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第三十四話 実家に、行きたい

 十月初旬。平日の、とある夜。

 オレはminaと食事デートを楽しんでいた。


 minaや東和銀行の面々と一緒によく通った店。

 五月に、minaと二人っきりでデートして、


「私をカズくんに、あ・げ・る」

 なんて言われたこともあったな。


 いつもの小洒落た店の奥の個室で、minaと二人、食事を楽しみながら語らっていた。


「カズくん、マネージャーの仕事お疲れ様だったね。本当に、ありがとね」


 今日のminaは水色の柄のワンピースに、白いカーディガンを羽織っていた。この前のだぼっとしたストリート系のminaも素敵だったけど。やっぱりオレは、こうしたふわっとした、女の子っぽい格好のminaがいいな。


「いや、こっちこそ、minaの色々な面が見られて、本当によかったよ」

「そう言ってくれたら、私もうれしい」

「そういや、こないだオフの時、佳奈とショッピングに行ったんだって?」


 オレのマネージャー業が終わった次の日、minaはオレの従姉妹の佳奈と遊ぶ約束をしていたはずだ。


「うん、とっても楽しかったよ。佳奈ちゃん、前からメールやたまに電話はしてたんだけど。mina姉ミナねえ、って懐いてくれて、妹ができたみたいでうれしかった!」


「そうか、それならよかった」

 五月くらいに、minaと佳奈は死闘を繰り広げていたからな。オレを巡ってだっけ? そんなこともあったな。


「でもね……」

 minaは一瞬、言葉を止めた。

「ん? でも?」

「佳奈ちゃん、まだ彼氏とかはできてないみたいね。あんなに可愛いのにもったいない」


「そうか……」


 どうだろう……佳奈に彼氏……そりゃあ佳奈にも人並みの恋愛をして幸せになって欲しいという気持ちもあるが、なんせ叔父さん叔母さんからお預かりしている大切な妹分だからな。

 といっても、最近はたまに会ってご飯の作り置きの差し入れをもらうくらいであんまり面倒を見れていないが。


「そういえば、カズくん。ハヤトが主催のホームパーティーに行ったんだって?」

「う、うん、なんか有名な俳優とかも来ていて、別世界って感じだった」


 そうなのだ。この間、かつてminaを巡ってライバルにあったモデルにして有名俳優、龍野ハヤトからホームパーティーに誘われて。まあ、あんまり乗り気ではなかったのだが、向こうが強引に勧めてきて、顔を出したのだ。


 ハヤトは

「こいつはオレの大切なダチで、東和銀行に勤めているエリートなんですよ」

 なんて、紹介するから、参加者も「おおー」なんて目を丸くしてた。


 ”元”エリートだろ……って心の中でツッコミを入れ、場違い感にうなされながらも、オレはなんとかその場をこなしていた。


 ダチか……

 拳と拳から生まれた友情とでも思っているのだろうか?

 たまにメールもくるし、この前なんか酔っぱらいながらオレに電話をかけてきた。中身は元気かとか? minaとハヤトの主演の映画ちゃんと見ろよ。とかしょうもない内容だ。

 

 まあ……いいか。

 オレ、元々友達少ないしな。

 そんなことを、オレが考えていると。


「私、カズくんの生まれた場所に行きたい! こないだ連れてってくれるって、約束してくれたよね?」

 minaが期待を込めた瞳でこちらを見つめた。


「う、うん……もちろん、良いけど。新潟だから、日帰りでは厳しいよ。日帰りでも丸一日はかかるから。時間、とれる?」


 たぶん、両親に紹介する流れになるよな。親に彼女を紹介するなんて初めてだが、mina が行きたいというなら、それでいいか。一応、誠実にお付き合いしているつもりだし。


「うん、テレビの年末の特番とか、出られるかわかんないけど、紅白が終わったら、年明けは、落ち着くと思うの。だから、その時に」


「minaなら出られるよ。紅白! そうだな……年明けに、行こうか」


「絶対だよ!」

 minaの声が弾んでいた。


 ふと、オレは社長の言葉を思いだした。

『minaの家族のこと、お前、どれだけ知ってる!?』

 これを機会に思い切って聞いてみようか。


「ねえ、mina?」

「どうしたの、カズくん」

 可愛らしい顔をすこし傾げて、minaは微笑んだ。


「minaの家族……にも、挨拶に行ったほうがいいんじゃないかな? その、オレたち、一応、誠実にお付き合いしているわけだし」

「誠実に」という所に言葉を込めて、オレは恐る恐る聞いてみた。


「そんな必要ないよ! 私、実家になんてほとんど帰ってないもん」

 minaは少し、顔をしかめた。


「いや……そういうわけにも行かないだろ。オレの実家には行くわけだし」

「必要ないよ……どうせ、会っても気まずいだけだもん。私にはカズくんがいるから、それで、いい」

 minaはきっぱりと言い切った。


 ここは、押すべきだろうか? 

 一応色々な交渉事をくぐった銀行員としてのオレの勘は、行けと言ってるが。


「mina……いい機会だから、話してくれないか? minaの家族のこと」


「そんな、前に言ったじゃん。鎌倉に、お母さんと妹がいて、それだけ」

 いつもなら喜んで色んな話題を提供しているのだが、触れて欲しくないらしい。


「じゃあ、お母さんはどんな人?」

「どんな人って……嫌味な人よ」

 うーん、取り付く島もないな。


「じゃあ、妹さんは?」

「妹は、私と違って優等生で、有名な大学に通ってて、友達も多い。お母さんの受けもいいし。私とは全然違うよ」


 ふーん、妹の話題の方がまだ喋ってくれるな。

 切り崩すとしたら、妹の方か……


「お父さんは、確か病気で亡くなったんだよね。どんな人だったの?」


「お父さんは、優しくて、いつも私の夢を応援してくれた。大きい会社で働いていて。いつも忙しそうにしていたんだけど。そんな中でも、休日は時間を作ってくれて、よく家族で由比ヶ浜を散歩したり。あと、ドライブにも連れて行ってくれて、途中で立ち寄った先に、お父さんの会社の看板がよくあって、『あっ、お父さんの会社だ!』って妹と指差して笑ってた。今考えると、お父さんがそこで働いているわけじゃないのにね」

 父親の話になると、minaはよく喋った。


「mina、お父さん、大好きだったんだな」


「デビューする前、なかなか芽が出なかった時も、芸能界で活躍できたら、お父さんが天国で褒めてくれるんじゃないかなって。そんなことも心の支えになってたんだ。お父さん……もう一度……会いたいな」

 minaの目に、少し涙が光った。


「そうか、minaのお父さん、オレも、一度会ってみたかったな」


「カズくんなら、きっと話が合うかもね。お父さんも歴史が好きで、本をよく読んでいたから。私たち二人姉妹だから、息子と酒が酌み交わせたらなあ……とか言ってたよ」


 オレも酒が好きだから、戦国武将の話を肴に、新潟の地酒でも……

 でも、それは、叶わぬ夢か……


 minaの家族の問題。それはなかなか根が深いようだ。

 社長の言葉、確かにそれもある。

 実の母親と妹と疎遠、特に母親のことは嫌ってるみたいだし。

 そういうのは、やはりよくないんじゃないかな……。

 家族から理解されてないって辛いよな。

 

 うちの家族は、まあオレは離れて暮らしているけど、基本的に仲はいいと思っている。

 本当はオレが家業の不動産屋を継ぐ予定だったのだが、東京に居着いてしまって、家業は父親と母親、それに妹と妹の旦那が切り盛りしている。

 それでも、父親も母親もたまには電話をくれるし、新潟の米や物資を送ってくれる。妹も旦那も帰省したら歓迎してくれるしな。


 田舎だから、親戚づきあいも濃厚だ。でも従姉妹の佳奈や、佳奈の両親(オレにとって叔父叔母)を初め、いい人達ばかりだ。

 たぶんみんな、オレの仕事のことを応援してくれていると思う。


 オレは、minaの気持ちに寄り添うことができるのだろうか……

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