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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
13/30

兆し



 転がっていた。



 何かをする訳でもなく、何も考えず、まるで死人のように力が抜けた体を転がしている。



 頭が真っ白で視界も真っ白。



 自分が何をしているのかも分からない。



 唯々眠い。





「───ろ」



 聞こえない。



「起きろっつってんだろ!!」



 キーンと強烈な耳鳴りがした。私はさっきまでの自分と同じ人間とは考えられない動きで俊敏に起き上がり、殴った。



「うっさいわ!こちとら疲れて寝てんねん!気ぃ使えよボケェ!」

「あぁん?久しぶりに帰って来た兄に対する態度かそれは!!」

「何?また仕事やめたん?」

「ちゃうわ!!たまたま二連休取れたから帰って来たんですー」

「あそ」



 急に起き上がった反動でくらくらする頭を治す為にまた転がった。



「え、また寝んの?折角帰って来てんのに?遊ぼーやー」



 体を左右に揺さぶられる。その手をはたいて無理やり兄と反対方向へ体を向けた。



「だから疲れてるって言ってんでしょ!あした、明日遊ぼうよ、丁度休みだし」

「もういいし、りななんか知らんし」



 ドスドスと地響きを立てながらリビングに去る兄。久々に帰ってくる兄は毎回テンションが高い。家が懐かしいのか、それとも一人暮らしが寂しくて話せる相手がいて嬉しいのか分からないけど、とにかくハイテンション。毎回絡まれるこっちの身にもなってほしい。


 私は体をくの字に曲げて、薄っすら開いている敷戸の隙間からリビングを見た。兄は焼酎を炭酸ジュースで割ってそれを飲みながら家族と団欒していた。



 私が遊ばなくてもいいやん



 元の体勢に戻すと目を閉じた。



「あーーーーほ」



 自分で遊ばないと言ったのに面白くないと感じてしまう我が儘な心を押し込めた。





「阿呆はお前やろ。お兄は此処に居るから安心して寝ぇや」




 頭に感じる暖かい手。




「ごめんなさい」




 私は泣きながら謝った。

 兄は苦笑いで私の頭を撫でた。





"分かってる"













 そよそよと心地良いタイミングで流れる風。

 丁度良いお日様の光。

 ふわりふわりと頭に感じる暖かい温もり。


 それらに誘われて沈んでいた意識が浮上する。感じたものが広がっていると思ったのだが、如何せん眩しくて何も見えない。暗闇からいきなり明るい場所へ出てきたあの時に似ている。


 だけど風邪は予想通りに気持ちよくて、私はまた眠気に襲われた。




「・・・リナ?」




 優しい音色が問いかける。


 何処かで聞いたことがある。

 声も、その優しさも

 私は知っている。



「リナ、私の声が聞こえるかい?リナ」



 確か最近よく聞いていたような・・・。


 重たくなった瞼をもう一度開けた。今度は真っ白い景色ではなく、ぼんやりと映る影。お日様と逆光なのか人と思われる輪郭しか分からない。

 声に嫌な感じがしなかったので取り敢えず声を掛けてみる。



「あの・・・」

「リナ!良かった、目が覚めたんだね!」



 衝撃と共に襲ってくる圧迫感。



「あー、本当に良かった!戻って来てくれて有難う!」



 徐々に強くなる腕力。


 く、首絞まってますけどっ!

 チカチカする視界に危険を察知した私は絡みつく腕にタッチした。そしてこの人物に一言。



「く、くびしまってます!にどめですよアーノルドさま!!」



 するとすんなりと離れていく少し憎い腕。



「あははごめんごめん。あまりにも嬉しかったからさ」



 無邪気に笑う姿に毒気を抜かれた。

 なんて事はなく、殴ってやろうかと思いましたよ。二回も殺されかけた私にはその権利がある筈だ。

 実際には出来ないけれど想像でならいいだろうとアーノルド様へ顔を向けたが、一瞬にして打ち砕かれた。目尻を下げ優しく微笑んで、



「元気そうで安心したよ」



 そんな顔でそんな言葉言われたら何も出来ないでしょ。


 私は小さく息を吐いた。



「ごしんぱいおかけしてすみません。ありがとうございます」

「リナが無事ならそれでいいんだよ」



 ベッドの中での範囲でお辞儀した。一メイドの私には勿体無いお言葉。アーノルド様の心の広さに涙が出てきそうだった。



「ところで、一つ質問いいかな?」

「はい、なんでしょう?」



「如何して”隠れ森”に居たのかな?」



 先程とは打って変わって重くなる空気。陽気な何時もの表情は隠れ、無表情で見つめるその顔は端正で無機質な人形に似て怖い。空気に呑まれた私は喉が詰まったように声が出ない。


 アーノルド様は椅子から立ち上がり私が寝ているベッドに腰掛けた。



「隠れ森に入っちゃいけないって言ったよね?」

「・・・はい」

「どうして入ったのかな?」

「・・・・・」



 私は答えられなかった。此処でアーノルド様の為になんか言ったら悲しむか激怒される。私の為に命を捨てても残された者は悲しいだけなんだよって。それに正直に話しても信じてもらえるか分からない。というより、信じてもらえなかったらどうしようという恐怖心が大きい。


 意図的に視線を外したまま俯く。

 しばらくして頭上から零れる溜め息。



「私には言えないこと?」

「・・・・」

「誰かに脅されてる?」

「・・・・」

「・・・そうか」



 ベッドの軋む音がして立ち上がったのだと理解した。怒らせてしまったかもしれないと思うと、血の気が引いていくのが分かる。


 唐突に顎に手を添えられて無理やり顔を上げられる。

 近すぎる距離に思わず息を止めた。



「あまり怒るのも問い詰めるのも好きじゃないんだ。だってお互い心地よくないだろう?だけど・・・」



 アーノルド様は更に近づいて私の目を覗き込んだ。口をポカンと開けた私の姿がエメラルドグリーンに映る。



「何か理由があるって分かっててほっといてあげるほど、私は優しくないんだよ」



 冷たい瞳が私を貫く。



 そんな経験今までなくて、無意識に後ろへ下がろうとした。だが、アーノルド様の手が動くことを許さなかった。



「リナ、言いなさい。何故隠れ森に私との約束を破ってまで再び訪れたのかを」



 私は震える体を抑える為シーツの裾を握り締めた。



「・・・てください」

「何?」

「ほっといてください!!!」



 顎を掴まれていた手をはたいた。



「わたしなんかのしんぱいよりごじぶんのからだのしんぱいをしてくださいっ」



 予想外のボリュームで喋ってしまってすぐ息切れした。まだ寝起きとも言える状況で大声をだしたのだから負担は大きい。そして呼吸を整えているうちに段々自分のした愚かな行為へ顔が青ざめていく。


 アーノルド様の手をはたいてしまった。


 私を助けてくれた恩人であり、尊敬できる対象であり、密かに想う人物でもある。引くに引けない状況にどうしたらいいか分からなくなった。


 お互い一言も発せず沈黙が続く。



 どうしようどうしよう。

 出て行けって言われるかもしれない。

 怒らせたかもしれない。

 もう、顔も見たくないなんて言われたら・・・。



 自業自得だけど後悔しかなかった。


 せめて謝罪だけはしようと勇気を振り絞って顔を上げる。そして私の目は大きく見開かれた。


 そこには満面の笑みでこちらを満足そうに見るアーノルド様がいた。



「え・・・」


「やっと喋ったね」



 いいこいいこと撫でられる頭。何が何だか分からない。



「私の体を心配してくれたみたいだね。有難う。


それって誰から聞いたのかな?」



 にっこり笑うアーノルド様。もう誤魔化せないよと無言の圧力がかかる。



「私が帰って来た日、ちょっと体調が悪くてね。今からだと四日前になるかな?」

「・・・?よっかまえですか?」

「リナが隠れ森の入り口で倒れていたのを見つけたのがその次の日だから、リナは三日間寝ていたことになるんだよ。それだけ周りの人に心配掛けたという事は覚えておきなさい」



 体がダルイのは蛇との戦いのせいかと思っていたけど、違う理由もあったんだ。


 そりゃ三日も寝てたら起きた時に首絞める程の腕力使って喜んじゃいますよね。原因追求のためか純粋に喜んでくださってるのかわからいけれども。


 ・・・いや、やっぱり首はわざと狙われてる気がする。


 なんて馬鹿なことを考えて気を紛らわすけど、物凄く迷惑掛けた現状から逃避することはできない。



「私はあの日隠れ森に行ったんだ。森の様子が何時もと違うくてね、如何しても気になって様子を見に行った。その時にね図鑑で見たものを見つけたんだ。緑と黒が混じった果物みたいだった。其れを食べてしまったのさ」



 さっきまでの冷たい表情ではなく、にこにこと嬉しそうに笑って話し始めるご機嫌さん。

なんか御伽話に出てくる落ちになるのかな。



「一口齧っただけなのに気持ち悪くなってしまって・・・。それから家に戻っても気分が優れないまま夜を迎えて、今に至るわけさ」


「・・・・・え?」

「だから、一晩寝たら治ったの。唯の食中りだったみたいでね、いやあ恥ずかしいよ」



 照れくさそうに頭を掻く。


 ・・・・いや、知らないんだけど。え、食中毒的な?ていうかオチすらないんですが。

 何、私何の為に隠れ森に入ったのさ。誰だよ呪いなんて噂流したやつ。てかアーノルド様もアーノルド様でしょ。図鑑で見た奴かなんなのか知らないけど変な物を調べもせずに食べるなんて危機感無さ過ぎでしょ!もう少し周りの事も考えるべきでしょ上に立つ人間は!!



 隠れ森に行った理由を隠していた自分が阿呆らしい。でもこの理不尽な思いを誰かにぶつけたくて、申し訳ないけど相手をして貰おう。



「なんでそのことみんなにはやくいっていただけなかったんですか!それをしってたらかくれもりにいくひつようもなかったのに!」



 いきなり捲くし立てる私に目を真ん丸くして驚くアーノルド様。そんな顔もお綺麗です。でもそんなの知ったこっちゃない。



「あーのるどさまがみんなにちゃんとせつめいしないからこういうことになるんですよ!?」

「ちょ、ちょっと落ち着こうね?」

「おちついてなんかいられません!なんせしにかけたんですから!アーノルドさまがのろいにかかったってきいたから、それをとくためにあんなばしょにいったっていうのに、それがただのしょくあたりなんて!わたしはたべられかけたのにこんなことって・・」

「ストーーップ」



 何で途中で止めるんだと軽く睨むと、そんな私とは反対に真剣な表情でこちらを見ていた。突然変化した雰囲気に私の勢いも自然と止まる。



「確認したいんだけどいいかな?」



 張り詰めた空気に戸惑いつつも頷く。アーノルド様は一度深呼吸をした。



「リナは隠れ森に行った。これは自分の意思で行ったんだよね」

「はい」

「それは私が誰かに呪いを掛けられたと聞いてその呪いを解く為に行った」

「そうです」

「その話を聞いたのは何時頃かな?」

「よるの・・・確か就寝時間後です。きれいなまんげつをみたのおぼえてますから」



 頭に浮かぶ青と銀の満月


 思い出しただけでも頬が緩んだ。しかしアーノルド様の表情は反対に更に険しくなる。



「呪いの話は誰から聞いた?」

「ルビルさんです。ルビルさんがアーノルドさまがのろいにかかったかもってだれかがうわさしているのをきいたって」

「じゃあ何故森に行ったら呪いが解けると思ったの?」

「テルが、じゅっさいぐらいのおとこのこなんですけど、そのこのむらのでんしょうをきいたんです」

「どんな?」

「かくれもりのおくには”しんでん”がある。そのかみさまにおねがいしたらとけるかもって」



アーノルド様は固い表情のまま私の両肩に手を乗せた。その真剣な瞳が目を逸らすことを許さない。



「最後の質問だよ。大丈夫だろうけど念の為、嘘は絶対吐かないでね。





 ランタンはリナが自分で持って行った?」


「いえ、ルビルさんがくれました。かくれもりはほのおとひかりによわいってきいたことがあるっていわれたので」



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