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転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第三章

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第21話 太陽と二つの月

前回までのあら筋!



やたらめったら投げられる……。

 それは、死の森の西。

 シーサーペントの多く棲まうセルシア海を一望できる位置にあった。



 ――洞窟。ぽっかりと闇色の口を開けて。



 誠一郎が中に入り、ナップザックから取り出したランプに火を灯す。闇色一色だった空間に、橙の暖かな光がぼんやりと浮かんだ。



「入ってくれ。何もないがな」

「お、お邪魔します……」



 フィリアメイラが不安そうに周囲を見回しながら、足を踏み入れる。

 覚悟をしていた虫や蝙蝠すらいない。ありとあらゆる生者を喰らう、アンデッド効果だろうか。いかに優れた虫除けであろうと、アンデッドの方が気持ち悪いけれど。



「足下、砂じゃないんですね」

「ああ。おかげでアンデッドがうっかり埋まっていることもない。それに海に面しているから、生者の匂いも潮風に流されて早い段階で散る。この洞窟の周囲は比較的安全だ。絶対じゃあないがな」



 自然にできたものではない、座るにちょうどいい岩の突起に、フィリアメイラが腰をそっと下ろした。



「おっと、そこは師匠の席だ。座ると物憂げ且つ哀しげな視線で見られてしまうぞ」



 物憂げ且つ哀しげな視線って……。どういうディアボロスなの……?

 ディアボロスのイメージからだと激怒しそうだけれど……繊細な個体なのかしら?



「こっちがおれの席だから、こちらに座るといい」

「あ、はい」



 誠一郎の指さしたもう一つの突起へと座り直す。


 ほんとにディアボロスと二人で住んでいたんだ。エルフが、二百年近くも、死者だらけのこんな森で。

 想像もつかない暮らしだ。


 壁の一部と、寝床と思われる床の部分だけは磨かれたようになだらかになっているけれど、他には何もない。本当にただの洞窟だ。



「死の森の生者はわずかしかいない。おれと師匠は食っていくため、アンデッドどもと少ない獲物の奪い合いをしていたんだ。ずっとな」

「ええ……そんな無茶な……」

「ハハ、ここじゃ生き残るだけで筋トレになる。むろん、食えなければ筋肉も減るがね」



 道々で拾ってきた枯れ枝を洞窟の入り口付近の外で大量に重ね、周囲に石を並べて置いてからランプの火を移す。枯れ枝はあっという間に炎を宿した。

 その上に大きく平たい石を、ゴトリと置く。



「これはおれたちが昔使っていた、フライパン件、まな板件、鈍器だ」

「鈍器……? あ、あの、まさかとは思いますが、それでアンデッドとか殴ってないですよね……?」

「……」



 パチ、パチ、炎の爆ぜる音だけが響いていた。



「なんで黙るのっ!?」

「フ、筋肉ジョークだ」



 それでも否定しないあたりが恐ろしい。やりかねない。

 洗えばいいとか本気で思ってそう。



「仮に殴っていたとしても、洗えばいいではないか。ハッハッハ」



 もー!



「そのような顔をするな、メイラ。大丈夫、仮の話だ。仮のな。………………んん……? ……洗ったかな……」



 しかしフィリアメイラのそんな不安を余所に、誠一郎は水で軽く練った小麦を鈍器的調理器具に伸ばして貼り付けていく。

 次に干し肉を木枝で刺して、周囲で炙り始めて。



「手慣れてますね」

「まーな。師匠に教わった。食える魔物に食える植物、死の森でも獲れる数少ない動物。今では大体のものは、見れば食えるかどうかわかるようになった」

「……新鮮なアンデッドは?」



 誠一郎がニヤッと笑ってうつむき、口をつぐんだ。

 黙ったまま火かき棒を使い、たき火をかき回す。火の粉がふわりと広がった。

 炎の爆ぜる音が微かに響く。



「ちょっとッ!?」

「フ、筋肉ジョークだ」

「以降はもう筋肉ジョーク禁止!」

「う、うむ。安心しろ、さすがに食わん。とにかく、食えるものと食えないものの違いが本能的に判別できるようになったのだ」



 と言ってから、最後にぼそりと付け加える。



「…………ま、わからなくても一口食ってみればわかるものだが……」



 聞き捨てならない言葉に、フィリアメイラが食い下がった。



「ちょっと!? 毒だったら一口でも食べちゃった時点で手遅れではっ!?」

「大丈夫だ。師匠が教えてくれた。おれの逞しき筋肉には毒など効かんらしい。だから毒見は任されていた。フゥーハハハハハ!」



 騙されてるしー! そのディアボロス、ほんとにどういう性格なの!?



「いや、効きますよっ!? どれだけ鍛えていても、筋肉に解毒作用なんてないですからねっ!?」



 誠一郎の瞳がまん丸に変化する。



「えっ!? そうなのッ!? ……今日までよく無事だったな、おれ……」



 それはこっちの台詞だ……。

 筋肉に対する信頼度が半端ないな、この人……。


 しばらく無言の時が過ぎる。

 誠一郎は即席の薄焼きパンをひっくり返し、もう片面を焼いてから干し肉をのせ、最後に端からくるくると巻いて棒状にし、フィリアメイラへと差し出した。



「そら、温かいうちに食べるといい。うまいぞ」

「……ありがとうございま――てか、でっかい! もう長柄武器(ポールウェポン)みたいになってんじゃないですか! これ、わたしのだったんですか!?」



 誠一郎がニカッと笑ってウィンクをする。



「フ、筋肉レディファーストだ」



 なんで筋肉ってつけたの? その言葉、必要だったの?

 まるでわたしが大食らいの筋肉女みたいじゃないですか。食べられますけど。全部。

 はふ、はふ、もがー。



「おれが筋トレをしていた頃でも、塩は海からいくらでも採れた。魚もな。ただし、野菜は貴重だった。ここではな。死の森を抜けて草原まで出れば野草もあるが、それだけで往復二日がかりの旅だ」



 確かに。肉しか挟まっていない。

 味付けはもちろん塩だ。ただし、振りかけるのではなく、肉を干す際に擦り込んだ塩。ちょっと辛いけれど、散々汗を掻いた後だからちょうどいい。



「だから師匠と交代で採取に行ったものだ。筋肉が育ち盛りだったおれには、筋肉(プロテイン)草がどうしても必要だったからな」

「……でも、どうして採取してきた筋肉(プロテイン)草をこの洞窟近くに植えなかったんですか? 自分たちで育てれば採取も楽ちんなのに」

「!?」



 え~……。あっちゃあ、その手があったか~っ、みたいな顔してるわ……。

 師弟そろって脳筋なのかしら……。



「ま、まあ、ほら。あんまり多く植えちゃうと、筋肉(プロテイン)草の生命力でアンデッドを洞窟近くまで呼んじゃうかもしれませんからねっ」

「お、おおっ、そう。それだ! フハハハハハ…………ハァ~……」



 うつむいちゃったわ。



「でも、いいお師匠様だったのですね。セイさんのために筋肉(プロテイン)草を摘んできてくれるなんて」

「……ん。ああ、そうだな……。……年に一度だけ花開く、筋肉(プロテイン)草の花は美しかったな……」



 それきり言葉はない。

 フィリアメイラは未だに誠一郎の師匠の名を知らない。尋ねても、なぜかはぐらかされてこたえてはくれないのだ。


 自身の分の夕食を作り、誠一郎もペロリと平らげる。



「さて、今日はもう休むとするか」

「はい」

「明日は一日休息を取る。休筋日だ。筋肉には――」

「――休息が必要なんですよね。筋繊維をより強固に結びつかせるために」



 機先を制された誠一郎が、少しはにかんでうなずく。



「そうだ。一日英気を養う。海にでも行って、のんびりと魚を釣るのもいいな」



 わ、やったっ。砂浜デートだっ。



「旅の続きは明後日だ。死の森の洞窟に師匠が戻ってこないのであれば、おそらく東へと魔神イブルニグスを追っているのだろう。おれたちも名も無き村を通って、魔都モルグスへと向かう。師匠はそこにいるはずだ」

「は、はいっ」



 誠一郎がナップザックから薄い毛布を二枚取り出す。

 ちなみにフィリアメイラは荷物を持っていない。着替えも食料も飲料水も、すべて誠一郎のナップザックに詰まっている。

 すべては怪物エルフが、筋肉紳士であるがゆえ。そう、この漢は決して女性に荷物を運ばせたりはしないのである。



「あ、寝る前にわたし、身体を洗いたいのですが」

「おお、そうだった。おれもアンデッド汁を浴びてしまったからな。鼻が慣れてしまったとはいえ、少々気分が悪い。この洞窟の丘の裏側に小川が流れている。ここからそう遠くはないから、今から向かうか」

「はい」



 洞窟の外に出ると、青月と紅月がすでに高くにあった。ちなみに青月が先行し、紅月がそれを追うように動いている。

 星空は前世で見た夜空よりも、よっぽど綺麗だ。


 一つの太陽を追う、二つの月。

 まるで師匠を追う誠一郎と、彼に付き従う自身のようだ。けれど、だったら青月は太陽には決して追いつけないし、紅月もまた青月と重なることは決してない。

 闇に散りばめられた宝石のように、無数の星は輝いているけれど。



「……」

「どうした、メイラ? そっちじゃないぞ」

「あ、はーい」



 誠一郎は樹木のある森には降りず、洞窟の岩場を登っていく。たぶん、この洞窟のある岩場を除いて、地面に砂のある死の森に踏み入れば、再びアンデッドを呼び寄せてしまうからだろう。


 二人のエルフは二つの月の下、まるで青月と紅月のように一定距離を保って丘を登る。丘はそれほど高くはなく、すぐに頂上にたどり着いた。


 死の森が一望できる。

 その向こう側にあるレシアス砦や、国境都市ランデルトの光まで。



「は~。案外綺麗なんですね。死の森って」

「外から見る分にはな。中はアンデッドのせいでドロドロのグチョグチョだ」



 そう言いながらも、誠一郎はまんざらでもない顔をしている。

 きっと嫌いではないのだろう。ディアボロスと過ごしたこの地のことも。大切に思って。




 ああ、青月はきっと、太陽の背中しか見てはいないのだ。




 フィリアメイラは胸に手を当てた。

 少し。ほんの少しだけ嫉妬してしまう。太陽に。ディアボロスに。死の森にさえも。


 丘を下ると、すぐに穏やかなせせらぎの音が聞こえてきた。

 川縁で誠一郎は荷を下ろし、そのまま足を踏み入れる。薄衣すら脱がずに。月光を浴びて水滴すら紫に染まったせせらぎへと。


 その様は、とても美しいと感じられた。完成された筋肉をまとう、美しきエルフ。二つの月を背負えば、まるで一枚の絵画のようだ。



「どうした? 早く来るといい。冷たくて気持ちいいぞ。火照った筋肉が冷やされる」

「あ、はい……」



 とはいえ、フィリアメイラは違う。

 乙女なのだ。


 ヘソこそ常時出しているものの、シャツの裾を腹部で縛って大胸筋――否、彼女曰く、お乳はちゃんと隠している。

 むろん下半身にも頑丈な魔物革で作られたミニスカートを穿いているし、さらに片側をぐるりと覆う軽めのオーバースカートも着用している。


 もちろん露出に目覚めたというわけではない。

 上半身は放熱のため、そして下半身は鍛えた足技の抵抗を減らすためだ。



「ええっと……?」



 ??

 脱げと?


おお? 大胸筋のぉ~お披露目かぁ~!?


( ´^ω^)  n

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(


※明日、明後日は18時に予約投稿です。

 作者は旅行で不在。

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