第四話 鞭音粛々
目黒川で告白をしてから、約一ヵ月半。
オレはようやくminaと会う約束ができた。
日曜日、急遽予定が空いたということで、オレはminaの事務所へ向かうことになった。
ただ、問題が一つあって……
どうして、久々に彼女に会うのに、
子連れなんだ??
オレの隣にはツインテールの美少女が立っていた。
季節を先取りしたサマーニットに、
相変わらずのミニスカート。
黒いニーハイソックスが憎たらしいくらいに似合っている。
かがんだら、下着が見えそうだし……
こないだの雨の日はたしか白だったよな……
ダメだ、何を考えているんだ、オレは。
佳奈は叔父さん叔母さんからお預かりしている、大切な妹分じゃないか。
少し前に電話で、minaに事情を説明した。
もちろん、佳奈のハダカを見たり、(事故で)抱き合ってしまったことは除いておいた。なんでも正直に報告をすればいいってもんでもないし。銀行の仕事だって、なんでも正直に報告したらバカを見るし……合ってるよね?
「mina、忙しかったら、無理しなくてもいいぞ」
できれば、断ってほしい。
「いや、カズくんにとっての妹分なら、私にとっても妹と同じだし。今度会うときに連れてきて」
なんかうれしいことを言ってくれるな。minaは。
「わかった。ありがとう。でも、オレたちが付き合っているのは当然内緒な」
「うん、もちろん。ねえ、そのあと二人っきりでご飯食べに行きたいよ」
「おお、そうしよう。佳奈をうまく帰して、そのあと合流しよう」
「カズくん……早く会いたいよ」
「オレもだよ……mina……」
いやーー。もう、甘いね。胸キュンだね。
minaの透き通った声、オレのためだけに向けられている想い。
再会に、オレの胸は高鳴った……
久しぶりに、楽しく時を過ごせる……はずだったんだけど。
minaの事務所、C社の小さい会議室で、minaと待ち合わせをした。
今日のminaは、ゆったりとしたピンク色の長袖のワンピース。黒いタイツに、女の子らしい可愛い靴を合わせていた。
久々に会うminaは、テレビから飛び出した芸能人という感じで。なんかオーラにあふれていた。もしかして、さらに綺麗になった……とか? ちょっぴり大人びたメイクのせいだけじゃないよな。
オレは、しばし、自分の彼女に見とれていた。
傍らの佳奈も、茫然としている。
可愛いだろ、オレのminaは?
「カズくん、久しぶり。あと、佳奈ちゃんだっけ? 初めまして。いつも応援してくれてありがとう」
minaはそう言って、とびっきりのスマイルを見せた。
こんなに可愛かったっけ?? ダメだ。minaの魅力にやられてしまいそうだ。
佳奈はようやく緊張から立ち直ったようで。
「ミ、minaちゃん、は、初めまして……お会いできて……チョーうれしいです!!」
あれっ! なぜか佳奈はオレの腕をつかんで、体を寄せてきた。
「カズ兄の従姉妹の佳奈です……でも、もうじきお嫁さんになるかもしれません!!」
そう言って、佳奈はさらにオレにしがみついてきた。
いや、だから当たってるって、柔らかいものが……
じゃ、なくて、なんでこんなことに??
minaは営業スマイルを保ったままだったが、よく見ると、こめかみがピクピクと動いていた。
「えっ、どういうこと?? カズくんの従姉妹だよね?」
「従姉妹同士は結婚できるもん! ねえ、カズ兄?」
佳奈はこちらを振り向いて答えた。
だから距離近いって。
「う、うん、まあ、法律上は問題ないな……っておい、いいから離れろ!」
「そうよ、佳奈ちゃん、カズくんが困ってるわよ」
minaはまだ聖母のような微笑みを崩さずにいた。
だけど……目が笑ってねえ!!
「イヤだ! 佳奈離れたくない。だって、カズ兄とは一緒にお風呂も入ったことあるもん! この前だってハダカも見せたし、もう結ばれるのも時間の問題だよ」
「ちょっと……カズくん! どういうこと……?」
聖母が一気に不動明王に豹変した。
憤怒の表情!
背中には青白い炎をしょってるように見える。
確か……赤い炎よりも、青い炎の方が熱いって、理科の時間に習ったような……
なんて、そんなことを考えている場合ではない!
「ちょ、ちょ、ちょっと待てって、なんかヘンだぞ、二人とも、とりあえず落ち着けって……」
オレはそう言うのが精一杯だった。
「そういうminaちゃんも、『カズくん』ってなんか慣れ慣れしくない? minaちゃん可愛いし、歌も好きだけど、佳奈のカズ兄を取らないで」
「ちがう!」
minaは小さい体をプルプルと震わせながら叫んだ。
「カズくんは私の恋人よ!!」
minaさん……言っちゃいますか!