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転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第四章

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第31話 隻眼のゴーレム

前回までのあら筋!



石投げるくらいなら魔法使ったらいいのにね?

 ぼんやりとした魔術の灯りが、その施設に漂う異様さを浮かび上がらせていた。


 一歩踏み込めばすぐに異臭がした。

 死の森で散々嗅いだ嗅いだ死臭に、薬品臭を混ぜたような鼻を突く臭いだ。


 床一面には、被験体とされた魔族や魔物の肉体の欠片が、片付けられることなく散らばっている。

 二人のエルフが歩を進めるたび、足裏に張り付く生乾きの血が、ニチャリニチャリと嫌な音を立てていた。


 壁沿いにはゴーレムの研究資料や日誌と思しきものが丁寧に並べられた本棚があり、フラスコやシリンダーの並べられたいくつかのテーブルには、血で汚れた紙が何枚も散乱している。



 けれども、二人の視線はそこへは向けられない。

 研究室の最奥部。

 壁際に置かれた椅子に力なく腰掛けている萎びた老人のような白髪隻眼の男と、その隣に立つ継ぎ接ぎだらけの巨大な怪物がいたのだから。



 怒りがなければ、この異様な空間に恐怖を覚えて逃げ出していたに違いない。

 漢エルフはともかくとして、少なくともエルフ女子は。



 だが、立つ。

 散らばった魔物や魔族の欠片を踏みしめてでも、血の海を化した床を歩いてでも、二人はついに白髪の男の前に立っていた。



 男は死に瀕するほどに、衰弱していた。ひどく痩せこけ、枯れ枝のような手足をしている。

 けれども片方の瞳だけがギョロリと動き、二人の招かれざる訪問者を鋭く睨みつけた。

 隣のゴーレム――否、もはやそうとは呼べない何らかの生物は、瞳を閉じて、ただ微かに肩を上下させながら呼吸だけをしていた。



「貴様がレーヴか」



 誠一郎の問いかけからしばらく。

 枯れ枝のような男が、乾いて粉を吹いた唇を開けた。



「……おまえが見ている私はレーヴではない。もはやただの人形に過ぎない」



 老人のような外見の割に、声は若く瑞々しい。

 白髪も刻まれた皺も、精神的な苦痛によるものだろうか。



「ならばレーヴ出せ、人形よ。ゴルゴーン姉妹の件で話があると伝えろ」



 またしばらく、時間をおいて。

 乾いた唇の端を切りながら、男は隻眼をギョロリギョロリと動かしてつぶやく。



「……レーヴならば目の前にいるだろう。そこで勝手に話していろ」

「謎かけをしているつもりはない。貴様がレーヴではないというのであれば、なぜこのような場所にいる? レーヴに連れてこられた被験体の魔族か?」



 またしばらく。

 男がため息をついた。



「……被験体。くっく、ああ、そうだな。そうとも。私は被験体となった。もっとも、見ての通りもうもぬけの殻だがね。指先一つ自由に動かすことはできない。ゴーレム操術でも使わなければな」



 なるほど、と理解する。

 ゴーレム操術を自らにかけて、かろうじて話しているのだ、この男は。だからいちいち問答の間に時間を要する。



「……セイさん、何かおかしい……」

「……ああ……」



 しばらく沈黙が支配した。

 やがて、今度は男の方から口を開く。



「……ああ、おまえたちはエルフか。目がもうほとんど見えなくてな。長耳に気づくのに遅れた」

「そうだ。おれはレインフォレストのハイエルフ、誠一郎。こっちはフィリアメイラだ」



 男が微かに皮肉な笑みを浮かべた。



「……そうか。ハイエルフが訪れたか。ならば私が犠牲になる必要はなかったかもしれないな。いや、しかし魔神への憎しみを保ったまま魔力増幅器官である長耳を扱うには、やはり私の意識が必要か……」

「何を言っている?」

「……ああ、これは失礼。実のところ、私も元々はエルフでね」



 フィリアメイラが顔をしかめる。

 やや長めの白髪の隙間からは、長耳らしきものは見えない。エルフであるならば、どれだけ髪が伸びていようとも、耳の先端くらいは飛び出しているものだ。

 意図して隠していない限りは。



「ただし、キミたちハイエルフとは違って、魔族のダークエルフだ」

「ダーク……エルフ……」

「そうさ、お嬢さん」



 アズメリア大陸では、ハイエルフは亜人に分類されているが、ダークエルフはその好戦的な性格と禍々しき魔法を扱うことから、魔族に分類されている。

 ライゲンディール地方のエルフといえば、ほとんどがダークエルフだ。



「ちなみに長耳はもうないよ。切り取って隣に立つゴーレムにすげ替えたものでね。脳もだ。当然、レーヴとしての意識もない。ゆえに私はただの屍、レーヴではなく操り人形に過ぎないのだ」

「やっぱり、あなたがレーヴ……っ!」



 ギョロリ、ギョロリ。

 片方の眼球だけを動かしながら、レーヴだった屍がつぶやいた。



「……違う、違うなあ。最初から言っているだろう。私はもはやレーヴではない、と。肉体はもう死んでしまっているも同然だし、こうして喋ってはいても、本当は意識だってないんだからね。ただ操られているだけさ。だから私はレーヴでは――」

「そんなの言い逃れのための詭弁だわ!」



 嫌悪を感じた。ファントムを見たときよりも、ずっと。


 イカれている。完全に狂ってしまっているのだ。

 他者の優れた部位をゴーレムに移植するのは、最低の悪で共感などできないけれど、それでもその所業に理解はできる。


 けれど、自分の肉体や生命までをも切り取って、生態ゴーレムを強化する。

 こんなのもう、まともな生物の考えることじゃない。

 もはや善悪の尺度では測れない、別の何かだ。

 人間族とも魔族とも決して相容れない、別の何かだ。



 気持ち悪い……この人……。



 それでも、漢は怖じない。

 誠一郎は躊躇いもなくつかつかと男に歩み寄ると、その胸ぐらに手を伸ばして、片腕で軽く吊り上げた。



「御託はもういい。単刀直入に問う。リュアレやステナの石化瞳(せきかどう)を奪い取れと魔族に命じたのは、貴様か?」



 首が絞まるような体勢にされてなお、男の表情は変わらない。片方の眼球だけを、ギョロリギョロリと動かしている。

 呼吸音は聞こえない。ああ、確かにすでに死んでいるのだ、この男は。



「……必要なものだからな。片目だけでいいんだ。光を完全に失うわけじゃないのだから、別にいいだろ、目玉の一つくらいは」

「……ああ、なるほど。もう手遅れなのだな、貴様は。……救えん……」



 次の瞬間にはもう、誠一郎はレーヴだった屍を、頭から研究室の血まみれの床へと叩きつけていた。

 果物が破裂したかのように、レーヴの頭部が破砕される。



「~~っ」



 フィリアメイラは思わず目を背けた。

 だが、しかし。


 いいや、頭蓋ではない。頭蓋ではなかった。人体に似せて創られただけのロック・ゴーレムだ。中身はない。何も。レーヴ自身が、先ほどそう語ったように。

 ロック・ゴーレムに、己の皮をかぶせていただけだ。

 なるほど、人形。その通りだと思う。


 ならば本体はやはり。

 人形の隣に立っている継ぎ接ぎだらけの生態ゴーレム。


 そう考えて、誠一郎が視線を向けた瞬間――。



「――ッ」



 誠一郎がとっさにたたんだ右腕から、まるで巨大な金属同士がすさまじい勢いでぶつかったかのような、鈍く、しかし衝撃波をもたらすほどの音が響いた。

 次の瞬間、誠一郎の全身は並べられたテーブルを背中で巻き込んで吹っ飛ばされ、血だまりの床で跳ね上がって、轟音とともに壁へと叩きつけられていた。



「ぐ……、がは……ッ」



 怪物エルフの口内から、空気とともに赤い霧が吐き出される。



「セイさ――!」



 フィリアメイラの眼前には、レーヴの姿を模したロック・ゴーレムの残骸を踏みしめて、継ぎ接ぎだらけの豪腕を振り切った体勢の生態ゴーレム――すなわち、隻眼のレーヴの姿があった。

 吹っ飛ばしたのだ。無敵のエルフを。ただの一撃で。



「とどめだ。ではな、同族」

「やめて――っ」



 ゴーレム・レーヴはなおも両手を前へと突き出して、詠唱もなしに炎の魔法を放つ。

 レーヴから放たれた炎は大蛇のごとく渦巻きながら、研究室の壁に磔となっていた漢エルフを呑み込んだ。

 誠一郎の苦悶の声が上がる。



「ぐ、がああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」



 大炎柱が発生、次の瞬間には爆発し、研究室内部にも炎が渦巻いた。

 しかし大蛇はなおもすさまじい熱を放出させながら施設の壁をエルフごと突き破り、夜の平原を焦がしつけながら激しく暴れ回る。

 エルフを咥えたままに、うねり、跳ね上がり、大地を抉り、すべてを灼き尽くす。

 それは精霊王イフリートの炎にも勝るとも劣らぬ暴威を振るって――。



「セイさん! セイさん! あぁ、あああぁぁぁ……っ、いや、いやよ……っ」



 フィリアメイラの嘆きをかき消すほどに激しく。

 そうしてひとしきり暴れ回った後、大蛇はやがて竜へと変異したかのごとく、空へと昇って霧散した。


 研究施設から転がり出たフィリアメイラが、絶望感に力なく膝を折る。



「あ、ああぁ……そんな……。……うそよ……」



 無敵だと思っていた漢が。愛する人が、こんなにもあっさりと。

 否、違う。違った。


 フィリアメイラは炎と黒煙の大地で刮目する。


 平原に立つエルフ、一人。


 拳を空へと突き上げた勢いで、炎の大蛇を逸らしたのだ。かつてイフリートの顔面を大地に叩きつけたときのように。大蛇は竜となったのではない、エルフによって打ち上げられていた。


 力任せに。筋力のみで。


 そうしてエルフは、持ち上げた右手の人差し指をゴーレム・レーヴへと向けて朗々と言い放つ。



「ふぅ、やれやれ。これまで、何度も何度も多くの者たちに言ってきたことを、レーヴ、貴様にも言ってやろう」



 首を左右に倒して骨を鳴らし、全身からブスブスと黒煙を上げながらも、誠一郎は二つの月に咆哮する。



「――鍛え上げられしこのおれの筋肉にッ、魔法などという小細工ごときがッ、通用などするものかぁぁぁぁーーーーーッ!!」



 フィリアメイラは冷静に思った。


 いや、今さっきめっちゃ悲鳴上げてたじゃない……、と。


今日こそ死ぬがいいですぞ、筋肉神!


   *゜゜・*+。

   |   ゜*。

  。∩∧∧  *

  + (・ω・`) *+゜

  *。ヽ  つ*゜*

  ゛・+。*・゜⊃ +゜

   ☆ ∪  。*゜

   ゛・+。*・゜



愚はなり魔法神……。

わらひに魔法など効はん……っ。


(#)'3`;;) n

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(

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