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第二十一話 夜空に打ち上げ花火

 映画『君は僕にも恋をする』

ー シーン 海辺の街の花火大会 ー


 ハヤトとminaは大学の軽音楽部の同級生で、一緒のバンドを組んでいる。

 恋のライバルが出現したり、些細なことからすれ違ったりした二人だが、ようやくいい雰囲気になってきた。

 夏の夜、ハヤト(今演じているのはオレだが)は、minaを花火大会に誘う。

 屋台が立ち並ぶ通りで、minaと待ち合わせ。


「ごめんね、待った?」

 minaが駆け寄ってきた。

「いや、そんなこと……」

 minaの浴衣姿に見とれて、声が出ないハヤト(オレ)。


「ねえ、どうか……した?」

 首を傾げるmina。

「すごく似合っているよ! その浴衣」

 現実のオレが言うと、とても恥ずかしいが……

 ハヤトがきっぱりと言い切る場面らしいので、オレも頑張ってみた。


「あ、ありがとう……」

 微笑む、mina。


「じゃあ、行こっか」


 minaと二人、並んで屋台の通りを歩く。


『りんご飴』、『焼きそば』、『ヨーヨー』、『かき氷』、『おめん』など、いろんな屋台が軒を連ねている。

 夜の街に浮かび上がる、色とりどりの屋台の看板。

 周りにも、たくさんの人が集まっている。

 人を避けようとすると、minaと時々、肩が触れる。


「ねえ、あれ、やってみようよ」

 minaが指差したのは『射的』。

「そうだな、まだ時間があるし」

 オレたちは、屋台のおじさんにお金を払って、コルク材の弾をもらった。


「最初は私からね……」

 minaがそう言ってぎこちなく銃を構えた。

 こんな可愛い浴衣姿のスナイパーがいたら、オレなら撃たれてもいいわ。


 minaはうさぎのぬいぐるみを狙っているようだが、ぬいぐるみに当たっても、重さがあるようでなかなか落ちてくれない。

「あー、ダメかあ」

 規定の五発が終わってしまった。minaは残念そうにオレと変わった。


「ねえ、あれ、とれる?」

 minaは上目遣いをしながら、オレに聞いてきた。

「うん、もちろん、獲ってやるよ!」

 力強く返す、オレ!


「なあ、mina……」

「え、何? 」


「ぬいぐるみが取れたら、オレと付き合ってくれ!」


 だが、その声は、喧騒にかき消されたようだ。

「え、今なんて言ったの??」

 オレの方を見て、聞き返すmina。


「いや、なんでもないよ」

 オレはそう言って、真剣な顔をしながら、銃を構えた。

 気分は、ゴ○ゴ13。

 

 繰り返すが、今はお芝居の練習中なので

 実際、今ここ、外房の夜の浜辺には、オレとminaしかいない。

 街灯に少し照らされた浜辺のベンチを、射的台に見立てて、頑張って演技をしている。


 一発目、うさぎの耳をかすめて、はずれ。

 二発目、うさぎの足に当たるも落ちない。

 三発目、うさぎの左側にはずれる。

 四発目、うさぎの胴に命中するが、ビクともしない。


 オレは、祈るような気持ちで、五発目の弾をこめた。

 傍らではminaが心配そうに見つめている。


 狙いを定めて、暗夜に霜の降る如く……そっと引き金を弾いた。


 五発目、弾はうさぎの眉間に命中!


 うさぎのぬいぐるみは大きくグラグラと揺れる。

 行け! 落ちろ! 

 心の中で叫ぶ(という演技を必死にしている)オレ!


 だが、ぬいぐるみの揺れは収まってしまい、オレはがっくりと肩を落とした。


「あーー、おしかった……残念だったね」

 minaも残念そうにつぶやく。

 オレたちはよろよろとした足取りで、射的屋を後にした。


「ねえ、次、あれ、かき氷食べようよ。私、イチゴ味がいい!」

 minaはそう言って、かき氷屋の方へと駆けていった。

 切り替えが早いな……


 

 先輩に教えてもらった穴場スポットに行くため、屋台通りを離れて、高台の方へ向かうオレたち。

 

 なんとか、花火が上がる前にminaに想いを打ち明けたい。

 いきなり手をつなぐのもアリか!?

 と思って、頑張ってminaの手を握ろうとするが、

 子供がminaに駆け寄ってきたり

 オレの手に急にハチが止まったりして、うまくいかない。


 そうこうしているうちに、高台の小さな広場に着いた。


 そこからは、海辺の街が一望できた。


 家々の灯火、そして屋台通りの賑やかな明かり。

 楽しそうに行き交う人達が見える。

 

 その向こうには、どこまでも広がる、海。


「なんか……きれい……花火、楽しみだね」

 minaがそう言って飛び切りのスマイルを見せた。


 花火が上がるまで、あと三分……

 言いたい……でも……言えない


「どうしたの? どっか具合でも悪い?」

 少し心配そうに、オレを見つめるmina。


「いや……大丈夫」

 ええい、言ってしまえ!


「mina!」

 オレは不意に大きい声を出した。

 少しビクっとするmina。


「好きだ! この世の誰よりも好きだ! オレと……付き合ってくれ!」

 やっと……言えた。


 minaの方をじっと見据える。

 minaは緊張した表情だったが……

 やがて……


「う、うん。こちらこそ……よろしくお願いします」

 照れながら……うなずいてくれた。


「やったー!!」

 思わず拳を握りしめる、オレ。


「ずっと、ずっとこの言葉を待っていたよ。あと……さっきの射的の時も……本当は聞こえてた」


「えっ、じゃあ、何で?」

「なんでかな……もう一回、言って欲しかったからかな」

 minaはそう言って、花のように微笑んだ。


「何度でも言ってやる! 好きだ!」

「私も……好き!」

 抱きしめ合うオレたち。

 そして……海の方から花火が上がり始めた。


 オレたちは花火には脇目も振らず、じっと見つめ合い……そして、


 そっと、優しく、口づけを交わした。


 背景には、ひときわ大きな花火が、二人を見守るように夜空にゆっくりと舞い上がっていた。



『君は僕にも恋をする』 ~ fin ~





 何これ??

 ハア……ハア……

 疲れた……

 色んな意味で。


「カズくん、すごい……上手だった! 迫真の演技だったね」

 minaは興奮した様子で、こちらを見て、可愛らしい手をぎゅっと握りしめていた。


「そ、そうかな……」

「すごい、私も……刺激されちゃった。なんか……自信湧いてきた」

「それだったら、良かったよ」

「映画を見てくれた人がどういう気持ちになって欲しいか、もう一回きちんと考えながら、本番に備えるね」

「うん、minaなら……できるよ!」


「本番でも、相手はハヤトだけど……カズくんの事を想いながら……演技……するね」

 minaはそう言って、飛び切りの笑顔を見せた。


 オレのことを想いながら、銀幕に映し出される歌姫の美しい表情。

 それを想像すると……

 オレはもう……ノックダウン寸前のボクサーのようになった。



 minaと二人、浜辺のベンチに腰掛けた。


「さっきみたいに、少し強引なカズくんも、いいなあ」

 minaはそう言って、オレにぴたっと寄り添い、体を預けてきた。

 化粧の香りかな……

 甘い匂いが、オレの鼻をくすぐる。

 浴衣越しの、minaの温かいぬくもり。


「そ、そんな、アレはminaのためになると思って……必死で……」

 浜から吹いてくる風が涼しいはずなのに、オレは体から汗が出てきた。


「普段も、もっと強引でもいいよ……いっつも、私からじゃない?」


「えっ、え、そんなの無理だって。そういや、minaもさっきは、ちょっとおしとやかだったんじゃないかな?」

「ふん、だ。どうせ私は可愛げがないですよーだ」

 minaはそう言って、頬を膨らませてむくれていた。

 そんな顔すら、オレには愛おしい。

「ちょっと、そういう意味じゃなくてさ」

 慌てて、たしなめるオレ……



「あっ、花火!」

 二人同時に声が出た。

 一瞬、見つめ合って笑い合うオレとmina。


 少し離れた海の方から、花火が上がり始めた。

 濃紺の水面が揺れ、花火の光が映し出される。

 まばゆい光から少し遅れて、体の底に、力強いリズムの音が響く。


 花火……いいな、夏だな。


「きれい……」


 minaと二人、体を寄せ合って、しばし、光と音の夜空の競演に酔いしれる。


 ふと、minaの方を見ると、口元をほころばせて、嬉しそうに夜空を見上げていた。

 minaの浴衣姿が、光に映えて、様々な色に輝いている。


 どんな花火よりも、minaが一番綺麗だよ。


 その言葉をそっと、オレは胸にしまいこんだ。



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