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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
22/30

守り人


 柔らかい芝生の上に転がっている今日この頃。

 何もすることがなく近くにいたウサギさんやリスさんとほのぼのごろごろタイム中でございます。


 魔法の練習をしようと思い立ったのだけれども、レフが見当たらないので出来ない。いつも通り魔球形成が上手くいかず痛みにより気を失い、目が覚めたらこの状態。今まで目が覚めてレフが居なかったことなんてなく、少し不安に思うが動物が癒してくれているお陰でパニックならずに過ごせている。


 右を向くと白のもふもふ。目線を下げるとお腹の上で小さくまるまる茶色いもふもふ。



 あぁ、天国だ。



 誰もいない今、にやける顔を我慢する必要はない。だらしなく崩れる顔を放置して気の赴くままもふもふを堪能する。



『ケイ』


「うぉあぉっ!?」



 乙女とは程遠い声が出てしまいました。しかも今は"私"なので余計に可愛くない。"僕"よりも"私"の方が可愛くないって、女なのにって思う心には雁字搦めレベルの蓋をしている。


 妄想完璧キャラのケイくんには誰も敵わないんですよ。そういう設定で作ったからね。悲しいとか悔しいとか、思ってないんだから!!


 

『聞いているのか?』

「へ?う、うん!聞いてる聞いてる!というか、何でレフの声が聞こえるの?」

『・・・・』



 無言の後、呆れを含んだ溜め息が聞こえた。

 あれ?なんか言ってたのかな?



『後で説明する。兎に角呼ぶぞ』

「呼ぶって誰を?話す時はちゃんと主語がッ–––」



 足元に魔法陣が現れ、何だこれと疑問を浮かべる暇もなく私の体は消え去った。








 急に襲ってきた眩い光に目を細め、反射的に手で影を作る。強い刺激に今はお昼頃かとなんとなく感じ取ると段々お腹が空いてくるのは何故だろうか。



「おぉ!この方が…!」



 咄嗟に身構えた。聞いたこともない声がこの辺りでする筈がないからだ。

 大型の魔物でも絶対に入ってこないこの中心部に、しかもその力が最も濃いこの神殿の近くに人がいること自体おかしい。


 混乱する頭に低く、そして心底可笑しいとでもいった笑い声が唐突に響いた。



「そんなに威嚇するな。見ろ、お主のせいで焦っているではないか」



 笑い声の当人、レフを見つけると口元は弧を描き、目も若干垂れ下がっていた。何がそんなにおかしいのか分からずむっとするが、その目が自分を映していないことに気が付いた。


 何を見ているんだろう。


 レフの視線を辿っていくと更に疑問が増えた。そこにいたのは杖を突いたご老人と、髭の生えた逞しい男性二人。どちらも奇妙な動きをしていて、ぶっちゃけ何をしたいのか分からない。手をこちらに差し出そうとしてはやめ、口を開けては閉じ、何かしようと必死なのは伝わってくるけど、果たして何をしたいのか不明だ。


 一旦意味のないファイティングポーズはやめてその三人を無言で観察していたが、いつの間にか隣に立っていたレフに頭を顎で小突かれた。



「痛い。急になにするの」

「そんな無表情で見つめてやるな。初対面で冷めた目で見られると結構堪えるものだ」

「そんなの言われても困る。というか、何この状況。私さっきまで神殿でもふも・・・レフの帰りを待ってたんだけど」

「・・・お前に会わせるためだ」



 呆れた溜め息を溢しつつも視線で何かを訴えてきた。その移動した視線の先を素直に辿っていくと奇妙な動きをしたあの三人組がいた。



「こ奴等はこの森にある村の者でな。守り人と言われる者達だ」

「守り人?」

「そうだ。我の力が及ばない部分を守ってくれている」



 さっきまでおろおろしていたのに急に姿勢を正し、真剣な表情に変わる。

 なんだその変わりようは。



「神殿を守っていてもこの森の中では多少力を自由に使う事が出来る。この神殿に辿り着けないように方向感覚を狂わせたり、何の目的でこの森に来たかわからなくさせたりな。だが、直接的に危害を加えたり森の外では使えず、外で何が起きているかなども知ることができない」

「それって、木を操ったりできるの?」

「そうだな、僅かだが木を移動させたり枝を揺らしたりと、些細なものならできる」



 レフは以前、神殿を維持する為に大半の魔力を注ぎ込んでいると言っていた。だから"力"を通じて私を見ていても助けることは出来なかったと。だから今回の説明で一つ引っかかっていたものが解決した。



 神殿を見つけるために森に入ったあの日、負傷しながらも大蛇から逃げていたあの時、何故か運良く逃げきれていた。丁度いいところに支えになる木があったり、盛り上がった根っこに足をとられて運良く大蛇の攻撃から逃れられたりした。あれはレフが助けてくれていたのだと分かってスッキリすると同時に、温かい感情が湧き出てくる。




「守ってくれてありがとう」

「む?うむ」



 よく分かっていないながらも私からの感謝の言葉に尻尾を揺らす。



 あぁ、可愛すぎる。



「うおっふぉん」



 口元辺りに握り拳を添えたご老人のそのポーズを見て、やっと先程の音が咳き込んだ音なのだと判明した。



 態とらしすぎて何の音かわかんなかったわ。



 話を遮ったからだとは思うし申し訳ないとも思うけど、だからといって私とレフの間に入られるのは良い気分ではない。自己中心的な考えだと分かっているだけに文句も言えず、けれども感情を押し殺すほど人間できている筈もなく、鋭くなる目を止められない。



「それで、守り人って?」



 自分が遮ったのだから会話の続きを促すよう言葉を発したが、予想外に冷めた声が出てしまったのには気付かないでほしい。



「あぁ、我の代わりに外側からこの森を守ってくれているのがこの守り人達だ。外で何が起きているか知らせに来たり、その時代の流れによってこの森の守り方を変えてくれている」

「まさか、この森に入ると呪われるっていう噂を流したのもこの人達だったりとか?」

「そうだ。森の中にある神殿を見つけると願いが叶うなど、愚かな噂が流れたせいでな。一時期うんざりする程の者達がここに押し寄せて来ていたのだ」



 先程まで狼狽えていたのに感極まった顔でレフを仰ぎ見る急激な変化についていけない。ころころ変わる表情に気にするだけ面倒だと考えることを早々に放棄した。



「感謝しないとね」

「何の事だ?」

「だって守り人の方々がいてくださったからこそ、こうやってレフと巡り合うことができたんだなーって思ったから」

「ああ。そうだな」



 柔らかい声に誘われて顔を動かす前に頬に感じたふわふわな毛並みと温もり。



「今このように外に出られるのもケイと契約出来たお陰だ。感謝する」

「私からも、レフとこの神殿を守って下さってありがとうございます。皆様のお力でレフと出会うことができ、希望を失わず生きる決心がつきました」




 すぐ側にある黄金の瞳は斜め先の方を見つめ、穏やかな声と表情に自分の顔も一緒に綻ぶのが分かる。

 レフが幸せだと私も幸せだ。つま先立ちをしてレフの首元に腕を回し、柔らかい毛並みに顔をうずめた。


 今迄のここでの暮らしがさっと頭の中を駆け巡る。



 変な女に助けを求められ

 裏切られ

 強姦されかけ

 良い人を見つけたと思ったら理不尽な嫉妬をされ

 騙され

 殺されかけた。



 これは地球での何かしらの罪の精算なのか、それとも既に決められた運命だったのか。助けたいという自分のエゴも含まれていたのも確かで、一言に全てが周りのせいだとは言えないし思わない。でも辛かったのもまた事実。


 その時に出会ったのがレフだった。一緒に過ごし始めて全然経っていないしお互いの事もまだ良くわかっていない。けれどもお互いに大切にしようとしていることはわかる。契約後、刻まれた印が目に見える証拠だとしたら、側にいて心がほんわか温まることが目に見えない証拠だ。






「びぇ…ぐすっ。うっ…」




 奇妙な声に不意に現実に戻された。心地良いぬくもりから嫌々顔だけ離し、声がした方向を横目で見ると反射的に目を見開いてしまった。



「えっ……」



 なんか物凄い事になっているんですけど。


 レフに紹介された守り人達が目から洪水のように涙を流し、鼻からもそれなりの量が飛び出ていて口からも溢れる手前。



 一体何が起きた。



「うっ、ぐす、ぼんどによがったっず…」

「森神様がお幸せそうで…」

「主様ぁ、ありがとうごぜぇやす!!」



 色々突っ込みどころがありすぎる。


 森神様ってレフのことだよね?え、じゃあ(ぬし)様ってまさか私のこと?色々聞きたいことはあるけど、一先ずこのカオス的状況をどうにかしよう。



「私は何もしておりません。皆様のお力があってこその今なのです。本当にありがとうございます」



 落ち着いて頂きたいのと感謝を伝えたかったから、なるべく刺激しないように、努めて、優しい声を意識した。


 外面の仮面を被るなんて接客業している人ならお手の物でしょう。まぁ、私の場合は一歩家の外に出たら自動的に外面モードになってしまうのだけれども。



「ぞ、ぞんなありがたやあああぁぁ」

「あっじらなんもじとらんでずぅぅ」

「うおおおぉぉぉぉ」



 結果、逆効果。



 感謝していたのは本当なんだけど、うん、もう知らない。










 あれから約三十分、やっと落ち着いた三人に案内(強制的。ここ大事)されてやってきたのは小さな村。木造という表現を使うか迷ってしまうような複雑な仕組みはなく、簡易的に建てられている家が数件。これまた木で出来た柵の中には鶏らしき生き物がぽてぽてと可愛らしく歩いている。



「これがあっしらの生命線ともいえるものでさぁ」



 ムーキィー–––––逞しい男性の内、サンタクロースに似たもじゃ髭を蓄えたほう–––––が、地中に埋まっているものを引っこ抜く。うっすら縦線の入った、ちょっと汚れたオレンジ色をしたものが握られていた。


 ゴツゴツとしたこれまた逞しい手が予想外に繊細な動きで皮を剥くと、現れたのは上部は淡い緑色をしていて、下がっていくと白っぽく艶やかな表面が登場。恐る恐る近づいて鼻をすんすん。ツンっとした痛みが脳天まで駆け巡り、一瞬にして視界が滲んだ。



「これ、私が好きな食べ物に似てる」

「シミルンですか?珍しいですな」

「え?シミ・・?珍しいんですか?」

「辛かったり切るときに目が痛くなったりするので、好き好んで食べる者は少ないのですじゃ」



 なんともったいない。もし私が想像している野菜と一緒のものなら、あんな万能なものは無いと思う。個人的に好きっていう贔屓目もなくはないけど。


 ものすごく食べたくなった野菜を眺めている間に何やら周りがザワザワと騒々しい。目線は動かさず耳だけ意識を周りへ向けたところ、どうやら農作業で人が足りないとのこと。



「そう言われてもな、俺たちゃ主様をご案内しているところなんだ。こっちのが優先に決まってらぁ!」

「それは分かっているんだが、こっちも人手が足りなくてな。若い奴らは街に売りに行ってしまっているしなぁ」

「二、三日ぐれぇ待っても大丈夫だろ」

「それがな、今回は売るだけじゃなく衣類やその他の必需品の買い出しも兼ねてなんだよ。恐らく一週間はかかるんじゃねぇかな」



 どうしたもんかと腕を組んで悩む二人。因みにご老人と男性一人は昼食を用意してくれるらしく、その準備の為不在にしている。


 話を聞きながら生まれた良心の呵責と自分の淡い欲望が、我慢できずに口を伝って飛び出した。



「あの!もしよろしければ私にお手伝いをさせて頂けませんか?」










 雲一つない青空の下。


 日向ぼっこをしながら熱いお茶をすすりたくなる恵まれた良い天候。そんな中、黒く輝くブーツと通気性のいいツバの広い帽子を装着し、腕まくりをして立っています。



「おーーーいぃぃぃ!!」



 少し遠くに第一村人発見。

 決して某番組を再現しているのではない。至って真面目です。


 お腹から声を出し、大きく手をブンブン振って自分の存在をアピールした。これは非常に大事なことなんです。




「たーすーけーてーくーだーさぁぁぁいぃっ」




 現在地、田んぼの中心。

 ここからミジンコ程も動けないんです。


 入るときはズンズン進めたのに出ようとしたら動けないとか、トラップか。無理に動かそうとするとバランスを崩して倒れるのは目に見えている。


 泥んこまみれとかやだ。虫が服の中に入るのもやだ。でもずっと立ったままもやだ。


 野菜を貰う代わりに農作業を手伝うと言い出したのが運の尽き。自分の今の状況が非常に情けない。



 遠かった人影は今やこの田んぼの縁に到着していた。声優を目指していた際に鍛えた声は無駄ではなかったようだ。服の裾を軽くたくし上げて片方で結び、足だけで靴を脱ぎ捨て裸足のままこのトラップの中へ。躊躇うことなくこちらへ向かってくるとあっという間に小麦色の腕が伸びてきた。



「捕まって。このまま引っ張って行くから」



 そっと手を重ねると力強く握り返された。その人は重ねた手をじっと見つめて、ふと顔を上げた。



「すごくスベスベだね。色も白くて綺麗」

「え」

「手も小さくて可愛い」

「あっ」

「手、離さないでね」



 "僕"から"私"に戻った時、髪と目の変化以外に肌の変化もあった。以前のブツブツニキビ肌ではなく、ツルスベもちもち肌に変わっていたのだ。


 自分でも忘れていた変化を指摘され、戸惑っている最中、急に手を引っ張られ体制が崩れた。



 ヤバイ、このままじゃ天然泥んこパックをする羽目になる。



 取り敢えず繋がれてない手を前に突き出した。意外と深いから意味ないかもしれないけど、やらないよりはマシだ。

 手が接触する寸前、突如体が起き上がる。そして左に引っ張られた。それと同時にふわりと香る柑橘系の匂い。



「こっちに体重預けて。リードするから」



 左手は相手の左手に握られたまま、回ってきた右手は腰に触れ、引き寄せられる。絵図らで言うとダンスの先生が後ろから覆うようにして教えている感じ。



 そう、密着度がかなり高い。



 もう恥ずかしいやら何でこんな事になったのか分からなさすぎて思考回路がショートした。そして気がついたら田んぼから脱出し、でこぼこ道に立っているというミラクル。

 目の前には抜け出す為に自分の足を犠牲にして泥まみれになった人が、ほっぽった靴を回収し終えたところだ。



「あの、ありがとうございました」



 まだきちんとお礼を言えていなかったので慌てて頭を下げ、素早くポケットからハンカチを取り出す。



「あ、あのっ、これ使ってください!」



 両手で相手に差し出して再度頭を深く下げる。


 なんか告白のワンシーンみたいになってしまったがそれには触れないでもらいたい。


 今更気にしてもしょうがないし、そのまま地面を見続け頭を下げた状態をキープ。すると両肩を軽く捕まれ、体を起こされた。次に間を空けずに柔らかい何かが頬に触れた。目線だけ下げてその手に握られたものを確認し、何故こんなことをしているのか目線で疑問を投げかけた。



「ごめんね、白いハンカチ汚しちゃった。だけど、そのお陰で綺麗な君を見ることができたんだから、これで怒られても本望かな」



 なぁんてね。



 舌をペロリと出しておどけつつも柔らかい瞳で見つめられる。

 気がついたら鼻と鼻が触れあいそうなぐらいの距離にこれまた柔らかい笑顔があった。



「困ったらいつでもおいで。一番神殿に近い家に住んでるから」



 少しガサついた、けれども暖かい手が左頬をゆっくりと撫でる。



「待ってるから」



 相手が離れて行くと共に包まれていた柑橘系の香りも無くなる。反転した体を進め、一度顔だけ振り返って太陽のような明るい笑顔を浮かべて小さく手を振った。そして再び歩み出す。



 赤よりのストロベリーブロンドのポニーテールが歩くたびに左右に揺れ、そよ風が涼しげなワンピースを靡かせる。





 女の子なのにイケメンすぎるでしょッッ!!!





 田んぼの縁でこの気持ちを叫ばなかった私を誰か褒めてください。そして共有したい。


 男前過ぎる行動とセリフにときめいた事実はお墓まで持っていきたいと思います。


修正箇所

ダークブラウン→赤よりのストロベリーブロンド

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