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第12話 オーク族襲来

前回までのあら筋!



師匠、待っていてくれ!

 二人のエルフは王都ストラシオンと国境都市ランデルトを南北に結ぶストリア街道をひたすら爆走する。


 例のサイクロプスの一件以降、確かに北上する旅人の姿は見なくなっていた。

 南下する旅人や行商人は多いが、そのいずれもが北上中に魔物に襲われ、ランデルトが危険地域と化したことを知って引き返す人々だろう。


 そういった彼らの姿さえ、ほとんど見なくなる頃には――。


「メイラ」

「ハッ、フッ、見、えて、ますっ!」


 二足歩行の豚。それも生意気に完全武装した一団が、南下して逃げようとする行商人の馬車を追いかけていた。


 オーク族だ。


「まったく、せっかくの有酸素運動中だというのに……」

「ええっ!? ハッ、わ、わたし、ハッ、ほぼ無酸素運動、なんですけど!?」

「おおっ。無酸素運動で長距離を長時間駆け回れるとは、さすがの心肺機能だ! 普段からの筋トレの賜物だな!」

「ひぃぃん」

「よし、おれはちょっと先に行っているぞ」


 前を走る誠一郎の下腿三頭筋が、ボコリと膨れ上がった。

 その直後、つま先で蹴ったストリア街道の地面がめくれ上がり、小さく爆発する。


「ぁと~~~~~~~~~~~~~~~ぅ!」


 誠一郎の肉体が舞い上がり、正面から向かいくる馬車の上空を駆け抜け、オークの一団の中央へと、豚面を蹴り抜きながら着地した。


「へぶンっ!?」


 オークの顔面が大地に埋没した瞬間、すさまじい音と振動がして、ストリア街道の地面が大爆発を引き起こす。

 暴風のような砂煙に煽られ、何体ものオークたちが無様に吹っ飛んで地面に転がった。


「ぷぎぃぃぃぃぃっ!?」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


 フィリアメイラは行商人の馬車とのすれ違いざまに早口で言葉を残す。


「そのまま行ってください!」

「……ッ、すまない、恩に着る!」


 行商人は馬に鞭を入れて馬車の速度を上げる。

 しかしその荷台へと追いすがったオークたちが手を伸ばした。


「ブヒヒヒ、おいしいお芋さんの匂い、絶対逃がさんブヒよー」

「やっぱりこの馬車、お芋さんを山ほど積んでたブヒね!」

「お腹空いたブヒー」

「ブヒャッハー、あの馬車のお芋さんを奪い取れぇ!」


 フィリアメイラは走る勢いのまま、馬車へと追いすがるオークの喉元を、肉感的な太ももで刈り取るように蹴って吹っ飛ばす。


「せぃ!」

「ぉぎゃンッ!?」


 背中から転がったオークが数体の仲間を巻き込んで、はじけ飛んだ。

 フィリアメイラは倒れたオークの顔面を踏んで走り、すでにオークの一団の中央に立って筋肉をアピールするポージングを模索していた誠一郎の背中に、自らの背を預けた。


「何するブヒかッ!! ぶってえ足で蹴りやがってー!」


 フィリアメイラに蹴り飛ばされたオークが、街道でムクリと上体を起こした。


「プゴッ!? あ、あら? 可憐な女の子ブヒよー?」

「エルフじゃね? エルフ女子じゃね? 可愛くね?」

「足もぶってえけど、ほんのり柔らかで、……なんか気持ちよかったかも……ブッヒヒ」


 オークたちはボソボソと仲間内で何かを言い合っている。


「お、おまえ、ずるいブヒ! 俺もエルフ女子に蹴られたいブヒ!」

「へっへ。俺なんて、顔面を踏んでもらったブヒもんねっ。あのぶってえ足に」

「SUGEEE!」

「IINAAA!」


 ぞわ……。


 フィリアメイラの全身が粟立った。


 言動の気持ち悪さもさることながら、誠一郎の足の下には首から上が地面と一体化しているオーク仲間もいるというのに、それでも踏まれたいとは。


 どういう性癖をしているの? アブノーマルなの?


 もじもじしているオークたちのうち、三体がフィリアメイラに少しだけ近づいて。

 思わず身構えてしまったものの、攻撃の意志はなさそうだ。


「おまえ言えブヒよ」

「や、お、おまえが言うブヒ」

「プギー、じゃ、一緒に言う?」

「そうするブヒ! それがいいブヒ!」


 オークたちが腰を低くしながら、フィリアメイラへと上目遣いでつぶやいた。


「エ、エ、エ~ル~フたんっ」

「も、もしよければ、ぼ、ぼぼ僕たちも」

「その、あ、あなたのぶってえ足で踏んでほしいブヒィ!」


 わたし、何回ぶってえ足って言われるの……? 泣きたくなってきたわ……。


「言っちゃった! 言っちゃったブヒ!」

「ブヒャァァン、恥ずかちい! できれば顔でおながいしまぁす!」


 うわぁ……。


 フィリアメイラが心底嫌そうな表情でオークたちを見返すと、三匹はなぜか嬉しそうに身をくねらせる。


「ひゃあ! あんな美少女にさげすまれたブヒよ! これもーたまらんブヒ!」

「生ゴミかそれ以下の物質を見るかのような視線だったブヒね!」

「やったな!? よかったブヒィ! これでおまえも立派な雄豚ブヒね!」

「あとは踏んでもらうだけブヒ?」


 オークたちが、期待の込もった視線をフィリアメイラへと向けた。

 少女は引いた。だが、その隣に立った漢は、彼らの願いを快く引き受ける。


「ほう、エルフに踏んでほしいのか。よかろう。ならば貴様らの贅肉とおれの筋肉、どちらが優れているか、貴様らの顔面を踏みしめることで試してやろう」

「ふぇ?」

「とぅ!」


 言うや否や高く高く跳躍した誠一郎が、太陽の輝きをまといながら降下し、左足を左側のオークの顔面に、右足を右側のオークの顔面にのせるように蹴り抜いた。


「ぬおりゃあッ!!」

「オギュゥ!?」

「ギュムッ!!」


 着用していたハーフヘルムが砕け、二体のオークの首が胴体部へと勢いよくめり込む。肉体のあらゆる箇所から血を噴き出させ、ガクガクと全身を震わせながら。


 そして誠一郎は、三体のうち真ん中立つオークに朗々と言い放った。


「貴様は特別だ。足の本数が足らんゆえ、サァ~ビスにおれの大腿方形筋()で踏みしめてやろう。ソイィィィ!」

「ぷぎゃあああっ!? やめ、お、男尻(おしり)があああギュムグゥ……」


 どぱん!


 ストリア街道の大地に顔を埋めた三体のオークを椅子にして座り、誠一郎が不敵な笑みを浮かべる。

 明らかにドン引きした表情で一歩後ずさった、残りのオーク集団へと向けて。


「どうした? エルフに踏まれることが望みなのだろう? 叶えてやったぞ」

「おま、おまえじゃないブヒッ!!」

「そ、そっちのカワイコちゃんに決まってるブヒでしょーっ!?」


 上半身のみを土に埋められた仲間を前にして、オークたちはなぜか誠一郎ではなくフィリアメイラへと詰め寄った。


「あーあー、これもう完全に逆さに埋まっちゃってるブヒ!」

「どーしてくれるブヒか!」

「責任取ってこの子に踏んでほしいブヒよね!」


 指さされたフィリアメイラが、両手を前に出した。


「あ、わたし、結構です……遠慮します……。ほら、だってもう……埋まってるし……」


 オーク族はなおも身勝手なことをわめく。


「大体、半裸の男に踏まれて喜ぶような変態なんて、僕らオーク族にはおらんブヒよ!」

「そーブヒそーブヒ! おるわけないでしょうがっ!? オークはノーマルブヒ!」

「あっちの男はきっと変態ブヒよ! ブヒたちを踏んで悦ぶ変態ブヒ!」


 今度は一斉に誠一郎へと向き直った。


「この変態! 変態!! 変態エロフッ!!」


 一体が手拍子をしながらリズムを取り始める。


「へ~ん~たい♪ 一緒にハイッ! へ~ん~たい♪ ブヒyeah! へ~ん~たい♪ カモンエビバディッ! へ~ん~たい♪」


 やがてそれはオーク族の大合唱へと変化し始めた。


「へ~ん~たい♪ へ~ん~たい♪ へ~ん~たい♪」

「へ~ん~たい♪ へ~ん~たい♪ へ~ん~たい♪」

「へ~ん~たい♪ へ~ん~たい♪ へ~ん~たい♪」


 だが。だがしかし。

 誠一郎は大合唱の中、平然とゆっくり立ち上がる。

 首を左右に倒して鳴らし、手首をぐるぐると回しながら。


「おれが変態かどうかなど、知ったことではない。どうでもいいことだ。そのようなことより、なんだ、貴様らのそのたるんだ腹は? こういう言葉を知っているか? 腹のたるみは心のたるみ――」


 あ、今なんか空気が変わった。

 そんなことを鋭敏に察したのか、オーク族が一斉に黙り込んで一歩退く。その距離を遙かに踏み越えて、怪物エルフの大きな一歩が踏み込まれた。

 掌を天に向けて、五指をゴキリと鳴らしながら。


「今からおれがおまえたちを鍛え直してやってもよいが、少々時間が惜しい。ゆえに、そのたるんだ腹肉だけでも消し去ってやろう。――物理的になァ?」

「ぴぎゃあああああああっ!?」


 一匹が悲鳴を上げて背中を向けた瞬間、恐慌状態に陥ったオークたちが一斉に散り散りになって逃走を始めた。

 誠一郎は逃げるオークの背後に迫り、背中の余った(ロース)肉を掌でつかんで握力のみで引きちぎる。


「そぉうらぁ!」

「ぴぎぃぃぃぃぃっ!」


 オークの悲鳴と血肉が飛散した。


「まだまだァ!」


 別の一体の後頭部をつかんで振り向かせ、もう片方の手で(バラ)肉を強引にえぐり取る。


「ぴいぃぃぃぃぃ!」

「脂身など不要!」


 奪い取った肉を乱暴に地面へと叩きつけ、別の一体に追いすがって耳をつかみ、持ち上げて地面に叩きつけた。その後、両手で腹肉を抉る。


「フハハハハ! どうした、どうした! 逃げ足が鈍いぞ?」

「ぴぎぃぃぃぃぃっ、ぴきゅうぅぅぅぅぅ!」

「大腿筋が眠っているのではないかァァ!? 眠ったままの筋肉を覚醒させねば、おれからは到底逃げ切れんぞ!」


 凄惨!

 そのむごたらしい様たるや、心底オーク族を軽蔑していたフィリアメイラまでもが目を覆うほどで。


「あ、あの、セイさん、もうそのへんで――」

「ブヒャァ、こ、こうなったら、あの変態エロフに殺される前に、せめてあっちのギャンワイイ緑髪のエルフ女子たんに抱きついて、そのオパーイに顔を埋めて思う存ぶヒギィィ――ッ!?」

「死ねバカ!」


 一瞬で距離を詰めたフィリアメイラの後ろ回し蹴りを眉間に喰らい、オークが額をかち割られながら吹っ飛んでいく。

 背中から地面に落ちてボヨヨンと跳ね上がり、血まみれで転がって。


「――あ……りがとうございます……。……ぐぶ……」


 幸せそうな表情で泡を吹き、白目を剥いた。


 この日、フィリアメイラはレインフォレストを旅立って以来、初めての強い疲労を感じたという。


ナイスダイエットだ!


(´^ω^`) n

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(

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