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第二話 ツインテール美少女とのデート?

 大型連休もminaは大阪と京都、九州で野外フェスがあるとかで、結局会うことはできなかった。

 メールはよく送られてきた。ほとんど地域のグルメの写真ばっかりだった。

 本当に食いしん坊だな、minaは。



 オレはというと、カレンダー通りの休暇だった。マンションにいてもヒマだ。

 佳奈が実家に帰ると言っていたので、オレも便乗することにした。

 地元では、佳奈にドライブに連れていけとせがまれたり、佳奈の実家の農家で久々に田植えを手伝ったりした。



 麦わら帽子をかぶり、手ぬぐいを首に巻いて、作業着に袖を通し、長靴を履く。

「カズ兄、意外と似合ってるじゃん! いつものスーツ姿もいいけど」

 佳奈も同じように麦わら帽子に、手ぬぐいの頬かむり、昭和のような柄のエプロン。

 でも、佳奈が着ると、なんだか優雅な雰囲気が出ていた。

 農協の雑誌の表紙を余裕で飾れそうだ。


「まんず、こうして並んでみっと、なんだかお似合いの二人だべ」

 叔父さんにからかわれた。

 なんせオレと佳奈は十二歳も離れているのだから、冗談だろう。

 

 田植え時期の田舎の風景は、辺り一面、水を張った田んぼが広がる。

 霧に包まれた早朝の光景。その霧が徐々に晴れてくると、まるで突如大きな湖が出現したようになんだか幻想的だ。


 土の匂い。

 小さな緑色の苗を持つ手の感触。

 田植え機のディーゼルエンジンの小気味良い音。


 休憩の時に、佳奈が「お疲れ!」と、微笑みながら缶ジュースをぽんと投げてよこした。

 久々に飲んだ甘い液体が、作業で心地よく疲れた体にしみわたる。 

 たまには、自然にまみれるのもいいもんだな。

 叔父さん叔母さんもオレのことをとても歓待してくれた。

「今からでも佳奈と一緒に住んでもいいぞ」と言われたが、オレは丁重にお断りした。




 連休明けの土曜日、佳奈が映画を見たいと言ったので、付き添うことにした。

 佳奈には料理の差し入れなどで散々世話になっているので、強く断れなかった。まあ、どのみち、ジムに行くくらいしか、やることはないのだが。


 渋谷のハチ公前というベタな場所で待ち合わせをすると、佳奈はチャラそうな男にナンパされていた。

 佳奈は迷惑そうに顔をしかめていた。


 一応、オレ、保護者だし。チャラい奴から早く引き離さねばとオレが急ぐと、佳奈はオレに気付いたらしく、笑みを浮かべてオレの方へ近寄ってきた。


「じゃあ、私、彼氏来たから!」

 佳奈はチャラ男にそう言うと、オレの腕を自分の体に寄せて歩きだした。


 そんなにボリュームはないが、佳奈の柔らかい膨らみがオレの腕に当たる。

 思わず佳奈の方を見る。こいつはツインテールの神様に愛されているのか? と思うくらい髪型がよく似合っている。もちろん、ほどいた髪も一般的に言って可愛いのだが。


 薄いピンク色のぴったりとしたTシャツに、下はチェック柄のミニスカート。

 目のやり場に困る。

 しかも黒のニーハイソックス。絶対領域かよ!

 絶対国防圏 対 絶対領域。

 欲しがりません、勝つまでは。


「そろそろ、腕……離せよ……」

「えー、もう少し、いいじゃん。まだ、さっきの男が見てるかもしれないし」


 佳奈が微笑みながらさらにオレの腕を強くつかむ。

 若い女性が付けてそうな甘ったるい香水の香りが鼻をくすぐった。

 こんな所をminaに見られたらどうしよう。

 minaは人混みが苦手らしいから、渋谷の街中には来ないと思うが。

 今日も地方でイベントがあるって言ってたし。

 大丈夫……だよな。

 

 すれ違う人、特に男が、オレの方をじっと睨んできた。

 リア充ですか? オレ? 違いますよ。

 和気あいあいとして見える?

 ここ、渋谷は過ごしやすい曇り空だけど、 

 オレの頭の中は熱帯のジャングルで、

 ソロモン諸島の熾烈な攻防戦が繰り広げられているんですからね。

 

 男性が佳奈の方に見とれて、女性に腕をつねらているカップルもいた。

 身内自慢になるが、近所では佐伯家の一族は美人揃いで通っているのだ。

 早く結婚したオレの妹も独身時代は争奪戦が繰り広げられていたし。

 他にも顔が整っている親戚が多い。

 佳奈もその血筋をばっちり受け継いでいる。

 新入生歓迎コンパで、色んな先輩から連絡先を聞かれてうっとおしかったから、すぐに帰った、と言っていたしな。

 一方、佐伯家の男は……男は度胸があればいいって父ちゃんが言ってた。


 映画館に着くと、佳奈はようやく腕を離してくれた。

 若者向けの恋愛映画か……

 周りは若い女性や、カップルが多く、正直オレは自分が浮いている気がした。

 せめて、寝ないようにしよう。あとで佳奈に何を言われるかわからないから。


 佳奈はうれしそうに、キャラメルポップコーンをほおばりながら、オレに話しかけてきた。映画のあらすじがどうとか、主役の俳優がカッコいいとか他愛もないことだ。


 映画が始まった。

 高校生の男女が恋に落ちる。しかし、楽しい日々もつかの間。

 彼女は不治の病に侵される。彼氏は奔走するが、回復することはなく。

 彼女は彼氏の腕の中で、永遠の愛を誓いながら息絶える。


 三行で終わってしまった。

 クライマックスのシーンで、ふと佳奈に目をやると

 佳奈は瞳をうるうるさせながら泣いていた。

 実際、スクリーンで見てみると、オレもうるっと来てしまった。

 年を取ると涙腺が弱まるというが、本当なのかもね。


 映画が終わって、佳奈と少し遅めの昼食を取ることにした。

 若い女性に人気のパスタの店。

 昼時が過ぎたからか、土曜日だというのに人影はまばらだ。


 店からガラス越しに見える空の色が、少しずつ暗くなっている気がする。

 予報では、今日は雨は降らないと言っていたのだけど。


 佳奈は先ほどの泣き顔とはうって変わって、上機嫌でよく喋った。

「あー、私もあんな映画みたいな恋愛がしたいなぁー」

「でも、最後悲しい結末だっただろ? あんなのでいいのか?」

「違うよ、最初のほう、自転車で二人乗りしたりとか、ファミレスで一緒に勉強して遅くまで語り合ったりとか……そんなの」

「佳奈だったら、すぐに彼氏ができるだろ。ロケットに二人乗りしようが、スイートルームでいちゃつこうが、思いのままだ」

「えー、なに言ってんのカズ兄。そんなのいらないし」

 あんまりウケなかったらしい。


「そういえば、カズ兄は、彼女いないの? 」


 ドキッ! いきなり来る、予期せぬ質問。

 もちろん、minaと付き合っているなんてことは秘中の秘だ。

 オレがぽろっと口に出す訳にはいかない。

 こんな、歩く週刊誌みたいな佳奈に喋ったら、どんどん広まってしまう。

 minaに迷惑を掛けるし、スポーツ紙の三面を飾るとか、イヤだからな。

 オレが黙っていると、佳奈は


「まあ、いるわけないよね。佳奈と毎週遊んでるくらいだもんね」

 佳奈はそう言って、ニヤリと笑った。

 ふう、取りあえずそういうことにしておくのがよさそうだ。


「カズ兄、こないだ渡したタッパー、まだ返してもらってないよ。もう佳奈のうちにタッパーないし、あとで取りに行ってもいい?」

「えーっ、そうだったけ、ごめんな。家か……うーん」

「いいじゃん、取りに行くだけだし、そんなに佳奈を家に上げたくないの?」

「いや、オレは佳奈の保護者みたいなもんだが、年頃の男女が密室にというのは、どうもな……」


「そんなこと言って、エッチな本でも隠してたりして……ははは」

 佳奈は自分で言ってウケていた。

「うーん、じゃあ、玄関で渡すよ。すぐに帰れよ」

「もう、いっつもこんな感じなんだから!」


 こうしてオレは、不本意ながら佳奈と一緒に、自分のマンションへと行くことになった。

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