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第三十三話 マネージャー業務終了

 土曜日。


 オレのマネージャー業も今日でお終い。

 ついに最終日。辛い、キツイと思っていたマネージャー業も終わってみれば楽しかったな。

 今日も、minaのたくさんの表情を見ることができた。

 

 minaも、オレと過ごす一分一秒を惜しむかのように、仕事の合間にも絶えず話しかけてきた。


「minaさん、表情が活き活きしてますね。何かいいことでもあったんですか?」

 顔見知りのスタッフにそんな風に声を掛けられ

「うふふっ、差し入れでもらったシュークリームがとっても美味しかったんですよ」

 なんてごまかしながら、笑っていた。


 そして、土曜日も、無事に、終了。

 毎日のように、打ち合わせをしたC社の会議室で、minaとお互いの健闘を称え合った。


「カズくん、本当にありがとう!」

 嬉しそうな、そして寂しそうな表情をみせる、mina。


「mina、これからも仕事頑張ってね。困ったことがあったら、いつでも電話してきて。時間作って会いに行くこともできるし」


「カズくんも、銀行のお仕事頑張ってね。辛くなったら言ってね。私だって、いざとなったら、仕事放り出しても、カズくんに会いに行っちゃうんだから」


 そういえば、ハヤトとの騒動の渦中に、minaがオレの銀行にまで会いに来てくれたな。


「ダメだよ。minaは待っている人がたくさんいるんだから。そうならないように、こっちも頑張るよ」


「うふふっ、あと、カズくん……」


「ん? なあに?」


「ご飯、ちゃんと食べなきゃダメだよ。私、マネージャーの仕事が忙しくてカズくんが食事抜いてたの、知ってるんだから」


「ははは、バレてたか……うん、ちゃんと食べるようにするよ」

 食いしん坊のminaが言うと説得力あるな。


 minaは背伸びをして、チュっと優しい口づけをしてくれた。


 そして、オレが会議室を出るまで、小さな可愛らしい手を振って見送ってくれた。




 日曜日。

 オレの休暇も最終日。


 今日は私服でC社の事務所にやってきた。


 新婚旅行から帰ってきた岡安さんへ、引き継ぎをするためだ。

 

 minaは仕事の関係で、そのまま現場へ行っていた。

 オレは明日から銀行員仕事。

 minaは明日はオフで、まだ大学が休暇中のオレの従姉妹の佳奈とショッピングに行くと言っていた。

 なんか、慌ただしいな。

 

 岡安さんは日焼けしていた。

 いつもは色白なんだけど、こんがり焼けた岡安さんも精悍な感じがしてカッコいいな。


 新婚旅行はハワイに行ったそうだ。

 雨宮さんは最初フランスの大聖堂巡りを考えていたらしいが、モンサンミッシェル、ランス、シャルトル、パリ、などを巡ると移動だけでかなり慌ただしくなってしまうため、いつも忙しい岡安さんがゆっくりできるようにと、ハワイでのんびりしたらしい。


 雨宮さんらしい気遣いだよな。でも、雨宮さんのことだから、夜はハッスル……いや、想像すると、正拳突きが来そうだからやめておこう。


 オレは、岡安さんに、一週間の出来事をなるべく丁寧に伝えた。

 もちろん、勝手に男性ファッション誌の仕事を入れてしまった事も隠さずに伝えた。


「いい判断だったと思いますよ。もし、仕事をキャンセルしたら、やはりこちらも信頼を失いますから」

「そうですか。色々あったけど、こちらも充実した一週間でした」

「minaさんの新しい魅力も出していただいて、これは思わぬ収穫ですね」

「そう言っていただけると、助かります」

「minaさん、ファッション誌の仕事、結構楽しんでいたでしょ?」


 やっぱりわかるのか? さすが、二人三脚で歩んできた、マネージャーだ。


「新しい仕事の時、minaさん、最初不安がるんですよ。ちょっと神経質になったりとかしてね。でも、やり始めると、一生懸命で、前向きで、スタッフと打ち解けたりして。そういう所が、みんなに愛される理由なんでしょうね」

「ナーバスになるどころか、だいぶ怒らせてしまいましたけどね」

「二人の仲もより深まったみたいで、よかったです。綾音(雨宮さんの下の名前)もこの話を聞いたら喜ぶでしょう」


 雨宮さん、なんだかんだで、オレたちのこと、心配してくれているみたいだからな。


「そうだ、佐伯さんにお土産が」


 岡安さんはそう言って、オレに紙包みをくれた。

 断って、中を開けさせてもらうと、

 おおっ、ハワイアン○ーストのマカダミアナッツだ! しかもホワイトチョコ。マカダミアナッツは数あれど、やっぱりこれが一番だよな。日本でも手に入るけど、高いもんな。


 もう一つの、小さい包みは、なんだろう。

 オレがそちらに目をやると、なぜか岡安さんは申し訳なさそうに言った。


「そっちは、綾音が選んだもので……」

「は、はあ……」

 まあ、あの雨宮姐さんのことだから、ヤバイものかもしれんな。


 小さい包みをあけると、中から手のひらに乗るくらいの青いパッケージ。中身は、錠剤? タブレットみたいなものがいくつか入っている。


 パッケージには英語で、「Hawaiian University|(ハワイアン大学)」という単語のあとに、「warning|(警告)」とか「forbibden|(禁断の)」とかいう危険な香りのする単語が並んでいた。

 あとは馴染みのない英単語が多くてイマイチ意味がわからない。

 なんか、すごいデンジャラスな感じがする。


 とりあえず、ありがたくいただいておくことにした。


 後で、辞書を引きながら調べてみると、精○増強剤だった……

 雨宮さん、オレに何をさせる気だ。




 最後に、社長の所へ挨拶に行った。

 例のいつもの嫌味を言われないうちに、早めに帰ろう。

 社長室に入り、通り一遍の挨拶をして、すぐに出ようとした。

 

 が……社長に捕まった!


「おい、待てよ!」

「はっ、はい」


「まあ、全然期待してなかったけど、お前にしてはよくやったじゃないか」

 珍しく、褒めてくれた。


「minaと痴話喧嘩したんだって?」

「はあ、何でわかるんですか?」


「お前、俺の情報網を舐めるなよ! 結果的に、より仲が深まったようだけどな。いいねえ、恋愛ゴッコは楽しそうで。クククッ」

 社長は愉快そうに笑い声を漏らした。


 また嫌味か……もういいや、切り上げて帰ろう。

 オレが、そのまま社長室を失礼しようとしたその時。


「待てよ! お前、minaと結婚したいんだろ? 無理だと思うけど……頑張ったお前に一つヒントをやるよ」


「は、はぁ……」

 ダメだ、食いついてしまった……


「お前、minaの家族のこと、どれだけ知ってる?」

「ええと、お父さんは他界していて……お母さんと妹が鎌倉に居るって……」


「何だそれしか知らねえのか!? そんなんで結婚とか夢物語じゃねえか!」

 社長は語気を荒げてきた。


 いったい、どういうことだ?


「minaは心に深い闇を抱えている。そんなのも知らないようじゃ、何にもできないぜ……」

 社長はため息をつくように、そう続けた。


 minaの……深い……闇?

 あの明るくて天真爛漫なminaが……。

 いつも笑っているminaの笑顔と、「闇」という単語がどうしても結びつかなくて……

 

 オレは社長に注意されるまで、しばらくその場に立ち尽くしていた。


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