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転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
最終章

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第64話 綱渡り

前回までのあら筋!



最終決戦開始!

 何度も襲い来る衝撃波を突き破り、生い茂る木々の隙間を走り抜け、二人のエルフは神域中心部へと至った。



「――ッ」



 そこで漢が目にしたのは、喉をつかみ上げられてうめく女と、彼女の頭部に今にも喰らいつこうとしている魔神の姿だった。

 浮かぶ女の足下には、血だまりができはじめている。


 漢の血管が開いた。

 熱い血潮が駆け巡り、怒りにまかせて拳を握り込む。



「師――」



 眼前にあった大樹を、走る速度のままに殴りつけた。



「うおらぁ!」



 真っ二つに折れた大樹の幹がイブルニグスへと飛来し、魔神が女を投げ出して片腕でそれを弾き上げた。

 体勢を低くして滑り込んだ少女が、投げ出されて倒れ伏した女の全身を抱えながら魔神の側方を駆け抜けて距離を取る。


 しかし魔神の反応速度はそれすらも上回っていた。

 なびく緑髪をつかむべく、赫色の腕が伸ばされたのだ。



「く……っ」



 だが、赫色の手が緑髪に触れる直前、漢は魔神の腕を己の右手でつかんでいた。少女が女を抱えて魔神から逃れた。



「貴様の相手はおれだ。イブルニグス」

「……」



 取るに足らぬ者を見るかのようなイブルニグスの視線と、怒りに満ちた誠一郎の視線が交わされた――瞬間には、強く握り込まれた漢の拳が魔神の頬に突き刺さっていた。



「ぐぉるああぁぁ!」



 赫色の皮膚を割り砕き、魔神の首が大きく跳ね上がって伸びる。

 轟音と衝撃波が散ったのは、その後だ。



「……ギッ……」



 しかし魔神は顔をしかめながらも踏みとどまり、刀を返すように赫色の拳を振り上げて鉄槌のように漢の頭部へと勢いよく振り下ろした。

 漢はとっさに両手で受け止めるが、勢いを殺しきれず、踏ん張った両足を大地に埋めて背中から叩きつけられ、血を吐きながら跳ね上がった。



「か……っぐぁ!?」



 激痛が走り抜ける――!


 それでも両足を振り上げて空中で後方回転し、大地に着地した。

 ピキピキと音を立て、漢が砕いた魔神の頬が修復されていく。一方で、漢は口の端から一筋の血を流していた。


 魔神が威嚇するように、ガチンガチンと上下の歯を打ち鳴らす。


 神域に魔素はない。生者から奪った魔素を養分として生きる魔神の飢餓を早められたことだけは間違いない。携帯食料にも等しき神影からも離した。



 だが、それでも。

 それでもまだ、弱体化は不十分だ。己の筋肉では足りていない。

 力も速度も、未だ己よりも魔神が上回っている。



「ふぅ~……」



 漢が空気を肺に満たし、すぼめた口からゆっくりと吐いた。

 つぅと、汗と血が頬を伝う。

 筋肉によって冒された脳で、誠一郎は思考を走らせる。



 神影がこの場に到着するまで、どれくらいの猶予がある?

 魔神が完全に飢餓状態に陥るまでの時間は?



 しかし存在しない結論を導き出す間はなく、魔神が漢へと飛びかかった。



「ガァッ!!」



 赫色の腕を両手つかんだ漢が、凄まじい勢いで背後に滑る。



「ぐ、おおおおおっ!」

「……喰わ……セロォォォォ……ッ!」



 魔神は至近距離から漢に喰らいつかんと歯を打ち鳴らし、神域の大岩へと漢の背中を叩きつけた。魔神の大口が漢の首に喰らいつく直前、その背後から音もなく飛来した緑髪の少女の足が、魔神の側頭部を狙って引き絞られる。



「屈んで、セイさん!」



 ゴッ、と鈍く重い音が鳴り響き、魔神が微かによろめいた。



 本来であらば、遙か巨体のゴーレムやサイクロプスですら粉砕するほどの威力が秘められた蹴りを、それも死角である背後から急所に受けたのに、わずかによろめくのみで。


 食欲に駆られた表情で、イブルニグスが振り返る。

 自身の背後に舞い降りた少女エルフを、舌なめずりをしながら。



「……っ」



 フィリアメイラの表情に恐怖が宿った。

 魔神の爪が伸びた。赫色の手が持ち上げられる。


 だが、心に無敵の筋肉を宿す漢は、その隙を見逃さない。

 イブルニグスが少女に気を取られた瞬間、意識の虚を衝いて己の右膝で魔神の脇腹を貫いていた。



「誰を見ている……!」

「ガ……ッ!?」



 漢の膝が赫色の甲殻ともいうべき皮膚を突き破り、魔神の内臓を抉る。

 直後、魔神が側方へと吹っ飛び、神域の樹木をいくつも薙ぎ倒しながら大地を転がった。

 二人のエルフは瞬時に互いの背中を庇い合う。



「師匠は?」

「離れたところに隠しました。出血がかなりひどいです。戦線復帰は難しいかと」



 やはり、力を発揮できる状態ではなかったようだ。

 それでも己らよりは強いのだから、深淵のまだ見ぬさらなる深みには、一体どのような筋肉が存在しているというのか。

 恍惚と不安、相反する二つの感情がわき上がる。

 だが、今はそのようなことを考察している場合ではない。



「イブルニグスの噛みつき攻撃が増えている。飢餓状態が始まっているのかもしれん」

「効いてますね。神域が。魔神が正気と力を失うのが先か、神影の群れがここに到達してしまうのが先か」

「微妙なところだ。――来るぞ!」



 次の瞬間には互いに背中を離し、大地を這うトカゲのように四つん這いとなって喰らいついてきた魔神の攻撃を躱していた。

 回避されたイブルニグスは進行方向にあった樹木の幹を喰い破り、首を振って投げ捨てて、獰猛なる野生の肉食獣のように涎を垂らしながら牙を剥いて少女エルフへと飛びかかる。



「メイラ!」

「~~っ」



 噛みつきをバックステップで躱し、なおも追従する魔神の横面を蹴飛ばす。



「この――っ」



 肉の弾ける凄まじい音が鳴り響いた。

 しかしイブルニグスの突進は止まらない。揺らぐことさえなく血走った目を剥いて、少女の下半身へと喰らいつくべく迫る。



「う……あっ」



 フィリアメイラは噛みついてくる魔神の額に左足を乗せて、右足で地面を掻いて耐える。けれど軸足が地を一瞬離れた瞬間、無防備に背中から大地へと押し倒されていた。



「きゃあっ」



 イブルニグスが知性を失ったかのように大口を開けて、下顎で大地を削りながら土ごとフィリアメイラを呑み込む寸前、漢の拳が魔神の鼻面に突き刺さった。



「ぬんッ!」



 己の突進速度と漢の放つ拳の速度を掛け合わせた攻撃に、さしもの魔神も大きく吹っ飛ばされて低空を舞う。



「大丈夫か!?」

「は、はい……」



 魔神が四足獣のように両手両足で大地を引っ掻き、強引に進行方向を反転させて、漢へと襲いかかった。



「ガアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「ぬ……!」



 イブルニグスが大地についた赫色の左手を軸に、遠心力を乗せた右の蹴りを放つ。

 それを両腕を交叉して受け止めた誠一郎が反撃に出るよりも早く、今度は右手を地面について、左の蹴りで誠一郎の肩口を打った。


 肩口から内臓までをも走り抜ける激痛に、筋肉の覆われた巨体が揺らいだ。



「ぐ……ッ」



 漢の鼻から血が噴出した。

 魔神の攻撃は終わらない。


 漢が揺らぎ、体勢を崩したことを確認すると、今度は跳躍前転で、漢の頭部を破砕すべく踵を落とす。



「させない!」



 しかしその踵が落とされるより早く、フィリアメイラが側方からの蹴りで魔神の踵の軌道をわずかに反らしていた。

 魔神の踵が大地をえぐり取った瞬間、誠一郎が掌底でその腹部を打って突き放した。



「ふん……!」



 吹っ飛ばされた魔神が獣のように両手両足で大地を掻いて、不気味なうなり声を上げる。



「ぐるるるるぅぅぅぅぅぅぅッ!!」



 ぼたり、ぼたりと、涎を垂らしながら。



 知性を失いつつあるのがわかる。

 まるで、獰猛な肉食獣と戦っているかのような気分だ。おそらく弱体化はしている。けれどその分、魔神の動きの先が読めなくなった。

 あれはもはや二足歩行の生物が使う格闘などという言葉で表せるものではなく、食欲に駆られた怪物の生存本能とでもいうべき戦い方なのだから。


 二人のエルフは顔をしかめて痛感する。


 互いへの援護が一瞬でも遅れれば、そのとき訪れるものは確実な死だ。

 こんな綱渡りを続けているようでは絶対に勝てない。数分と保たないだろう。二人がかりでも。

 さらにいえば、神影が到着した瞬間に勝敗は決する。猶予もない。



 漢はちらりとフィリアメイラを見やる。



「……セイさん……?」

「心配するな。今度は死なせない」



 脳裏に浮かぶ。前世での最期の記憶が。

 少女の肉体が巨大な鉄塊に砕かれる瞬間を、忘れたことはない。記憶喪失だった間はすっぽり抜け落ちていたことは棚に上げて。



「……え……」

「たとえここですべてを失うとしても、メイラ。キミはおれが守る。少々痛みを伴うが、まだ抗う方法がないわけではない」



 漢は瞳を閉じ、すべての筋繊維に語りかける。



 進化せよ。

 おまえたちの野生を解き放て、と。



……ボソボソ………


:(´・ω)ω・`) <……えっ!? まじで言ってるんですかなっ!?

:/⌒ つ⊂⌒ヽ

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