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もしも本当に異世界転移したのなら  作者: ヴァン
第一章
12/30

12

想像以上に時間がかかり、更新が遅れてこんな時間になってしまいました…。



 まさか



 でも一体何処から?



 私は急いで辺りを嗅ぐ。

 森から発せられる匂いではないと判断して自分の体をチェックし始めた。髪の毛の先を引っ張って嗅ぎ、マントも確認。けれどどれも違うくて、私の頭を混乱させた。



 冷静に、冷静になれ自分。



 この匂いは知っている?

 答えはyes。

 どんな匂い?

 蜂蜜みたいな香り。

 それは自分から匂う?

 嗅いだけど多分違う。

 その匂いは最近いつ嗅いだ?


 いつ・・・・



 ふと森に入る前の事を思い出す。



 ベンチで景色を眺めていたらルビルさんが来て

 アーノルド様の事を聞いて

 テルがやって来て

 神殿の事を聞いて

 私は自分が行くと言って出てきた。


 その時に何かなかった?



 何か




 なにか








 ランタンだ。







 そうだ、ランタンを貰ったんだ!



 私は直ぐ様ランタンに顔を近付けた。

 途端に強くなる、甘い蜂蜜の香り。


 どうやらアロマみたいに蝋燭自体がその匂いを発し、燃える度に煙と共に香りが出るようだ。

 そうと分かれば音がする方向へランタンを思いっきり投げた。そして振り返らずに進もうとしていた道を走り出す。



 森が燃える?

 そしたらごめんなさいとしか言いようが無い。私だって死にたくないんだ。森の主から私もアーノルド様と同じ呪いを掛けられるかもしれない。でもその前に死んだら結局何も変わらない。


 私は枝や草が体を切り裂こうとも止まらなかった。死に物狂いで足を動かすこの状況は、アイツから逃げた夜の事を思い出させる。


 あの時の感覚が体を蝕んでいく。



 嫌だ



 いやだいやだいやだ



 やっぱりまだ死にたくなかったんだとこの状況になって思い知らされた。死んでも悔いはないなんて思った自分が馬鹿みたいだ。



 何で森に来たんだろう。

 何で行くって言ったんだろう。

 何で走っているんだろう。

 何で追われているんだろう。




 何で私ばかりこんな目に合うの?




 この状況に追い込んだのは他でもない自分自身。この森に行くと決めたのも自分。けれどもそう思ってしまう事は止められない。



 暫く収まっていた木々を薙ぎ倒すような音が再開された。木の悲鳴と地面を這う不気味な音を背景に、私はただただ走り続けた。



 段々迫る音なんて聞こえない。

 息遣いなんて聞こえない。



 すぐ後ろから聞こえるなんて私は知らない。




  生暖かい息が耳に掛かる。




 私は咄嗟にマントを脱いだ。匂いが移っている可能性を感じ、そして願わくば一瞬の足止めになりますようにとの願いを込めて。


 願いが届いたのか、息が感じられない。地面を這う音も木を薙ぎ倒す音も聞こえない。

 私は少し呼吸を整える為、傍にあった木に寄りかかった。




 それがいけなかったんだ。




 急に背もたれが無くなり、体は重力に逆らう事無く後ろ向きに倒れた。



「───っぁああ」



 横腹にくる燃える様な痛み。そして圧迫感。


 薄っすら目を開けるとその衝撃的な事実に頭が付いていかない。



 不気味な光を発する緑の斑点に茶色い体。長い胴体は周りの木々をも囲み、最後に私の体を締め付ける。大きな口からは赤く、長い舌が飛び出し、爬虫類独特の目が獲物を捕らえた喜びで笑っているように見えた。



 この世界にも蛇っていたんだ。



 そんな単純な感想しか出てこない程、もう頭が真っ白だった。動きは速いし、力も強い。更には尋常じゃないくらい大きな体に締め付けられていて、諺にある通りの蛇に睨まれた蛙状態。しかも、倒れたときに枝か何かが横腹に刺さったみたいでもう動く気力もなかった。



 私は力を抜いた。



 そう言えば前もこんな感じだったよね。逃げて逃げて捕まって、逃げようとして心を折られて諦めた。前は相手が人間だったからまだ助かったけど、化け物はそうはいかない。



 なんか、前回死んでた方が良かったかも。

 化け物に食べられるのはちょっとね。

 せめて一思いに殺して食べて下さい。



 大きな口が目前に迫る。





 ルビルさん、テル、祈ってくれたのにごめんね。神殿見付けられなかったよ。私の変わりに誰かが見つけてくれる事を祈ります。


 アーノルド様、約束破ってごめんなさい。折角色々と教えて下さったのに全部無駄になりそうです。どうか呪いが無事解けますように。








 本当は家族の元で死にたかったなぁ・・・───




 私はそっと目を閉じた。









 フシュギュヨオオオオオ








 突如、近距離で発せられたド迫力な叫び声。

 反射的に退き、その行動に自分自身が驚いた。正確に言うと退()()()()()()()その行動に対してだ。同じタイミングで見開かれた瞳は暴れ狂う蛇を呆然と見つめていた。


 先程まで蛇が体に巻き付き、絞め殺そうとしていたのは間違いない。顔に吹きかけられたあの生暖かい息の気持ち悪さを忘れてなんかいない。

だとしたら何故?一体何が起こったの?




 "今諦めてはいけないよ"




 あの時の声が蘇る。


 思い出したくもない腕の傷を優しく撫でてくれた姿も、神々しさを感じられずにはいられなかった微笑みも、それら全てが今私が異世界に(生きて)いる理由だ。




 "さぁ、帰ろう"




 私はもう一度、心の中でその優しい手をとった。




「うああああああ!!」




 横腹の痛みを紛らわすために、そして恐怖を打ち消すために叫んだ。恐らく歩きに近い早歩きぐらいの速度しか出ていない。それでも全力で一歩でも前へ必死で動かした。



 この前だってどうせ死ぬならって思ったし、それなら最後まで抗って死んでやる。


 前回と違うのは死にに行っているんじゃなく、生き延びる為、そしてアーノルド様の呪いを解く為に逃げているという事。あの気持ち悪い蛇が森の主だったとしても知ったこっちゃない。


 偶に吹き飛ばされた木が視界に入ってくるけど、何故か当たりはしなかった。丁度良い場所に手すり代わりの木があったり、足がもつれて転んだ瞬間に頭上を尻尾が通り過ぎるという奇跡。幸運を無駄にしないよう、進んでいる方向だけは頭に叩き込んだ。何時の間にか戻ってました、なんて笑い事じゃ済まないからね。



 だけどそんな奇跡も幸運もとうとう底を突きそうだ。



 私は痛む横腹を押さえる。興奮状態のアドレナリンの御蔭でなんとか此処まで来たけど限界みたい。視界も霞み始め、目を開け続ける気力も無くなっていく。



 こんな自分を褒めてやりたい。

 そしてお疲れって声を掛けたい。


 いや、まだだ。最後の最後まで踠くって決めたでしょ。



 自分とそんな遣り取りをして

 それでも足を動かし続けて


 けれどお終いとでも言うように後ろからあっさり吹き飛ばされた。私の体は宙を舞い、受身も取れないまま地面に叩きつけられた。



「ガハッ」



 ちょっと空気の抜けたボールみたく、数回緩やかにバウンドしてやっと止まった。もう痛いなんてそんなレベルじゃない。寧ろこんな状態で意識を保っている事が夢なんじゃないかと思う。

 着地に失敗した体は、うつ伏せで顔だけ横に向いた体勢で、もう指一本動かせない。喉からは空気が抜けるのと似た音のみが発せられ、霞む視界は更に真っ白い面積が増えた。そして追加された緑の緩やかな線。



 アレだよね、目の病気って視界に何か映ってるように見えるんだよね。



 ・・・ん?それって緑色に見えるものだっけ?



 なんとなくその場所を意識して眺めたら、緑が何かの模様だという事に気が付いた。驚きで見開かれる瞳により視界に捉えられる面積が広がっていく。




 蔦の模様が描かれた大きな壁面。

 中央にはお城のような大理石の階段。

 その階段の左右均等に立ち並ぶ狼の石造。



 其処だけは異空間のように、木や草が一切生えていない。一定の距離を開けて木が囲みその存在を隠していた。真っ白なその建物はこの世の物とは思えない美しさを醸し出し、神の芸術と言っても過言ではない。




 これが神殿なんだ




 何の建物だと疑問に思うことなど一切なく腑に落ちた。人間では到底作る事が出来ないと思ったからだ。上手く説明できないけど、神聖さ、みたいなものが感じられたから。



 私はなんとかして神殿まで行けないかと最後の気力を振り絞る。運が良いのか悪いのか、私が飛ばされた場所は森よりも神殿に近い場所。体は殆ど動かないけれど、気持ちの強さでカバーする。


 水泳とかでもさ、もう息が苦しいだめって思うけど、ゴールが視界に入るとなんとかなるでしょ?それと一緒。痛みと苦しみは比べ物にならないけどね。


 しかし、進めたのは匍匐前進での腕一本分。大きくなった地面を這う音に、顔だけ振り向くと威嚇しながら迫る蛇が目に映る。もう遠慮しないと上半身をのけぞり、元の体制に戻す反動で飛んできた。大きく開かれた口は私なんか余裕で丸呑み出来るサイズ。



 何だそれはって突っ込む気力もなく、けれども最後の最後まで蛇から目を逸らさなかったのは私のちっぽけな意地(プライド)




 やがて影が落ち、蛇の息が顔に掛かる。










 その時、眩しい光が辺りを包み込んだ。




 蛇の悲鳴と共に薙ぎ倒される木々の音。

 突如、地面から勢いよく吹き荒れる突風。


 そして視界全てを覆い尽くす眩い光。



 膨大な光はたった一瞬。

 驚きのあまり瞬時に体を起こして周囲を探った。その後、開いた口が塞がらない。



「なんで・・・・」





 どうして体が動くの?




 うつ伏せから、指一本動かせなかったはずのあの状態から起き上がるというミラクルな事象に驚愕する。

 自分の想像以上の現象に呆然とするも、無意識に漂う光に目が止まる。視線を下げる程輝きは増し、遂にその正体を捉えた。



 私がいる場所を中心に大きな月が描かれ、それを包み込むように広がる大きな翼。円の周りに書かれていた文字は浮かび上がり、上下左右、私を中心に回転し始める。それは映画やアニメで見た魔法陣を彷彿させた。



 白い光が落ち着くと、やがてその輝きは銀へと変わる。







 "何を求め何を捨てる"





 頭に直接響く声。

 嫌な感じもなく、好感も持てない無機質な音。



 此処で自分の世界に帰りたいと言ったら叶うのかな。



 封印していた素直な気持ちが溢れ出す。



 だって望んでこの世界に来たわけじゃないし。

 寧ろ帰りたくて自殺しようとしたぐらいだし。

 そう思うのは自然な事だよね?



 私は小さく息を吸った。




「『私は自分のいた世界に』」



「『私は・・・』」



 どうして言えないの?

 この世界の事はどうでもいいでしょ。

 私の世界とは関係ないし、そんな深い関わりもないし、たかが二ヶ月程度だし。



 そう思うのに



 何故か言葉が出てこない。







 アーノルド様の事が頭から離れない。




 眩しい金髪。

 綺麗なエメラルドグリーンの瞳。

 柔らかい目元。

 高い鼻。

 細身の体。



 よく頭を撫でてくれた私より大きな手。




 "リナはいい子だね"





 優しい声。










 ごめんなさい





 目から零れ落ちたものが頬を伝う。











「『私は─────』」


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