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真実ノ英雄譚  作者: Black
序章 零話 現実トイウ名ノ地獄
1/12

第零話 ー覚悟を決める者ー その男が見た世界

 「『人間』という生き物は実に愚かだ。」


 そう呟いたとある男はイライラしながらもそれでいて半分楽しそう、といったなんとも複雑な表情をしながら椅子に座っていた。

 そして男はさっき呟いたことの真意を考え出した。

 例えば、自分と価値観が合わないという理由だけで疎外し悪者に仕立て上げる道化師(ピエロ)共。

 例えば、本来ならば困っている他人(だれか)を救える力を持っているにも関わらず、その力を争いの為に悪用する者。

 これらのことは全て『人間』という生き物にしか起因しない。こういった複雑な思考回路があるからこそ他の動物よりも喜怒哀楽をはっきり感じられる。それ故にどちらにも転がるのだ。

 そう、だからこそ最高に愉しく、最高に愚かなのだと。


 そう考えているうちに男の顔は徐々に笑顔で塗り潰されていき、そういえば例えが一つ抜けていたな、と独り言を言い放ちこう口にした。


「例えば、普段なら神の存在すら信じない筈の馬鹿共が自分の都合のいい時だけ信仰やら祈りを捧げる糞共に成り下がったり、か?」


 そう言うと男は腹の底から出ているであろう笑い声をそこに響き渡らせた。


 『そこ』はとても暗くその男以外、誰もいない。正確に言うならば、その男以外人間の原形を留めていない『肉塊』しかないのだ。

 男は肉塊(それ)をゴミでも見るかのような目で一瞬だけ見つめ、すぐに眼前のものに目を移した。


 それは掌にある霧状のものだ。その霧には色々な時代の人間が見えた。何が見えるのか、と言われれば戦争の風景が見える、という解答が適切だろう。それは涙で顔がぐしゃぐしゃになりながら許しを乞う者を笑顔で殺める、またはそういう女らを犯す様、などなんとも醜い光景だった。

 それを愉しさと下らないの二つの感情が半分づつ入り交じった顔をしながら少し見つめると、男は霧を優しく掴むように握った。するとそれは霧散してなくなった。


 「これ『醜い』以外になんて言葉かけりゃいいのか見つかんないよなぁ…」


 ボソッと呟くとその後大きくため息をし、


 「まぁでも、そこが面白いんだけどさ?」


 怠そうにしながら席を立つとゆっくりと歩き出し、『そこ』を後にした。

  そして『そこ』から出ると思い切り大地を蹴り、()()()()()






 ある男は言った。人生に意味は無い、人間は死の恐怖から逃げるために生きているから無意味なのだと。

 ある男は言った。人生には意味しかない、夢を成し遂げる為に生きるからこそ美しいのだと。


 下らない。完璧なまでの阿呆の模範解答だ。

 『そこ』を後にした男は何かの本に書いてあった哲学的な文を思い出していた。

 男が考える『人生』とは人が歩む道、つまり人の数だけ道がある訳だ。その『道』をあたかも経験者のように上から目線で物を言い、挙句の果てには自論を持ち込むのだ。男にとってこの行為を簡単に言い表すと、好きなことをしてる途中それを全て否定され、俺ならこうするなー、と意味不明なコトを言われるのと同じだ。


 そう、決して自論を他人に強要してはいけないのだ。それはただの『悪』になる。

 そこから生まれるのが『価値観の違い(せんそう)』ということを彼はよく知っていたからだ。


 男は散々あんなことを言っていたが、戦争は大嫌いである。『面白い』と言っていたのは醜い事をしている、という意味ではなく、人の数ほど違う思考がある、という意味で面白いと言っていたのだ。


 男は色んな戦争を見てきた。下らない理由から勃発した戦争、食糧難からの戦争、何気ないことから始まった戦争、土地をめぐる戦争…これらを見て、観て、視てきた。


 これが紀元前から現在まで続いている、中には戦争をしているとはいざ知らず、平和ボケしてのうのうと暮らしている輩もいる。亡くなっていった者達の無念や戦場で必死になっている者の努力も分からないまま。


 その現実が男にとって耐えられなかった。

 強く歯噛みする。髪で顔は見えないもののきっと苦しそうな顔をしていたに違いない。


 「今度は僕が…いや」


男は覚悟したように前を向くと



 「俺がこの世の中を(かえ)てやる」



 そう言うと飛行する速度を更に上昇させ、彼方へと消えていった。












 これはとある英雄譚が始まる前の出来事。

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