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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
15/30

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別視点です。


「な、何よこれ!?」



 巻き込まれないよう下がりながら、目の前の光景に愕然とする。あまりの突飛もない出来事に現実かどうか疑ってしまう。沸き起こる竜巻からは尋常じゃない魔力を感じ取っていたからだ。

 さっきまで調子良く罵っていたあのムカつく居候がいた場所から溢れ出す異常な魔力に冷や汗が止まらない。



 こんな力があるなんて聞いてない。というか、これは本当にアイツの力?違うなら何処に行ったの?いや、今はそんなの関係ない。目の前のことをどうすべきか考えることが第一だわ。

 冷静になれと自分に言い聞かすも頭は上手く働かない。


 やがて、竜巻の勢いが収まってくると天井の窓ガラスが割れた。丁度竜巻の真上で割れたのと同時に差し込む月の光。



「ちょ、ちょっと待ってよ、可笑しいでしょ。さっきまで太陽が昇ってたじゃない!!」



 その月は魔法で作られたものなのか、将又本物なのか、今の私に知る術は無い。





"対価は貰うぞ"





 無機質な声が響いた。竜巻の音に掻き消されるなんて事は無く、直接頭に声を飛ばされたようだった。


 声が消えた次の瞬間、天窓から大量の月光が竜巻を照らす。銀色の光を中心に少し淡い青が混ざり、竜巻の中心を貫く。

 咄嗟に腕で顔を覆った。とても目を開けていられる強さではなかった。



 どれぐらいそうしていたのだろう。辺りは静まり返っていた。覆っていた腕をそっとのけると恐る恐る瞼を持ち上げる。そしてあまりの衝撃に言葉を失う。


 竜巻が起こった場所を中心に玄関ホール全てを多い尽くす何重にも描かれた魔法陣。あんなに荒れたにも拘らず傷一つ付いていない床。天窓から覗く日の光。



 何で、どうして



 意味も無くその言葉だけが頭を支配する。



 魔法陣は見た事もない文字が使用され今も尚銀色の光を放つ。青い光を放つ月を守るように描かれた大きな翼。その中心に倒れこむ一人の人間。いや、人間らしき人。こんな莫大な魔力を持つ人間なんて聞いた事も見た事もないからだ。

 荒くなる呼吸を抑えつつ音がしないよう注意を払い、そっと近付いて行く。息を潜め少し離れた場所で足を止めてから観察を開始する。



 月の絵と思われるその中心に横たわる人間らしき人。月から伸びた立派な翼はその人を包み込む様に描かれ、守っているように見えなくもない。魔法陣と言えども、あまりにもリアルすぎてそう感じずにはいられなかった。


 長い滑らかな髪は足先まで伸び、魔法陣と同じ銀色の髪。閉じられた目からは髪と同じ色の長い睫毛が伸び、ピンクの唇は半開き。その瑞々しい唇からそっと覗く赤みがかった舌。身を包む白い布に負けないぐらい艶やかな雪肌。

 布に包まれた体は細いという事しか分からず、男か女か判別不能。



 一つ言える事は、これはさっきまで居たリナとは別人と言う事。同一人物とは到底思えない。念には念をと頭から爪先まで再度確認してみるが、予想通りの結果となった。

 見た目が違うのは勿論だけど、何よりも体の作りから違う。身長も然り、鼻や口のパーツも何一つ同じものはない。目の前の倒れている者が何者かも気になるがリナが何処に消えたのかも気になる。


 大きく深呼吸をして頭をリセットさせると、辺りを見回した。


 魔法陣以外特に変化もない。けれど可笑しい。こんな騒音がして、しかも天候まで変わったのに誰一人様子を見に来ようとはしないなんて。況してやアーノルド様がお屋敷に居られるのに駆けつけて来られないなんてありえない。

 一先ずご報告しようと中央にある階段に足を掛けた。






「────ん・・・」




 聞こえた音に振り返る。

 魔法陣の中心人物が微かだが動いた。階段へと踏み出した足は自然と止まり、その光景に釘付けになる。


 真っ白い布を引き寄せ徐々に起き上がろうとする体。地面に両手を付いて上半身だけ起こし、それを支える腕のなんとか細いことか。だらんと垂れ下がった首も徐々に上がり、やがて正面に居た私と視線が交わるのと同時に心臓を鷲掴みにされた。今何をしていたのか、何をすべきかとかそんなもの全て吹っ飛んだ。



 大きく開かれた瞳には見た事もない青い輝きが埋め込まれ、自分の中の辞書では到底表現の仕様がない美しさ。それだけでなく、鼻、口、顔の形など全てのパーツが一種の芸術作品みたく整い、本当に人であるか疑わずにはいられない。


 目の前の人物はこちらをぼんやりと見つめ、そして徐にその小さな口を開いた。







「ころす」






 紡がれた言葉通りに一気に溢れ出す殺気。

 この人生で感じた殺気は多くは無いが、此れに比べると赤子も同然だ。

 勝手に震えだす体が自分のものかわからなくなった。寒くもないのに小刻みに歯と歯が重なり合って音を立てては離れる。圧力に耐え切れず階段に座り込み自分の体を守るように抱いた。


 何時の間にか目の前に立っていたその人物は唯私を見下ろしていた。



 何の感情も無く無機質で冷たい、それでいて澄んだ瞳。



 私を指す白い指先。

 魔力が先端に集められる。



 青く輝くその光は幻想的で




 あぁ、死ぬんだ。




 私は何の疑いもなくその事実を受け止めた。











「【束縛(バインド)】」





 突如地面から突き出た巨大な鎖。その人を中心に何本もの鎖が現れると、囲み、縛り付けた。見た目だけでなく、擦れ合う鎖の音がその重さを表していた。

 やがて真っ黒な鎖はその人を絡めたまま地面に潜った。体ごとではなく、余分な鎖のみ消えている。つまり、体が地面に縛り付けられているという事。


 又もや予想を超える事態に付いて来られない頭は動きを止めた。


 鎖に縛られたのに全く表情を変えないその人に、言い知れぬ恐怖に襲われる。



 縛り付けられたその人は、後ろから現れた人物に鎖ごと引き寄せられた。大きな鎖が絡みついているのに重さなんて全く感じさせず、平然とその人の体を片手で支えていた。




 無駄な筋肉が無い引き締まった体。その体に合う長身に真っ黒な髪。髪と同じ色をした切れ長の瞳。鼻筋の通った高い鼻に閉じられた薄い唇。



 先程の人とはまた違ったものだが、こちらもどのパーツも完璧過ぎて思わず感嘆してしまう。何度見ても飽きないそのお姿に違う意味で緊張した。

 小さく咳を一つして深呼吸。興奮する心を隠し平然を装う。



「助けて頂き有難うございます。ルーヴィック・ヴィアーズ様」



 圧倒的強者の風格を漂わす人–––––ルーヴィック様に頭を下げた。


 鎖を出現させた人物、ルーヴィック様は一度だけ視線を寄越すと又直ぐに逸らした。そして自分が抱えている人物に目線を落とす。空いている左手で顎を掴み上を向かせ軽く顔を覗き込む。


 傍から見ていてもお互いの視線が混じりあったのが分かった。

 私は無意識に唾を飲んだ。


 ルーヴィック様は切れ長の瞳を少し細めて顔を寄せ、一方は頭一つ分の慎重差のせいで顎を持たれているとはいえルーヴィック様を見上げるその姿。どちらとも種類は違うけど整った顔をしてもの凄く絵になる。何故かイケナイモノを見ているようで心臓が大きく跳ねた。



 お互いの顔がそのまま近づく。



 視線は逸らさず、やがて鼻先が触れ合う。




 だがあと少しという所でルーヴィック様の顔がずれた。そして何か囁く。抱えられたその人は大きく目を見開きルーヴィック様を見つめた。するとルーヴィック様は先程の位置に顔を戻し視線を合わすと、顎から外した手でその人の頭を軽く撫でた。


 不思議な事にその人は安心したように眠ったのだ。思わず声を出しそうになるが、既の所で押し止めた。


 絡みついた鎖を一撫でして消すと横抱きにし、気がつくと隣を通り過ぎていた。自然すぎる流れに呆然と眺めていたがコツリと響くブーツの音で我に返った。



「ルーヴィック様、その者をどうするおつもりですか?」



 問い掛けに足を止めた。私個人から見るとルーヴィック様がその人を大事そうに抱えているとしか見えなかった。先程の触れ合いも抱き上げた動作も、その一つ一つが嫌な予感を増幅させる。



「失礼ながらも何故鎖を解いたのですか?一度は人を殺めかけた人です。念のため鎖をして置くべきでは?」

「・・・・・」

「アーノルド様のお力は存じておりますが、その者の魔力は異常です。然るべき所へ引き渡すまでは安心できかねます」

「黙れ」

「ですがルーヴィック様、その者は私を殺そうと──」



「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?」




 大きくなる声に比例して溢れる威圧感。

 張り詰めた空気に呼吸がままならない。本日二回目の殺気を浴びた。抱えられている人とは別の、もっと重くて暗い感覚。再度震えだす体に後悔の波が押し寄せる。



 悔しい。



 大好きなアーノルド様はいつも何の取柄も無い女ばかり相手をして


 ルーヴィック様はぽっと出の人を大事そうに抱えて



 何で誰も相手にしてくれないの?



そう思ってしまった。一時の衝動的感情で大きな過ちを犯すとは思ってもみなかったが、後悔したときにはもう遅いものだ。



 ルーヴィック様は見向きもせずに冷めた声で突き放す。



「お前たちの会話、聞こえていた」



 その一言だけで私を陥れるのには十分だった。ルーヴィック様が指す言葉の意味はリナとの会話。つまり、あの暴言の数々と自分の犯した罪を赤裸々に語った事だ。

 言葉の意味を理解した途端、一気に体温を失う。



 後悔・不安・困惑・絶望。



 震える体は何を体現しているのか、それともそれら全てか。自分のことなのに分からない。



 コツリコツリと聞こえるブーツの音。何故か自分がいつもリナを追い詰める時にしていたヒールの音を思い出させる。目の前で止まった黒のブーツを見て恐る恐る顔を上げた。


 何の感情も映さない漆黒の瞳。唯見下ろされているだけなのに体の震えは増すばかり。



「誰がいいと言った」

「・・・え?」

「俺の名を呼んでいいと誰が許可した」



 一心不乱に頭を横に振る。



「今後一切その汚い口から俺の名を出すな。次聞いたときは」



 無機質な目がルビルを貫く。





「その首を刎ねる」





 残酷な言葉を残して階段を上り始める。もう興味がないと、自分という存在が無いという態度をとられ、その事実に愕然とした。


 ルーヴィック様に知られたという事はアーノルド様にも伝わるという事。そしてルーヴィック様に嫌われたという事はアーノルド様にも嫌われるという事。昔から仲の良い二人を遠くから見てきたので誤魔化しが効かない事も、一度敵と見なすと一切の容赦が無い事も知っていた。



 階段から滑り落ち、地に膝を付く。



 どうして何でこんな目に?



 どこで間違った?





 その問い掛けに答える人も慰める人も、ここには居なかった。


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