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真実ノ英雄譚  作者: Black
第壱章 日常ガ知ラナイ日常
4/12

第三話 崩壊

 誠と三馬鹿、女子四人組は談笑しながら帰宅中である。初対面の堅苦しさが無くなり、多少ぎこちなさが残っているものの楽しそうに話している。因みに内容はというと、


 「誠ってやっぱコミュ障だったんだな〜」

 「本田の言う通りなんだよ。でも、自分から声かけられないだけで仲深まればそうでもないんだよな」

 「よくいるコミュ障じゃんw」

 「うるさいぞ、河本!」

 「まぁまぁ、仲良くなれたからいいじゃないの」


 誠のコミュ障についてである。


 本田は優しそうな印象を覚えた。他人に対して優しく思いやることが出来る、そんな雰囲気だ。だから誠にコミュ障と言った時のトーンも心がある調子だった。

 河本は明るい感じ。ふざけながら場の空気を作っている。例えるならあらゆる者に活気を与える日光のような存在。

 飯田は三馬鹿のポジションで言うとまとめ役。話題が唐突に尽き、微妙に居づらいムードになったりすると助け舟や話題振りをしてくれる。つまり語彙が豊富なわけである。また、河本がふざけすぎているようならカバーに入ったりする。

 などと三馬鹿の大体の性格を誠は考えた。


 しかし、例外はある。三人の意見が一致したり、テンションが上がりまくったりすると基準が河本くらいに明るくなるのだ。これが三馬鹿と呼ばれる所以。


 すると急に女子組は、本来三馬鹿がしなければならない友達になるまでの強引さについて謝罪を代弁した。


 「早瀬君、ほんとにごめんね。もっと他の方法もあったはずなのに、こんな形で…」

 「なんで桃が謝るのよ!元はと言えばあんなめちゃくちゃな声のかけ方は航平(こうへい)から始めたんだからあいつに謝らせればいいじゃん!」

 「んだと恵里香(えりか)テメェ!結果良ければ問題ないんだよ!細かいことうじうじ言うな!」

 「細かくないわよ!初めて話す人に『女紹介してくれ』って馬鹿なんじゃないの!?」

 「うっ…」


 ド正論を言われて何も言い返せなくなる河本。紹介してくれ、と言われた本人は他人に言われてから「あ、確かに強引すぎたわ」と相槌をうっていた。

 それを見ていた柴田が煽りとからかいを含めた一言をかます。


 「ぷぷっ、かわもっち論破されてやんのw」

 「あ、天音(あまね)ちゃん!横から口出さない方が…」


 多分、河本が何か言い返してくるのを恐れたからなのだろう。横から椎名が止めに来る。

 河本は一瞬だけ柴田のことをジロっと睨んだが、やはり正論であるためなにも言い返せない。目つきを緩め、ゆっくりため息をすると「俺が悪かったよ」と素直に悪いことを認めた。


 すると後ろで口喧嘩を終わらせ、すっかり世間話や流行について語り盛り上がっていた河本と伊藤は唐突に会話を断ち、


 「あっ、俺こっちの道だわ」

 「楽しく話してたのにごめんね。私もこっちだ」


 誠達が歩もうとしていた方向とは違う方を指差し、自分達の帰路を示す河本と伊藤。

 お互いに手を振り、二人はオレンジ色の道へと進んで行った。


 それをきっかけにして、誠の周りの人達は自分とは違う道へと進んで行く。

 最終的には誠の周りは柴田と椎名だけになった。


 誠と友達になったとはいえ、まだ一日も経過していない。しかも異性だ。話題振りが難しい系コミュ障の誠にしてみたらハードルが高すぎる。自分から話出せないなんとも言えない雰囲気が三人を囲む。


 だが、そんなの知ったことか!と言わんばかりに柴田が住宅街に響くくらいの声で、


 「いやー、まこっちと友達になれてよかったよ!ね!あみっち!」

 「え、あ、うん!す、凄く嬉しかった!」


 椎名は急に振られて驚いていたがなんとか無茶振りに対応する。

 誠は妙な雰囲気だったので勇気を出したが話しかけらず、そわそわしていた。なので、「これだ!」と言わんばかりに食らいつく。


 「お、俺も友達になれて良かった…!ほんと俺がコミュ障じゃなきゃ…」

 「いやいや、まこっちが謝るところじゃないでしょ!結果的になれたんだし、大丈夫よ!」

 「わ、私もです!早瀬君と仲良く…なりたかったし…」

 「こうやってあみっちはいちいち可愛いのよ、ねー?」


 すると今日何度目か分からない赤面を見せ、


 「も、もう!天音ちゃんってば!」

 「可愛いですぐ反応するから、いじりたくなっちゃうのは無理もないよね〜!」


 柴田と椎名は仲良く話しているが、誠は女子に『仲良くなりたい』という単語を面と向かって聞いたのは幼稚園以来だった。

 男は恥ずかしさを隠しきれず、こめかみを人差し指でかきながら、


 「…ありがと、椎名さん」


 ぼそっと口にした。

 すると赤より赤い赤面ならぬ真赤面となり、ボフッ!と音と共に頭が完全にショートし「あわわわぁ…」しか言わなくなってしまった。

 すると悪巧みを考えているかのような顔で笑いながら追い討ちをかける。


 「あれれ〜?いい感じのムードじゃないですかにゃ〜?もしかして私邪魔?」

 「ち、違っ…!俺はお礼を言っただけで…!」

 「あああぁぁぁ…」


 誠は(皆にもうバレているが)出すまいと必死で隠していたコミュ障が露呈し、椎名は目があっちこっちに行って最早ちゃんとした思考能力があるのか心配なくらいにはまずかった。

 流石にやりすぎたと反省したのか柴田は謝罪し、


 「ご、ごめんね!そういうノリだから!弄りすぎた…」

 「俺は分かってるから大丈夫だけど椎名さんは…」

 『あ…』


 二人は椎名の方に首を向ける。すると、体全身が火傷したかのように赤くし、空のどこを見ているのか分からない状態で棒立ちしていた。小さく「あぁぁ…」と言ってるのが聞こえるだけである。

 絶対やりすぎたのだろう。柴田は、


 「わ、私こっちの道だわ!あみっちも同じでさ!!」


 と焦り全開でひょいと椎名を担ぐとそのまま風のように去っていった。

 「あ!」と遠くで聞こえたと思ったら柴田だけが戻ってきた。誠は何か忘れ物でもしたのかと思ったがそんな訳はなく、


 「私ったら言い忘れてた!バイバイまこっち!」

 「あぁ!じゃあね柴田さん!椎名さん!」


 挨拶を忘れたから戻ってきただけである。こういう何気ない礼儀がしっかりしてる人っていいよなぁ、と誠は口には出さず思っていた。

 内気な彼女をおいてけぼりにして誠のもとへと来たので走って戻ろうとする柴田。すると、いきなり振り向いて誠の目を見ながら、


 「気をつけてね」


 とだけ言うと、少し遠くにいた椎名愛美を再び担ぐと目では追えないスピードで走っていった。ブロロロとエンジン音でも聞こえるくらいだった。



 誠はさっき何故か違和感を覚えた。自分の所に来てから帰るまでの一連の行動の中に違和感があるのだと知る。だが、決して柴田さんが急にキャラを変えたり、ほかの何かが変わった訳でもない。

 帰宅途中、違和感がずっとこべりついて離れなかった。何が原因でこんなものが片隅に残っているのだろう、頭の端っこのもやもやの為だけに脳みそを全力で動かしていた。


 そんなことで思い悩ませていたが、そんなこんなしてるうちに誠が目視で自宅が確認出来るくらいまでの距離に来た。

 その時だった。






 またピキっと、音がした。

 それは誠にも聞こえる音だった。いや、正確に言うならば、

 誠にしか聞こえない音であった。

 それは何かにヒビが入る音に近かった。聞こえた男はどこかのガラスが割れたのかと周りの家の窓を見渡す。しかし、何も無い。

 空耳と一言で片付けるとあまり気にしないでいつも見ている玄関に入っていく。





 非日常になる時、『日常ならざるモノが目を覚ます』、『非日常が姿を表した』などの色々な表現方法があるだろう。だが、それは誤りや語弊だらけだ。

 日常では無いものは常に隣にいる。それはとっくに目を覚ましているし、姿を隠す気もない。ただ、『日常』側にいる者達が気付いていないだけだ。

 それは闇と同一である。意識出来ない方が幸せであり、視認出来ない方が充実した日々を送れる。

 その闇は気紛れに日常を襲う。


 先程の何かが壊れる音を合図に『非日常(やみ)』が日常を壊すべく、動き出す。




 ゆっくりと、しかし着実に誠のもとへと接近する。


 その恐怖を、早瀬 誠はまだ知らない。













 「ただいま〜!!」

 誠はこの上なく上機嫌だった。何故かと聞かれると明白である。

 コミュ障の男が七人も友達が出来たからだ。

 さっき柴田と交わした時の違和感に対して猛烈に頭を抱えていたのにこの有り様である。だが、所詮は頭の端にあるもの。「どうでもいい」と割り切ってしまえば、薄い興味なぞそれだけで中心から隅へと追いやられてしまう。


 そんな思考回路の変化なぞ意識しないだろう。誠は隅へとやったものを忘れたかのように友達が出来たことの喜びを噛み締めていた。

 鼻歌を歌いつつ、二階の自室へ突入。いつも通りペンダントを置いてから、部屋着へと着替えた。


 誠は鈴以外の友達が出来たということで、何気ないことでいいから今日いつもしていないことをしようと思った。

 だが、考えてはみたものの唐突過ぎて案が出てこない。仕方ないのでいつも外出する時にしか持たないペンダントを今日限定で家の中で首にかける、というほんとに小さなことを思いつく。


 幼少期にかけがえのない思い出と共に貰ったペンダント。大事なものを具現化したと言っても過言ではないもの。それをゆっくりと首にかけた。


 ペンダントをかける際、チェーンが首の肌に触れた瞬間だった。





 『助けて』





 どこかで聞いた事のある声が聞こえた。今、自分以外の人が自室にいるのは明らかにおかしい。男は鍵を開けてから家に入った。自室には限定されずそもそも今、早瀬家に誠以外の誰かがいること自体が不可解なのだ。誠は不審者かと思い、慌てて見慣れた風景を見回す。もちろんだが、学校帰りの男しかその場にいない。

 困惑を隠しきれなかったが、誠は見回してからよくよく考えてみた。不審者が『助けて』と言うだろうか?しかも耳に残っている声というのが尚更おかしさを際立たせている。


 「……」


 先まで起きていた不可思議なことは所々誠の知識と噛み合わない。誠の体は今までに無い気持ち悪さと不気味さに抱きしめられる。

 抱きしめられたモノが冷たかったのか、それとも冷風が入ってきたからか、春とは思えない寒さがこの場に充満する。

 寒気が背筋を撫でる。脳だけは恐怖を感じていたが背筋を撫でられたことにより、その恐怖を全身で受け取った。


 この雰囲気は少なくとも誠は耐えられるものではなかった。姿が見えない人に助けを求められる、言葉にすると実感が湧かないかもしれないが実際体験すると想像以上に不気味である。

 そして、


 ブーッ、ブーッ、ブーッ、


 とスマホのバイブレーションが気味の悪い空気を打破する。机上にてスマホの唸る声で我に帰った誠はゆっくりとそれを手に取った。軽くパニックになっていたのを聞き慣れた振動が乱れた心を静止させる。この時、誠はものすごいデジャヴを感じた。

 正体は放課後の件である。

 そう、何気ない出来事で日常に引き戻されるあの感覚。


 色々な感情が主張をし、胸が張り裂けそうになる。それを必死に抑え、揺れている画面を見つめた。


 『香織』と明るく表示されていた。


 香織が誠に電話をかけてくるなんて滅多に無い。少々疑問は残ったが、それでも汗だくの手で電話に出る。

 スマホを耳にあてながら言葉を発した。


 「…もしもし?」


 すぐに返答は返ってきた。ただそれはあまりにも異質で。普通に生きていれば電話の第一声にこんなにも絶望に染まった声音を聞くことは永遠にない。


 誠の耳がおかしく無ければ香織はこう言っていた。












 『もしもしアニキ!?助けて!!!』






















 誠は耳を疑った。

 香織が自分に電話してくる時は大体飯を作ってくれ、だったり風呂を仕掛けといてくれと家事関連のことしかない。

 そんな妹が電話の一番最初に『助けてくれ』と言って来たのだ。


 先の出来事に加え、香織の一言。これが困惑で済めば可愛いものだ。

 混乱や乱心なんてレベルではない。最早、思考回路の回転数が激しすぎて倒れるくらいだった。


 だが、頭のどこかでは冷静だった。


 何が起こっているかなんて一言だけで理解する人間なんていない。聞きたいことなぞ山ほどある。しかし、誠は『今、香織は本当に危ない状態に陥っている』という事だけは確実に掴み取った。そして、声の調子から時間の無いことも。

 彼の頭には謎や疑問が山のように積み重なっている。その高くそびえ立つ山の中から最適な解だけを選んだ。


 「お前今どこにいるんだ!」

 『ここ!だからえーっと、えーっと…』

 「落ち着いて話してくれ!とりあえず目印になるものがあればいい!」


 スマホ越しから『はっ、はっ』と荒い息遣いが耳に入る。恐らく走りながらなのだろう。相当時間が無いことが伺えた。

 誠は部屋着のままだが、急いで一階へと降りるとそのまま玄関まで直行した。すると、香織の『あっ!』という声が聞こえた。


 『ここらへんお母さんとよく買い物来るスーパーの「ミライ」ってとこ!』

 「おけ、あそこだな!出来ればその付近に留まっててくれ!お兄ちゃんすぐ行くからな!」

 『ありがと…ありがと…』


 多分、不安や恐怖に押し潰されているため泣きたいがその気持ちを必死に抑えているのだろう。声が完全に震えていた。

 今何も出来ない自分に嫌気がする。あまりにも情けなかった。

 ならば現状誠が出来ることはなんなのか。かけられる言葉は。これしかなかった。


 「安心しろ。お兄ちゃんが必ず助けてやるからな」


 スマホが何か喋っていたが耳から遠ざける。香織の元へ行く準備が出来たからだ。


 そっと通話を切るとドアノブを捻る。ガチャッという音がまるでスタートの合図のように誠は家から飛び出した。

 ここから香織が言っていたスーパーまでどんなに走っても約十分くらいで着く。




 十分という時間は今までの体験談、記憶から導き出される答え。だが、そんなものあてにしてはならない。いや、したくない。

 今は出来ることを全力でするだけだ。五分でも、一分でも、一秒でも。コンクリートを力強く蹴り、一刻も早く香織のもとへ。


 駆けながらも誠は状況を整理しようと考えた。電話越しから伝わってきた香織の荒い息遣い。走っていることは理解出来た。なら、助けを求めるのは…?誰かに追われている…?

 ここで不意に、『怪奇連続殺人事件』という単語が脳裏をよぎった。体を動かし血流が活発になっているにも関わらず、血の気が引いてくような気味悪い感覚を初めて覚える。


 疾走する速度を最大に保ちつつ、香織の心配が頭部全体を覆う。しかしここで一つの疑問が生まれた。






 自分が行ったところで力になれるのだろうか…?






 現状は?そもそも何が起こっている?

 唐突な正論、真理が激しく動作する足を妨害した。

 例えば、辿り着けたとしよう。間に合ったとしよう。




 自分に何が出来るだろうか…?




 だが、誠の体は止まってなどいなかった。

 確かに正論だ。真理だ。駆けつけた所で無力かもしれない。けど、けれども、



 だからこそ、








 「行くか行かないかじゃねぇ!行かなきゃいけねぇんだ!」







 美しいまでの夕暮れ。まるで水で薄めていない絵具のように濃いオレンジ色がコンクリートという用紙一面を染めている。だが、もう美術の時間は終わりを告げる。


 じきに太陽は落ちる。


 そして夜は来る。それが示すは黒。

 どんな美しい色彩になろうとも、多色かつ優美な色合いになろうとも、黒は全てを塗り潰す。

 全てを白に、否、黒に戻すため。

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