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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
19/30

誓い

長めです。

 

 暫し狼と見詰め合う。互いに目を逸らさず動きもしない。


 生意気な事を言ったから殺されるかもしれない。この力を何だと思っているんだーって。神殿に仕えてるというか、守ってるような感じがするし、もし戦いになったら即死だわ。



 ・・・あれ、つんだ?



 なんて考えは捨てた。何考えても実際起きるまで無意味という事を学んでいるからだ。


 狼は金色の瞳を細め、じっとこちらを見つめる。




 どれぐらい経ったのだろうか。恐らくまだそんなに経っていない筈なのにもう十分以上は過ぎた気がする。その威圧感に後ろへ下がりたくなるが狼の体が邪魔をして許さない。

 正直逃げ出したい。でもここで逃げたら地球へ帰るという目的に手を伸ばす事すら叶わなくなる。そんな気がしてならない。


 だが、それもそろそろ我慢の限界。張り詰めた緊張感と鋭い視線に段々意識が遠のいていく。




「その素直な心、気に入った」



 朦朧としてきた意識の中、目端で徐々につり上がる口を捉えた。



「力を貸そう。おぬしの求めるものが得られるように」



 私を包み込むように囲んでいた体との距離がより近くなり、一層肌に触れるふわふわ度が増した。迫る迫力のある顔に思わず目を瞑った。顔に広がるふわふわな感触。気持ちよくてつい頬擦りしてしまう。抵抗される可能性も考慮していたが全くもって無反応。それならばと調子に乗って腕を伸ばしてみたところ、顔同士をくっつけあっていることが判明。腕はそのまま狼の首あたりに回してぎゅうっと抱きついた。



「私の名を呼べ」

「え?名前?呼べって言われても知らないんですけど

「感じたものを言葉にしろ」

「そう言われても・・・それ、名付けるってことですよね?」

「そうだ」



 急に名付けろって言われても自分の名前すら決まっていないのにどうしろと。名は体を表すと言うし、適当になんか決められない。


 いきなりの責任重大な展開に恨めしく見上げると澄んだ瞳と目が合う。どんな黄金よりも美しく輝く知的な瞳。艶やかな毛並みと又合う。



 うん、決まってしまった。





「レフィナド」



「レフィナド?」

「うん。上品な、洗練されたって意味です」



 滲み出るオーラと理性を宿す瞳。そして狼なのに気品すら漂う気配が決定打だ。



「好きじゃない?違う名前を考えましょうか?」

「いや、気に入った。次はおぬしの番だ」

「私?私の名前も今決めるんですか?」

「でないと契約できん」

「・・・・・」



 落ち着け、落ち着け自分。


 なんだこのファンタジーな理想的な展開。色々一気に起きすぎて頭パンク状態だ。



「契約とは、どのようなものでしょうか?」

「そうだな・・・少し長くなるが説明しよう。この世界の住人は殆どが魔力をもち、魔法を行使することは知っているな?」

「はい、この前"魔球"についても学んだばかりです」

「ならばそこの説明は省き、簡潔にこの世界の住人がどのように魔法を行使しているかを話そう」


「生れながらもった魔力の質や量が異なるのと同様に、それぞれに"色"がある。攻撃魔法に特化した者、防御魔法に特化した者、また、回復や無魔法に特化した者など様々だ。その"色"所謂、特色から職業を選択していく。騎士・守護兵・衛兵・冒険者・薬師・聖女等、細かく言えば多種多様な職業が存在する。その中でも異質とも言われるているのが"従魔師(テイマー)"だ」



 "従魔師"ってRPGとかによくある魔物を仲間にするやつだよね。ゲームでは普通にレアでもない職業だけど、この世界では違うのかな。



「"従魔師"とは"人ならざるモノ"と直接的な関係を結び、契約した者のことを言う。後で簡単に説明するが"召喚士"のように魔力を媒介にして呼ぶその場限りのものでなく、名前の通り、魔を従える。つまり、契約した"人ならざるモノ"を思うがまま従わせることが出来るのだ」



 その後、続いた説明を自分なりに解釈し、まとめてみた。



"召喚士"

 魔術書に記載された手順に従い、己の魔力と引き換えに"人ならざるモノ"を呼び出す者。個人の"色"や魔力量・質によっても呼び出せるモノが異なり、全く出来ない者も少なくない。


 欠点は召喚に時間制限や回数制限があること。モノによっては魔力だけでなく、その他生贄等必要なものがある。また、魔力量・質によって召喚時間が変化する。

 美点は、召喚対象と相性が良ければ比較的簡単に召喚できる。



"従魔師"

 "人ならざるモノ"より与えられた様々な試練や要求を満たし、信用を得て契約できた者。


 欠点は契約達成が非常に困難なこと。対象者(人ならざるモノ)によって試練は様々であり、失敗すると力を失ったり命を落とすことも。逆に対象者に取り込まれることも多々あるという。また、契約の種類にもよるが、対象者が亡くなった場合、主人(従魔師)に付与されていた魔力等残る事もあるが、主人が対象者に力を与えていた場合、それごと無くなり力は二度と戻らないリスクもある。(逆も然り)

 美点は、召喚時間など関係なく常時側にいることが可能。契約を結んだ段階で対象の魔力、魔力の質、特質などを共有・付与されることがある。また、召喚とは違い契約対象は主人を裏切ることができない。



 両職種共に書物からだけでなく対象者に遭遇後、交渉の上、召喚、又は契約に達することも可能。


 どちらにも例外はあるが、主な内容はざっとこんな感じだと思う。




「従魔師が異質と言われているのは、召喚士と違い、契約すること自体が奇跡的な確率だからですか?」

「左様。召喚士も珍しいが少し地位の高い者なら伝手があるぐらいだ。だが、従魔師は()()()()

「国が・・・」

「それだけではない。契約するには双方に莫大な力が必要となり、対象者と力の差がありすぎると契約自体成立などしない」

「ということは、契約できる従魔師自体の力や素養が良く、更に契約対象の力が加わるってことですよね?」



 重々しく頷く狼––––レフィナドに対し開いた口が塞がらない。


 従魔師が異質と呼ばれるのは対象者の力をプラスで得られるだけでなく、契約できるほど本人の力が優秀(異常)だからだ。先程、契約するには双方に莫大な力が必要と言っていた。RPGで初期に出現する弱いモンスター、例えばゴブリンなどは契約する為の強力な力を持っていないのでできない。つまり、必然的に対象者は強者に限られるということ。

 ふさふさな毛並みに手を当てたまま少し距離を取り、重厚なオーラを放つ凛々しい顔を見つめる。



 そう、レフィナドのような––––。



 恐らく、レフィナドは伝説級と言っても過言ではない奇跡的な存在だ。レフィナドから滲み出ている圧倒的な力だけでなく、その存在と契約することができる力を守り続けていたのだから。現在、私と交わったこの力を。


 ここまでの話で凄いな、で済む状況ではない。全部を簡潔にまとめた結果、答えは一つ。



 私の命が危ない!!!



 いや、だってそうでしょ!レフィナドが契約を持ちかけたということは従魔師になるということ。そうなれば国がこぞって取り込もうとしてくるだろうし、更には危ない組織とかにも狙われたりして・・・。


 死亡フラグとしか思えないんですけど。



「理解できたか?」

「理解はできましたけど・・・」

「では、契約に必要な名だが、何か思いついたか?」

「いやいやいやいや、話だけでいっぱいいっぱいでしたから」

「ふむ・・・」



 尻尾を地面で叩きながら何やら思案顔だ。

でも、なんかごめん。その仕草、私からしたらちょっと悶えるぐらい可愛いわ。

 ずっと尻尾の動きを眺めてぼーっとしていると鼻で小突かれた。


 あら、バレたかな?


 ちょっと後ろめたく思いつつ顔を上げると嬉しそうに目を輝かせた黄金の瞳を発見。



 ・・・ん?



「ケイ、というのはどうだ?」

「うん?どうとは?」

「お主の名だ。我が考えた。意味は我と同じで"上品な"という意味だ」



 どうだ!いい名前だろう!と言わんばかりに左右に激しく揺れる尻尾。

 なんだその仕草に輝く目。しかも名前の由来をお揃いにするとか可愛すぎか!!心の中で悶えまくっていると頬に触れた触り心地の良い毛並み。



「気にいらないか?それならば自分の好きな名をつけると良い」



 頬に顔を擦り寄せ甘えて来た。尻尾だけでなく耳もペタンと下がっている。



「ケイにします」

「いや、無理をせずとも・・・」

「ううん、名前の響きも前の世界と馴染みがあるし、それに名前の意味が一緒とか嬉しいし」



 アレを見て断固拒否出来る人が果たして何人いるのだろうか。因みに私は即座に白旗をぶん回す勢いでした。



「でも、レフィナドは神殿を守っている訳だし、契約しても大丈夫なんですか?守っていた力を私が持っているからといって無理に契約する必要はないと思います」



 思っていることを言葉にする毎に徐々に興奮も冷めてきた。そしていくつもの疑問点が思い浮かぶ。


 冷静に考えるとおかしくない?従魔師になるためには対象者の信用を得なければならない。今回初めましての状態で、しかも会って意気投合した訳でもない。

 それなのに何故自分の命を預けるようなリスクを負うことが出来る?



「それに、この力の為に契約されても信頼なんてできませんから」



 自分と一心同体になったこの力以外秀でている物は何も無い。でも契約という大きなリスクを背負ってまで守りたいものなんてこの力しか心当たりはない。

 だが、この力しか見ていない相手をどうやって信用しろと言うのだろうか。今後助けられたとしても自分の為ではなく力を守るためだと思い続けるだろう。そんな関係息が詰まる。


 心の奥底に仕舞われていた嫌な感情が燻り出す。


 ふいに鼻先で小さく小突かれた。無意識に距離を取ろうと立ち上がりかけていた体は再度レフィナドの体に沈んだ。



「我はおぬしを気に入ったと言っただろうが。それにこの神殿に居たのは其の力を守る為。おぬしと一体になった今ではこの神殿に居座る理由が無い。それに我以外にもこの神殿の守護者はおる」


「勘違いするな。力に選ばれた者だから契約するのではない。お主・・・ケイだからこそ我の身を預けても良いと思ったのだ」



 そんなの綺麗事の上っ面だ。



「私だからっていうけど、あなたは私の何を知っているの?ついさっき出会ったばかりのクセに知った風な口をきかないで。よく知らないままリスクの高い契約を結ぶなんて裏があるとしか思えない」



 心が乱れる。



「何を思ってそんな発言をしたのか知らないけど、馬鹿にしないで」



 悔しくて視界が滲んでいく。


 私が今までどんな人生を歩んできたのか、この世界に来てしまってからどんな生活を送っていたのか知らないくせに。会って数分で気に入った?は?ふざけんなや。


 わかってる。別にそんな深い意味はないかもしれないってことぐらい。けれども、信じて裏切られたくない、これ以上傷付きたくないという防衛反応がもう体に染み付いてしまっていた。



「今までどのように暮らしてきたのかなど知らぬ。だが、この世界に来た時からケイのことは知っていた」

「は?どうやって–––」

「最初からケイが適合者だと知っていた。"力"が我にその姿を見せていたのだ。見慣れぬ乗り物に乗って来た時も森の中で起きた事も、ここに来る理由となった屋敷のことも」



 その言葉に愕然とする。脳が理解したくないと拒否し、心臓は五月蝿いぐらい激しい鼓動を繰り返す。

 震える手を握りしめ、なんとか声を絞り出した。



「追われている女を助けたら自分だけ助かって私を身代わりにしたことも?その親が私を追い出す為に刃物を振り回して私を傷付けたことも?その後知らない男に襲われたことも?次に会った女が好きな人が構うからって八つ当たりして私を騙し、殺そうとしたことも?全部・・・全部知っていたの?」

「・・・・・・」

「なんで・・・なんで知ってて助けてくれなかった!!私の事知っていて、それで気に入ったとか言ったくせになんで私が助けを求めている時に何もしてくれなかったの!?どうしてッ–––––」

「すまぬ。本当にすまなかった」



 ふわりと包み込まれる。

 以前は安心すら感じていたこの温もりも今では神経を逆撫でするだけだ。

 起き上がろうとしては失敗し、抜け出そうと毛並みを引っ掴み、暴れ、殴っても私を離さない。



「離せや!どっか行け!顔も見たくないわ!!」

「罵っても殴っても何をしてもいい。だから–––」

「知らんわ!!何言われてももう信用なんかで––」

「次こそッ」



「今度こそ、我の力をもってケイを害する全てから守ってみせる」

「何で・・・」



 私は暴れるのをやめた。

 荒れ狂っていた感情も分散し、静けさすら感じられた。




「どうして貴方が泣くの」




 大きな雫が頬を伝いわふわふな毛並みを濡らしていく。予想外な反応に戸惑いを隠せない。



「言い訳に聞こえるかもしれぬが、本当に助けたかったのだ。だが我は"力"を守る為、この神殿に縛り付けられ身動きができぬ。見るだけしかできない状態は歯痒く、なんと自分は無力なのだと愕然とし、現実を突きつけられた」



 次々と溢れる涙から目が離せない。



「だから動ける今ならそなたを・・・ケイを守ると決めたのだ」



 震える声も黄金の瞳から伝う雫も、その全てが醜い心に染み渡る。

 

 もしかしたらこれは演技かもしれない。

 私を守るという言葉も今だけで、これから醜い私を知っていくと離れていくかもしれない。



「そんなの言われる価値ない。私より酷い生活の人なんてもっといると思うよ。だけど私に起こった出来事は私にとって耐え難いものだった」



 ただの気まぐれかもしれない。

 同情かもしれない。



「この世界に来てから人と関わることが余計に嫌になった。近づくものは裏があると疑うのが癖になった。以前は無力だったけど今は力がある。まだ決心はつかないけど、多分これから私の邪魔をする者には容赦しない。殺すこともあるかもしれない」



 だけどもし、もしそれでも受け入れてくれると言うならば、



「我も人間は嫌いだ。欲にまみれた汚ならしい種族。あろうことか自分達が一番秀でていると勘違いし、我が物顔で闊歩する。それを言うならば、我の方が人だけでなく様々な生き物を殺しておる」


「私は綺麗じゃないよ。純粋でもないし歪んで、醜い心を持ってる。それでも・・・私と契約したい?」




 私と一緒にいてくれますか?




「無論だ。我がこの身を捧げても良いと思えたのはその力でも前の持ち主でも誰でもない。ケイだけだ」


「–––––ッ」



 抑え込んでいた感情の箍が外れた。

 次々と溢れ出す涙に姿がぼやける。


 声にならない叫びが喉を、心を締め付ける。


 震える手をぼやけた顔の輪郭にあてがう。少ししっとりとした毛並みをひと撫でし、自分の顔を寄せた。



「レフィナド–––––レフ。



 私と契約してください。私が死ぬまで側にいて。誰にも邪魔されない、レフとだけの繋がりが欲しい」




 言い終えるのと同時にレフから膨大な魔力が溢れ出す。ゆらゆらと体から漂う金色の魔力に触発され、自分の体からも溢れ出す青色の魔力。




「我が求めに


 汝が求めに応えん。


 一方では望み叶わず


 力は得られぬ」




 二つの鼓動が重なり、互いに触れている場所から色が混じり合う。




「等しき想いが互いを紡ぐ架け橋となろう。


 我が名はレフィナド


 汝、ケイ・ラヴェナルに誓う



 【不可分の誓い(トゥジュール)】」






 混じり合ったお互いの魔力は一層輝きを増すと、やがて二本の線を作り出す。一本は私の左肩へ、もう一本はレフへと放たれた。

 左肩から浮き上がる金色の魔方陣。神殿の壁画に描かれていた蔓がバランスよく囲み、中心に一輪の花が咲き誇る。一度心臓がドクリと大きく脈打つと光が薄くなり、魔方陣も消え、花の模様も溶け込むように無くなった。

 一方、レフの足元に刻まれた大きな青色の魔法陣は眩い光を放ち体を覆う。光が薄くなると胸元辺りに収束し、そのままレフの体に吸い込まれていった。



「これでケイと我は繋がった。互いの魂に結ばれたこの契約に誰も干渉することはできまい」



 信じていい相手、自分の中の醜い心を見せても一緒に居てくれる存在を見つけることができた。

 幸せを、今度こそ本当の幸せを噛み締め、力いっぱい腕を広げて首目掛けてジャンプ。



「ありがとうレフ。本当にありがとう!」



 ぎゅうぎゅう抱き付いていると直ぐ近くから聞こえる笑い声。馬鹿にしている感じはなくて、とってもとっても優しい声。



「此方こそ有り難う」



 丸まった体の中心に居る私は周りがもふもふで、暖かくて。疲れとすぐ側にいる存在に安心し、微睡む。


 満たされた心地良い感覚に力を抜き、目を閉じて身を任せた。


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