幕間 田中くんのドタバタな一日
あなたの職場に、あるいは家にもたまに訪れる銀行員は、いったいどんな日常を送っているのでしょうか?
一人の男性行員の一日を、少し覗いてみましょう。
田中くんの住まいは、都心のなかなか立派な高層マンションの一室です。
今まで触れられてませんでしたが、彼は中堅どころの優良企業の跡取り息子なんですね。
ー 昔は取引先の息子や娘とか、コネ入行が結構あったけど、最近はあからさまなやつは聞かないな ー
作者、ツッコミを入れながら登場ですか? まあ、いいですけど。
一人暮らしにしては、立派過ぎるマンションですが、田中くんの朝食はなかなか貧相ですね。今日は、買っておいたコンビニのパンですか。侘しいですね。
満員電車に揺られながら、田中くんの一日が始まります。
ー ああ、なんで東京なんか舞台にしたんだろう。全然描写浮かばないし。でも、芸能人との恋なのに、大阪や京都が舞台だったらおかしいよな ー
はい、こらー作者、グチらない……
銀行に到着すると、憧れの先輩の佐伯さんが先に到着していましたよ。
いつも通りのクールな表情で、パソコンのメールチェックをしています。
田中くんにとっては、目標としている先輩の佐伯さん。
いつか必ず追いついてやる!
密かにそう闘志を燃やしています。
最近は田中くんも重要な案件を任されるようになって、毎日張り切っているんですよね。
田中くんにとって、佐伯さんは他にも羨ましい点が。
可愛くて、歌が上手で、大人気のシンガーソングライター、minaちゃんが恋人なんですよね。
本当に羨ましい。ボクも、いつか素敵な彼女が欲しい。
田中くん達の上司は、草橋支店長の間に、課長代理や係長という直属の上司がいるはずなんですが……
ー だって、書くの面倒くさいじゃん。こっちは超絶にお美しい歌姫様が書ければ、それでいいんだよ ー
おい、ちゃんとして、作者!
田中くん、佐伯さん、雨宮さんは、外回りつまり渉外係という設定なんですね。
真由ちゃんは、内勤、預金係ですね。窓口の後ろで、忙しそうにしている人たちのことですね。
他にも銀行には、ローンの相談や、渉外が持ち帰ってきた融資案件の処理をする融資係や、大きい支店だと、外為係、なんてのもありますね。
ー お客さんから見ると、窓口の後ろの方で、ウロウロしているヤツ、あいつら何やってんだ? こっちは待ってるんだから早く対応しろよ。 と思うかも知れないけど、あの人達も裏方で結構大変なんだよ。だから、頼むからお客様センターに直接苦情とか、ほんとやめてね ー
グチを言わないでね、作者。
おや、真由ちゃんが、田中くんに近づいてきましたよ。
「田中くん、ここの処理間違えてる。あと、ここ、お客さんのハンコ漏れてるよ。ちゃんとしなきゃダメだよ」
普段は温厚な真由ちゃんも、田中くんには結構キツイんですね。
「ご、ごめんなさい。すぐに、もらってきますんで」
タジタジになりながら、謝る田中くん。
普段はminaちゃんや雨宮さんの陰に隠れていますが、真由ちゃんだってなかなかの美人さんですよ。クラスでダントツでナンバーワンの美女ではありませんが、確実に、二、三番手には食い込んでくる、そんな存在なんですね。
ー 食い込むと言えば、いっつも銀行の制服が胸元に食い込んで……ぱっつんぱっつんと…… ー
こら、エロ作者、もうあっちへ行ってなさい。
まあ、確かに真由ちゃん、スタイルがいいんですね。
少しだけ染めた、いつも綺麗に結われたポニーテールの髪型も、とっても素敵ですね。
田中くんも男の子なんで、ついつい真由ちゃんの胸元に目が行ってしまいます。
真由ちゃんはその視線を感じたのか……
「こらっ、田中くん、人の話をちゃんと聞いてるの?」
可愛らしい顔をしかめて、また怒ってしまいました。
少し席の離れた雨宮さんが、そのやりとりを楽しそうに眺めていました。
時刻は十時。預金係に準備してもらった現金を大事にカバンに詰めて、持っていく書類のチェックも忘れずに! 田中くんも張り切って外回りへ。
まずはいつも懇意にしている繊維工場へ。
ー 繊維って、今はほとんど中国とか外国に製造拠点があって、国内で頑張っている中小企業はほんと厳しい。でもそんな企業の経営に携わって、陰で支えることができるのも、銀行の仕事のやりがいの一つだよな ー
作者、たまにはいいこと言うじゃないですか。
田中くんも工場の隅に軽自動車を止めて、事務所の中へ。
田中くんのお父さんくらいの年齢の男性が暖かく、迎えてくれます。
「田中さん、よく来てくれた。いつもありがとう。さあ、こちらへどうぞ」
そう言って冷たいお茶を出してくれます。
外回りで汗をかいた体には、本当に染み渡りますね。
「社長、いつもありがとうございます」
この前、依頼されていた、両替のお金を渡して、さっき真由ちゃんに指摘されていた書類も、きちんと説明して、会社の印鑑をもらいます。
「田中さん、帳簿のここの所なんですけど、ちょっとわからなくて」
会社の財務や経営の相談に乗る時もありますよね。
特に中小企業は、財務に明るい人材が少ない会社もあるので、頼られたら、やっぱり人としてうれしいですよね。
田中くんも、親身に社長さんの話を聞きます。
「ここは、借方のこの科目を当てはめればいいと思いますよ。そっちの方は……ちょっとメモさせてください。帰ってから、先輩に聞いてみます」
税理士法に引っかからない程度にね、田中くん。
ー 正直、こっちの儲けにならん仕事とか、適当に流す時もあるけどな ー
こらー、悪徳銀行員、出てこないで。
そんな感じで午前中、お得意先をあと二件ほど回って、いったん銀行の支店へ帰宅。
取引先からお預かりした、現金や、手形、小切手を銀行の金庫へ預けます。
真由ちゃんに指摘されていた書類、ちゃんともらってきましたよね。
「真由さん、朝の書類、ちゃんともらってきましたんで……」
田中くんが声を掛けたのですが
「あっ、そう、そこに置いといて」
真由ちゃんは自分の机に座って、書類と格闘しています。
忙しいのか、そっけない返事です。
めげるな! 田中くん。
支店の休憩室で慌ただしくコンビニ弁当を食べて。
お昼からは、この間電話でお問い合わせがあった新規の見込み先へ。
下北沢のライブハウスですって。
ライブハウスの修理費用を貸して欲しいそうですよ。
銀行は各支店ごと、エリアによって管轄が分かれているんですが、田中くんの担当エリアって、本当に下北沢なんですかね?
まあ、作者は適当ですからね。
移動は、軽自動車が基本です。これも銀行によって異なるようで。都心の支店は、電車、タクシーで移動が済む所もあれば、信用金庫みたいに五十CCのバイクで、外回りする所もあります。
ー こっちが捕まえている取引先にしつこく売り込んでくる信金のバイクが停まってるのを見ると、蹴り倒したくなる ー
作者……本音は、ほどほどに。
メモで控えておいた、下北沢の駅前商店街を抜けた白いビル。
その地下へ続く階段を降りていきます。
なんだか、薄暗い雰囲気。
地下の小さなライブハウスに辿り着くと、金髪のロングヘアで長身の男性が迎えてくれました。
黒の革ジャンに、タイトなジーンズ。
三十代後半くらいでしょうか、顔立ちもなんかカッコイイですね。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
?? なんか、口調がおかしいような?
「初めまして、東和銀行の田中と申します。本日はよろしくお願いします」
田中くんは、名刺を取り出して、早速挨拶をします。
「あら、よく見ると、いい男じゃない! 私はここのマスターのエイジ、よろしくね」
もしかして……この人、オネエ?
田中くんは一瞬ひるんだのですが、すぐに心の中でぶんぶんと首を振りました。
いや、偏見を持っちゃいけない。銀行の研修でも習ったし。
それに、今月のノルマもあるし、できればこの取引、モノにしたい!
ー 銀行員にも目標という名のノルマがあって、出世欲ギラギラの上司や詰めが厳しい上司にあたると、悲惨だよな ー
某銀行員ドラマでは、「部下の手柄は上司の手柄、上司の失敗は部下の責任」なんて言葉がありましたが、ほんとにそんなことあるんですかね? 作者?
あれ、作者……いない……出てこーい!
「はい、お電話では、改装資金とお聞きしたのですが……」
田中くんはマスターに質問を投げかけます。
「そうね、十年ほど前に中古でこのライブハウスを手に入れたんだけど、あちこちガタがきててね。これを機会に直しちゃおうかと」
「普段は、どこかの銀行さんと取引されているのですか?」
やっぱり、ライバルの動向は気になりますよね。
「普段は、近くの信金さんとやりとりしてるんだけど、友達の彼氏が東和銀行に勤めてるっていうから、話だけでも聞こうかなって」
マスターのエイジさんは体を少しくねらせて、キラキラした瞳で田中くんを見つめてきます。
この人の友だちって、やっぱオネエ??
田中くんの頭の中が、ぐるぐると回りはじめました。
なんとか落ち付きを取り戻しながら、田中くんはパンフレットに沿って、ローンの説明を始めました。
真剣に聞いてくれるエイジさん。でもなんか、田中くんとの距離が近いような……
「あなたが担当してくれるなら、東和銀行さんで考えてもいいわよ」
「ぜ、ぜひ、よろしくお願いします」
田中くんは少しずつ後ずさりしながら、お礼を言ってライブハウスを後にしました。
なんだか、色んなことがあった一日だったな。
田中くんはライブハウスからビルの外に出る階段を登りながら、少しため息をついたのでした。
支店に戻ると、いったん金庫に預けていた現金や、手形、小切手などを整理して、お客様から預かった伝票も一緒に、預金係つまり内勤の人に回します。
そのあとも、取引先から調べてと言われていたことを佐伯さんに聞きながら調べたり、融資の稟議書を書いたり、日報で上司に報告したり、田中くんの仕事は続きます。
あっという間に、時刻は七時過ぎ。
ふう、ちょっと一息つくかな。
田中くんは大きく伸びをして、支店の二階にある自動販売機へと歩いていきました。
缶コーヒーを買って、一息つきます。
ちょうど、仕事が終わったのか真由ちゃんが銀行の制服で階段を上がってきました。
「田中くん、お疲れ様、まだ仕事?」
「あっ、はい、真由さんは、そろそろ上がりですか?」
「うん、そうだね。田中くん、昼間はそっけなくてごめん。わたし、すぐにテンパっちゃうから」
真由ちゃんは、そういって少し頭を下げてきました。
真由ちゃんのポニーテールのきれいな髪が揺れます。
「いえ、そんなの、気にしてませんよ」
「ふふっ、ありがと。田中くん、最近頑張ってるね」
真由ちゃんはそう言って、微笑みました。
その姿は可憐で、なんだかとっても美しくて、思わず田中くんはドキドキしてしまいました。
「そ、そうですか……まだまだですよ」
「ううん、佐伯さんも言ってたよ。『田中はそのうち、オレなんか抜かすようになる!』って」
憧れの先輩もボクのことを……田中くんは嬉しくなりました。
「だから、わたしも期待してるよ。田中くんの活躍」
「は、はい、頑張ります!」
田中くんの心にやる気がみなぎってきました。
「じゃあ、頑張ってる田中くんにご褒美。今度、一緒にご飯、行こうか?」
微笑みながらじっと見つめてくる、真由ちゃん。
女性らしい体つき、そして真由ちゃんの澄んだ瞳に、田中くんは釘付けになります。
「えっ、ええ?」
思いがけないことで、びっくりしてしまいました。
「なあに、わたしとじゃ、イヤなの?」
少しジト目をする、真由ちゃん。
「そんなことないです! 行きます、絶対いきます!」
直立不動で、田中くんは答えました。
「じゃあ、また、空いている日、教えてね」
真由ちゃんはそう言うと、じゃあねと田中くんに小さく手を振って去っていきました。
その後姿にしばし、田中くんは見とれていたのでした。
みんなに注目されて咲き誇る桜でもなれば、派手に輝いてちょっとトゲのある薔薇でもない。
道端にそっと咲く、コスモスのような、可憐な花。
でも、ボクはそんな可憐な花にこそ、心惹かれるのかもしれない……
徐々に遠ざかっていく、真由ちゃんの可愛らしく揺れるポニーテールをぼんやりと眺めながら
田中くんはそんなことを思ったのでした。
この小説はノンフィクションではありません。
作中に出て来る銀行、銀行員に対する描写は全て作者の妄想であることを改めてお断りしておきます。
長引く不景気や、国の政策や規制緩和等で大変ですが、銀行員も頑張っています。
「日本経済を動かしている」とは言いませんが、「世の中の人々の幸せのために」と日夜奮闘している者もいます。
彼、彼女らを見かけたら、ちょっとだけ優しくしてあげてください。
銀行員も人間です。尊重されると、やはりうれしいです。
もしかしたら、法に触れない範囲で、あなただけに取っておきの情報を教えてくれるかもしれないですよ。




