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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
17/30

力の存在



 熱い



 胸が熱い───





 "対価は貰うぞ"





 そうか、力を使ったのか。






 神殿に行ったあの日、私は自分の世界に帰る事を諦めその代わりに力を得た。具体的な力の説明なんて無く、銀の光の中から拳ぐらいの青い玉が現れてそれを体に埋め込まれた。唯それだけ。よく解らなかったけど不思議と心が満たされたのは覚えている。



 失ったものは"時間"代償は"呪い"。



 失った時間は寿命という訳ではない。年を取らない事、つまり"不老"だ。小説や漫画では是非とも手に入れたい力と表現されているが、果たしてそれは本当に喜ばしいものなのだろうか。


 この世界には家族もいないし仲の良い知り合いもいない。唯一考えられるのは私がこの力を手にする要因となったアーノルド様ぐらいだろう。だが其れも一緒に年を重ねる事が出来ないのだ。自分は同じ年のまま相手だけが老いて、やがて死ぬ。

 そんな状況が幾度となく繰り返された時、人は耐えられるのだろうか。どれだけ親密な関係を築いてもあっという間に別れが訪れ、壊れ、それが永遠と続く。

此れこそが生き地獄でなくて何であろう。


 ちなみにもう一つの"呪い"についてはまだ解っていない。心身共に徐々に蝕まれる、という事だけは聞いたが他は何も教えてくれなかった。



 けれどもこの力を手に入れて何になる?

 当初の目的であったアーノルド様の呪いは存在しなかった。況してや私を殺す為だけにルビルに嵌められ、偶然手にした力。これが莫大な力を持っていたとしても私には既に何の価値も無かった。



 どうして



 何故私はこの世界にいるの?



 何で私なの?




 地球に帰してよ。






 自分の意志とは反対に目覚めようとする体。



 どうせ戻れないって分かってるよ。



 誰に言うでもなく呟くと私はあの世界に意識を戻した。









 開いた瞳に映る銀世界。


 それが自分の体から発せられているのだと理解すると何故か安心した。光はやがて集束し、私の体へと吸い込まれるように消えた。ドクンと一回大きく鼓動すると少しずつ浸透して行く。血の流れを感じる感覚となんだか似ていた。


 純白なベッドから足を下ろす。どうやら自分の部屋では無いらしい。見渡す限り棚やクローゼットなどの色やデザインが違うし置き場所も違う。そして何よりも異なるのが部屋の大きさだ。私が使わせて貰っている部屋の二倍以上はある。上質で豪華な部屋に何故寝かせられていたのか不思議ではあったが、悩んでも意味が無いので考える事を放棄した。


 ベッドから立ち上がった体を軽く動かしてみる。痛くも重くも無い。寧ろ以前よりも体が軽い気がする。此れなら大丈夫だろうと足早に部屋を出た。






 全く覚えのない部屋だったから自室に戻れるか不安だったけど、案外簡単なものだわ。

 自分の部屋のドアを開けながらそんな事を思う。最初に異常に豪華な扉を開けた時は何処だここ?とは思ったけど。



 上品に綺麗に飾られた廊下。ふわふわな絨毯。立ち並ぶ立派な鎧。



 約二ヶ月間メイドとして色々な場所を掃除したけれどこんな場所見た事無い。まるで何処かの大貴族のお嬢様にでもなった気分だった。貴族とかこのお屋敷しか知らないから想像でしかないけど、まぁ間違ってはいないでしょう。

 そんな廊下に見惚れつつ、三ヶ所ほど扉を抜けると見知った通路に出た。そこからは簡単だったから難なく自分の部屋に辿り着いたという訳だ。



 私は椅子に座り三番目の引き出しを開ける。中に入っているのはレターセットと筆記用具。それらを机に出し、椅子に腰掛けて文章を綴った。









「んー、終わった」



 両手を組んで上に伸ばし足も宙に浮かせて思い切り伸ばす。少しして力を抜くと解れた体。念のため何回か腕を回して調子を整えた。

 書いた手紙を封筒に入れていると窓からやってきた青い小鳥。なんだか懐かしく感じて何時もより長く頭を撫でた。



「キミの御蔭なんだよ。こうやって今笑えてるのは。あれから色々あってね、マイナス思考にしかなってなかったんだけど、ちょっと元気でたかも。」



 首の下を人差し指で軽く掻く。すると気持ち良さそうに目を細めた。



「青い鳥って私の世界では”幸運を運ぶ鳥”って言われているんだよ。いつも励まして貰ってたし、此処でも一緒なのかもね」



 最後に一撫でして椅子から立ち上がった。傍に置いてあるリュックを背負う。アーノルド様が今度一緒に出掛けようねと言って私にプレゼントして下さった物だ。もう二度と行く事は無いけれど、思い出として大事に持っていく。

 何気なく右を向くと全身鏡に映る自分の姿が目に止まった。ダークグレーの髪と同じ色の目が私を見ていた。



 これが呪いなのかな。



 若干変化した容姿に驚くが、直ぐに表情を無くす。きっとこれだけでは終わらないだろう。

 別段気にする事もなく窓に近付くとキョトンとした目で此方を見る小鳥。



「私ね、ルビルと争った時の記憶はあやふやなんだけど多分その時に力を使ったみたいでさ、この世界の言葉を普通に話せるようになったんだ。だからね、若しかしたら通じるかもしれないからキミに二言。


今までありがとう。

これからはアーノルド様の傍に居てあげてね」




 掌に乗せ、ふわりとした頭に頬ずりして癒される。


 堪能した後、小鳥を机の上に優しく置き直すと棚の上に乗って窓から外へ出た。



 死のうと思って出た場所は同じ。

 違うのは心の変化。



 これ以上迷惑は掛けられないと純粋にアーノルド様を思う気持ちだけが今の私を動かしていた。



 池の横を通り過ぎ、掃除をしている時に見つけた小さな裏門付近の花壇に足を掛けて木に登る。塀と同じ高さ辺りで登るの中止し、塀の上にジャンプ。まぁまぁな高さだったが行けないこともないと判断すると飛び降りた。


 やんちゃって言われてて良かったと始めておもったわ。

 


 小さい頃はジャングルジムで鬼ごっこを頻繁にし、鬼から逃げるために上から飛び降りるなんて当たり前。雲梯(うんてい)を通常通り腕を使って進むのではなく、上を歩くのが私の周りでは普通だった。

 

 成長してからはアスレチックとかが大好きで、高校の時なんか必須だった強歩大会(山登り)では、お弁当持参にも関わらず私のチームは12時過ぎに終了。三学年中二番目に帰宅した。もちろん、最初から早く帰る事を想定していたのでお弁当は持って行っていなかった。荷物になるし、何よりお弁当を食べる時間があるならさっさと帰りたいという気持ちが大きかったのが本音だけど。

 結果、何が言いたいのかというと、これぐらいの運動はへっちゃらって事です。



 木登りや塀に飛び移った際に汚れた服を叩いて落とす。背中もチェックする為に首を捻ったことを後悔した。


 顔を上げた視線の先には一緒に勉強をしたアーノルド様の書斎。


 途端に溢れ出す想い。




 離れたくない、傍に居て欲しい。

 此処に居たい、出て行きたくなんかない。




 怒涛の如く押し寄せる気持ちを無理やり押さえ込む。息を止め、胸元の服を力一杯握り締める。零れる涙も、痛む胸も、喉まで出かかった叫び声も、必死で押し殺した。




 滲む視界。

 浮かぶアーノルド様の眩しい笑顔。







「どうか・・・・お元気で・・」






 走り出した体は二度と振り返る事は無かった。














 高い高い大木。

 生い茂った草。

 太い根っこ。

 暗い獣道。



 よく見知った光景の中、特に恐れることなく木々の間を通り抜けていた。

 お分かりの通り、私が今居る此処は隠れ森だ。



 この世界–––––エンドコアに来てから二ヶ月と少し。その間に入ってはいけない危険と言われた森に三回目のお出掛中。でも分かって欲しいのは自殺願望ではなくきちんとした目的があっての判断だということ。


 あの神殿にもう一度訪れてこの能力の手掛かりを探そう。


 お屋敷から飛び出し、感情のまま走っている時に隠れ森を目にした瞬間決定した。

 例え強力な力を持っていたとしても使えなければ意味がない。何も見つからないかもしれないけど、探す努力をしないで諦めるよりはマシだ。それに今は何か目的が無いと自分という存在が崩れ落ちそうな気がした。だからこそ迷いが生じない隙に迷い森へ飛び込んだ。


 

 歩いている最中にとあるものを見付けた。傍まで寄ると丁度目線の高さに印された大きなバッテンの傷。この前此処に来たときに私が目印として付けた傷だった。

 


 どうにかしてこの傷治せないかな?



 傷つけてしまった木に優しく触れる。

 私が勝手な理由で付けてしまったし、何よりも怖いのはこの目印を発見した人間が森を荒らす事だった。

 力を手に入れたからか三度目で慣れたのか解らないが、この森が怖くないことを知ってしまった。確かに生き物の気配はあまりしないし真っ暗闇だ。けれどもじっとしていると森の囁き声が聞こえるようで、何と無く落ち着いてしまうのだ。


 謎だらけの森は人間の探求心を擽るかもしれない。だからと言ってそれを放っておく訳にもいかない。



 人間の心は欲望の塊で醜いのだから。



 ごめんなさいと治って欲しいとの気持ちを込めて、手に力を集めるイメージをする。



 私の中の力が動きますように。

 そう願いを込めて。



 すると、手が徐々に暖かくなり、木に触れている場所ごと白い光が包み込む。

 消えて無くなる頃には傷なんて何処にも見当たらずすっかり元の様子に戻っていた。私は右の掌を自分に向け、ぐーぱーと握っては離しを繰り返す。



 本当に自分の手だよね?

 私が魔法を使ったんだよね?



 変な高揚感と戸惑いが体の中をぐるぐる回る。取り敢えず全部見付けた物は治そうと探しながら目的地を目指す。時々薙ぎ倒された木や地面が変に盛り上がった場所を見ては恐怖が体を支配する。


 でも前と違うのはこの森が怖くない事。魔物や魔獣は怖いけど森自体は怖くない。寧ろ私が嫌な記憶を思い出した時、そよそよと揺れて私の顔を撫でるんだ。それに何度助けられたことか。そういった意味では此の力を手に入れて良かったと思う。



 迷わずズンズン歩いていると、捉えた光景に唖然とする。





 開けた場所に存在するのは太陽の光を反射して輝く巨大な湖唯一つ。



 え?どういうこと?



 驚いたのは湖の美しさからではない。

 いや、綺麗なのは本当なんだけどさ。



 一度目を瞑って深呼吸。そして再度周りを見渡してみる。



 うん、湖だ。





「・・・・何でやねん!」




 此処は以前神殿が在った場所。蛇が吹き飛ばされて潰れた可哀想な木やその重さに耐えきれずへしゃげた大量の草が証拠だ。何よりもあの時の光景と場所が一致している。



 何故?何処にいった?

 もう力を与えたから意味が無くなったとか?

 じゃあせめて使い方きっちり教えてから消えろよ!



 混乱して頭が機能しない。

 一先ず落ち着こう。



 その場にしゃがみ込んで湖に手を伸ばす。透き通った綺麗な水だ。丁度喉が渇いていたのでこれを飲んで頭も体も休憩しよう。

 両手で掬って口へ運ぶ。程良く冷たい水が渇いた喉を潤していく。地球でも飲んだ事がない味。美味しくて、しかも不思議と体の疲れが取れていくように感じられた。念の為バイト用の鞄に入っていたペットボトルに満タンに入れておこう。


 地球からこちらの世界に来てしまった時に所持していたものは、何処かにいってしまった自転車以外持ってこれる物は持ってきた。



 お財布、ペットボトル、化粧ポーチ、ふわふわハンドタオル、携帯。



 他のバイトグッズは捨てた。邪魔だし、荷物になるし、まぁ名札とかはまた作って貰えばいいか。で、捨てた。最低かもしれないけど残してたら本当に邪魔だし何よりも向こうの事を思い出したくない。

 化粧ポーチも捨てようか迷ったけど一応とっておいた。今はずっとスッピンだけど何かあった時の為に、そして一応女の子だからという理由。


 水を入れたペットボトルをリュックに直して立ち上がる。


 此処に居ても仕方ない。町を目指そう。



 リュックを背負い直して元来た道を戻る。が、反転した際に何かにリュックを掴まれた。そして引っ張られる。何とか体制を戻そうとするけれど、引く力が自分よりも強くて効果がない。予想外の出来事に対応する考えも浮かばず私の体は後ろから湖にダイブした。



 背中から飛び込んだにしては痛みがなかった。よく飛び込みで失敗して腹打ちして悶絶する感じ、あれとは全然違う。水の抵抗もあまり無く優しく受け取められ、そのまま沈んでいった。



 やばい、空気ィッ



 普段通りに呼吸しようとして息を沢山吐いてしまった。思ったよりも水の抵抗が無いことに無意識に安心してしまっていたのかもしれない。

 急いで陸に上がろうとするけれど体は沈んで行くばかり。まだ何かに引っ張られている気がする。何かがリュックに引っかかっているのだろうか?



 振り返って、また戻る。


 何故って?怖いからさ。

 何故って?真っ白い腕みたいなのがリュックを掴んでいるからだよ!!



 私は力いっぱい暴れてみた。

 結果、変化なし。寧ろスピードアップ。酸素の残量が減っただけだった。


 少なくなった体内の酸素を補給する為、脳が苦しいと信号を送る。受け取ってはいるが従う事が出来ない。だって水中だから。酸素の前に水でお陀仏だ。


 ぐんぐん遠退く太陽に自分の中の希望が消えていく光景と重なる。いくら呼吸を止めても限界と言うものはやって来る訳で、私はとうとう口を開いてしまった。





 あれ、可笑しい。

 苦しくないんだけど。



 目を開いて周りを見た。



 うん、水だね。




 太陽の光が差し込み、波打つカーテンの如くキラキラと輝く様を水中から眺めるこの景色は、さながらテレビのワンシーンのよう。



 ではどうして呼吸できるのだろう?



 そこで気が付いた。




 もしかしたら此れも魔法なのかもしれない。

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