを入れて背中に腕を回す。すると、ちーちゃんの体が一瞬ピクリと反応し、先程よりも力強く抱きしめられた。



「ーしぃ」

「うん?」



 甘さを含んだ声が言葉の続きを促す。

 私は背中に回した手で服をぎゅっと掴んだ。






「–––––苦しいって言ってんの!このバカっ!!!」




 掴んだ服をそのまま後ろ側に引っ張り、体を無理やり離させる。そのお陰でやっとこさ作れた空間で即座に思いっきり息を吸い込む。


 ロマンチックなムードが展開された。ただし、側から見たらの話だ。実際はちーちゃんの肩が口を塞ぎ、そのまま抱き締められたため更に圧迫されて空気を失い、これはヤバイと背中に手を回して無理やり引っぺがした。これが真実である。



「抱きしめる度に苦しめないでって言ったばかりだよね!?なに、言葉通じないの?それとも私の言うことは話半分ってわけ!?」

「あれ?優しく抱きしめたはずなんだけど」

「肩だよ肩!肩が口を圧迫して息ができなかったの!」

「それは盲点だったよ」



 あはははと爽やかに笑う。ピキッと青筋が立ったのが感覚で分かった。



 全然反省してないなコイツ。



 さぁどうしてやろうかとあらゆる嫌がらせに思考を飛ばしていたら、ふいに頬に温もりを感じた。



「怒ってるケイも可愛いね」



 温もりの正体はちーちゃんの手でした。そしてキザったらしいセリフで誤魔化そうとしています。


 私は村娘とは違って絆されたりしないからね!



「そんなごますりで絆されないよ」

「ごま・・?いや、思ったことを言っただけだよ。それに」

「それに何?言い訳するなら聞こうじゃないの!」



 けれども、どんとこいやぁと構えていた勢いは呆気なく終わりを迎えてしまう。




「それに、私に対して本気で怒るぐらい心配してくれる相手を唆す意味ないよ」


「私が居なかったから、何かあったんじゃないかって心配してくれたんだよね?ありがとう」

「べ、別に心配なんか・・・」

「ちゃんと見てたよ。私を探して辺りを見回すケイの姿」

「–––––っ」



 見られていたなんて知らなかった。恥ずかしさのあまり、顔に熱が集まってくる感覚がする。見られたくないと顔を俯かせるも、頬に添えられていた手がそれを許さない



「ダメ。隠さないで」

「離してよ!ちーちゃんの言った通りだから!これで満足でしょ?」

「ううん。今浮かべているその表情も私のもの。例えケイでも邪魔するのは許さない」



 あまりにも嬉しそうに微笑む顔に、恥ずかしいとか逃げたいとかいう気持ちは消えてしまった。何だか全部馬鹿らしく思えてきた。



「何それ。我儘すぎでしょ」



 自然と笑えてくる。



「私がわがままなの知ってるよね?」



 私の機嫌が直った事を瞬時に悟ったのか、またもや調子の良いことを言ってくる。しかも、それがまたニコニコと嬉しそうで毒気を抜かれてしまう。



 ただ、このままじゃ何だか負けた気がするので、取り敢えず一発殴っておこうかなと、さり気なく手の形を変えていくのだった。




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