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第3話 筋肉の帰還

前回までのあら筋!



主人公が筋肉神に洗脳されたッ!

 アズメリア大陸、エルザラーム地方中央部――。


 実り豊かな森の奥地に隠されたエルフ族の集落レインフォレストは、この日、人間たちの放った大火に包まれていた。


 天をも貫く五大樹はもちろんのこと、その枝に建てられたエルフ族の家屋にも、枝同士を繋ぐ吊り橋にも、せせらぎの側に建てられた洗濯小屋にも橙色の炎が宿り、炭となって崩れていく。


「だめだ! もう水魔法でも消火が間に合わない! 次々燃え移ってる!」

「くそ、油をまかれた形跡があるぞ! 放火だ!」

「もういい、逃げろ! 早く! 家族を迎えに行け!」

「長老様のお姿が見えないわ!」

「あの方は大魔法使いだ! 一人でもどうにかなる!」

「とにかく逃げるんだ! 女子供と老人を先に行かせろ!」


 大樹の洞にある階段から慌てて逃げ出してくるエルフたちへと向けて、待ち構えていた人間が投網を放つ。


「おらよぉっ!」


 頭から網をかぶったエルフたち数名が、手足を絡め取られて地面に転がった。


「きゃあっ」

「な――っ!?」

「人間!? 火はこいつらの仕業か!」


 鎧姿の男がヘルムのバイザーを跳ね上げて大口を開けた。


「はは! 金の卵が大漁だぜ! てめえら、さっさと縛り上げろ! 一匹も逃がすな!」


 パニック状態のエルフたちへと向けて走った他の軽装鎧の男たちが、乱暴にエルフの身体を地面に押さえつけて後ろ手に手足を縛り上げる。


「なぁに、心配すんな。抵抗さえしなきゃ傷つけたりはしねえよ。商品に傷をつけちまったら、価値が下がるからなあ」

「へへ、こんだけいりゃあ一生遊んで暮らせるぜ!」

「危険な商売もこれで終いだな。やっと故郷に帰れる」


 その様子を、燃えさかる大樹の洞の中に隠れて覗いていた緑髪の少女エルフは、自身の身体に両腕を回し、恐怖に震えていた。


 ど、奴隷商人だ……。


 容姿に優れたエルフ族は、人間たちの間で高く売買される。男性でも、女性でもだ。

 大抵の顧客は人間族の変態貴族。捕らえられたエルフは魔法具によって魔法を封じられた上で慰み者にされ、壊されるまで弄ばれる。

 それだけならばまだしも、人間族の大賢者はエルフ族の魔力を得るため、研究の名の下にその魔力源である耳を切り取って、自身の魔力源に変えてしまうこともあるのだとか。


 どうしよう、どうしたらいいの……。

 怖い、怖いよ……。


 歯がガチガチと鳴っている。炎が揺れて、こんなにも熱いのに。

 こんなこと、この二百年は起こったことはなかった。いや、襲撃自体は何度かあった。人を餌とする魔物の襲撃であったり、もちろん奴隷商人たちの襲撃も一度や二度ではない。


 けれど、少数とはいえレインフォレストのエルフたちは一騎当千の大魔法使い。

 百歳を越えるだけで、無条件に人間の大賢者級の魔力を自然と得られるエルフ族に敵う種族など、そうそういるはずもなかった。


 なのに。


「愚かな人間めっ! ――炎の精霊よ、その怒りで以て、汝の敵を灼き尽くせ!」


 投網で捕まったエルフたちの中から、威勢の良い詠唱が響いた直後、網を投げた人間が火柱に呑み込まれた。


 だが――!


「……バカな……ッ」


 驚愕の声を上げたのは炎に呑まれた鎧姿の男ではない。

 投網の中から炎の魔法を放ったエルフ族の青年だった。


 奴隷商に雇われた傭兵がニヤニヤと笑いながら腕を一振りするだけで、強烈な大炎柱を跳ね返したのだ。魔法を放ったエルフ族の青年へと。

 迫る炎を、青年がすんでのところで自らかき消す。


「くっ」


 鎧姿の男は皮膚一枚、髪の毛一本焦がすこともなく、勝ち誇るように言い放った。


「へへ! すげえや、この対魔法(アンチマジック)装備は! 見たかよ、今の! エルフの炎魔法がまるで小さな火花だ!」


 エルフの青年は、今一度詠唱を開始する。


「――風の精霊よ、その鋭利なる刃で、汝の敵を裂け!」


 再び魔法が放たれた。

 不可視の刃が空間を歪めながら、超高速で奴隷商の傭兵へと迫る。けれども刃が彼を斬り裂く直前。


 鎧。傭兵の鎧が自動的に光を放ち、不可視の刃は触れる瞬間に消し飛ばされ、直後にまったく同じ不可視の刃が再度青年へと襲いかかった。

 先ほど同様に跳ね返された魔法をかき消して、青年は絶望の表情を浮かべた。


「そ……んな……。……僕の魔法が……跳ね返されるなんて……」


 魔法が通用しない。それどころか、まったく同じ魔法が跳ね返ってくる。

 エルフたちの顔色が一斉に青ざめた。

 ハイエルフにとって魔法が通用しないということは、すなわち戦うための武器を失ったに等しい。


 俄然、騎士姿の人間たちが勢いづく。


「バァ~カが! 魔法の時代は終わったんだよ! 偉大なる大賢者スカーレイ様が発見なさった、対魔法金属(アンチマジックメタル)によってなァ!」

「あきらめろ、エルフども。俺たちの装備はすべて対魔法金属(アンチマジックメタル)でできている。貴様らがどれほどの大魔法を操ろうとも、それが魔法である限り、俺たちにはもう通用しない。――そのエルフを縛り上げろ」

「く……っ」


 鎧姿の男たちは魔法を放った青年エルフを引き倒してから縛り上げ、地面へと這いつくばらせた。

 なおも立ち上がろうとするその背中に、足甲が勢いよくのせられる。


「くそ! くそ! 放せ、人間!」

「ほれ、おとなしくしろ」


 その鎧男の背後から声がした。


「んん~? エルフにもあきらめの悪いやつがいるもんだ。俺は嫌いじゃないがね、そういうやつは」


 女エルフの金色の髪をつかんで身体ごと引きずりながら、軽装鎧姿の中年男性が現れたのだ。

 赤茶けた髪に、大きな傷の入った顔と髭。見るからに悪人然とした面構えだ。体格も他の男たちより一回り大きく、鍛え上げられた腕など、引きずられている女エルフの胴回りよりも太く逞しい。


「初めまして、エルフ諸君。俺はスカーフェイス。奴隷商に雇われた棘の(トアン)傭兵団の団長をしている者だ」


 洞から覗いていたフィリアメイラが息を呑む。

 瞳を閉ざして引きずられている女性のエルフは、現在、レインフォレストに在住しているエルフの中で、最も長く生き、最も強い魔力を得ていたはずの長老だったからだ。


 そんな! 長老様まで……!


 その姿を確認した瞬間、勢いづいていた青年エルフの表情が変わった。悔しげにうつむき、諦観の念を表したのだ。

 長老の魔力は青年の数倍はある。それが、こんなにもあっさりと捕まったのでは。


「……ちくしょう……こんな……」


 跪いた青年の顔を覗き込み、スカーフェイスが口元に恣意的な笑みを浮かべる。


「彼女がレインフォレストで最強のエルフだったのだろう? その彼女も今ではこの有様だ。だが俺は彼女に感謝したいね。なぜなら、彼女が無様をさらすことでキミの心が折れて、キミは怪我を負わずに済んだ。そして俺はキミという商品を傷つけずに済んだ」


 スカーフェイスが両手を広げて空に叫ぶ。


「――ああ、なんと素晴らしき自己犠牲か! 自らの民を守るため、自らの身で敗北を示すとは! 彼女は最高の女王ではないか!」


 棘の(トアン)傭兵団が一斉に下卑た笑い声を上げた。


「……が、ずいぶんと逆らってくれたおかげで、その王自身の商品価値は下がってしまった。まったく。美しい顔をしていながら、くだらんことで自らの価値を下げるとは……――てめえはどうしようもない雌だ」


 スカーフェイスが長老エルフの腹を蹴った。

 鈍い音がして、長老の肉体がくの字に曲がる。


「あく……かはっ」

「今のはその罰だ。せいぜい今後は自身を大切に扱いたまえ。といっても、奴隷商との引き渡し契約は明後日。傷を負ったままでは売ろうにも売れん。やあ、困った」


 スカーフェイスが伏したままの長老の顎をつかみ、強引に視線を上げさせた。好色の瞳で睥睨し、下卑た笑みを浮かべて。


「ゆえに、美しきエルフよ。おまえだけは棘の(トアン)傭兵団で飼うことにしてやろう。――せいぜいみなに可愛がってもらえ」


 棘の(トアン)傭兵団の面々から、一斉に歓喜の声が上がった。


 長老は首を振ってスカーフェイスの手から逃れ、悔しげな表情で地に倒れ伏す。人間とは違い、長老といえども肉体的には老化していないことだけが救いか。けれどその薄衣には、少なくはない量の血液が滲んでいた。


 洞に隠れたままのフィリアメイラは、唾液を飲み下して震える両手を胸の前で握り込んだ。機をうかがってはいるけれど、どうすればいいのかわからない。何せ、頼りの魔法がまるで通用しないのだから。


 だめ、だめ、わたしに何ができるの……? 長老様の魔法が通用しない相手なんて、もう二百年前にいなくなってしまったセイリーン様の魔法くらいしか……。


 呼吸が苦しい。大樹の洞に黒煙が溜まり始めている。

 でも咳をしてはダメ。見つかってしまう。


 赤茶けた髪のスカーフェイスが、再び長老の腹部を蹴った。


「うぐっ、かは……っ」

「レインフォレストのエルフはこれで全部かね? 四十三匹しかいないが」


 唇を血に染めて、長老が苦しげにうめく。


「そ……う……です……。……他には……誰も……」


 フィリアメイラの肩がびくりと震えた。


 数え間違えるはずがないのだ。長老が。住民の数を。

 およそ二百年前に産まれた最も若く、最も高く売れる年若い女のエルフ(わたし)が、まだ捕まっていないことなんて、わかっているはず。


 長老の唇が微かに動く。

 おそらくは真横に立ったスカーフェイスですら聞き取れない、吐息のような掠れ声で。あるいは、長い耳を持った一族にしか聞き取れない声で。


 ――逃げなさい、フィリアメイラ……そしてセイリーンを捜すのです……。


 その言葉を聞き取れないスカーフェイスは、未だに下卑た笑みを浮かべている。

 しかし。


「今、嘘をついたな? いるはずだ。なぜなら俺たちは、レインフォレストの外をうろついていた深緑色の髪をした小娘エルフのあとをつけ、結界に隠された五大樹の位置を割り当てたのだからなあ?」

「……っ」


 フィリアメイラの瞳が大きく見開かれた。

 全身がガクガクと震え出す。


 自身の迂闊な行動が、外の世界を見てみたいという幼い頃からの好奇心が、このような事態を招いてしまったのだ。


 あれほど、あれほど注意されていたのに!

 わたしのせいでレインフォレストが!


「ところがどうだ。どこにもそんな髪色をした若いエルフの雌など見当たらん。不思議ではないか、なあ? さあ、言え。小娘はどこにいる?」


 スカーフェイスが這いつくばったままの長老の顔を、足甲の裏で乱暴に踏みにじる。

 長老の顔が草むらに沈み、苦痛の声を漏らした。


「う……く……。ふ、ふふ、人間の男性というものは、女性に対してこのような扱いをするのですね……。ずいぶんと野蛮な種族です……」

「おいおい。口の減らんババアだ。するわけがないだろう。女性に対してはな」


 スカーフェイスが片方の頬だけを引き上げて、厭らしい笑みを浮かべる。


「だが、エルフは女じゃない。俺たちにとっては経済動物。すなわちただの雌だ。容赦などする理由はなかろう?」

「……ッ」

「とはいえ若い娘のエルフは最も高く売れる。さあ、呼べ。おまえが呼ばなければ、男を一人ずつ殺していく。――ああ、だが安心してくれていい。殺しても無駄にはしない」


 足をどけてしゃがみ込み、長老の耳を乱暴につかんで唇を寄せ。


「殺した後に耳を切り取って、好事家か大賢者から小金でもせしめるさ。時代遅れの魔力増幅器官なのだろう? この長耳は。傭兵団の当面の酒代くらいにはなる。ほら、どうした! 呼べッ!! 呼ぶんだッ!!」


 鈍い音がして、再び長老のうめき声がした。何度も、何度も。腹を蹴り、頭を踏まれても、長老は歯を食いしばって耐える。

 そのうめき声が小さくなる頃、フィリアメイラは耐えきれず、ついに傭兵団の前へと飛び出していた。


「もうやめて! 長老様が死んじゃう!」

「おっと! 子ウサギちゃんが自ら出てきてくれたぞ」

「フィリアメイラ……、この愚か者が……どうして出てきたのです……っ」

「だって、こんな……わたしのせいなのに……こんな……」


 長老が固く目を閉ざし、苦渋に満ちた表情でうなだれる。一方でスカーフェイスは笑顔を浮かべながら両手を広げた。


「ゥゥウェルカァ~ム! ――気をつけろよ、てめえら。見た目はただの小娘でも、百は生きてる大賢者級の老獪だ。つっても所詮はエルフ、今じゃ無力な魔法くらいしか撃てやしねえだろうがなァ!」


 傭兵団から下卑た笑いが巻き起こった。


 傭兵団の数は三十余名。普通の人間であればフィリアメイラ一人でも十分に張り倒せる数だが、いかんせん魔法が通用しない。


 倒すだけなら方法がないでもない。たとえば魔法の力を利用して大樹を敵の頭上に倒すとか、大地の精霊に地割れを起こさせ呑み込ませれば、魔法そのものが通用しないとはいえ致命傷を負わせることは可能だ。


 でも――。


「う……ぅぅ……」

「逃げなさい、フィリアメイラ! 走って! 走るんだ!」

「おまえはまだ若い!」

「早く行くんだ! 僕たちのことはいいから!」


 傭兵たちの足下には、押さえつけられたレインフォレストのエルフたちもいる。

 魔法だけならば緻密な操作で彼らを巻き込むことはないが、大樹を倒したり地割れを起こせば確実に彼らも無事ではいられないだろう。


 だめ、だめ……。誰か……。

 ああ、せめてわたしに、二百年前にレインフォレストを去ってしまったセイリーン様くらいの魔力と知恵があったなら……。


「子ウサギちゃん、お得意の大魔法とやらを撃ってみろよ! もぉ~しかしたらぁ、通用するかもしれねえぜ? ははは! ほら、おぢちゃんに撃ってみろよぉぉぉ!?」

「囲め囲め!」

「ゼッテー逃がすんじゃねえぞ」

「へへ、これで棘の(トアン)傭兵団の名声も上がるってもんよ」


 そうこうしている間に、フィリアメイラを取り囲むように傭兵団が散開した。

 前後左右に視線を散らし、逃げ場を失ったことに気づく。


 助けて……セイリーン様……。助けて……。


「ほほう。ならば、遠慮なく()たせてもらおうか」


 その朗々と響いた逞しき言葉は、フィリアメイラが背負った大樹側からではなく、むしろ傭兵たちの団長スカーフェイスの背後から響いた。

 つまり、傭兵団の最後尾からだ。


「あン?」


 目の前の若いエルフに飛びかからんとして中腰になっていたスカーフェイスが振り返り、その漢を目にする。

 そして、唖然とした表情で口を開けた。


「なんだ、おまえは?」


 エルフだ。エルフの青年が一人、そこに立っている。

 異様な雰囲気を放ちながら。


 他のエルフ同様に薄絹でできた優雅にて優美なる衣をまとってはいる。

 だが、違う。違うのだ。


 うっすらと透けてみえる腹部はくっきりと六つに割れ、一見すれば中肉中背のようではあるが、目を凝らせば腕も脚部も限界まで絞られた筋肉によって、エルフ族にはあり得ない凹凸ができている。


 何より、そのエルフの放つ体熱。

 激しき炎を近距離で目にしたときのように、思わず退いてしまいそうなほどの体熱。


 それでもスカーフェイスの巨体には敵わない。身長はもちろんのこと、筋肉量も。体重にいたっては、おそらく倍ほども違っているだろう。

 スカーフェイスは彼を見下ろし、彼はスカーフェイスを軽く見上げる。


「……」

「……」


 短く刈り込まれた金色の髪の隙間からは、長い耳が覗いていた。

 だが、どう見ても。耳長だとしても、美しき目鼻立ちをしていたとしても、よしんば長い髪は切り捨てたのだとしても、どう見ても、これは。

 ハイエルフの肉体ではない。エルフは肉体を鍛えたりはしない。


 にもかかわらず、そのエルフは堂々と立つ。

 その様たるや、まるで歴戦の勇士がごとく。


「何者だと聞いたはずだが? こたえる口もないのか? ああ?」

「見てわからんのか。あきれたものだな。ああ、だが。貴様の言う通りだ」


 スカーフェイスがすごむ。


「あ?」


 だが、エルフはそれすら呑み込む視線でつぶやいた。


「しばらく留守にしていた間に、住処を踏み荒らしに来た小悪党ごときに名乗る名はないということだ。口はあるがね」

「さっきからてめえ、何を言っていや……が……る……?」


 圧倒的威圧。その場の誰しもが言葉を失い、動きを止めてしまうほどの。

 件のエルフは一方的に喋る。獰猛なる猛獣がうなるように。


「おれは今、ひどく機嫌が悪い。だが、一発撲たせてもらう礼だ。名は教えてやらんが、何者かくらいはこたえてやる」


 スカーフェイスは、己が息を止めてしまったことにさえ気づいていない。

 その彼へと、エルフの青年は他の団員を無造作にかき分けながら――いや、自然と道が開いていく。誰しもが道を譲ってしまう。


 そうして、彼はスカーフェイスの前に立ち。禍々しくニカッと笑った。

 だが、次の瞬間。


「レインフォレストのエルフに決まっておろうがァァァーーーーッ!!」


 雷轟のごとき叫びとともに放たれた裏拳が、対魔法金属(アンチマジックメタル)でできた鎧ごとスカーフェイスの肉体をくの字に折り曲げた。己の身を遙かに凌駕する肉体を持つ、スカーフェイスをだ。

 直後、フィリアメイラはスカーフェイスの姿を見失っていた。いや、その場の誰もがその姿を見失っていた。


 超高速で吹っ飛ばされていくスカーフェイスが、爆音を立てながら遙か遠くの樹木をその背中でへし折って跳ね上がる音が響くまでは。


「む? 加減をしたつもりであったが、我が上腕筋三兄妹が少々暴れてしまったか。しかしつまらんな。傭兵団というからどれほどの筋肉(にく)かと期待したが、鍛え方がまるで足りていない。ウォーミングアップにもならん」


 まるで怪物のようなそのエルフは、呆然としたまま立つフィリアメイラに見せつけるように左右の大胸筋を交互に動かし、そしておもむろに両手を腰にあて。


「フン! ハハハ! フン!」


 フロント・ラット・スプレッドポーズを見せつけていた。

 気合いの声のときに筋肉が膨張し、笑うとしぼむ。怪物エルフは何度も何度もそれを繰り返す。


「ふははは! フン!」


 フィリアメイラは思った。


 なんか、怖ぁ~……。


そうだ魅せつけろ。女は筋肉でメロメロプーだ。


(´・ω・`)   n

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(

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― 新着の感想 ―
[良い点] 生来の才能という名の種族的な不利を蹴り飛ばすほどの執念――という名の筋肉神マジック。 いえ努力しているのだろうと察します、ええ! ついに来たあああああという感じですねっ、これは高まります!…
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