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転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第四章

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第27話 優しき心

前回までのあら筋!



世界の半分は筋肉でできていた!

 一悶着あるかと思いきや、案外簡単に両替ができてしまった。

 ただ、少々ぼったくられた気がする。


 革袋一つ分の砂金は、金貨三十枚と銀貨十五枚、それに数えるのも面倒な数の銅貨に変わった。けれども重量分で言えば、最初の一袋とほぼ同じ。

 三種の金属の比重差を考えれば、鋳造の際の手間を差し引いても、やはり騙されているとしか思えない。

 とはいえ、そんなことで騒ぎを起こしてしまうのは自殺行為。今のところ問題はないとはいえ、ここは魔族の地、ライゲンディールなのだから。


 それより何より――。


 フィリアメイラはチラリと視線を上げて、ご機嫌に歌いながら隣を歩いている漢エルフの顔を見る。



「あ~あ~、青き空とぅ~、あ~あ~、熱き筋肉ぅぅ、大体同じ~♪」



 大体の幅が広すぎる……。


 まるで気にした様子もない。脳みそまで筋肉にアレされちゃってるから、詐欺られたことに気づいていないのかしら。

 まあ、これだけあればしばらくの間は問題なさそうだし、別にいいけれど。


 足りなくなれば、適当な地で冒険者ギルドにでも登録して賞金稼ぎの真似事でもすればいい。

 盗賊や山賊、手配魔獣あたりを蹴っ飛ばせばあっという間だ。鍛えた筋肉さえあれば、金銭などある程度までならば簡単に稼げる。

 すなわち筋肉にとっては、そのようなものは取るに足らない問題なのだ。



「ん、ん~、赤き夕暮れとぅ~、ん、ん~、熱き血潮ぉぉ、大体同じ~♪」

「……」



 ハッ! 賞金稼ぎ!?

 だめ、だめよ、メイラ! 今のは筋肉思考よ! ウェイトレス、そう、ウェイトレスとかでいいじゃない! 可愛い制服を着て!



 乙女、じわじわと自らの脳へ侵蝕してくる筋肉の影に、初めて恐れを抱く……。

 そのうち自らもまた、わけのわからない歌を歌い始めるのではないかしら、と……。


 日が暮れるより早く、二人のエルフはゴルゴーン族の少女の露店へと戻ってきた。だがしかし。



「……」

「……」



 気持ち悪い歌が止んだ。

 目隠しをした少女は先ほどと同じように、シートに座っている。けれども少女の前に並べられていた大小歪な形状のパンは、すべてなくなっていた。



「あら、全部売れちゃっ――」



 フィリアメイラの口を、誠一郎の手が塞ぐ。



「やあ、戻ってきたぞ」

「…………おかえりなさいませ、お客様……」



 少女の表情が緩み、弱々しい声が二人のエルフを迎えた。



「では、パンは全部でいくらかな? 一つ残らず買うぞっ」

「?」



 フィリアメイラが不思議そうに誠一郎を見上げる。

 そうして気づいた。パンは自分たちがいない間に、また盗まれてしまったのだと。



「……銅貨を五枚もいただければ、それで」

「おお、安いな(ゥゥリィズナボーゥ)。では」



 誠一郎が革袋から銅貨を十枚取り出して、一枚一枚、丁寧にゴルゴーン族の少女の掌へとのせていく。



「……五枚、確かに……」



 ゴルゴーン族の少女が嬉しそうな顔で深々と頭を垂れた。



「……ありがとうございます……」

「うむ。では早速食うか。メイラ、半分ずつだぞぅ。おっと、その上腕筋に似た形のはおれのだ。キミにはほれ、この大腿筋に似た形のこれをやろう」

「え、あ、はい」



 むしゃり、むしゃり。

 二人して、わざとらしく咀嚼音を立てる。エア食事だ。道行く魔族らが奇異の目をこちらに向けているけれど、漢は気にした様子もない。

 しばらくそうして。



「うむ。腹一杯だ。娘、馳走になったな」

「ごちそうさまでした」



 言ってはみたものの、腹は減る一方だ。

 仕方がない。これも人助けだ。



「…………パンは、おいしゅうございましたか……? ……お口に合えばよいのですが……」

「ああ! おかげでおれの筋肉たちがまた育ってしまう!」

「とってもおいしかったですよ~」



 少女が少し首を傾けて口元に手を当て、たおやかに微笑む。



「……ふふ……それはようございました……」



 少女が立ち上がり、受け取った銅貨を小袋に入れてから籠に置き、露店にしていたシートを丁寧にたたみ始めた。



「あ、手伝います」



 フィリアメイラがシートの端を持ち、同じく端を持って立つ痩せこけたゴルゴーン族の少女に近づいて、シートを預ける。



「はい、どうぞ」

「…………ありがとうございます……」



 少女はシートをたたみ終えると籠に収納し、それを背負って立ち上がった。



「……それでは……失礼いたします……」

「あ、あの、失礼だけど、目隠しをしていてちゃんと帰れるの? 送りましょうか?」



 少女が微笑み、静かに返す。



「……慣れておりますので……」

「気をつけて帰るのだぞ」



 ぺこり、一礼をして。

 半壊した建物と建物の隙間、路地裏へと去っていった。

 その姿を見送って、フィリアメイラはしみじみとつぶやく。



「セイさんはお人好しですねえ」

「何を言う。メイラもちゃんとのってくれたではないか。あの手の輩は、施しを受け取ることをよしとしないからな。あのゴルゴーン族の少女は、優しいやつだ。己が損を被るとわかっていて、自ら危険な瞳を閉ざし、生きることを選んだのだからな」



 ああ、さぞかし生きづらかろうに……。


 他者を傷つけるくらいであれば、自らが傷つきながら生きよう考えたのだ。

 忌まわしき力を持つゴルゴーン族の、あの少女は。彼女がそう願えば、この地の支配者にだって慣れたであろうに。



「ほ~んと、優しいですね」

「ああ。眩いほどにな」



 たぶん、この無骨な漢エルフはわかっていない。

 フィリアメイラの言葉は、少女に対してではなく、漢に対するものであったことに。


 そういうところだ。ほんとに。

 この人の中身は、わたしを最後まで見捨てなかった前世から、何も変わってはいない。肉体だけは、変わり果ててしまったけれど。


 視線を合わせて、同時に破顔する。

 公平性のない両替にエア食事では大損ではあったけれど、悪い気分ではない。少なくとも、今夜のあの少女だけは救えたのだから。



「さて、宿を探すか。食事は宿の食堂でいいだろう」

「そうですね。けど、あるかなあ。ほとんどの建物が崩れちゃってますよ」

「ま、探してみるさ」



 二人並んで歩いて、周囲を見回す。

 本格的な街ではなく、あくまでも砦であるため、パラメラ砦はそれほど広くはない。何せ、目線を上げれば向こう側にもう壁が見えているくらいなのだから。


 半壊した建物からは、夕食時の匂いが漂ってはいる。人はいるのだ。間違いなく。

 けれども、日暮れとともに露店通りを行き交う人々の姿はめっきり減った。

 何件か宿屋らしき看板を掲げている建物に入ってはみたものの、やはり商売はやっていないものばかりだ。曰く、いつ崩れるかわからないそうで。


 結局、露店通りでは宿を見つけることができなかった。

 そうこうしているうちに露店も姿を消し、夜の帳が下り始める。



「……困りましたね。露店で食べ物だけでも確保しておくべきでした」

「うむう。こうなったら半壊している無人の建物を拝借して、寝床だけでも確保するか。飯は残念だが、明日の朝、露店で探そう」

「仕方ありませんね。ベッドで眠れると思ったんですが」

「肉のベッドでよければ、おれの腹斜筋で――」



 フィリアメイラが幸せそうに笑った。



「それ、旅立ってからはいつものことじゃないですかぁ」

「ああ、言われてみればそれもそうだな。レインフォレストだと、ばーさんがうるさかったからな。嫁入り前の男女がどうのこうのと」



 二人してげんなりした表情を浮かべる。



「自分だって嫁入り前のくせに。まったく、あのばーさんときたら」

「あはは。…………今のリガルティア様にもらい手っているのかしら……」

「うむぅ。並の筋肉程度では、夫婦喧嘩の際に片手でくびり殺されそうだな」



 筋肉(ニク)オタのセイさんにまで心配されるほどゴリラ化してしまったリガルティア様って一体……。


 それでも少し前までは、多く重ねた年齢など感じさせないくらいに、貴族、魔族、王族からも引く手あまただったらしいけれど。

 あくまでも、姿形が変わり果てるまでの話だ。



「まあ、ばーさんのことはともかくとして、今日も腹斜筋枕で我慢してくれ」

「我慢? わたし、セイさんの腹斜筋枕も大好きですよ? 柔らかくて弾力があるし、夏は暑苦しいけど冬は温かいですし」

「そうか。それは何よりだ」



 そんなことを話しながら、露店通りから一本奥の細い裏路地を歩く。

 灯りのついている建物はだめだ。誰かが住んでいる。だが半壊している建物の中でも、最低限、屋根と、そして眠れるだけのスペースがあるものとなると。



「なかなかないもんですね」

「大体が崩れたときに瓦礫で埋まってしまっているからな。さすがに筋肉の弾力をフル活用しようとも、ここまでゴツゴツした瓦礫の上では眠れん。これなら野宿でもした方がマシだ」

「町中の通りで眠るわけにもいきませんし、一度パラメラ砦の外に出ますか? 明日あらためて入って、露店で食料を調達してから旅立つのはどうでしょう?」



 誠一郎が珍しく気落ちした態度で、ため息をついた。



「やむを得んか。……旅慣れていないキミを、たまにはまともなベッドで眠らせてやれると思ったのだがな」



 そういうところっ! もーっ!

 わたしのために探してくれていたなんて!


 火照った顔をうつむいて隠し、早口で言い放つ。 



「わわたし、セイさんの側にいられるならどこでもいいですからっ」



 ベッドは恋しいけれど、その言葉だけで疲れが消えてしまう。

 けれどそんなこと言えない。恥ずかしくて。嬉しくて。



「うむぅ。だが……」

「で、では、念のために東門に向かいつつ外へ向かいましょっ、ね?」

「そうだな」



 西にある正門からこっちは、宿にできそうな建物はなかった。

 ゆえに東へと歩き、半壊の建物を探しながら進む。


 だが、いくらも行かないうちに。



「む、あれは……」

「え……、嘘……」



 二つの月光の中で、倒れている人影を発見した。

 駆け寄り、二人のエルフは驚愕する。



「大丈夫か!?」

「しっかりして!」



 無惨に壊され、転がっていた空の籠の側でうつ伏せに倒れていた少女は、先ほどまでパンを売っていたゴルゴーン族の目隠し少女だった。


弱者は搾取される。ゆえにつけろ。筋肉を。


(´・ω・`)  n

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(


※少しだけ更新速度が低下します。

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