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転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第57話 遺す者

前回までのあら筋!



ババア、カ~ッチョイイ!

 ああ。わかる。



 眼前に立つ魔神。今、己を見やって舌なめずりをした怪物。

 赤き神影よりも、なお色濃き赫。まるでこの世の生物すべてから血を抜いて創造された、深く昏い海のように。


 異形。大いなる神が創り賜うた数多の生物の中に類似はない。

 それどころか、不定。肉体の表面が波打っている。



「――っ」



 イブルニグスが、ずるりと両の脇腹から新たな腕を伸ばした。

 赤ではない。赫の腕を。


 四本の――腕。

 ぐちゃぐちゃと音を立てて、腕の先に指が生え、拳を握り混む。だが、何を思ったかイブルニグスは右脇腹の腕を残る三本の腕で自ら引きちぎった。


 ぶつり、ぶつりと、筋繊維の切れる音をさせながら。耳まで裂いた口に、禍々しき笑みを浮かべながら。



「あ……あ……、……はら……へった……」

「喋――っ」



 リガルティアの皮膚を悪寒が走った。

 それは野生の勘というものだったのかもしれない。


 次の瞬間、イブルニグスは引きちぎった腕を眼前に立つエルフへと投げつける。

 空間を貫き、轟々と凄まじい勢いで飛来する腕は瞬間的に神影へと変異し、すれ違いざまにリガルティアの首を掻き斬るべく爪を振るう。



「く――っ!?」



 一瞬早く肉体を傾けたリガルティアの首筋を掠めるようにして飛び去った神影は、亜人軍五十名を囲むべく後方へと詰め寄せていた無数の神影たちを巻き込んで爆砕し、戦場の大地を抉り取り、赤い霧に染めて消滅した。


 リガルティアが首筋に垂れた一筋の血液を親指で拭い、ぺろりと舐める。鮮烈なる鉄の味で、己の生を確かめたのだ。


 今、己はすでに死んでいてもおかしくはなかった。

 それでもまだ、生きている。



「…………ぬかったわ……。……この怪物め……」



 これは勝てない。向かい合った瞬間にそれが理解できた。

 絶望的だ。



 ああ、なるほど。あれは異形にして、神である。

 己やセイリーンが信奉する筋肉神(あの御方)にも近しき存在であると、身を以て知らされた。



 せめてあと数十年あったなら。

 筋トレを積み重ね、追いつくことも可能であったかもしれないけれど。



「うぬにとって我は、さぞや取るに足らぬ相手であろう。わかるぞ、うぬが我に見せた笑みの意が。愚かなる馳走が、自ら喰われに現れたと歓喜したのだろう。だが――」



 だが。そう、だが。

 あの二人ならば、その数十年の月日を埋めてくれると信じている。


 リガルティアは膝を曲げて腰を落とし、眼前の魔神を睨む。

 魔神に負けず劣らず、禍々しき笑みを浮かべて。



「あいにくと我は、うぬのように一人ではない」



 セイリーンが辿り着くまでに己が死すれば、それは大陸の敗北に繋がる。

 セイリーンと共闘できてこそ、初めて微かに希望が見える。否。あるいは、勝てぬまでも己がこの魔神の命を削り取ることができたなら。


 息を吸って、ゆっくりと吐き出す。



 それまで、この膝は決して折らぬ――!



「かかってこい、魔神イブルニグスよ」



 言葉に引き寄せられたわけではないだろう。しかし言い終えると同時に、イブルニグスは大地を蹴っていた。

 跳躍と呼ぶべきか。

 ほとんど水平に、低く、低く飛来した魔神が、頭部を横に裂いて大口を開け、リガルティアの巨体を丸呑みにせんとばかりに迫る。



「正面からとは、我も舐められたものよ」



 リガルティアは素早くわずかに一歩後退して接触までの距離と刻を稼ぎ、追いすがる形となった魔神の頭部をめがけて右の拳を叩き下ろした。



「ぬん――ッ!!」



 轟音、響く――!



 まるで大質量の金属同士が正面からぶつかったかのような音が轟き、魔神の頭部が歪んでへこむ。首がぐるりと一回転し、赫色の全身が大地を砕いて地中深くに埋まる。

 しかし次の瞬間――リガルティアが振り切った拳を戻す暇すらなく、魔神は彼女の眼前を舞っていた。


 拳を振り切った体勢のエルフの頬へと、赫色の拳が放たれる。



「ぬ……ッ」



 左手を広げて拳を受け止めた直後、魔神の脇腹から新たに生えた赫色の拳がリガルティアの鳩尾を貫いていた。


 先ほどとは違う、重く鈍い音が戦場に響いた。


 直撃の瞬間、腹直筋を限界まで閉じたというのに、上腹部から背部にまで抜ける激痛が走る。両の足が大地を離れて、後方へと吹っ飛ばされていく。



「が……ぐ……ッ」



 赤の混じった胃酸を口から吐き出しながら、女は右足で大地を貫いて引っ掻き、かろうじてその場にとどまった。



 強い……! とてつもなく……!



 心臓が痛いくらいに跳ね回っている。

 口の端から垂れる血を腕で拭い、さらに己の筋肉を研ぎ澄ます。油断をすれば、次の瞬間にはもう死んでいる。

 それほどの力の差。頭ではわかっている。



 だが、どうだ。己の筋肉たちは。



 萎縮したか? 凝固したか? 怯え、震えたか?



 否――!



 膨張する! 歓喜する! 全身に血を巡らせる!

 なぜならば強き存在に抗うために、この筋肉たちは生まれてきたのだから!



「もっと……もっとだ……ッ」



 ぼこり。



 リガルティアの全身が膨れ上がった。そこにはもうエルフだった頃の美しき面影はない。まごう事なき、新たなる種族。

 放浪の子の言葉を借りるならば、筋肉族だ。



 賢しらに考えることを辞めた。

 衝動の赴くままに自ら大地を蹴った。



 長耳まで口を裂いて嗤った。迫る死に嗤った。遠のく生に嗤った。

 己の喉から、轟く野獣の咆哮ような声が出ていた。



 己の拳が魔神の顔面に突き刺さる。しかし吹っ飛ぶことを許さず、左手でその頭部をつかんで、何度も何度も右の拳を突き入れる。

 赫色の皮膚や肉片が飛散する。

 肉体を破壊されていく魔神を、けたたましく嗤った。



 だが五度目の拳を叩き込もうとしたとき、脇腹を凄まじい勢いで蹴り払われた。



「があ……っ!?」



 それは限界まで振り絞った筋肉の鎧をいともあっさりと打ち砕き、リガルティアの全身を真っ二つに折った。

 しかし吹っ飛ばされぬように大地に拳を叩きつけ、追撃に来た魔神の顎を勢いのままに蹴り上げて阻止する。



「ぐぬッ」

「……」



 大地にのけぞった己と、空にのけぞった魔神の視線が交叉した。

 二体の怪物の禍々しき笑みが、ほんの一瞬だけ交叉したのだ。



 そう認識した瞬間には、互いの拳が激しい応酬をすでに繰り広げていた。

 リガルティアは拳を空へと突き上げて、イブルニグスは拳を大地へと叩き下ろしていた。


 リガルティアに狙いなどなかった。

 ただただ、眼前の相手の肉体を破壊するためだけに、握り混んだ拳を最速最短距離でひたすら繰り出す。命中した箇所から赫色の肉片が飛散する。

 急所など探る気はない。無駄だ。あたった場所を片っ端から叩き潰す。



 壊せ。殺せ。破壊しろ。



 同じく、デタラメに次々と繰り出される赫く重い拳を、全身の筋肉を引き締めながら受け止める。

 防御に腕は使用しない。違う。防御などしない。守れば敗北する。

 己の持てるすべてのリソースを、ただ敵を破壊するための攻撃へと費やす。


 あの日、己が未来を託した筋肉という力を、信ずるのみ。



「ぬぅぅらあああぁぁぁぁ!!」

「ギイイィィィーーーーーッ!!」



 大地が鳴動しながら大きく陥没し、その周囲が神影や彼らと対峙していた亜人軍ごと空へと弾けた。

 空が大音量を伴って震えあがり、その他の一切の音をかき消した。


 空間は焦げ付き、暴風吹き荒れる二体の怪物の周囲からはすべてが弾き出された。

 亜人は愚か、神影すら踏み込めぬほどに。



 だが、わかっている。

 挑む瞬間からわかっていた。



 勝てん…。



 徐々に。徐々にではあるが、手数に差が出始めていた。

 四本の腕を叩き下ろし続けるイブルニグスに反比例し、リガルティアの手数は減り始め、赫色の拳をもらうたびに全身が大きく揺れ始める。


 リガルティアの肉体が壊れていく一方で、彼女の拳がイブルニグスの肉体を破壊し、たとえその攻撃の起点となる腕部を叩き潰せたとしても、魔神は秒と経たずに肉体を再生させる。


 しかし、それでも。

 顎が跳ね上げられて歯を割られ、胸部を骨ごと圧し潰され、頬が陥没しても、覇者は立っていた。

 膝をつかず、もはや力なき拳を繰り出し続けていた。

 視界を失ってなお、戦い続けた。

 強靱なる意志で、意識だけは手放さずにいた。



「まだだ……!」



 すべては己に筋肉なる新たな力を与えてくれた、あの若き(エルフ)のために。

 ほんの少しでも、このバケモノを弱らせる必要があるのだ。



 ああ、これが死というものか……。存外に恐ろしくはないものだ……。



 指の一本でもいい。肉の一欠片、皮膚の一枚でもいい。血の一滴だってもいい。失うことの恐怖をこの怪物にたたき込む。



 恐ろしいのは、何もできずに死んでしまうこと……。

 我が子同然のセイリーンに、何も遺せずに死んでしまうことだけ……。



 与えることの尊さを返したい。そのためだけに鍛えてきた。

 人間の襲撃を受けてすべてを失った私に、いつかおまえが、筋肉という名の希望を与えてくれたように。



 怪物と化したエルフの瞳に、涙がにじむ。




「セイリーンに……我が戦った証を……ッ」





 私はおまえに、何かを遺せましたか?

 おまえは幸せでしたか?





「……遺さぬうちは……ッ」



 意識は手放さなかった。だが、すでに平衡感覚は失われていた。

 砕かれ、弾け飛び、力を失った巨体がゆっくりと傾く。


 生命を刈り取る赫の拳が迫る。



「――ッ」



 だが、それが彼女の命を刺し貫く寸前、両者の生み出す暴風の中を、異質な風が吹いた。

 赫色の拳を掌で側面から押して反らし、リガルティアとイブルニグスにできたわずかな隙間へと滑り込む。


 長いスカートと長い黒髪が微かに揺れた。



「おつかれさま。あなたの意志は、わたしが引き継ぎます」



 その女はリガルティアの巨体を驚くほどに細い腕でそっと支え、静かにそう囁いていた。


どれくらいかかるかって?

んー、もうちょっと殴ってる。


      ポカ!  ポカ!

        彡 ⌒ ミ  ポカ!

     ミ ○( ´・ω・`)   ポカ!

      ヽ    ○))   ポカ!

    ミヘ丿 (;;; # ;;) <いやもう一週間殴りっぱなしですぞ!?

    (ヽ_ノゝ;;;_ノ  ポカ


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